24.呼び出しですか?
あれ? おっかしいなぁ……これって、完全に王子様イベントじゃないか。
思わず頭の中で突っ込みいれてしまいそうになるぐらい、私を取り囲む面々には覚えがあった。駿河くん親衛隊というか、バラの会というか……とりあえず、彼のファンクラブの子たちだ。ゲームの中では、しつこいほど嫌がらせをしてくる面々だ。
もちろん、私はヒロインではないので、彼女たちに嫌がらせされるターゲットになるはずはないのだけれど……なぜだか、思い切り取り囲まれた状態になっている。
以前、聡くんのおっかけ……じゃなくって、あれはただのバスケ部仲間だよな……ってな子たちに囲まれことがあったけど、やっぱりあれが異質だったのだと、しみじみ思えるぐらいの殺気……というか、嫌悪だろう。向けられる悪意が見えるわけないけれど、睨みつけてくるその眼差しに、身がすくんでしまう。
とりあえず人づてに空き教室に呼び出されたのは無視し、どこそこに来いという手紙をゴミ箱に入れたところで、下級生の女の子たちに囲まれた。
「ありえないよね、男のお尻ばっかおっかけてるから、忙しいんだって」
「女からの呼び出しは、まったく無視だって」
いえ、我妻先生からの呼び出しも、全部無視していますが……なんてことは、言わずもがなというか、意味がないだろう。
それにしても、どうしてこう、直接私に対して言うではなく、ひそひそこそこそと目の前の相手のことを悪しきざまに言うのだろうか。わざわざ目の前に来て、取り囲んで、でも、私に話しかけないその態度がなんとも嫌だ。ねっちりとした、なんともいやらしいというか……本当に気持ちが悪い。
私と会話をする気は全くないらしい彼女たちは、だからといって、私を解放してくれる気もないらしい。強引にかき分け抜け出したいところだけれど、やったところできゃあきゃあ言いながら、結構強い力で押し返され、腕の辺りを引っかかれてしまった。ひっかかれた程度でひるむのもどうかと思うけど、長袖だったら……なんてことをちょっと思ってしまった。
「とりあえず……私は聡くんの彼女なので、駿河くんにどうこうする可能性はナシと考えてもらっていいかと思いますけどねぇ……」
「ご存じ? 大野聡の恋人とやらは、高木先輩や我妻先生とも仲がおよろしいそうで……」
「まぁ、いったい何人と仲良くなられたいのかしら? 二股三股ならまだしも、たこ足回線ってところかしら?」
「友達百人できるかな~ですか? どんな友達かはわかりませけど」
「あのねぇ……」
ヒーローの出番があるものなら、それを待ちたいところだけれど、さすがにヒロインではない私では無理だろう。いや、私には呼び出しコールがあったりはするけれど……それこそ何様だという話になりかねない。
とりあえず、もっと強引に彼女たちの輪から出ていくか、もしくは心にもない「ごめんなさい」でも「もう駿河くんに近づきません」とでも言えばいいのかもしれない。下手なことして悪化して、本当にゲームの中のヒロインさながらに、水をかけられたり閉じ込められたりするのは嫌なので、どうにか回避方向に向かいたいところ。
どうしたものだろうか、思わず悩んでしまったところで、輪の向こうから知った声が聞こえた。
「ちょっと、あんたたち、通路をふさがないでちょうだい、邪魔なんだけど」
おいおい、そんな挑戦的なセリフはどうだろうなんて思いつつ、本音はかなりホッとしてしまった。
帰ろうというところだったから、昇降口で捕まった。いつもならば渡り廊下から帰りたいところだけれど、ごみを捨てるために一度靴を履いたのがまずかったか、ごみ箱が扉の側にあったのが敗因だったか、囲まれてはどうにもならず、まるで誘導されるように裏へ回ったものの、通路の邪魔になってしまうのは当然。むしろ、まっすぐ校門から出る人は少ないうちの学校、駐輪場へ向かう人たちの通路をふさいでいる状態に他ならない。まぁ、大半が校庭側を通るのだけど、裏にあたるこちらを通る人も結構いる。かくいう杏奈もまた、裏を回る派だ。そして、この状況で、回れ右して校庭側を通る人が多いというのに、わざわざどけと言いにきてくれたらしい。
「ちょっと通してよ、通す気がないなら、さっさと行きなさい。部活がない日ぐらい、さっさと帰りたいのよ」
確かに、陸上部は、美術部と違って土曜日含む毎週5日活動をしている。日曜日と、週一回の休部日は、早く帰れる貴重な日だろう。そんなところでこの状況を見て、愉快になれという方がおかしい。まぁ、本当に、今日にあたってくれてラッキーだったかもしれない。私のヒーローは、聡くんや駿河くんではなく、杏奈だったようだ。
「もういいよ、帰ろう?」
一人ぽそっとそうつぶやくと、数人の子がさっと脇に寄ったのを期に、一人二人と私の周りから人垣が離れ、蜘蛛の子を散らすように立ち去ってゆく。
杏奈がこちらに駆け寄って来て、私の様子をしげしげと眺め、腕の傷を見て眉をひそめた。
「あのねぇ、君たち、私は本当に、駿河くんとなんでもないし……」
杏奈が激昂して何か言い出すその前に、言い訳がましいかもしれないが、ちょっとだけ弁明の言葉をつぶやいてみる。ため息勝ちになってしまうのはしょうがないこと。足を止める子もいないな、聞いているのかいないのか……と思っていたのだけれど……。
「なによ、そこまで好感度あげておいて、よく言うわよ」
背後から聞こえた少女の声に、ドキリとした。あの時聞こえてきた声だ、駿河くんとぶつかった時、耳に響いてきたその声だ。あまりに恐ろしくて、耳にこびりついていたその声が、今、間近から聞こえてきた。
明らかに、今のメンバーの中にいると思えるその距離、もちろん、そもそも駿河くんとぶつかった時、側にいないのに耳元から聞こえてきたあたり、距離感なんて関係なしな気もするけれど、今は、明らかに横を素通りしていった子が発したように感じた。
「え? ちょっと、あんた……」
振り向いたのだけど、もう、数人いる彼女たちの、どの子がその声の持ち主なのかわからなかった。誰も、私の声に反応した様子はなく、それがまた、ちょっと悔しいところだけれど……見つけていたところで、もう二度と会いたくはないし、接触する気などかけらもないことを考えれば、ただ、後輩には近づかないようにしようと思うばかり。
「綾、大丈夫?」
心配そうに、ひっかき傷にかわいい猫がプリントされた絆創膏を貼りつけながら、杏奈が心配そうに問いかけてくる。思わず、一瞬どころじゃなく反応が遅れてしまったものの、どうやら、それほど取り囲まれたのがショックだったのだろうと判断してくれたらしい、何も問わずに心配そうに背中をさすってくれた。
その暖かな手になだめられて、少しづつ気持ちが落ち着いてきて、やっと頭が動き始めてくれた。
そうだ、とりあえず、あの声のの持ち主がどうの、駿河くんのファンクラブがどうのは置いといて、杏奈が助けてくれたんだ、そして、今、現在進行形で心配させてるんだ、そのことに気が付いて、改めて彼女へと顔を向けた。
「ホント、ありがと……ホント、ど、どうしようかと……」
「うん、うん、いいよ、別に、わざわざ説明せんでいいよ、なんとなし理解したし……とりあえず、今回はなんもなかったわけだし」
「うん……ゴメン」
「謝んなくっていいってば、綾のせいじゃないでしょ……ってか、全然納得してなかったみたいだし、またなんかしてくるかなぁ……なんとかしないとダメだね、アレは」
「……ははは、だねぇ……だよ、ねぇ……」
先生に言っとくか、それとも聡くんに、もっと綾を付きまとう言っとくか……現状は駿河くんか? なんてぶつくさつぶやく杏奈に心からの感謝の言葉を向けつつ、帰りにクレープでもおごろうなんて話を向けると、杏奈は、のんきねぇとかつぶやきながらものってきた。
まぁ、たしかに、今後がちょっと怖い気もするけれど、それならば詳しい情報を知っているという清水慶介に早々に話を聞いて、現状把握に勤めるべきか。我妻先生の探しているという『出口』というのも気になるし、明らかに、あの声の少女がこの不可解な現象にも関わっているとしか思えない。案外、この件についての真実とやらに近づけば、こうしてちょっかいかけてくることもなくなるか……対抗策なり見つかるかもしれないと思うのは、あまりに楽観的な話だろうか。
とりあえず、それは明日にして、今はどんなクレープにするべきかを悩んでおこうか……。
っていうか、そこまでってことは、私は駿河くんの好感度を結構高くしちゃってるってこと? それはそれで、まずったかなぁなんていう気持が、ふと心の端を掠めていった。
姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:お助けマン ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇
大野聡:ちょいワル:恋人 ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:監視中?
高木遥:先輩:疑惑 ・ ???:???:嫌悪




