31.改めて自己紹介
20150520 誤字修正
「違います!」
まるで、私の言葉を振り払うかのように、聡くんは大きな声で否定の言葉を告げた。
怒っているようにも見える彼の声に、思わず怯みそうになってしまうが、ふるっと首を振って、彼の言葉を否定した。
「……綾香さん、あなただったから、助かったんだ。あなただから、俺は、ちゃんとイベント通りに恋できた。あなただったから、こっぴどく振られたっていいって思えた、あなただからだ」
ふるふると、さらに首を振る私に、聡くんはさらにさらにと言葉を重ねる。
「違う、違う違う……イベントの条件は、何? あの日まで接触のないプレイヤーが通りかかる、それだけでよかったんじゃない?」
「そうかも知れないけれど、俺は、それがあなたでよかったと思ってます」
私の否定の言葉をまったく無視して、それでも私でよかったと言ってくれる聡くん。一瞬、それに甘えちゃいたいかなぁなんて思ったものの、ちゃんと話して、今度こそ……今こそ、ある意味こっぴどく振っておかなきゃいけない。彼が何と言おうとも、本当にこっぴどく振るようなイベントを、いや、それ以前に、彼が怪我するようなイベントを起こさないためにも。そして、なにより、彼とのイベントの進行具合を気にしながらではできないことをするためにも。
「イベントの強制力だろうと、何の作為があろうと、むしろ、いっそのこと、孤島に飛ばされた2人ってんでもいいんですよ」
「なんだそりゃ」
どうにもテンパっているようで、聡くんが頭をボリボリと掻きながら、意味不明なことを言い出すと、私の代わりに、ニヤニヤ笑って成り行きを見ていた清水慶介が茶々を入れた。
「わかんねぇけど、なんっつぅか……関係なくって……本当、関係ねぇんだよ……むしろ、あんたの正体が、実は超ロングだってんなら、俺、超ロング見直すし、あんたが罠に嵌めたとかでも、なんでも、今、俺、本当にあんたのこと好きだし……あーっ、どう言やいいんだ」
なんとももどかしそうに言うセリフ、その中にいきなり出てきた『超ロング』とやらが気になったけれど、とりあえず、決定的なセリフ……そう、言わなきゃ、あなたじゃないんだって。
「私は、あなたじゃなく、あなたと類似の偶像……そうよ、大野聡に惚れていても、あなたに惚れていないかもしれない。ゲームの中の大野聡が好きだったのよ、でも、あなたは、だぁれ?」
ゲームの彼らしくないところ、まるでおっきな子犬みたいなところとか、案外しつっこいところとか……わかっていても、だから聡くんとゲームの中の大野聡が全く別とは思えない。清水慶介が、それっぽくしか見えないように、我妻先生がそうであるように、やっぱり、ゲームの中の彼を引きずってしまう。それは、やっぱり彼に対して酷いように感じるも、今、だからバイバイと続けるのは酷いばかりか。
「そうですね、俺、大野聡じゃねぇし……ってか、はじめまして、藤田皐月さん、俺は、小野竜也です」
「ちなみに、俺は清水慶介じゃなく、羽鳥啓太」
蛇足とばかりに、清水慶介も本名を明かしてくれた。小野竜也、その名前はなんだか大野聡より彼に似合っているような気がする。改めて、私は名前すら知らない人と付き合っていたのだと、変な気がしてきた。
「……ってか、竜ちゃん言いたくないのは、アレでしょ、小林奈津子……違うか?」
「……ゲーム中では、多分、小野ナツです」
「げっ、お前接触したのか? ってか、小野って……」
突飛な清水慶介……いや、羽鳥くんの言葉に、聡くん……小野くん……なんだかもう、混乱してきそうだ……とりあえず、苗字読みでいいや……小野くんが、頭を抱えるようにぽそと呟く。
小野ナツ……私は、接触したことがないけれど、小林奈津子は聞いたことがある、というか、奈津子じゃなく、小林ナツという名前で、『空キス』のエンディングや雑誌の紹介ページで見た。たしか……イラストレーターだ。
「超ロング、恐るべし……」
とか羽鳥くんが呟いたあたり、小林ナツ=小野ナツ=超ロングなんだろう、そして、その本名が小林奈津子……? それが小野くんとどんな関わり合いがあるのか……いきなりなにを言い出すのか……ってか、つまるところ、そんな人物名が出てきているってことは、いろいろ理解してるってこと? いや、そもそも実名を思い出しているあたり……。
「してねぇし……ってか、わざと接触してねぇんじゃねぇかと……あいつは、イベント起こしたかったんじゃねぇかな。んで、失敗して……っつぅか、それだって、さっきの話とかで思い出して、あいつ超ロングじゃんって思っただけで、俺だって、なんか混乱してんだし……わっかんねぇ……」
「あ、なるほど、だから、告白されて、ラブラブして、振られるなのか」
「ちょっと、わけわからないんだけど」
こちらの頭が大混乱をきたしている間に、羽鳥くんと小野くんがなにやら話してなにやら納得している様子に、業を煮やして口を開くと、2人してこちらを見た。思わず怯んでしまった私に、2人顔を見合わせてから、ボリボリと頭を掻いて何やら離し始めようとした小野くんを制して、羽鳥くんが口を開いた。
「聡のイベントは、はっきり特殊ですよ。僕のイベントは、ゲーム中でもあった図書館で本探しや、転寝、はしごを支えてあげるとかですが……」
「その、はしごとやらは、やっぱり『スカートの中、見えてますよ』とか言うのよね」
「当然です」
「ごめん、聞いた私が悪かった」
ついつい好奇心で話の腰を折ってしまったが、聞くんじゃなかったと思い切り後悔しか沸いてこない。まぁ、おそらくきっと、わざと覗いて意地悪く……いやいや、彼のイベント内容を追及するのは止めておこう、そのイベント、起こしたくないから!
「聡のイベントは『空キス』本編では見たことないものばかりですね。しかも一番初めのイベントタイトル『告白』はっきり言って、趣味が悪いですよねぇ?」
「『告白』……そして、最後が『振られる』なのかしら」
「おしい『一番酷い振られ方』です……しかも、救済イベントも分岐もナシっぽいですね。本当に、それ以後のイベントがない。……発生条件や内容までは、ロックがかかってて分かりませんから、回避方法すら分からない」
「ロックは外れないの?」
「1件につき2~3日は最低限欲しいです」
ということは、外れないものでもないらしい。とはいえ、それだけの期間を待つことが、本当に可能なのかという疑問が湧いてくる。本体は衰弱しつつあるというのなら、私は、このまま安穏と日々をすごしていったら、夢の中でどんなに幸せであろうとも、確実に未来などない。
「そんなものは、いいわ……」
彼に振られるかどうか、いや、私が彼をこっぴどい振り方をするということについての回避方法はいらない、それよりも、現実に帰る方法、そう、『出口』が必要だ。でも、当然ながらログアウトボタンがどこかにあるわけでも、脱出用システムがあるわけでもない。
「まぁ、つまりは、このイベントを作った奴、竜ちゃんに、告白されて振りたいのさ……意味、わかります?」
「も、もしかして……」
「俺が、振った……んですよ」
それは、現実でということだろう。つまりは、小野くんも、自分がゲーム会社の営業で、イラストレーターの子……超ロング? まぁ、小林奈津子を振ったことがあるというあたりまで、ちゃんと思い出したってことになる。ってか、ゲーム自体の記憶は、どれぐらいあるんだろう。
「ってか、俺、超ロング以外だったら、別に付き合ってから考えますよ、でも、あいつは……」
「ま、普通……引くよなぁ、自分主人公のBL漫画や自分攻略されるゲームとか作られたら……ってか、僕もキャストに入ってて、マジかよって思ったし……我妻なんか、ひでーぐらいそのままじゃん。皐月さん、公園やなんか行った? 武田……ああ、なんかややこしいなぁ……あのショタ野郎も含めて、あいつが気にしていた奴なんだろうな」
イラストレーターがどれだけ発言力を持っているのかはしらないが、どうやら、ゲームの中のキャラクターたちは、彼女が自分の好みの人たちを題材にして決めていったということだろうか。
そして……小野くんに振られた腹いせだかなんだかしらないけれど、こんなわけわからないことに巻き込まれて……本当に、本当に最低だ。
「迷惑ですよ、もちろん、あのいかがわしい漫画も含め……」
「でも、多分、一番復讐したかったのは、この世界をこうやって犯罪に使うことで、VRシステムの未来を封じようとしているのかも……俺たちプログラマーに対して、でっけぇ被害ですよ」
「いや、本当にプログラマー目当てか? もちろん、巻き込んでの自殺ってぇ感じだけど……プレイヤーへの恨みつらみってのも……あるんじゃねぇの」
姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:お助けマン ・ 清水慶介:羽鳥啓太:魔法使い
大野聡:小野竜也:ニセ恋人 ・ 谷津タケル:武田くん:未遭遇 ・ 我妻圭吾:我妻圭吾:監視中?
高木遥:先輩:疑惑 ・ 小野ナツ:小林奈津子:嫌悪
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つたない文章にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
目標であった10万文字を達成いたしまして、一度、途中ではございますが別の作品を手がけることといたしました。
そのため、次話はしばらくお待たせしてしまうこととなります。楽しみにしてくださっていた方、いらっしゃいましたら誠に申し訳ございません。一区切りつきましたら、次より真面目(?)に出口探しを始める予定です。
また、勢いに任せて作成していたため、誤字脱字も多く、一度内容のさらいなおしをしてこうとおもいます。おかしな点、お気づきの点等ございましたら、ご指摘いただけたら助かります。




