23.告白ですか?
「……好感度……知力、体力、芸術、気品、気配り、魅力、ストレス……あと、なんだっけなぁ……思い出せないや」
「何ですか? いきなり……シミュレーションゲームのパラメーターですか?」
「うん……そんなとこ」
シミュレーションゲーム……そう、「空キス」は、恋愛シミュレーションゲームとしては、ちょっと恋愛要素をないがしろにしているのではと感じるぐらい、パラメーター管理が面倒なシミュレーションゲームだった。うまくすればハーレムエンドも複数デートもあるくせに、そのためには完璧なスケジュール管理が必要で、プレイデータをネットにあげていた人が、こんなの恋愛ゲームじゃねぇと言ってたぐらい大変だったそうだ。
聡くんの攻略は、好感度はもちろんのこと、芸術と運動と気配り……それと、魅力が重要だったはず。
私は、現状、芸術はともかくとして、運動はなんでも後ろから数えたほうが早い。気配りって……気なんて全く利かせらんないタイプなので、到底あるなんて言えない。魅力というのは人それぞれというか、何をもってして魅力があるというべきか、数値化なんてナンセンスというものだろう。
そんな状況だというのに、知らぬうちに好感度maxいっているあたり……私は主人公じゃないから、パラメーターは関係ナシということなのか、それともゲームと現実は違うということなのか……。
この世界が現実だと言い切ってしまうと、ならば聡くんが見えている位置検索システムはなんなのか、それも妄想だとしたら、なんで聡くんは私の居場所が分かったのか……いや、そもそも、時折見えるバグじみたもので、この世界がゲームだと、私自身納得しかけているところがある。
ならば、私は、どうするべきなのか……。
「好きの数値……私の数値……か」
「は?」
ぼんやと口にのせたその言葉に、聡くんは体を起こし、私の方へと向き直って聞き返してくる。そこまで注目されてしまうと、なんとも居心地悪いものがある。
たかだかモブであるはずの私の言葉なんて、そんなに重要に考えなくていいのだよ、私との付き合いだって、いずれ悪い思い出にしかならないのだし、そんな風に私を見ないでなんてこと、考えるのもばかばかしいか。
そもそも、そんな予防線を張ったところで、私の気持ちはすでに半分以上ほだされている。モブだから、こっぴどく振るのだから……だから、なんだというのか、自分の言い訳のばかばかしさにため息をつくと、聡くんがびくっとばかりに反応した。
「……すんません、何か、怒ってます?」
何に対するため息なのか、わかってもいないくせ……そもそも、私の言葉の意図など全くわかっていないくせに、聡くんはとりあえず謝ってきた。謝る必要などなくって、謝る意味も全くないのに、本当にすまなそうなその顔に、思わず頬が緩んでしまう。心配そうなその顔は、本当にキューンとか泣き出しそうな子犬を想像してしまう。
「聡くんは、たとえば、おじいさんから百回私のことを聞いたから、千回私のことを聞いたから、その分好感度を高めていったの?」
「いや、そういうんじゃないっすよ……そりゃ、なんかじいちゃんが言ってたなぁってのはあったけど、綾香さんをのこと好きになったのは、綾香さんのこと見てて……で……きっかけがじいちゃんだっただけで、別にじいちゃんのかわりに綾香さんを好きになったわけでも、なんでもないです」
「何回も私を探して、うまくつかまえらんないから、意地になってたんじゃないの?」
「それなら、捕まえたら満足で終わりじゃないっすか」
「うん、終わりに、しましょう?」
まっすぐと見上げた聡くんの表情が、なんともいえぬ怒りの表情に変わっていく。
もどかしいのだろうか、なんでわかってくれないと、今にも叫びだしそうに見える。好きだと言ってくれた彼の言葉、それがまだ通じていないのかとでも言いたいのだろう。その表情にこそ愛を感じるというのは、なんとも悪趣味な話だろう。
「嘘、だよ」
言って半歩近づくと、聡くんはいきなりぎゅっと抱きついてきた。まるで懲らしめるかのように、私の存在を確かめるかのように、痛いぐらい強く抱きしめてくる。この温もりも、匂いも、痛みもすべて、現実にしか感じられない。
でも、現実とは到底思えないことが、ちらほらと見えている現状、どこまでもそれを無視していくことはできやしない。
「この世界がゲームだったらどうする?」
「たとえゲームでも、いいですよ……それなら、ゲームおわらせて、現実世界で綾香さんのこと見つけますから」
即答してくるその言葉を、つい嬉しく思ってしまう。その言葉で満ち足りてしまうのは、どうかと思うのだけれども、あっさり肯定して、そのうえ見つけると言い切ってくれるその言葉に、ささくれ立っていた気持ちがほっこり温まってくるよう。
「現実とゲームとじゃ、顔も何もかも違うよ」
「そういう意地悪なところ、絶対かわってねぇですよ、きっと、現実でもそういう人だ」
「なんか聞き捨てならないわねぇ、意地悪じゃないわよ」
思わずつっこみ入れるものの、ちょっとだけ違和感を感じてしまう。愛ゆえかとか思ったものの、いくらなんでもそんなにすんなりこの世界がゲームだとかいう与太話を、彼が聞き入れてくれるというのも変な話だ。
「ねぇ……ちょっと待って、普通、こういう話をしたら、こいつ頭おかしいんじゃねぇかって思わない?」
ちょっとだけ体を離して、彼の顔を見上げ言うと、それを押し込めるように、さらにぎゅっと強く抱きしめられた。ちょっと、まるで、縋られているように感じるのは気のせいか、ちょっとばかり、彼が振るえているような気がした。
「……正直……俺も、ちょっとだけ疑ってますから……」
絞り出すような声は、先ほどまでの力強さが欠片もなく、彼の気持ちが透けて見えた気がした。
彼もまた、疑う気持ちでいっぱいだったのだろう、彼もまた、自分がおかしな世界に迷い込んでしまっている現状に、不安を抱えていたのだろう。
「俺、実は、親がいないんですよ」
「え? だって、お父さんがいるでしょう? 仕事が忙しいだけで……」
「実家に、本当に人の気配がないんです。人が生活してるって気配が一切ないんです。冷蔵庫の中も、ひと月たってもふた月たってもかわりゃしねぇ。ためしに一晩中待ってみても、父の会社とやらに行ってみても会えねぇ……離婚した母とやらもそう……電話すら通じねぇ……おかしいって、普通思うでしょ」
私は、家に帰れば家族がいる……でも、彼は、いなかったのか、しかも、あまりに不自然に……その状況の中、不安に震える彼の姿が垣間見えた気がした。
「現実に見えるのは、綾香さんだけなんです。綾香さんだけ特別なんです。綾香さんといるときだけ、ホッとできる感じなんです……俺は……だから……」
「私が、この世界をゲームだと知っているから?」
「それなら、俺、清水二恋してますよ」
「ちょっと待って、なんで清水くん? 清水って、清水慶介でしょう?」
「あいつは……綾香さんより、はっきりこの状況をわかってますよ」
なんだとっと、思わず叫びだしそうになって、その声を飲み込んだ。なんというか、藪をつついたら、蛇どころか大蛇……いや、ドラゴンが出てきた気分だ。はっきりわかっている奴がいる? しかも、攻略対象の一人じゃないか。状況がわかっている奴といえば、あとは我妻先生ぐらいだろうと思っていたけれど、まさか、清水慶介が、この状況を理解しているとは思わなかった。
ちょっとばかり、ほんの一瞬、こうして不安を吐露する聡くんと、清水慶介が抱き合っているシーンを妄想してしまったのは内緒にしておくことにして、これは、一度清水慶介と会って話してみてみないといけないだろう。
「そういうんじゃないんです、本当に、わかって下さいよ」
「わかったわかった」
「ちっともわかってねぇじゃないですか」
私が一瞬、他の男のことを考えていたと察したか、聡くんが焦れたようにそう言った。
「じいちゃんがどうでも、この変な現状のせいでも、不安だからでもないんです、綾香さん……綾香さんだから、綾香さんがいいから……綾香さんだから……」
「繰り返し繰り返し呼ばずともいい」
「綾香さん……」
強く強く抱きしめられて、髪をかき分けるようにして頬に触れてくる彼の手。自分の胸元から引きはがすように上向かせてきて、その意図に気づかないわけがない。目を閉じてやる義理もないものだから、まっすぐ見つめ返してやると、少しばかり怯みながらも、顔を近づけてくる。避けるつもりもないから、素直に触れ合う唇の、その柔らかさに目を細めると、更に唇を食むように味わうように触れてくる。
「何をやっているのかなぁ?」
……そして、ふと気づくと服のすそをまくろうとする聡くんの手に気づいて、思わずペシリとはたきおとした。
「綾香さん、結構痛いんですけど」
「そーいうことは、結婚するまでダメですよ」
「え? 結婚してくれるんですか?」
「どこまでポジティブシンキングだ」
もう一度その額を叩いて身を離すと、聡くんはどこか気が抜けたように笑いながら、いてぇいてぇと繰り返した。
姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:お助けマン ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇
大野聡:ちょいワル:恋人 ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:監視中?
高木遥:先輩:疑惑 ・ ???:???:嫌悪?




