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もりこもり(未完)

執筆日:2015年12月23日

お題 :薄汚い心

 朝露に濡れた森の中、湿った匂いを醸す木々の間に、小沢は静かに跪いていた。

 短く刈った髪はしっとりと湿気を含み、かけた眼鏡にも水滴が滑っている。着ている衣服もぴたりと肌に吸い付いており、決して短くはない時間、彼がその場でじっとしていたことを知らせていた。

 小沢は数ヶ月に一度、この森にやって来る。テントを張って前日から森に篭り、夜明け前になると、まるで懺悔のように地べたに跪き、ただじっとしている。前もって、所有者の知人、花房佳枝には断りを入れている。

「また使わせてください」

 その一言で、彼女は察してくれるのである。

 小沢はここに来て、特に何をするわけでもなく、今のようにじっとしていたり、うろうろと森の中を歩き回ったりする。特別なことはしない。いや、こんな無意味な行動を繰り返している時点で特殊ではある。彼のその行動はあまりにも酔狂で、彼以外の者には理解したがいものだった。


 夕方まで森で過ごすと、佳枝が小沢を迎えに来た。

「遭難でもされると困るので」

 そういう言い分で、彼女は毎回、小沢の送り迎えを買って出てくれる。

 初めのころ、小沢はそれが申し訳なく、自分で勝手に行き来するからと断っていたが、彼女はそれを良しとしなかった。

「いつもすみません……」

「いいですよ。おじいちゃんが残した厄介モノだけど、使ってくれる人がいるならそれなりに価値はありますから」

 帰りの車内はいつも静かである。

 小沢はあまり会話が好きではないし、佳枝も基本物静かな女性なので、彼女から話を振るということもない。

 小沢の森篭りが始まって数年経つが、二人の関係もこの一時期のみであり、それ以外で会ったり話をするようなこともなかった。

「あの……」

「はい」

 ただ、今回は少し違った。高速道路に入ったあたりで、小沢から話が始まったのである。

「佳枝さんは、いつも快く森を使わせてくれますが……私が何をしているのか、気にはならないのですか。借りておいてなんですが、普通は気にするものと」

「今さらそんなことを言うのですか」

 佳枝は小さく笑った。

「おじいちゃんが言っていました。森を使いたい人がいるなら貸してあげなさいと。あそこにはそれしか用がなく、また価値もない、とも言っていました。何のことか分かりませんでしたが、森を継いでから数年して、あなたが現れた。おじいちゃんが言っていたのはこのことなのかと、驚いたものです」

「私も森のことは、父から教わりました。父も入り浸っていたようです」

「そうなんですか。子々孫々というやつでしょうか。あたしには普通の森のように見えますけど、何かあるんですか」

「いえ、何も」

「何も? 何もないのに、毎回あそこに篭るんですか」

「私は、あそこで心の洗濯をしているんです」

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