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32.攻略するとどうなりますか?

「なんで、その小林ナツ……奈津子がプレイヤーに復讐するの?」

私としては、イラストレーターの小林ナツの方がなじみある。でも、現状ゲームの世界にいるのだから、小野ナツのほうがいいのか……彼女のことをどう呼ぶべきか少し悩んでしまったが、まぁ、本名が一番妥当なんだろう。超ロングは、意味もわからんのに私が呼ぶべきあだ名じゃない。

 彼女が、自分を振った小野くんを恨んでいるというのは、わからないでもない。未練がましい気持ちにかられて、彼に告白されて振る……報復をしてやろうと思ったのだというのも、まぁ、しょうがないのかもしれない。だけれども、なんで関わりのないプログラマーやプレイヤーにまで飛び火するのかが全く分からない。

 プレイヤーに何かされたのだろうか? それとも、小野くんへの思いと同じく……

「そりゃ、応えてくれないからでしょう?」

「は?」

「竜ちゃんに告白したけど断わられた復讐……なら、同じように、頑張った作品にいい評価をくれないプレイヤーに報復したいと思ってもしょうがないんじゃないですかねぇ。プログラマーは、なんで恨まれてたのか……自分の欠点とかって気づけないもんで、わかんないんですけどね」

羽鳥くんは、自嘲的に笑って見せる。プログラマーとして、自分がやらかしたことというのを考えているのか、それとも実は原因に気がついていて、ごまかしているのだろうか。

「ってか、お前がなにかやらかしたんじゃねぇの?」

決めつけるように、どこか呆れ顔で小野くんが言うと、羽鳥くんはひょいと肩をすくめてみせる。

「まぁ、超ロングになにかってったら、スカートがひっかかっててパンツ見たぐらい? しばらく、イチゴちゃんって呼んでただろ?」

「最低だな、おい」

「イチゴ柄のパンツってのがあざといし、なにより、僕のことそういうキャラに設定したあたり、うれしかったんじゃない?」

ゲーム中に清水慶介を攻略したときには、こんなやついないと思ったけれど、おそらくきっと、実際に羽鳥くんはそんな性格なのだろう。意地悪スケベで面倒くさくて、それでいてちょっと甘えん坊……そう、こんな性格で、結構甘えん坊だったりする。いや、甘えん坊だからこそ、下手なちょっかいのかけ方をしていると言うべきなのか……ちょっかいかけて、試してみて、そして、安心したらべったべたに甘えてくる。さっきのお膝抱っこなんて目じゃないぐらい、コーヒー入れに席を立つと、抱きついてついてくるぐらいでそのグラフィックがおんぶお化けとか呼ばれてたりする。

「うれしいのか? それ……さすが超ロング、よくわかんねぇ……」

思わず余所へ向かっていた思考が、小野くんのぼやきで戻ってくる、今考えなきゃいけないのは、羽鳥くんの性格なんかじゃなくって、小林奈津子のことだ。

「ってか、その超ロングってなに?」

「ロン毛をかきたがるんだよ、男でも女でも関係なく、くるぶしぐらいまでの……」

「下手すると、足元でとぐろ巻くぜ」

「営業としては、早めに販促イラスト欲しいのに、すぐロン毛にしたがるせいで、いっつももめて……で、イラスト遅れるんだぜ? たまに販促イラストはロン毛で、実際のゲームでは短髪とかやらかして、ユーザーから苦情もらってたし」

「でも、まぁ、俺たちよりベテランだから、あんま文句も言えないんだよなぁ」

なるほど、ロン毛を描きたがるから、しかも、それが過剰だから超ロング……なんか、聞いても損した気持ちになるのはなんでだろうか。小林奈津子のイラストは、かなり気に入っていたのだけれど……そのイラストすべてが、ロン毛に執着しつつ、上から圧力かけられて修正された結果というのは、なんだか微妙な気分だ。

「まぁ、その、小林奈津子を説得して、ゲームを止めさせるって手はないの?」

「超ロングを描くなって言っても、必ずラフで超ロングにしやがるぐらい、頑固で人の話を聞きやがらない奴だぜ? 説得してはいわかりましたとなるとは思えないな」

まぁ、確かに、効果的な説得文句も思い浮かばないあたり、ぶつかっていったところでうまくいくわけがあるまい。とはいえ、このまま手をこまねいているわけにはいかない。

「それなら……やっぱり、先生の攻略しかないのかなぁ」

一刻も早くゲームから離脱しなきゃいけない、その際、確実にゲームを終える方法は何だろうか。恋愛シミュレーションゲームである以上、日付という概念がイベント展開においても必須となり、途中抜けなんて本来できはしない。

 でも、一つだけ、途中抜けが出来るイベントがあったりする……それが、先生のイベントだ。先生のイベントは、基本、こっそり大人とお付き合いがメインである。お家デートや、夜景を見に行くぐらいしかできない。ゲーム中、日曜日の真昼間に街中デートを行うと、学校にバレて先生が学校を去ることになり、主人公も退学になったりする……普通、高校生が先生とつきあったぐらいでそこまでなるわきゃないでしょって感じだけれど、ゲームではそうなってしまうのだからしょうがない。

 そして、その場合のみ、途中でエンディングになってしまうのである……つまりは、先生のこの途中抜けイベントをこなしてしまえば、最短でエンディングに進むことも可能なのだ。

 まぁ、私1人じゃ実現不可能な話なんだけど……こちらには羽鳥くんがいる。こいつにとって、イベントトリガーにひっかけることはたやすい。つまり、本当なら勉強いっぱいして学年一位レベルにならなきゃ見れないこの先生のイベントを、無理矢理数値だけ変更して見ることだって可能なんだ。

「エンディングに行ったところで……本当に終わりになるかどうかはわからないけどね」

人の考察の根本から否定するような言葉をぽそと呟きながら、羽鳥くんはノートに何ごと書き込んでいく。また、何等かの情報をチェックしているのだろう。私の現状数値とイベント必要数値の照らし合わせとかしているのかもしれない。

「あ……でも、先生のイベント条件、全部わかんないか……まぁ、多分、テストの点数と……」

「いや、わかってるよ」

「なんでっ!」

「我妻のパスは、我妻の生年月日と時間で統一されてます。僕のは入社式の西暦の年月日プラス時間をイベントごとに桁を一つづつずらしのしたやつだったから……我妻のも我妻に関連するだろう日付を軒並みあたって見つけたのよ。まぁ、竜ちゃんのも、総当たりしてみれば、案外簡単な数だったりしそうだけど……」

「なんで先生の誕生日……しかも時間まで知ってるのよ」

「我妻の誕生日、俺らの世代ならみんな知ってますよ、新人歓迎会の時に言ってましたし『俺は2月1日の午前2時に生まれた、2と1と2とを足すと……計五だ、わかったか、圭吾だ』って……」

「オヤジギャグ……」

「まぁ、実際オヤジですし」

そういえば、先生もまたプログラマー主任ということは、ゲーム中の年齢よりもかなり上ということになるのだろうか……大人の色気とオヤジと、まぁ、どれだけ違うのかはおいといて……ゲーム中の先生の年齢より、実際の自分の方が年上なのもおいといて、ちょっとだけ、がっかりしてしまった。

「……俺、嫉妬死にしそうなんですが」

さて、じゃぁ、イベントに引っ掛ける算段をと羽鳥くんに話をしようとしていると、小野くんが低い声で訴えてきた。

「だぁかぁらぁ……アンタの恋は、それは恋でも何でもない、ただ、記憶を塗り替えられて、そんな気分になったところに、目の前に私がいただけ。塗り替えられたその変な記憶は忘れちゃって、大人しくしときなさい」

「じゃ、先輩は、たとえば自分の両親が、今見ている両親が偽者だから、NPCだし、作られた記憶だからって、無視できんのか?」

無視できない……そりゃそうだ、懐かしい我が家、現実ではもう会えない母……それが、自分の妄想や希望に反映されたものだろうと、ただのおままごとじみてそこにあるだけだとしても、無視できやしない。

「ま、僕も、ちょっと心配はあるね。そのイベントまでいく間に、我妻とのキスしなきゃだめでしょ」

「あ……」

「我妻とのキスおっけーなら、僕ともしましょうよ」

「やだ」

言った途端、小野くんが私の側までいきなりやってきて、私が逃げる間もくれず、腕をつかみ頭を抱え込み、唇を重ねてきた。まるで噛みつくような口づけ、甘いキスなどというものとはかけ離れた、かじりつくようなそれ。もがいてやっとで離れると、羽鳥くんがニヤニヤしながらこちらを見て言った。

「……僕とは?」

「ダメ」

2人とも、ちょっと冷静になって、退路を探しましょうよと言いたいとこだけど、とりあえず、小野くんをひっぱたく方が先決だ。 

姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:お助けマン ・ 清水慶介:羽鳥啓太:魔法使い

大野聡:小野竜也:ニセ恋人 ・ 谷津タケル:武田くん:未遭遇 ・ 我妻圭吾:我妻圭吾:監視中?

高木遥:先輩:疑惑 ・ 小野ナツ:小林奈津子:嫌悪

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