美術室のおばけ
執筆日:2015年11月29日
お題 :彼と妹
彼が通っている高校の美術室には、放課後になるとおばけが出るという噂があった。
そのおばけを一目見てみたいと思った彼は、わざわざ美術部に入部して、毎日のようにそのおばけが出るのを待っていた。ちなみに、美術の成績はすこぶる悪い。彼には美術センスという才能がこれっぽっちも備わっていないのだ。
しかし、この学校の美術部は、ほとんどおしゃべりクラブのようなもので、どこかのコンクールに応募したり、展示用の作品を作ったりすることはなかった。そのおかげで、彼のような人間でも部には受けれいられていた。
肝心のおばけはというと、ついぞ、彼が卒業するまで現れることはなかった。それが少し悔しそうだったが、三年間をたのしく過ごせたので、彼は部活に入ったことを後悔していないようだった。
彼が卒業していったのと入れ替わるように、妹が入学し、同じように美術部にも入ってきた。ちなみに、妹の美術の才能は溢れるほどあった。妹はおしゃべりクラブの中、あまりにも異質に作品作りにのめりこみ、いくつもの賞をとっていた。その反面、部内では孤立していった。
「たまにはみんなと遊んだらどうだ」
「……こっちのほうがいい」
反抗期というやつだろうか。昔は可愛らしかった妹は、仏頂面でキャンバスに向かい合って、何かをせっせと描いている。
「お兄ちゃんを描いてるほうが、いい」
「やれやれ。僕なんかを描いて何がそんなに楽しいのだか」
「楽しくは……ないし」
「なら、描くのをやめなさい」
「やだもん」
妹の可愛らしい顔はみるみるうちに膨れていった。
キャンバスを挟んで向かい合っていた妹の背後に回りこんで手元を覗き込む。
「……僕はこんなにイケメンだったろうか」
「お兄ちゃん、自分の顔はもう見れないもんね。そうだよ。お兄ちゃんは、かっこいい」
「照れるぜ」
妹も、仏頂面は崩さないものの、なにやら照れくさそうに頬を赤くしていた。筆を動かす手が少し乱雑になっていく。照れ隠しだろうか。
「……お兄ちゃん。どうしてマー君とは、こうしてお話してあげなかったの」
マー君というのは、妹と入れ替わりに卒業していった彼のことである。
おばけを見ようと――――会おうとしても会えなかった、おばけの後輩にして親友だった男である。
「彼はしっかりしていたし、何も心配なかったから。会う必要はなかったのさ」
「会いたがっていたのに」
「会いたくても会えなかったんだ」
「……」
妹は筆の動きを止めて、後ろを振り返った。
「なら、どうして私には見えるの」
「お前が心配で仕方ないからじゃないの。だから、あんまり心配させるな」
「……」
妹は黙って、再び絵に向き直った。
妹とは会えて、彼とは会えなかった。
その理由の真相は分からなかったが、そういうことなのだろう。
彼にはなんの心配もなかった。
けれど妹は、見ていて心配で仕方がない。
彼と妹の違いはそこだった。
だからこれはきっと、神様が何かが起こしてくれた奇跡なのだと思うようにしている。




