舞踏会不参加希望のシンデレラと魔法使い
こんなに長くなるはずじゃなかった…。
連載の息抜きのはずだったのに…。
ここで言うのもなんですが、『私捨』続き書いてますんで…。
こんなところで言い訳してすみません…。
では、最後まで読んでいただけたら幸いです。
暗く、静かな屋敷に二つの影があった。
一人はみすぼらしい姿をした少女。
しかしよく見ると大変美しい。
金の髪に、アクアマリンのようにきらめく青の瞳。
きちんとした格好をすれば、彼女を欲しいと思う男は後を絶たないだろう。
もう一人はうっすらと光をまとった青年。
銀の髪、銀の瞳をもった彼はこの世のものとは思えないほどの美貌であった。
纏う光は彼を神秘的に見せている。
二人は見つめあっていた。
少女は目を見張りながら。
青年は少女を優しく見つめながら。
互いを見ていた。
長い、長い沈黙の後。
青年は口を開く。
「さあ、シンデレラ。次は君の番だよ。僕が魔法をかけよう。舞踏会に行かせてあげる」
「え。絶対嫌」
ある所に、とても美しく優しい娘がいました。
しかし、悲しいことに彼女の母は早くに亡くなってしまいました。
そこで父は二度目の結婚をし、彼女には新しい母と二人の姉が出来ました。
しかし三人は大変意地悪で我儘な性格をしていました。
継母は自分の娘より美しい娘が気に入りません。
継母は彼女に辛く当たりました。
掃除をさせ、食事を作らせ、自分の娘たちの世話をさせました。
義姉たちは娘を召使のようにこき使い、気に入らないことがあれば彼女に八つ当たりをしました。
いつか継母と義姉たちは彼女のことをシンデレラと呼ぶようになりました。
ある日の事、お城で王子さまのお妃を選ぶ舞踏会を開くことになりました。
シンデレラの義姉たちにも招待状が届きました。
「もしかしたら王子さまの妃になれるかもしれないわ」
「いいえ!絶対になるのよ!」
継母と義姉たちは大はしゃぎです。
「シンデレラ、仕度を手伝いなさい!」
「ああ、当たり前だけど、お前は連れて行かないから」
シンデレラは義姉たちの手伝いをし、三人を送り出しました。
シンデレラは一人で庭から城の方を眺めていました。
すると。
「シンデレラ」
屋敷には誰もいないはずなのに後ろから呼びかけられ、シンデレラは驚きながら勢いよく後ろを振り返りました。
そこにはこの世のものとは思えない美貌をもち、光を纏う青年が優しげに微笑みながら立っていました。
そして、冒頭に戻る。
その場に何とも言えない空気が漂う。
先程とは違う沈黙が辺りを支配した。
「えーと、今、なんて?」
「絶対嫌」
「舞踏会に行くのが?」
「ええ。……というかどちらさまです?」
「……ごほん。僕は魔法使いだよ。君は辛い境遇にも関わらずいつも笑顔で頑張っている。だから今日くらい楽しめばいい。それにもしも王子に見初められたら今の生活とはおさらばだよ?ドレスや馬車の事なら心配いらない。僕が全部用意しよう。さあ、舞踏会に」
「いやです」
「遠慮はいらないよ」
「いや、遠慮ではなく。舞踏会に行きたくありません」
「…………なんで?」
魔法使いが聞くと、シンデレラは憂いをおびた表情をした。
ああ、かわいそうに。
きっと継母たちに何か言われたに違いない。
お前の容姿は醜いから舞踏会に行っても恥をかくだけとか、そんなことを適当に言ったに違いない。
魔法使いはそう思った。
痛ましげにシンデレラを見る魔法使い。
彼の様子に苦笑しながら、シンデレラは口を開く。
「ほら。私ってめちゃくちゃ美しいじゃないですか」
「おいナルシーがいるぞ」
魔法使いは反射的に突っ込んだ。
そのツッコミにシンデレラは不思議そうな顔をする。
「?でも私、美しいですよね?……まさか、この顔がブスに見えてるんですか!?それは何か、重大な目の病気に違いありません!お医者さまへ早く行ってください!このままにしておけば失明するやもしれません!手遅れになるまえに!さあ!」
「いや、ごめん。美しいは、美しい」
「?じゃあ、特にナルシーではないですね。たんなる事実を述べたまで」
「いや、まあ、そうなんだけど」
あれ?なんかシンデレラ、思ってたのと違うぞ?
魔法使いは混乱した。
それでもなんとか声を絞り出す。
「えと……それで?なんで舞踏会が嫌なの?」
「ここまで言ってわからないのですか!?」
わっかんねーよ!!!
魔法使いは心の叫びを喉の奥に押しとどめて、シンデレラに続きを促す。
「だって……」
「だって?」
シンデレラはギュッと目を閉じて、叫んだ。
「私が舞踏会になんか行ったら、絶対私が妃になっちゃうじゃありませんか!」
「どっから来るんだ、その自信!」
原作を知る魔法使いも、思わず叫んだ。
「だって、そうなるでしょう!!」
「そうなるけど!!」
「なるんじゃないですか!」
「そう、なんだけど!!」
二人は少しの間、叫び合った。
「……ぜーっ、ぜーっ」
「はあ……っ、はあ、ゲホっ」
叫び過ぎた。
息切れ半端ない。
二人は息を整える。
そして先に息が整った魔法使いが再度、シンデレラに問いかけた。
「っそれで?なんで妃になるのが嫌なんだ?」
やっと息が整ったシンデレラは、その問いに答える。
「だって妃って家事とかできないでしょう?」
「…………は?」
「妃って家事とかやらせてもらえないじゃありませんか」
「……ちょっと、待って。頭の中を整理する」
魔法使いは深呼吸をした。
よし、落ち着け。落ち着け、自分。
まず、シンデレラは舞踏会に行きたくない。
なぜなら妃になりたくないから。
妃になりたくないのは。
家事ができないから。
つまり。
「シンデレラ。君、家事大好き人間的な?」
「違います」
はずれた!!
「……ごめん。ちょっとわからない。家事が好きじゃないのに、家事ができないから妃になれないって何?解説、お願いします」
なんか、良く分からないけど、頭を下げて頼んだ。
なんか、疲れた。
魔法使いは自分で考えることを放棄した。
対するシンデレラは苦々しい顔をして、答える。
「人がやった掃除とか料理って気に食わないんですよね」
「………………………………………は?」
もっとkwsk。
魔法使いは目線でシンデレラを促した。
シンデレラはなぜわからないんだと呆れ顔。
腹立つ。
「だって、他人がやった家事より私がやった方がいいですもん。他人に家事やらせると、掃除は手すりとか指でツーって触るやるとホコリが残ってたりして嫌だし、料理は私が作った方が美味しいし。また、姉たちはセンスがダサいので自分たちのセンスで歩かれたら、私の……我が家の恥です(あんなにダサいのが姉だなんて思われたら、ものすごく嫌)」
「嫁いびる姑か、己は」
( )の中も聞こえてるからな!
魔法使いはなんかムカついた。
それに対し、シンデレラは言った。
「?何言ってるんです?世間一般的にはいびられてるのは私ですよ?」
「そうだけど!!」
はあ……もう疲れた、と魔法使いは虚ろな目をして言う。
シンデレラが今、充分幸せだということは分かった。
今の幸せに満足しており、逆に舞踏会に行ったらその幸せが崩れる可能性があるのも理解した。
しかし。
しかしだ。
その上で言おう。
「シンデレラ、舞踏会に行こう」
「人の話聞いてました?」
やだ、とシンデレラは即答した。
しかし、魔法使いは諦めるわけにはいかなかった。
「ああ、聞いていたとも。しかし、君には舞踏会に行ってもらう」
「嫌だって言ってるじゃないですか」
「なんとしてでも行ってもらう」
「だから、嫌ですって」
行け、嫌、行け、嫌、行け。
この非生産的な応酬は暫く続いた。
そして、とうとう魔法使いがキレた。
「つべこべ言わず、とっとと行けーーー!!!!」
しかし、シンデレラも負けない。
「嫌!!」
二人は無言で睨み合った。
しばらくそうして、シンデレラはふぅっと息を吐いた。
「なんでそんなに私を舞踏会に行かせたいんです?私が舞踏会に行っても行かなくてもあなたには関係ないでしょう」
「大有りだこのヤロウ」
野郎じゃありません、とシンデレラが言うのを無視して、魔法使いも息を吐いた。
一度気持ちを落ち着かせて、もう一度シンデレラを見る。
「シンデレラ」
「なんです?」
「君には舞踏会に行ってもらう」
「だから嫌ですって。ああまたさっきの繰り返しじゃないですか。訳を言って――――――」
「君には、ドレスを着て、カボチャの馬車に乗って、正体ネズミの御者と馬に舞踏会へ連れて行ってもらわなければならないんだ」
???
なんかいきなり具体的な詳細が増えたぞ。
カボチャとネズミってなんだ。
シンデレラの頭の中は疑問で埋め尽くされた。
その疑問に答えるように、そして昔を思い出しながら、魔法使いは語った。
「こんな話があった。
ある所に優しい娘がいた。しかしある日」
「待って。その話長いですか?長いのなら要約で」
「…………義理の母と姉たちに虐められていたシンデレラという娘が魔法使いの魔法で身形を整えて城の舞踏会に行ったら王子に見初められて、それから色々あったけど最後は王子と結ばれて幸せになる」
何も言わず、ざっと要約して、魔法使いは話を続ける。
「ある世界にこんなお伽話があったんだ」
シンデレラは首を傾げた。
「そんな話聞いたこともないですよ?ちょっとデジャヴは感じましたが……。それに、ある世界?」
「聞いたことがないのは当然だ。こことは違う別の世界であるのだから。そして、デジャヴを感じるのもまた当然だ。このお伽話はシンデレラ、君の物語のことなのだから」
シンデレラは瞠目した。
(私の、物語……?)
シンデレラは考えた。
今までにない程、頭を回転させた。
そして。
魔法使いを哀れみの目で見た。
「…………なんだその目は」
「魔法使い様」
「なんだ」
「二次元と三次元の区別はつけましょう?」
「ちっがあああーーーう!!!僕を頭大丈夫?的な目線で見るな!!!」
「??とにかく、一度落ち着きましょう?冷静に考えて。もしくは、お医者の所に……」
「ちくしょう!言ってることが世間一般的に見れば痛いと分かっているだけにまともな反論ができねえ!あーもう!もういいわ!とにかく舞踏会に行け!」
魔法使いは理解されることも、説得も諦めた。
とにかく、行け。
「嫌ですよ!なんでキレてるんですか!?」
「うるせえ!僕が君を舞踏会に連れていくためにどれだけ苦労したか!何もないところからドレスを出して、小動物を技術を持った人間やら馬やらに変えて、カボチャ巨大化させて馬車にする魔法の難易度半端ないんだよ!無駄に!!!子供の頃、うっかり未来の鏡なんか見ちゃったために自分が『シンデレラ』に出てくる魔法使いだと知って、シンデレラを幸せにしないと、とか意味の分からん使命感に燃えた僕の馬鹿!!僕の幼少期・少年期は君のために奪われたんだよ!責任取って舞踏会に行って王子たらしこんでこい!」
「貴方の幼少期なんて知りませんよ!勝手によく分からない使命感に燃え出して、私に押し付けないでくださいよ!」
「うるせえうるせえ!シンデレラがこんなんだなんて、分かるわけないだろーが!!」
長い、長い間二人は言い争った。
この闘いはいつ終わるのか。
誰もいない屋敷に二人の声はよく響きわたった。
いつまでも続いてしまうのではと思う程、進展のない争いは、唐突に終わりを迎える。
「魔法の馬車に乗りたいだろ!」
「乗りたくないです!だって正体カボチャとネズミ!言っておきますけど、私が掃除をしている限り!この屋敷にネズミなんて一匹たりとも存在させない!」
「もう、ドレス着るだけでもいいから!ドレス着て、王子に会うだけ!」
「なんですかその、譲歩してやるよ、みたいな言い方!何もよくありません!嫌です!!」
「デザインめちゃいいぞ!ものすごくファッションやら流行やら研究して、君のこともよく観察して、考えたから!」
「世間一般的にはそれストーカー!」
「違うわ!もう、とっとと着て――――――――
ゴーン ゴーン ゴーン ……
あ」
「あ」
タイムリミットの鐘の音がした時。
二人が間抜けな声を漏らした。
その、一拍後。
二人の顔は正反対の感情に彩られた。
「勝ったーーー!やったーー!!」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁーーーー!!僕の努力が水の泡ーーーー!!!!」
「ふんふんふーん♪」
シンデレラはいつもと変わらず、継母と義妹たちの相手を適当にしながら、家事に精を出していた。
あの後魔法使いは泣き崩れながら、覚えてろよ!とどこぞの雑魚悪役のように去っていった。
あれからシンデレラの生活は順調、平和、幸福である。
「やっぱり、こんな生活が一番よね!」
シンデレラは青く広い晴天の空を見上げてそう晴れやかに言った。
しかし。
それを陰らせる一つの影。
「そうは上手くいかないんだなこれが!」
そんな声が聞こえて、瞬きを一つすると、 雲一つなかったはずの空にあの魔法使いが浮かんでいた。
「え……」
シンデレラは目を疑った。
もう会うことはないと思っていた。
もう舞踏会は終わったのだから彼が私に用はないはず。
なのに。
彼は私の目の前にいる。
「っ」
私は両手を口に添える。
そして、息を吸って叫んだ。
「帰れーーーー!!!!!」
「やだね!」
満面の笑みで魔法使いは答えた。
シンデレラは嫌な予感が止まらなかった。
空から少しずつ降りてくる魔法使い。
彼は一枚の紙を持っていた。
シンデレラの目はそれに吸い寄せられた。
そして、盛大に顔を引きつらせた。
その顔を見て、魔法使いは満足そうに笑う。
「王子、この前の舞踏会で妃を決めなかったんだって。またあるんだよ、舞踏会。……もうこれは王子はの妃はシンデレラ、君以外にいないってことだと思うんだよね」
ヒクッと、さらに顔が引きつったシンデレラ。
魔法使いは笑う。
「さあ、舞踏会に行こう。シンデレラ!」
シンデレラは深呼吸をした。
心を落ち着かせて。
そして、笑った。
「絶対嫌です」
シンデレラと魔法使いの攻防はまだまだ続く。
ありがとうございました!
以下、登場人物補足説明。
シンデレラ
世間一般的には不幸。本人はかなり満足幸せ。自己中。
魔法使い
中性的な顔立ちの超美形(忘れないであげて下さい)。
転生者。未来を見る鏡で、自分が『シンデレラ』に出てくる魔法使いだと知る。
シンデレラの為に魔法を猛特訓。しかしシンデレラのせいで無駄になる。不憫。
元々はちょい不良な男子高校生。キャラチェン、イメチェンした。
本編後半では元の口調が出てきちゃった。
さらに補足説明。
未来の鏡とは…
未来を映す鏡。
ただし未来はいくつもの候補があり、その中から現時点で一番現実になりそうな未来を映し出す。
魔法使いはタイミングが悪かった。(もしくはまだシンデレラが純粋で真っ白な性格をしていた。)
ちなみに、この鏡は基本的に使っても見てもいけない。地下に厳重に保管。
好奇心に負けて、魔法使いはこの鏡を隙をみて、使った。
よく考えると自業自得かもしれない。