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辻斬り遺伝

執筆日:2015年12月12日

お題 :かたいフォロワー

 午前零時。逢坂信也は、書斎の机に置かれたスクラップブックを、まるで秘密の呪文書のように開いた。

 切り抜いた新聞の記事は、新しいものはつい一ヶ月前、古くは彼が生まれる以前のものもある。その記事はすべて、ひとりの殺人鬼の犯行の記録だった。

 かつて世間を震撼させた連続猟奇殺人鬼は、長年に渡って犯行を続けた。その手口は、まるで時代を遡ったかのような通り魔的殺人方法。日本刀による辻斬りである。

 現代において「怪人」とまで謳われた殺人鬼は、日本刀一振りで多くの人を殺し、警察の目をかいくぐり、暗躍し続けた。逮捕された記録はない。また、犯人の特定すらされていない。或いは本当に人外の存在、正真正銘の怪人・魔人ではないかとオカルトめいた推察が後を絶たない。怪人の犯行は、初犯から数えて八十年目に至る今年においても、未だ続いているのだから。

 それはある意味で、真実であった。

 信也は、血で濡れた書斎の床を、びちゃびちゃと音を立てて歩く。部屋の中ほどに倒れている男――書斎を汚す血の出所である――の手から、錆びた日本刀を取り上げた。

「はぁ……はぁ……っ」

 スクラップブックを読み進めるごとに、彼の呼吸は乱れていく。

 倒れている男は身じろぎひとつせず、どころか、石のようにぴくりとも動かない。すでに事切れていることは明白であった。今の今まで、信也の父親だったひとつの遺体は、血だらけの顔に、やすらかな寝顔を浮かべている。心底、心安らかに眠っている。

「っんだよ……なんだよ、これ……」

 錆びた日本刀を握る手が小刻みに震えている。今にも折れそうな、ぼろぼろの刃は、しかし、生々しい血に濡れては、窓から差し込む月明かりに照って、まるで生き物であるかのように鈍く輝いている。脈動すら感じられるその刀を、信也は何故か手放すことができなかった。

「いやだ……父さん……なんなんだよ……」

 刀を手に持ち、信也は、目の前で自害した父に問いを続けた。

 それに、父は答えない。

 死んでいるのに、やすらかに微笑んでいる。それが不気味でたまらない。

 何もない机の上、いかにも意味深そうに置かれていたスクラップブック。困惑し、混乱し、ぐちゃぐちゃになった感情で涙すら流せず、取り憑かれたように彼はノートをめくった。

 三十年前、殺人鬼は数年だけその犯行を止めた時期があった。再開したのは、信也の生まれた年だった。以後、今年に至るまで犯行は続いた。

 記事には奇妙な記述があった。

 五十年間人を斬り続け、その風体に老いも感じられた殺人鬼は、犯行再開時、まるで若返ったかのようだったと。

 単純に考えて、模倣犯ともいえる人物が凶行を引き継いだのだろう。殺人鬼もやはり人間なのだ。

 スクラップブックの最後のページは、新聞の切り抜きではなく、人の書いた文字で締めくくられていた。

「次はお前だ」

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