雪の鐘
執筆日:2015年11月28日
お題 :白い母性
夜露に濡れた窓を開けると、雪が降っていた。
道理で寒いわけだと、半纏の襟元をしめながら、しんしんと降る雪の音に耳を傾ける。雪の足音の中に、時折、深く響く鐘の音が混じっていた。
吐く息が白い。鼻につんとくるような冬の匂いに、静かな高揚を覚える。
「ねえ、寒いから閉めてよ」
後ろから同居人の声が聞こえたが、「んー」と生返事だけ返して、晦日の夜の雰囲気に酔う。実際、彼女と飲み交わした酒精にも酔っており、火照った肌に寒気が心地よいくらいだった。
「あれ、雪」
いつの間にかすぐ隣に来ていた同居人も、外の様子を見て息をもらした。その嘆息もまた、寒気に白く色づいて空気に変わる。
「寒いわけだね」
そうして彼女は、私と隣あって窓枠に頬杖をつき、外の様子を眺め始めた。片手にはビールの缶。
私たちの部屋からは、少し歩いたところにある寺が見える。
それほど大きくはないが、檀家さんや近所の人々が、年越しのために続々と集っているのも見えるのだ。先ほどから鳴り始めた除夜の鐘も、今はもう何度目か。体の芯まで響くような音が心地よい。
「……やっぱさむっ」
耐え切れなくなったのか、彼女はいそいそと部屋の奥へ引っ込んでいった。エアコンがついているので、外に逃げていく暖気が確かにもったいない。私もそろそろこたつへ戻り、窓を閉めようかとしたそのとき、ばふんと背中が何か大きなものに包まれた。
「でへへ」
と笑いながら覆いかぶさってきたのは彼女である。戻ったのかと思ったが、どうやら寝室から毛布を持ってきたらしい。毛布をマントのようにして羽織り、そのまま私に覆いかぶさってきたのである。
「あったかいだろう」
「うん、あったかい」
そうだろうそうだろう、と何かの呪文のように唱えながら、彼女は毛布の中で、私に身を寄せてきた。ぴたりと密着して、その接地面が次第にぽかぽかと熱を帯びてくる。酒に酔った二人である。お互いに体温は高く、毛布の中で寄り添えば、人力こたつの出来上がりだった。
そのまままた、二人で雪と鐘の音に酔いしれた。
「あ」
彼女が思いついたように言った。
「忘れてたわ。あけおめのことよろー」
「あれ、もう日付変わってた?」
うん、と彼女は頷いた。
「そうかあ。あけおめのことよろ」
「よろ」
それ以降、彼女は言葉を発さなかった。
ごーぉんんん……ごーぉんんん……。
鐘は飽きることなく鳴らされ続ける。
しんしんと雪が降る。
「ねえ、後で私たちも鐘つきに行こうよ」
毛布の中、秘め事のように手をつないで、私は頷いた。




