34.デートもしますか?
当然ながら、ファーストキスなんてわけがない。
現実ではもう35歳、もちろん色々経験済みですとも……といいたいところだけれど、まぁ、結婚出産は未経験の残念さだ。ゲーム中でだって、すでにオープニングで別の人とキスしてしまっているので、先生とファーストキッスなんてことにはならない。この世界に取り込まれてからは、先生を攻略する前に、小野くんに無理やり奪われているから……だから、キス一つでギャーギャー騒ぐつもりなどないけれど、さすがにこのキスはないだろう。
机の上に押し倒された状態での、その情熱的な口づけに、心臓がやたらとはしゃぎまわっている。しかも、イベント効果というものだろうか、先生の素敵な姿が頭の中に浮かんだりしていては、妙な気持も湧き上がろうというもの。
元より、先生のキャラは結構好みなのだ、だからこそ、できるだけ近寄らないよう、極力接触しないようにしてきたというのに……キスイベント一つでこんなにダメージが酷いとは思わなかった。まぁ、その大半は、先生というキャラではなくって、我妻さんのせいだろうけれど……。
「キスしたわけだし……あとは、デートみられて終了イベントってとこですよね」
つい先ほどまでの情熱的な口づけに濡れた唇。まだまだ間近にあるそのれに、ほんの少し頭をもたげるだけで触れられそうで、語る言葉に吐息がかかってしまっていそうで、思わず息すらためらってしまう。
期待があったか求めていたか、それが再び軽く触れてきても嫌ではなくて、むしろ自分からも軽く吸い求めた。チュッと小さな音を立てて繰り返される口づけに、とろけている場合ではないというのに、頭がくらくらしてくる。
「は、はやく……イベント乱立っての……ん……」
セクハラコードとやらはどこにいったのか、イベントでのキスなんて、こんなねっちりしたものではなくて、一回チュッと触れて終わりだったはずなのに、我妻さんは、いったい何回すれば気が済むのやら。話をしようというその唇すら、邪魔して吸いたてイタズラしていく。意地悪くもニヤリ笑っているあたり、こちらが本心嫌がってはいないこともお見通しというところか。
でも、このままでは話が全く進まないのだからしょうがない、我妻さんの額に手をやり押しのけて、顔をそむけた。
「いいかげん止めて、退いて、勘弁して」
吐き捨てるようにそう言うが、その手は簡単に剥がされてしまい、机の上に縫いとめられてしまう。むしろ、大人しく受け入れていた時よりも、ピンチ度が増しているような気がするのは気のせいだろうか。まさかここで本当に襲うなんてことはしないだろうが、一瞬、焦ってしまう。
「……いいじゃないか、これぐらいの役得は」
「何回したら気が済むんですか」
「キスだけで気が済むなら世話ないがなぁ……男ってのはそう簡単にはいかないんだ」
「コラッ済まないってわかってんなら、はじめっからやめて。ってか、そういえばセクハラコードは?」
「さっきっから十分味わってるさ。まぁ、最後にもう一回……」
そう言いながら、私の両手を頭の上にまとめ、開いた片手で顎を固定してくる。背後が、身を支えている机に信頼がおけない事もあいまって、抵抗らしい抵抗もできやしない。
「やっ! ……やぁですよぉ」
思わず強く発した声が、まっすぐ見つめる我妻さんの視線に絡め取られ、思わず自分で聞いてもぎょっとするような、甘ったれたものになる。唇が今更ながらに震えるのは、何か別のことを語ろうというせいか、自分の甘ったれた気持ちを感じたからか、それを間近でじっと見つめながら、我妻さんは笑みを深くした。
「これで我慢すっから」
熱く吐息のようにそう言われて、重ねられる唇は、ただ触れてくるだけにもかかわらず、繰り返されたその口づけよりも、一番初めの口づけよりも甘く感じて、ドキドキしてしまった。
うっかりとこぼした吐息に、なんとも楽しげな笑みを浮かべ、我妻さんはやっと私の上から退いてくた。ほっとしたと同時に、離れた温もりを惜しく思ってしまうのは、なんとも身勝手な話だろう。そんあ気持ちを察したのか、のろのろと体を起こす私に手を貸しながら、我妻さんはとんでもないことを聞いてきた。
「さて、この後ホテルにでもいくか?」
一瞬、何を言われたのか理解がおっつかず、きょとんとした顔で我妻さんを見つめた後、思わずあわてて彼の手をひっぱたいた。
「ダッダメですよ」
がたがたと机を鳴らしてしまいながらに、我妻さんとと少しでも離れた位置に下り、机を間に挟んで睨みつけた。思わず構えてしまったものの、我妻さんは、あっさり私の頭をぺしりと叩き、苦笑を向けてきた。
「アホ、俺とのデートイベントの、ホテルだ……ラブホじゃねぇ、ちゃんと、優雅に、ホテルで夕食でもどうだって話だよ」
いや、アホとか言われたけれど、今の状況で勘違いをしないほうがおかしいと思う。というか……なんでホテル? よりによってホテル? そこが一番の問題なんじゃないんだろうか。
「えぇっと……公園デートでもなんでも、外ならオッケーってところで、どうしてホテルを選択しますか?」
「そりゃ、そんなつまんねーとこいきたくねぇからな。うまい飯か、イイコトへの期待がねぇなら、デートなんていかねぇだろ、普通」
「ラブホと勘違いした私のが正しい気がします」
わざとらしくため息をついて言ったところで、我妻さんが気にする様子も、気を変える様子もない。どころか、なにやらまたパソコンへの入力を済ませたかと思うと、書類も何もかも放り出したままに、私の肩をぽんと叩き、指導室の入り口へと促してくる。
「あれ? でも、デートとかもしなくったって、さっきと同じようにイベント乱立でいいんじゃないんですか? ってか、今、デート予約を確定したんでしょう? もう、デートイベント中に入ってたりするんでしょう? なら……」
明らかに、今、キスイベントの終了確認及び、デートイベントの予約と開始入力をしたのだろう。でなければ、さすがにデートの誘いイベントもないまま、いきなり最後のデートへ進むということにはならないだろう。どうせなら、そのままそのデートも終了までもっていってくれたらいいと思うのに、そうしてくれる気はさらさらないらしい。
「役得だろ? いいじゃないか、どうせ、お前らは今日中にイベントこなしきれねぇだろ? 数日がかりでここまでこぎつけてくつもりだったんだろう? 何日短縮できてるよ、それを考えれば、デートの一回ぐらい、ケチんな」
随分な言い様で私の手を取ると、そのまま職員用の駐車場まで連れていかれてしまった。
途中、メールの受信音に気が付いてチェックをしてみると、羽鳥くんから『イベント急激に消化してってるんですけど、我妻? キスした?』という、明らかに余計な質問まで追加された問い合わせがきていた。
「先生……羽鳥くんから、キスしたかどうか問い合わせが来てます」
「嫉妬しないでください、先生とラブラブ中ですとでも打っとけ」
「いや、そういう意味じゃなく……もう、このままエンディングまで先生のプログラミング技術で突き進んでいきますって返事していいですか?」
「いいんでねぇの」
適当な回答を受けて、とりあえず『我妻さんのプログラミング技術でエンディングまでもっていけそうです。今日は、ちょっとデートして、明日を待つ感じになるかと思います』と返事をしたら『明日までホテルで二人きりってのは止めてね』なんていう茶化しメールが返ってきた。いやまぁ、これからホテルに行くのだけど、さすがにそれは言わぬが花というところだろうか。
とにかく、これで、エンディングが迎えられそうだ。
姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:お助けマン ・ 清水慶介:羽鳥啓太:魔法使い
大野聡:小野竜也:ニセ恋人 ・ 谷津タケル:武田くん:未遭遇 ・ 我妻圭吾:我妻圭吾:協力的?
高木遥:先輩:疑惑 ・ 小野ナツ:小林奈津子:嫌悪




