39.だってしょうがな~いじゃな~い
「あ~ぁ~、そういうタイミングだから、ですね? 誰でもよかったんですよね? うん、うん、そういうことですねぇ~」
そうかそうか、取り立てて意味なんてないんですねぇ~なんて、プロポーズとかなんとか、そういうものを全部なかったことにしてしまおうと、小さな声で一人ごちる。
自分でも最低だとは思うけれど、あえてそういうことにしてしまいたくて、自分に言い聞かせるように言った言葉。
それを聞き流してくれるつもりはないらしい男どもは、こちらにじとっとした目を向けてきた。
うん、さすがにそれだけで言いたいことはわかったので、あえて言わぬ方向でお願いします。
なんだろう、言い争っているはずの二人の方が分かりあっている風なのは……。
それだけ私が最低ってことか?
おかしい、取り合いされてるはずの私が一番最低って、どういうことだろうか。むしろ、二人で手に手を取り合って友情でも語り合ってくれてていいよ。
私のことで争うのは止めてっとか、言ってよさげなシチュエーションだったはずなのに、明らかにダメだコイツというセリフの方が聞こえてきそうだ。
「まぁ、だいたいなぁ、キライなヤツに手助け頼んだりしないだろ? 普通。好みじゃないヤツにキスしたいなんて思うかよ」
まぁ、キスは……たしかに、嫌な人にされたらただのハラスメントである。かっこよかろうがステキな人だろうが、嫌なものは嫌だ。
たとえば、絶対にありえはしないけれど、大好きな俳優さんがいきなりキスしてきたら……いや、まて、それはちょっと嬉しいかもしれないから、好きじゃないけどカッコイイ俳優さんにしておこう……うん、それならば嫌だ。うん、好きならオッケーだけど、違うなら、どんなに素敵でもダメだ、うんうん。
まぁ、そういう意味では、我妻さんとのキスが嫌じゃなかったというか、ちょっと嬉しかったあたり、私は気の多いタイプということでいいのだろう。
ひらきなおっちゃいけないだろうが、ゲーム側からの演出効果があったとはいえ、さっきのでドキドキしまくっちゃった時点で、もうアウトだ。
「浮気者、両天秤、八方美人、二股三股、タコ足回線」
ぼそっとこぼれた大野くんの言葉に、自分の考えを言い当てられてドキッとする。
あ、いや、最後のは違う、タコ足まではしていない……はず……。自分で墓穴を掘りまくっている気がする。
いや、だってしょうがないでしょう?
ゲーム中……っていうか、先生攻略中は先生のこと、好きだった。大好きだったんだ。
大野聡の次に大好きだったキャラだ。当然ながら、トゥルーエンドやハッピーエンドどころか、バッドエンドまで見まくった。攻略しにくいこのキャラは、バッドエンドを見るのも一苦労。すぐに身を引いてしまうので、好感度を低くかつ好意をもっている状況に引き留めておく、そのさじ加減が本当に大変だったんだ。
素敵なシーンにドキドキして、先生好き好きーって一人ジタバタはしゃぎまわってた……そういう気分を引きずっているのは否めない。
たぶん、駿河裕司とか清水慶介とか谷津タケルとか……他のキャラだって、本気で迫られたりなんかしたら、ドキドキしてしまうだろう。
何回も何回も繰り返し見たセリフ、それ以上だって望めてしまうステキな状況で、くらっとこないわけがない。
ゲーム中、ヒロインを通して受けていたそれを、自分に向けてもらえるわけなんだから……嬉しくなっちゃうのはしょうがなかろう。
「2人の男に挟まれて、私のために争わないでーって感じ、気分良かったですか?」
「あのねぇ」
「エロオヤジにプロポーズされて、その気になってんじゃねぇよ」
拗ねたような表情で言ってくるが、君だって、私にとってはあのゲームを引きずった先で惹かれてしまう、どうしようもない相手の一人なのだよ。
どうしても、こんな表情ゲーム中ではあんまり見せてくれなかったとか考えてしまう。
……いや、そういえば、デートの際に大失敗セリフを選ぶと、拗ねたりとかしてたっけ。それはそれでごちそうさまで……ってなことを考えてしまい、やっぱりちょっと後ろめたくも思う。
彼の気持ちとて作られたもの、私の気持ちとて、ゲームの延長戦……ならば、この気持ちに真なんてあり得なくて……それなら先生も……いや、待てよ、あれっ?
「え? あれ? あのっ、じゃぁ、我妻さんってば、いつから……」
我妻さんも、その気持ちはゲーム中の我妻先生として作られた気持ちだと思いかけて……そういえば、我妻先生のイベントは、ほぼすっ飛ばしてきたことに気が付いた。
つまるところ、気持ちを上書きされる隙も、あったもんじゃないということだ……我妻先生のイベントは、お手伝いだのちょっとした接触だので、徐々に徐々に恋心が育っていくもので、気持ちがわーっと一気に盛り上がっていくようなものではない。
決して一回や二回の逢瀬で、プロポーズするほど気持ちが高まるようなものじゃないんだ。
先生と生徒という制約の上、本当にじわじわと育って、距離が縮まっていくそのじれったいような恋物語なのに……なんで今、プロポーズとかされちゃってるんだ?
「いつから? そんなもん、一目会ったその日からってやつだろう」
我妻さんの大真面目なその顔に、本気でどうしていいかわからなくなる。
特殊な状況であるとはいえ、一人の男性からここまでまっすぐなプロポーズを受けたことなど、人生初だ。告白すらもないのに、一足飛びにずいぶんな貴重体験ではないか。
もしかしたら、本気かもしれない、もしかしたらとつくものの、本当にすっごくチャンスなんじゃないかと、ついぐらぐら気持ちが揺れてしまいそうになる。
いやその前に、この空間に閉じ込められて……エンディングを……真面目に考えなくてはいけないことがあるというのに、うっかりと妙な夢を見てしまいそうになってしまう。
「それじゃ、まるで説明会……ってか、チュートリアルの時に一目惚れして、そっからずっと私のこと追い掛け回してたみたいじゃないですか」
チュートリアルでふと目があった……その時に向けられた笑顔に、びっくりした。なんか、かなりテンパったのを覚えている。いろいろ記憶がこんがらがってたこともあり、あの我妻さんの視線から逃れたくって、いつも全力で回避を計っていた。
あの視線が怖くて、あの視線に囚われてしまいそうで……。
「そういうことにしてもいい」
そうだ、そもそも初めに絡んできたのは、こちらから接触しようとする前からだ。
イベントの乱立すらも、昨日始めたばかりのことで、我妻さんが私に絡んできたのは、下手したらチュートリアルからだ。
イベントがかかわっているはずがない。私への気持ちがある方がおかしいんだ……そう思った途端、なんだかすっごく恥ずかしくなってきた。
逃げても、逃げても、逃げても追いかけてきていた、折に触れ職員室に来いだのなんだのと言っていたのは、ある意味口説くためだったのか? ってか、あの睨むような眼差しも、実を言うと誘ってた?
ふと見ると、思いがすべて顔に出ていたのか、小野くんが酷く嫌そうな顔してこちらを見ていた。
「ダメだろ! そんなの……なに客に手をぇ出してんだよ!」
まぁ、たしかに、イベントの最中、そのチュートリアル中で客に目を付けて追っかけまわすとか、スタッフとしてダメダメだ。
「あの時は、既にスタッフって記憶もあやふやだったからなぁ」
「いや、先生と生徒でもダメだと思います」
姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:お助けマン ・ 清水慶介:羽鳥啓太:魔法使い
大野聡:小野竜也:ニセ恋人 ・ 谷津タケル:武田くん:意地悪 ・ 我妻圭吾:我妻圭吾:プロポーズ?
高木遥:先輩:疑惑 ・ 小野ナツ:小林奈津子:嫌悪




