野村さん
執筆日:2015年12月21日(月)
お題 :謎の村
昨今、学校では「野村さん」というおじさんが流行っている。
おじさんが流行っているという言い方はなにやら妙であるが、実際、おじさんが流行っている。特に女子には大人気である。
その野村さんはどういう人物なのか。一言でいえば、とても優しい人である。
廊下に落ちていたゴミがいつの間にかなくなっている。なくした教科書が机の中に戻っている。意中の彼に渡しそびれたラブレターが渡っている。さらに想いが伝わりハッピーエンド。生徒同士が喧嘩をすればすぐさま仲裁に飛んでいき、いじめに遭った生徒がいれば解決するまでとことん話を聞いてやる。野村さんが間に入れば、どんなトラブルも円満に解決するのだ。
野村さんに助けられているのは生徒だけではない。時代の流れか生徒たちとの距離を掴みきれずに悩んでいる教師陣にも、野村さんはなくてはならないおじさんだ。おじさんは、悩める教師の相談役にもなってくれる。ああ野村さん。野村さんは本当にやさしい。
そんな八面六臂のやさしさを振りまく野村さんは、いったい如何なる人物なのか。とても紳士なおじ様であろうか。それとも逆に小汚くも愛嬌のある用務員さんであろうか。
どれも違う。
野村さんは野村さんである。
しかし、誰も野村さんがどんな格好をしているのかは知らないのである。それどころか、声を聞いた人間すらいない。
誰にも姿を見せず、しかし学校に関わる誰しもに寄り添う野村さんなのである。
「野村さん、私の話を聞いてくださいますか」
今日も今日とて、誰もいない放課後の教室には、野村さんにアドバイスを請う悩める生徒が現れる。
野村さんはそこにいる。
野村さんとは、底抜けにやさしくもよく分からない、謎なおじさんであるのだ。




