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16.追っかけいるのね

「佐藤綾香先輩ですか?」

後ろから名指しで声をかけられて、自販機にコインを投入した姿勢のまま振り向くと、一年生だろう2人の女の子が立っていた。まっすぐこちらを見る視線から、おそらく自販機の順番待ちなどではなく、今、呼びかけてきた子なのだろう。思わず私? とばかりに自分を指さし首をかしげて見せれば、彼女たちはこくこくと頷いた。

 コインを投入した後なので、チカチカ光っているボタンを無視してはおけず、紅茶を一つ購入してポケットに押し込むと、改めて彼女たちの方へ向き直った。

「えぇっと……美術部の子? 図書委員?」

後輩とかかわることといえば、部活か委員会ぐらいしかない。部活はさぼりがちなこともあって、いまいち後輩の顔を覚えきれていない。委員会のメンバーは多いので、しょうがないだろうと、はなから覚える気もないけれど……もし委員会の方ならば、連絡事項か何かだろうから、じゃけんにできない。

 自販機の前はさすがに邪魔だろうからと少しずれてから、改めて問いかけようとすると、彼女たちがおずおずと口を開いた。

「すみません、どっちも違います」

「あの、私たち……聡のことで……」

「ちょっと、時間いいですか?」

交互に言う彼女たちに頷くと、2人は顔を見合わせて、導くように歩き出す。どこへ行くのかと思ってついていくと、特別教室棟の二階の空き教室に連れて来られた。来年にはパソコン教室ができるとかで、現在は何もないその部屋に、彼女たちの知り合いなのだろう、5人の少女が待ち構えていた。

「あの、私たち、バスケ部員で……」

言われてピンときた……この子たち、聡くんの追っかけの子だ。そういえば、『小学校の頃からバスケをやっていて、追っかけまでいた』というネタがあったはずだ。『今年の夏に膝を故障し、部活を辞めてしまう』後に、『女生徒たちからの評判はすこぶる悪い』となってしまうあたり、その子たちから手のひら返しされた可能性もある。

 『母の浮気で両親が離婚しており』『付き合った女にこっぴどく振られた』と共に語られる『女嫌いになってしまう』エピソードの『女生徒たち』は、おそらく彼女たちが含まれていることだろう。私と同じく、モブながら聡くんの運命に深くかかわってしまう面々といえる。

「あの、聡、最近全く部活出てなくって……佐藤綾香先輩……いっつも一緒にるとか……聞いたんです」

部屋にいた5人のうち、1人が前に進み出て訴えてきた。

 私が聡くんと付き合っていることで、聡くんが部活をさぼりがちになっていて、それを糾弾しにきたというところか。でも、むしろ、部活がどうこうより、おそらく私との付き合いに、文句を言いたいんじゃないだろうか。

「お付き合いされてるとか……そういう……そういうのに、文句言うつもりとかじゃないんです」

邪推したところで、すぐさま否定の言葉が別の子からあげられる。まるで、慌ててフォローしたようなその言葉に、みんながこくこくと頷いていた。

「違うんです、私たち、そういう、ファンとかじゃ……」

「好きとか、付き合いたいとか、そういうんじゃなくって……」

「わ、私たち……聡とは小学校のころからのバスケ仲間で……」

歯切れの悪い言葉が重ねられ、付き合いに反対しているんじゃないんだと、気弱に訴えられる。こうなると、さすがに邪推したのは悪かったかと、ちょっと反省してしまう。

 女の子7人に囲まれているという状況なのに、みんなうつむいておずおずと切り出すその言葉、むしろ、私が追い詰めてでもいるような気がしてくるのはなんだろうか。ファンの子たちの呼び出しイベントといったら、もっと、こう、陰湿で恐々としたものなんじゃないだろうか。なのに、なんだろう、この、小人さんたちに囲まれて、困った困ったやられているような状況は……。

 ふと見ると、赤い小人さん……じゃなかった、一番端に立っていた子が、息を吸い、おもむろに口を開いた。

「聡とは、小さい頃から、一緒にバスケをやってたんです。まぁ、もう、高校生なんで、女子と男子別れてしまってますし、チームメイトと言う感じじゃなくなっているんですけど……それでも、やっぱり、あんなにがんばっていたのに、サボってばっかだと、気になっちゃうんです」

がんばって言い切ったとばかり、まっすぐ私を見つめてくる瞳には、必死さが宿っている。そんなにも心配していてくれていたのかと思うと、あんたは聡くんのおっかさんかと問いたくなってしまう。

「私たち、聡のバスケとか、好きなんですよ」

「辞めて欲しくなんてないし、やるならちゃんとして欲しいんです」

「先輩、ちゃんと、まじめに部活やらせてもらえませんか?」

「せ、せめて、もちょっと部活に出てって、言っていただけません?」

口々に言われる言葉に、反省一入、そういえば、しょっぱな部活途中を拉致したようなものだし……いや、正確には離してくれなかっただけだけど、その後サボらせがちにしてしまったことにも、責任のようなものがある気がする。

 最近一緒に帰るのが当たり前になっていたけれど、考えて見ればバスケ部員が、部活をサボった美術部員と一緒に帰るには、一緒にサボらなきゃいけないわけで……付き合ってからほぼ部活に出ていなかったのは明確だ。朝だって一緒に登校していては、朝練もサボりまくっていたのだろう。

 『膝を故障』した原因の一端は、練習をサボりまくっていたことに起因するんじゃないだろうか……。そう思い至ったところで、部活を真面目にやらせなきゃ! もっと体を柔軟にさせなきゃなんていう使命感に燃えてしまう。

 とりあえず、この子たちに言われたからとか言うのはまずいのはわかるけれど、どうやって言ったものか……昨日まで、というか、今朝もまた、当たり前のように登下校を一緒にした彼に、いきなり部活に出なさいとか言ったところで、説得力がなさ過ぎる。

「バスケをやってるあなたが好きよとか言うのはどうかな?」

うっかり口に出した言葉に、7人全員がドン引きした。どうやら、選ぶ言葉を間違えたらしい。

 なんだろうこのしんっと静まり返った空気は、空き教室だからとか、特別教室棟だからとか、そんな理由ではおいつかないぐらいだ。思わず目を逸らすと、端っこの子が軽く頭を抱えていた。

「あ、うん、とりあえず、言っとく、言っとくけど……まいったなぁ、どう言ったものか……」

「普通に、部活は出なさいと……」

「そ、そうね、そうね、うん、言っとく」

思わず、そそくさと言い捨てるように部屋から出て行こうとすると、私をこの部屋までつれてきた子たちが道を明けてくれる。端っこの子が、ちょっとばかり引きとめたそうにしていたけれど、とりあえず恥ずかしさが先にたって、慌てて部屋を出てきてしまった。

 私が出てった後で、あの先輩、ちょっと変なんて話題になっていなければいいけど……。

「綾香さん」

恥ずかしさに頬染めながら、廊下を速足に歩いていると、丁度渡り廊下の向こうを歩いていたらしき聡クンが、私を見つけて駆け寄ってきた。

「どこ行ってたんですか?」

お前は子犬かとか思いたくなるほど、まっすぐ駆け寄ってきて、ふりふりする尻尾の幻影が見えるようだ。こうしてなつくように近くに来てくれるのは、ちょっと嬉しかったりもするのだけれど、それじゃダメだろうと心を鬼にして、

「あんたねぇ、部活出なさいよ」

捻りもなんにもない言葉を向けると、

「先輩も、出てないですよね」

あっさりと言い返されてしまった。

 そりゃそうだ、私には説得力の欠片もない、これじゃ、部活に出させるのも一苦労しそうだ。

「バスケやってる、カッコイイ聡くんが見たいなぁ~、部活をがんばっている男の子っていいよね、バスケ部のエースだったりしたら、彼女として鼻が高いし……」

とりあえず、思いつく限りの心にもない言葉を、思いっきりどん引かれるのを覚悟で重ねてみることにした。

姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:未遭遇 ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇

大野聡:ちょいワル:ラブラブ恋人 ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:説教待ち?

高木遥:先輩:疑惑 ・ ???:???:未遭遇

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