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天使がくれるもの

執筆日:2015年11月30日

お題 :免れた悲しみ

 誰もいない放課後、明石が特別教室に入ると、西日の中に天使が立っていた。

「予言する。○○さんは今日の午後五時十二分に、交通事故で死にます」

「了解。死守します」

 顔を合わせた途端に明石は予言を告げ、天使は即答する。彼女は背中に生やした白銀の翼を広げると、窓から飛び立って夕日の中に消えていった。

 かくして、明石が告げた予言の通りに事故は起きたが、そこに死者はいなかった。


 冴えない数学教師の明石は、人の運命を見ることができた。

 といっても、他人の人生すべてを見通すようなことはできなくて、分かるのは死期だけというなんとも息苦しい見え方だった。それが運命であるからして、死の予見は変えることができなく、ただ死んでいく人々の死に顔を見せ付けられるだけだった。故に、あまり深く他人とは関わらずに生きてきた。

 そんな彼に転機が訪れたのは、今年の春である。

「神様から言われて来ました。対死神天使です。お見知りおきを……先生」

「……なんだって?」

 その戦天使は、ふつうに女子高生として学校に入学してきた。

 もちろんそんな話を鵜呑みにはしなかったが、白銀の翼を見せ付けられたり、出会ったその日に「証拠見せます」といわれて空に拉致された日には、明石も信じるしかなかった。

 天使曰く、明石が見ることができたのは〝運命〟ではなく、人を死に導く死神の気配のようなものであり、昨今、不正に人を死なせようとする悪徳死神が問題化しているのだとか。

 明石が感知できるのは主にそちらであり、人間界の詐欺師よろしく狡猾に暗躍する連中を検挙するため、明石に力を貸してほしいとのことであった。

 人の死を防げるのなら是非もない。明石は天使と組むことを、出会ったその日に決めた。


「先生のおかげでだいぶ悪徳死神を退治できています。感謝です」

「いや。お役に立ててなによりです」

「直近で、死神の気配はありますか」

「ううむ。今のところはないですかね」

「それは重畳」

 天使と組んでからというもの、時間を見つけては彼女と作戦会議という名の昼食をとることがある。普段は立ち入り禁止になっている屋上が、その会場である。さすがに校内で、堂々とはできない。天使もいちおう、この学校の生徒なのだ。

「先生、今日のお弁当は鳥五目御飯にしてみました」

「うお、これはうまそう……」

「お口に合えばいいのですけど」

「いただきます」

 他人が見れば、また違う関係に見える二人であるが、そのことに明石が気づくのはもう少し先である。

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