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朝ごはんに彩りを(未完)

執筆日:2015年12月6日

お題 :彼の朝飯

 ご飯にたくあん、そして大根のお味噌汁。

 朝にはそれだけがあればいい。

 佐々木はそう思っていた。

 彼は万事低燃費である。とにかくマイペースで、仕事でもせかせか忙しなくすることもないし、会社の付き合いで飲みにいったり、行事にもあまり参加しない。感情も滅多に表に出ず、無気力そうに日々を過ごしていても、何事もなく平和に時間は過ぎていく。

 ある意味で幸せなのかもしれないが、いつ頃からか、彼はそこに、得体の知れない息苦しさを感じるようになっていった。

 物心ついたころから同じように生きてきた。今さらその生き方を変えるような何かがおこるはずもない。が、何かがおかしい。どうしてこんなに、胸の内側がざわつくのだろう。

 佐々木はずっと考えていたが、理由は分からなかった。

 ただひとつ、わかること。

「佐々木さん、おはようございます」

 出社して、会社の後輩である三園露子にさわやかな笑顔で挨拶をされると、得体の知れない息苦しさが始まるのである。

「……おはようございます」

 露子に対する、彼の反応は鈍い。声をかけられると、一瞬、頭がパニックを起こしたように真っ白になるのだ。低燃費だが低燃費ゆえに、実は鋼のように芯の強い佐々木であるが、その一瞬の動揺にはいつまで経っても慣れない。それどころかひどくなる一方のようで。


「俺はどうしてしまったのだろう」

 ある夜のこと。違う会社にいる唯一の親友、葛西についに打ち明けると、友からは少々呆れたように、意外すぎる一言を投げかけられた。

「お前それ……単にその後輩が気になってるだけじゃないの」

「どういうことだ……! わからんぞ……!」

 恋という多量のエネルギーを消費する感情すら抱いたことのない佐々木にとって、葛西の言葉は理解できない情報だった。そう。佐々木は童貞である。


 恋をしたことはなくても、どういうものかは知っている。

 だから、それを葛西に指摘され、徐々に自覚するようになると、もう大変である。

 佐々木は、まともに露子の顔も見れなくなってしまう。

 しかし、彼女に対する想いは、逆に強くなっていった。 

「三園さん、お弁当自分で作ってるのよね。若いのに偉いねえ」

 昼食時の食堂でひとりでいる佐々木の耳に、そんな会話が聞こえてきた。露子は佐々木とは違い、先輩や同期にも好かれていて、いつも誰かの輪の中にいた。

「料理が好きなんです。家族みんなの分も作ってるんですよ。弟なんかまだ学生で、もういっぱい食べますから、作りがいがあります。この卵焼き、自信作ですよ! よかったらどうです?」

 さすがに目で様子を伺うことはなかったが、佐々木の耳は、もう彼女の言動をとらえることにエネルギーを燃やしている。

 しかし、そうか。

「……三園くんは、料理が得意なのか」

 ぽつり、と彼は無意識のうちにこぼした。


 ご飯にたくあん、そして大根のお味噌汁。

 朝はそれだけあればいい。

 しかし、そこにもう一品。

 彼女の作った卵焼きを、想像せずにはいられ彼は想像していた。

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