3.追いかけられてました
20150520 誤字修正
20150210 後書き追加。
この学校に入学してすぐに気がついた……いや、攻略対象の英語の先生の年齢を考えればすぐわかったことなんだけど……ヒロインは、ちょうど私の一学年下なんだってこと、ゲームは再来年始まるんだてこと……。
そうすると、まず気になるのが、隠しキャラでもある攻略対象の高木遥先輩のことだ。ヒロインが一学年下ということは、先輩である彼は、私と同学年ということになる。フルネームがわかっているので、探すのは簡単だ、入学式当日に張り出される、クラス分けの掲示板を見ればいいだけのこと。
自分の名前をまず探し出し、クラスメイトにその名前がないことを確認したら、改めて1組から探しなおしてみた。隣のクラスにその名前があることを確認し、同姓同名がいないことも確認し……そして、入学式のためにクラスごとに並んだ新入生の中から、彼の姿を見つけた。
数々の女性と浮名を流す、自称フェミニストなナンパ男、当然、その浮名の一つになるのは避けたかったから、接触するつもりは一切ないけれど、だからこそ、その姿はきっちり確認しておきたかった。
女性と見紛うばかりの美貌、制服は早々に着くずしていて、茶髪の後ろだけを少し伸ばし三つ網にしている。きょろきょろと見回しているのは、毒牙にかける相手でも物色しているのか……。
絶対に近づかないぞと心に決めて、まっすぐ前を向くと、大人しく入学式をすごし、教室に移動してホームルームをすごし……さっさと家に帰ろうというその時、廊下でばったり彼と会った。
「ねぇ、一緒に帰らない?」
出会い頭に何を考えたのか、そんな言葉を向けられ、私は思わず首を振った。
「道がわからないので、両親と一緒に帰る予定ですから」
咄嗟についた嘘に、彼は即座に興味を失ったらしく、別の女性に声をかけた。
でも、私の鼓動は、そのまま倒れてしまうのではいかと思うほど、ドッドッドッと早鐘を打っていた。恋したからとか、そんなわけではない、恐怖からだ。
そもそもこの学園に受験を決めたのは、好奇心半分、物見高さ半分……いや、まじめさの欠片もなくて申し訳ないのだけれど、実は私の学力ではちょっと厳しくて、記念受験のつもりだった。滑り止めもちゃんと希望したのだけれど、受験日当日に熱を出し、交通機関が大雪のためマヒし、とても行ける状況ではなくなってしまい断念した。その上、まだ熱を引きずり受けたはずのこの学校の受験に見事合格していた。
都合のいいことではあるのだけれど、ちょっとだけ怖くなって、他の学校の二次募集を受けてみたけれど、ものの見事に当日熱を出した。
不文律というのだろうか、抑止力というのだろうか、それとも運命なのだろうか……何かおかしな力がかかって、私をこの学校にいかせたくてしょうがないような、妙な意思……それとも悪意? のようなものが感じられた。
モブの1人であるはずなのに、どうしてここまで……という疑問もあって、努めて攻略対象者はもちろん、サブキャラ関係者にいたるまで、できるだけ近づかないようにとしてきた。そして、だからこそ、高木遥の存在を意識しまくり、そして、声をかけられた途端に恐怖した。
私は、どうやら、何かになくてはならない存在であり、逃げることのできないガラス張りの迷路の中を、研究者に見つめられながら惑い走るマウスのような存在であるらしい。道をたがえれば勝手に戻され、望む道を進まされる……。
もしも、高木遥の浮名の1人と決定付けられているのなら、どんなに逃げたところで、またつかまってしまうのだろう……そう思いつつ、それでも、進んでその道に落ちたくはなかったものだから、必死になって避けた。避けた結果……というべきなのか、なんとかこの1年逃げ切った感じだった。
それなのに、今回のこの事件……いやもう、これは事件でしょう。
とりあえず上から退いてもらったはいいものの、マットの上に私を座らせ、自分は待てをされた犬よろしく、その前にしゃがんでもじもじとしている。何で私を好きになったのか、なんていう率直な問いかけに、押し倒すだけの度胸はあるくせ、答える勇気はないようだ。
「図書委員でも一緒に受付に立ったことはないし、それ以外の接点もわからないのだけれど……」
百歩譲って、私が攻略対象の過去の女となる可能性はしょうがないとしよう、でも、本当にどこに接点があったものか、どうにも不思議でならない。なにより、私は彼を避けまくっていたのだから……。
当然ながら、今年度に入ってすぐに、入学してきた攻略対象者はきっちりチェックしておいた。そして、当然ながら図書委員でも、一緒に受付に立つどころか、片付け班が一緒になればサボってみたり、呼び止められたら用事を思い出したりと、必死に接触を避けていた。
「先輩……実は、俺、この学校に入る前から、先輩のこと、知ってたんです」
「まさかのフライング!」
「え?」
絶対入学してきてからだろうと思っていたせいで、うっかりぽろっとこぼれてしまった言葉に、彼はきょとんとした表情を向けてくる。当然だろうが、何がフライングなのかわからぬと、首を傾げて問いたげな態度。
「い、いえ、いえ、何でもありません」
慌てて手を振りごまかすと、彼は少し考える素振りを見せ、改めて口を開いた。
「……去年の夏、老人ホームに来てたでしょう?」
「あぁ、英語のテストが悪くてやった福祉参加のアレ……」
えばれたものじゃないが、英語の点数はすこぶる悪い。そして、当然ながら先生とあまり接触したくない私は、追試はともかく補習授業は逃げまくっていた。悪いほうで覚えられてしまう恐れはあるものの、とりあえず逃げて、逃げて……担任から問い向けられ「先生が怖い」とぶっちゃけてみたところ、補習免除の代わりに提案されたのが福祉参加だ。
「俺のじいちゃんがあそこのディに参加しててさ、そこに先輩が……」
「……まさかあの、スケベじいちゃん?」
私が若いころのばぁさまにそっくりだとかなんとか言いながら、ずっと私にべったりくっついていた老人が1人いた。本当にべったりくっついてまわってきていたので、私がかかわったのはそのおじいちゃんただ1人だった。
「……そ、そうだよ」
やんわと振りほどいても、そっと押しやっても、しつこく手を握ってきて、綺麗だとかかわいらしいとか言ってきたのだけれども、まぁ、しょうがないことなんだろうと必死に我慢していた。さすがにお尻を触ってきたときは、ヘルパーの方々が慌てて止めにかかり、すぐさま引き剥がしてくれたのだけれども、またひょっこり隣にやってきて、1人でおしゃべりを続けていた。ヘルパーさんたち大変だなぁという感想だけを胸に帰った。
その時に、実は見られていただなんてこと、どう回避すればいいというんだ……そもそも、おじいさんが老人ホームでディサービスを受けているだなんてデータは知らないぞ、しかも、おじいちゃん子だったなんてなおさらだ。
「昔は……すごい人だったんだ、どんな単車の修理も改造もできる人で、じいちゃんの腕目当てに遠くから来る人だっていたぐらいだったんだ。もうボケちゃってその片鱗も見えないけど、倉庫にいるじいちゃんは、本当にかっこよかったんだ」
知らない知らない……ってか、そうか、父親があまりかかわっていなかったのに、なんで倉庫や単車があるのかとゲーム中に思っていたりはしたけれど、そのおじいちゃんがキーパーソンだったのか……って、知らんわ、そんな裏設定。
知らずに踏んでいた地雷のせいで、どうも大きな獲物がかかってしまっていたようだ。
「じいちゃんが先輩のことを気に入ってて……もう、ばあちゃんの話とごっちゃになっていた部分も多々あったんだけど、繰り返し繰り返し先輩の話をしてて……なんか、俺の中でも、先輩のことがこびりつくみたいになってて……」
「なんのサブリミナル……」
「学校でで見かけた時、少しでも話がしたいって思ったんだ。でも、話しかけようとすると、いつも先輩はするりと逃げてしまって……」
これは、むしろはじめに素直に応じていれば、こんなに執着されたりしなかったのだろうか……いまさらながらの自分の失敗を目の当たりにして、思わずがっくり肩を落とした。
姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:未遭遇
清水慶介:生徒会長:未遭遇 ・ 大野聡:ちょいワル:好感度MAX
谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:???
高木遥:先輩:興味? ・ ???:???:未遭遇