2話
俺は転生者だ。前世の記憶もある。しかし俺はあくまでもエドワード・アドルフ・シュヴァリエであってほかの何者でもない。だから俺はまず自分の家族と部下達を救わなければならない。なんせ俺は既にシュヴァリエ家の当主になったのだから。
とすべてを思い出したタイミングを見計らったようにケイティがコップをもって部屋に戻ってくる。ケイティに改めて俺が倒れた理由となったあの、忌々しい主君様からの手紙をホールへ持ってくるように頼む。そして、ケイティが出て行った後俺はベッドから降りて簡単な服装に着替える。
肌着の上からレギンスを着て上に貫頭衣のようなチュニックを着てベルトで止める。一般的な庶民の服装だ。農民に比べたらよっぽど裕福な暮らしをしているとは言っても服装にまでこだわれる程の金なんてない。騎士は先祖からの剣と土地を大事に守ることだけを考える人生なのだ。と、ここまで考えてまるで前世の鎌倉時代の御家人だと苦笑する。
服装を整えたらマナーハウスのホールへと向かう。ホールには母と妹が2人。ケイティを含めた使用人が5人ほどと騎士身分の男子には絶対についている従者のグスタフ・オクセンシェルナ。父の従者で主君からの手紙を我が家へ届けたトーリ・ラジロック。10年程前から客人身分として我が家にいる東国出身のトモヤ・イッシキ、と我が家に関係する者が全員集まっていた。
俺が席につくとケイティが主君からの手紙を寄越してきた。俺はありがとうと言って受け取り改めて封を開き中を見る。何度見ても酷すぎる内容だ。日本の記憶がある俺からしたらこんなことが許される世界に存在していることに目眩を覚えるほどの内容がここには書かれている。
「あの、エドワードお兄様。手紙にはなんと書かれていたのでしょう?」
俺は13と11の妹がいるところで話していい内容か悩んだが隠したとしてもいずれ知られることだと話す子を決める。
「ヴァルウルプ伯爵及びヴァルウルプ次期伯爵そして前ヴァルウルプ伯爵からの連判の書状だ。まず、父はヴァルウルプ伯爵の妻に手を出したとして手打ちにされた。」
予測はしていたのだろう。しかし、改めて実の兄から父が死んだと告げられたことで現実感が増したのか妹2人は泣き始める。しかし、使用人達や母はこの後のことが予測できたのだろう。顔を真っ青にしている。そして意を決したような顔で続きをと母が促す。俺はそれに頷いて続きを話す。
「そして私が15であることで後ろ盾がないことを理由に母を前ヴァルウルプ伯爵の後添いに、上の妹のエルレアをヴァルウルプ伯爵の18人目の側室に、下の妹のエリスを主君預かりとし後にヴァルウルプ次期伯爵の5人目の側室とする。と書いてある。」
とここまで読んで妹達は泣き崩れ母は何が起こっているのかわからないと言ったように呆然としている。母は元は商人の出でアルルク教の五つの身分を超えて結婚した珍しい例だが、商人の出だからこそこういうことを想定したいなかったのだろう。そして、トーリ達と使用人達はイズーゼ村の人達を集めて伯爵のいる領都に攻め入ろうと叫び始める。だが、俺は領都に攻め入って無駄に村の人たちを使うことをする気はないし、優しい母も俺をお兄様と言って慕ってくれる二人の妹も貴族なんぞにやる気は無い。ここにいるものが絶対に信用出来ることを改めて信じて口を開く。
「俺は領都に攻め入る気はない。」
とここまで話してトーリがエドワード様!?と叫ぶ。しかし、呆然としていたのから立ち直った母が俺に向かって震えた声で
「エドワード、騎士として当たり前のことです。あなたの父が伯爵の妻に不義を働いたのが冤罪であることは間違いないでしょう。しかし、今は家を残す判断を優先させなさい。元々騎士の家に生まれたあなたの妹達はもとより、商人の出である私も騎士の家に嫁いだ時から覚悟はしています。」
と早口で震えた声で俺に告げる。後ろで泣きながらも妹二人が頷いているのが見える。家のため、そして俺のために行きたくもない貴族のところへ行く覚悟を決めている家族を見て俺は改めて幸せ者だと感じる。そして、この3人を絶対に貴族のところへやらない覚悟を改めて決める。
「俺は領都には攻め入らない。しかし、母と妹を貴族の所へやる気もさらさらない。俺は今から倒れたことを理由に3ヶ月ほどの猶予が欲しい旨を伝える手紙を書く。これは最後の願いと承認される可能性が高い。その間にやることがある。」
そう、時間との勝負なのだ。そして俺たちがしている子を絶対にヴァルウルプ家に悟られてはいけない。それをしたらこの国全土を敵に回すことになるからだ。ただ、それは裏返せば時間さえあればどうにか出来ることを意味している。これからの大まかなことを皆に説明しなければならない。
さぁ、策謀を始めよう。




