オデンリープ
執筆日:2015年12月24日
お題 :昨日食べた弁当
昼休み、社内食堂でから揚げ弁当を食べながら、はて、昨日は何を食べたかなと、彼は不意に思った。
不思議なことに、それがどうしても思い出せない。近頃仕事も忙しいし、憶えてなくても無理はないのかもしれないが、俺も歳をとったものだと、心の中で自嘲しながら、から揚げをぱくぱく食べつくした。
次の日の昼休み、彼の昼食は蕎麦だった。さっぱりとした汁にさっと蕎麦をくぐらせ、舌鼓を打っていると、はて、昨日の弁当はなんだったかと、また思い起こした。そしてやはり、思い出せない。から揚げ弁当を食べたことなど、彼は少しも覚えていないのだった。
まあよくあることだ。男は無意味な思考をやめて、美味そうに蕎麦をすすった。
そんなことが数日続いたある日、忙しさに駆られて曜日感覚すら麻痺していた男は、ふと、今日は何曜日だったか思い出すことが出来なかった。カレンダーを見ても、何月何日だったかすら思い出せない。それゆえ、曜日を知ることもできない。
「俺は今何月何日の何曜日にいるんだ」
急にとてつもない不安に襲われた男は、午前中で仕事をやめ、家に帰った。
家には、専業主婦である彼の妻がいる。彼女は、午前中で早退してきた夫に驚き、同時に心配した。
「なにかあったんですか」
「どうも気分が悪いから帰ってきた。でも食欲はあるんだ。病気かな」
「病院へ診てもらいに行きましょう。仕度します」
「ああ、そうしよう。でも、何か食べ物はあるかな。とにかく腹は減ってるんだ」
「でしたら、昨日の残り物のおでんがありますから、温めますね」
「おでん」
男はその時、パチパチと脳裏に火花が散ったような気持ちになった。
おでん。
そうだ。昨日の昼は、妻が作ったおでんを食べたのだった。
昨日は日曜日で休日出勤があり、社内食堂は開いていないからと、妻に弁当を作ってもらったのだった。弁当におでんをいれるなんて、なんて妻なのだ。
でもおいしかった。
昨日食べた弁当をやっと思い出せた男は、慌ててカレンダーを見た。
おでんの弁当を食べた日曜日から、まだ一日しか経っていない。
今日は月曜日だった。




