給食神のおしごと(未完)
執筆日:2015年12月13日
お題 :永遠の昼食
ほんの些細な好奇心が湧いて、一穂は日が暮れて薄暗くなった校内を、配膳室へと向かった。
普段、給食はお昼になればワゴンに乗って各教室へと運ばれるので、生徒が直接配膳室なんてところには出向かない。かれど、生徒が近づかないのにはまた違う理由もあった。
配膳室には給食の神様がいる。
そんな噂というか言い伝えというか、怪談が、この学校にはあるのだった。
それを知ったとき、何を馬鹿な、と一穂は一笑した。
「給食の神様て」
何をしてくれる神だというのか。
馬鹿馬鹿しいと思っていたが、忘れ物をとりに夕暮れの校舎に入ると、ふとその話を思い出して、それで、なんとなく玄関に戻るついでに配膳室の前を通ってみる気になった。神様は、誰もいなくなった放課後に現れるのだというから。
配膳室の戸は、当然、施錠されていた。がたがたと揺らしてみても、開く気配もなければ、戸の内側に何者かがいる気配もない。
「ま、当然やな」
アホらし、と悪態をつきながら、一穂は配膳室を離れた。
玄関で靴に履き替え、外に出ようとすると、いつの間にか扉が閉まっていた。
「あれ……」
押しても引いても扉は開かず、鍵もかけられているらしい。
「なんで? 見回りの先生でもおったん……?」
げんなりしながら、一穂は職員室へと向かう。学校に来るとき、外から職員室の明かりがついているのを見ていたので、遅番の先生が誰か残っているのだろうと踏んだのだ。
職員室へ行くには、また配膳室の前を通る必要があった。その時、ちらりと配膳室の戸を見ると、少し隙間があった。鍵が開いている。
「……なんで開いてん……」
玄関を閉められて多少動揺していたところに、追い討ちをかけられたようだった。開いていたところが閉じられて、閉じていたところが開いている。一瞬、ぐらりと好奇心に襲われて、少し開いている戸に手が伸びかけたが、堪えてその場を走り去った。
「ウチ知ってん……こういうの映画で見たことある……開けたらあかんやつやもん……!」
廊下を走り、煌々と明かりのついた職員室が見えると、ホッと顔が緩んだ。
「よかった、誰かおる……!」
一穂は半ば泣き顔で職員室に飛び込んだ。
が。
職員室には、誰もいなかった。
「え……」
がくりと膝から崩れ落ちそうになるのを、戸口にもたれることでなんとか踏みとどまる。しかし、一穂の足はがくがくと力が抜けて、その震えは全身に伝播していった。
「なんで、なんで誰もおらんの……」
不意に、ぞくりと背筋が凍りついた。ガラリ、と。扉が開く音が、廊下から聞こえたのだ。
一穂は咄嗟に職員室の戸を閉め、その場にへたり込んで口をふさいだ。緊張で体をこわばらせ、息を潜める。耳だけで、廊下の様子を伺った。
こつん、こつん、という靴音と、ひた、ひた、という足音が聞こえる。
それとは別に、ひそひそと、話し声のような低い声が聞こえた。
「最近ねぇ、なんか給食の栄養偏ってるわよぉ。もっと生徒の栄養バランスを考えないと……育ち盛りなんだから」
「苦情なら給食センターの方にお願いしますよ。ここで作ってるわけじゃないんで」
「あら。いち教師があたしに意見するの。あたしじゃ伝えられないからあなたに頼んでるのよぉ」
「いやですよ面倒くさい」
「食の神に向かってその態度! あなたが生徒だった頃は天使のようにかわいかったのに!」
「昔の話ですな」




