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6.これも、デート?

 ひとまず危険回避して、更衣室から出ていく際、なにげないフリして荷物を持ち出そうとしたのだけれど……ニコニコいい笑顔の聡くんに、すっと取り上げられてしまった。モノジチは、継続されちゃうようです。

 最悪、ほっぽって帰ってもいいかなぁなんて思ったんだけど、財布の中にはもらったばかりのお小遣いが全額入っているし、自転車の鍵もその中だ。何より、とんずらに怒りを溜めこんだ彼から、明日、荷物を受け取る際、どんあ言葉が返ってくるのか、どんな報復が待っているのか、考えるだに恐ろしい。しょうがないとあきらめて、大人しく待っていることにした。

 ゲームの中では、ちょっとぶっきらぼうな感じだったけど……なんだか、現実はちょっと粘着質? デートをすっぽかしても、「電話ぐらいしろよ」って一言で、すっきり解決していたし、一緒に帰るのを断っても「そうか」の一言だったのに、現実では……って、そんなの当り前とはいえ、簡単にはすまさなそうな感じがひしひしと感じられる。

 だからこそ、ちょっと逃げたいなぁなんていう気持ちになるのは、しょうがないことなんじゃないだろうか……。

「おまたせ」

「うわっ」

出てくるのを待っていたくせ、いきなり開いたドアにドキッとして、女の子らしからぬ声が飛び出してしまった。

 荷物を二つも抱えてきた彼は、きょとんとした顔で私を見た後、片手にまとめて持ち、私の手を取る。モノジチをとったままなのに、さらに私の手もつかんでおかないと心配とは、とことん信用がないのだろうか。うん、まぁ、さっきっから逃げることばかり考えているけどさ。

 運動部の彼と、運動神経が全くないと言い切れる私、よ~いどんで逃げたら逃げ切れるわけがないってわかっているのに……。

「あ、私、自転車よ?」

「知ってますよ。それに、俺も自転車ですから。でも、駐輪場までは、このままでいいでしょう?」

「ダメと言ったら止めてくれる?」

問いの調子で向けた拒否の言葉は、彼にあっさりスルーされてしまった。

 私の手は彼の手の中握りこまれたまま、駐車場へと向かい歩き出す。強引に引っ張られていくシチュというのも、ちょっと嬉しいものだおなぁとか思いながら、その背中に軽く拳を叩きこんでおいた。

 ここから駐車場までの道のりは、そう遠くはないし目立ちもしない。誰かに見られる可能性も低いので、まぁ、自由にさせておいたところで問題もないだろう。でも、なんとなしこそばゆい気持ちになるのは、どうしたものか……。

 すぐにも駐輪場の端が見えてきて、もうちょっとの辛抱だとは思いつつ、気恥ずかしいような、居心地悪いような思いを必死に無視して、彼に引かれて歩いてゆく。

「自転車、これですよね?」

別にこの位置と決まっているわけではないながら、自転車を置く場所は、いつも一緒のあたりになるもの。自転車の間をわけ歩きながら、彼に手を引かれている状況だというのに、いつも通りの通路をたどっていることに、不思議に思っていたところで、彼がそう問いかけてきた。

 彼の視線の先へと目を向けてみれば、確かに私のピンクの自転車のおしりが見える。うなづくその前に、彼は鍵が付いたままにもかかわらず、ひょいと持ち上げ引っ張り出し、荷物を籠の中に収めた。

「ちょっと、なんで私の自転車まで知ってるのよ」

「こんなにでかでかと名前を書いてあれば、誰だってわかりますよ」

泥除けにはきっちりフルネームが書き込まれているし、サドルを支える管にも、ハンドルの真ん中にも、ローマ字で私の名前が書かれている。うちの父が、こういったものにはでかでかと自分の名前を主張しておくと、盗られにくいものだからと言って、買った当日に書かれてしまったのだ。最近は、自転車もナンバー登録されていると言ったところで、盗られてから分かっても意味がない、盗られないのが重要なんだと聞いてくれなかった。

 ちょっとだけ、父の主張を恨めしく思いながらも、書いてあるものはしょうがないし、消さなかった私の責任でもあるのだからしょうがない。

「……自転車とか下駄箱の靴とかで、所在チェックしていたりしないわよね?」

まさかと思いつつ問いかけてみると、彼は黙って私に背を向け、自分の自転車を引っ張り出してきた。

「さぁ、帰りましょう」

さわやかぶって言ってくるが、チェックしたことあるでしょうと、さらに問い詰めようとする私の睨みをあえて無視していれば、肯定したも同然でしょう。とはいえ、さらに問い詰めていって、いらぬ藪をつつくのも何なので、しょうがないため息とともに自転車に向き直った。

 財布の中から鍵を取り出し、鍵を開けてストッパーをあげると、聡くんはすでにサドルに座り、両手をハンドルの上に重ねて待ち姿勢でこちらを見ていた。

 さて帰ろうと思ったところで、近所だというのは知っているものの、どこまで一緒に帰るつもりなのか……そう思ったところで、じゃぁ、道順すべて伝えて問いかけてみるべきかといえば、面倒臭いので遠慮したい。途中で道が違えるのなら、自分で申告するだろうなんて適当なことを思って自転車を走らせれば、彼は黙って私についてきた。

 裏門から出てまっすぐ走れば、すぐに大通りにさしかかる。横に並んで走るわけにはいかないから、当然ながら会話もできない。別に何か話したいことがあるわけでもないから、まぁ、楽っちゃ楽なんだけど、なんで並んで走るためだけに、彼が私を待たせたのかという疑問が浮かんできてしまう。

 まぁ、交通違反を平気でやろうというタイプは嫌だけど、これじゃあ、一緒に帰る意味があるのかと問いかけたいところ。

 しばらく進んで、歩行者用と自転車用とが分かれた大きな歩道がある通路に出れば、彼も横に並んできて、なんだかちょっとばかり照れたような顔して話しかけてきた。

「先輩、これ、初デートでいいですよね」

「やっぱり帰宅デートイベントだったか!」

ゲーム脳が過ぎただろうか、つい突っ込んでしまってから、あわてて口を閉ざしても、出た言葉は回収できない。まぁ、驚いたような表情向けられても、何を言っているのかと問い返されたりしないので、スルーしてくれる気なのだろう。もしかしたら、フライングだのサブリミナルだの、うっかり言った言葉の数々で、もう、その手の発言は聞かなかったことに決めてくれたのかもしれない。

「まぁ、デートって言ったって……一緒に並んで帰るってだけでしょう? しかも、自転車同士だから、並んで走れる距離なんて半分以下だし……手もつなげないし、何が楽しいの?」

ゲーム中では歩いて通学していたけれど、現実は自転車通学。ゆっくり話すこともできなければ、手をつなぐこともできやしない。これでデートと言っていいものかどうかもわからない。

 いや、まぁ、前世でもデート体験なんて少ない私に、何も語れるものなどないけれど、さすがに一緒に自転車で走るだけで、デートもなにもないだろう。いや、サイクリングやツーリングというものも頭ではわかっているけれど……それは、目的地が家や学校ではありえないのだから、除外させてもらおう。

「いいじゃないですか……」

どうやら拗ねてしまったらしい彼に、思わず、あ、選択肢間違えたかなんて考えが浮かぶ。

 まぁ、間違えたところで、ゲームとは違い、フォローのしようはいくらでもあるし、好感度MAX状態でそこまで気にする必要だってないんだろう……って、ついつい、聡くんといると、ゲーム方向へ頭がひっぱられてしまうような気がする。

 ゲームの中での帰宅デートイベントは、簡単な選択肢でちょっとした会話が楽しめるものだった。「よく聞く音楽について」とか「最近読んだ本について」とか「将来の夢について」とか……そんな質問事項が選択肢になっていて、選んだ選択肢によって、一言二言あってから「二人で一緒に楽しく帰った……」ってなモノログで終わりという短いイベントだったけれど、さすがに現実では、その程度で家に帰りつけるわけもない。暗転して、次の瞬間もうベッドでくつろぐところまでワープしてくれたら楽なんだけど、現実ではその前に、彼と別れて家路をたどり、玄関を開けて荷物を片付け、制服を部屋着に着替え、夕飯の手伝いやら明日の用意やらを済ませたら、夕食を食べて、お風呂に入って……と、やることが山積みだ。

 うきうき帰宅デート中、まだ終わってもいないのに、面倒くさいなとか思うのは、さすがに失礼だろうか。

 ちょっとした罪悪感ついでに、拗ねたままの彼が、別の話題など振ってくれないだろうからと、何を言おうか考えた頭に、選択肢が浮かんでくる。「ゴールデンウィーク何してた?」とか「試験勉強してる?」とか「部活がんばってる?」って、なんて当たり障りのないようでいて、地雷が潜んでいそうなものばかり思い浮かぶのだろうか。ゴールデンウィークの話題は、ストーカーじみた何かを引き出してしまいそうだし、試験勉強は自滅しそう、部活は今さぼらせたばっかりで何をいわんかというところ。

 まいったなぁとか思いつつ、とりあえず、当たりさわりのない天気の話題など振ってみた。

「天気、いいねぇ……」

「た、たしかにいい天気ですが……なんでいきなりそんなあさっての方向に話が向かうんですか」

「デートじゃないでしょって話題を、さらに掘り下げたいのか!」

姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:未遭遇 ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇

大野聡:ちょいワル:好感度MAX ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:???

高木遥:先輩:興味? ・ ???:???:未遭遇

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