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18.テストなんて大嫌い

 私の成績は、大体中ほどだ。数学と物理と国語と古典はいいのだけれど、社会と英語が致命的に悪く、それ以外はそれなり。美術が得意でもテストはないし、体育は不得意でもこれもテストはない。悪いも良いもあるけれど、全体を通じてみれば、ちょうど真ん中あたりの成績となる。

 テストの勉強は、悪い教科をなんとかするより、良い教科を伸ばす方をと考えてしまうせいで、ついつい、数学のテキストを見直ししていたり、漢字練習に時間を費やしてしまいがちになる。社会は、年表とにらめっこぐらいはするけれど、英語は、おもいっきりおろそかになっていた。自業自得だとは思うが、勉強方法がわからないというのが一番の問題か、やっぱり、数学の点数は下がるべくして下がっている。

 スペルの一つも覚えればいいのだろうけど、漢字はともかく、アルファベットの羅列には、どうにもなじむことができない。ついつい後回しにしてしまっては、テスト中に時間を持て余しまくってしまう。

 ゲーム中では、ちびキャラがちょこまか動いて、それまでのパラメーターにランダム効果が合わさって、成否が決まっていた程度だったけれど……当然ながら現実は、テスト時間が遅々として進まない。初めにわかる分だけ記録して、その後は一切シャーペンの先が解答用紙に向かわない。

 いっそのこと、ペン回しに時間を費やしてしまいたくもなるけれど、うまく回す技術もないので、ただただいたずらにペン先をはじくに終始する。

 あと20分近く時間があるけれど、もう一問たりとも解ける気がしない。ならば、早めに終わりにして逃げたくもあるのだけれど、さすがにそんな目立つ真似はできない。解答欄が完璧に埋められているのなら、終わりましたと提出して部屋を出ても構わないのだろうけれど、3分の2も埋まっていない状況で席を立ったら、むしろ席に縛り付けられて、終わるまで頑張りなさいと言われてしまうだろう。

 試験監督の先生が、ゆっくりと席を回ってチェックをしているけれど、チビ紙や隠し教科書なんていうカンニングの用意はしていないから、何を見られたところで問題はない。見られてまずいとしたら、解答欄が埋まってもいないのに、回答放棄をし始めているこの事実ぐらいか。

「もうちょいがんばれよ」

頭にぽんっと華奢な手が乗せられ、先生が通り過ぎて行く。先生の残す香水の香りもかぐわしく、私が男子生徒だったら惚れてしまいそうだ。

 美術部顧問だったりするこの雨宮芽衣先生は、最近ちょっと、私を気にかけてくれているらしい。生徒思いで優しげで、スーツをぱりっと着こなす細身美人。まっすぐこちらを射抜くつり目がちな目も、いつも艶やかな唇も色っぽく、ギャルゲーなら攻略対象になること間違いなしといった感じだ。上品そうな外見に似合わず、口調がちょっと乱暴なのだが、それがまたちょっと素敵だと感じてしまう。職員室で高く足を組んでいたりすれば、跪きたくなる男子生徒は多いことだろう。

 先生の応援に応じて、とりあえずもう一度初めから見直すも、埋められたのは2ヶ所がせいぜいだった。チャイムの音にホッと息を吐き出して、後ろから回ってきた解答用紙の上に、自分の解答用紙を重ねて前へ回す。これでもう終わったと安堵するのは早いだろうが、とりあえず英語という一番の難関を終えて……というかスルーして、次のテストは国語だから、少しは気が楽だ。今日は国語を終えれば帰れるし、明日は残った古典と物理と数学だから、これもまた問題ない。

 さてと次に向けて気合を入れていると、雨宮先生が、入り口からこちらを覗き見て、ちょいちょいと手招きしてみせる。

「先生、どうかしましたか?」

戸の陰に隠れるようにしている先生を覗き込んで問いかけると、先生は、うーんと小さく唸ってから口を開いた。

「……佐藤、お前……大丈夫か? なんか、我妻先生、さっきも覗いていたし……早々に、お前の分の解答用紙だけ没収していったぞ」

「げっ」

思わず嫌悪感も露に答えると、先生がつんと私の額を小突く。

「おまえなぁ、女の子なんだから『げっ』はないだろ『げっ』は……まぁ、気持ちがわからんでもないが……」

そういう自分の口調はどうなんだと、思わず先生に突っ込みたくなったところで、真面目な顔が向けられた。

「なんだかちょっと不気味なんだ……気をつけろよ」

よくわからない忠告に頷いて返すも、どう気をつけたらいいものかわかりはしない。今だって、必死に逃げ回っているのだが、どうにも遭遇を回避しきれていない節がある。


 実は、はじめから我妻先生からは目を付けられていたような気がしていた。本当に最初から……この学校に見学に来た時からすでに、こちらを監視するような目に気づいていた。

 呼び出しも補習もなにもかもすっぽかしていたのは、なにも英語が嫌いだったからだけではない。もしも我妻先生が数学や国語の先生であっても、逃げ回っていただろう……まぁ、その場合、呼びつけられるかどうかは微妙だけれどね。

 それは、万が一フラグを立ててしまったらどうしようとか、うっかり攻略しちゃったらとかいう甘酸っぱい話などではない。先生が、ゲームと違うとかどうとかいうわけでもない。

 ただ、あの視線が怖かったからだ。

 この学校に見学に来たとき、総毛立つかと思ったぐらいゲームと似た光景に驚き、呆然とした私を見ていた我妻先生の姿。まるで一枚の絵のように、校舎の入り口に背を預け、こちらをじっと見つめていた。目があったその時、ふっと笑ったような気がしたのは気のせいか……ともかく、その時、なんでだかバレタと思った。

 私が、前世の記憶があることが、ゲームと同じだと思っていることが、そして、私がモブだっていうことが、その瞬間、我妻先生にバレてしまったような気がした。

 ドキドキと胸が煩いぐらいに高鳴り、逃げ出したい気持ちになりながら、でも、さすがに一緒に見学に来ていた人たちの列から離れるわけにはいかず、必死に素知らぬふりを決め込んだ。我妻先生は、ゆっくりとこちらに近づき、私たちの引率の先生にあいさつをして、軽く校舎内を案内してくれた。けれど、私が廊下や教室の光景に目を丸めるのを見越しているかのように、その瞬間瞬間でこちらをちらと見ていた目。明らかに私を監視しているその目に、どうにも落着けなかった。

 まずい、これはまずい、この学校に入学しちゃダメだろうと思ったのだけれど、私がうっかり鞄に入れっぱなしにしていた入学案内のパンフレットを母がえらく気に入ってしまった。記念受験でいいからしてみなさい、もしも受かったら欲しがっていたゲーム機を買ってあげる、受けるだけでもしてくれたら新しいコートを買ってあげる……散々ごねられて、押し負けてしまった。それでも、私の学力では入れないと決めてかかっていたのに……なぜだかすんなり合格してしまい、ここに通わざるを得なくなっていた。

 それでも、だだでもこねればよかったかも知れない、強引にほかの学校を決めてしまうこともできたかもしれない、むしろ、不登校になっていたらよかったかも知れない……そうしなかった自分の選択だと言われればそうなのだけれども……。

 我妻先生のあの視線が怖くて、あの視線に囚われてしまいそうで……いや、囚われるってなんだろう、なんと言えばいいのだろう……ともかく、あの視線のせいで、私はこの学校に来たくなくてしょうがなかった。あの監視の目が、見透かすような目が、笑みを含んだその目が、怖くってしょうがなかった。

 骨の芯まで痺れるような……いや、なんだろう、どう言えばいいんだろう……ともかく、あの目が怖くてしょうがなかったんだ。

姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:未遭遇 ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇

大野聡:ちょいワル:ラブラブ恋人 ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:監視中?

高木遥:先輩:疑惑 ・ ???:???:未遭遇

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