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15.デートのしめくくり

「先輩が何に悩んでいるのか知りませんし、俺なんかじゃ役に立たないでしょうけど……」

今がいいからいいでしょだなんて、刹那的なものだとか思いながらも、ちょっとだけ、安堵で気持ちが軽くなる。たとえ、これがゲームの中の、シナリオに沿って破局していくための恋人関係だとしても、今、幸せかどうかと問われれば、幸せだとしか言えない。未来が決まっているとしても、それで今の幸せがなかったことになるわけじゃない。

 こっぴどく振られてもいい、幸せだからというのは、間違っているかもしれないけれど、少しだけ救われた気がした。

 ふと見ると、手元のカップが空になっていて、口ごもる聡くんが、おずおずと切り出してくる。

「俺、本当に、先輩のこと、本気なんですよ。たとえ先輩が、俺のこと思ってなくっても、いやいや付き合ってるんだったり、成り行きとかなんとなくだったとしても、こっぴどく振る準備をしているんだとしても……俺は、本気です」

紙コップを持つ手に無駄な力がこもってしまい、円がひしゃげ紙コップの側面にしわがよってきた。その両手の上から、聡くんの手が添えられ、さらに円がゆがんでゆく。

 あったかく大きな手が、私の両手を紙コップごと包み込み、そのまま握りつぶされてしまいそう。少し陰さすのは、彼が私に近づいたせいか、なんだかちょっとだけ、見上げるのが怖いけれど……。

 口説かれているなぁなんて頭の端で冷静に思いながら、頬が火照り、どきどきと心音はしゃぐ音が耳にまで響いてくるよう。

「先輩……」

「ねぇ、聡くん」

「はい」

思わず呼び返し、勢いよく顔を上げると、やはりというか、当然というべきか、すぐ間近に彼の顔があった。まるで睨んでいるようにも見えるその顔は、甘いことをささやいてくれているはずなのに、どこか脅されているようにも見えてしまう。

 ぐしゃりと、私の手の中で紙コップがひしゃげて小さくなった。彼の手にさらに力がこもり、私の言葉を熱心に待っている。

「私、遊んでいるように見える?」

「は?」

言った途端、彼の表情が呆けてかわいらしくなったので、思わず私もぷっと噴出してしまった。

「キライな人と付き合ったりできる人間に見える? 成り行きでいやいやここにいるように見える? ねぇ、私、そんなに意地悪く見えるかなぁ?」

言いながら、頬がどうにも緩んでしまい、ニマニマ笑いがあふれてしまう。

 違うんだよ、脅されて付き合ったわけでも、成り行きででもないつもりだよと言うつもりだったのだけども、彼は私の表情に憮然としてくる。

「今は、本気で意地悪く見えますよ」

言った言葉と気持ちと表情とが、まったくかちあっていなかったというか……失敗してしまったみたいだ。でも、全く通じていなかったわけではないようで、少し照れたように、彼の頬が笑みに崩れる。

「あははっ……そうか。うん、それじゃ、私は、あなたをたぶらかしてしまう悪女だ。でもね、悪女だって、興味が全くないものにまで時間を割くような酔狂は、しないものなんだよ」

頭を撫でてあげたいななんていうことをふと思って、握られたままの手に目を向ける。しっかりと握られた手は、まだ開放されそうになくって、

「先輩……ちょっと、抱きしめたいです」

「ダメです」

むしろ抱きしめたかったらしい彼に否定の言葉をきっぱり向けると、離しなさいと睨みつけた。

 木陰になって、少し植木で隠れた場所とはいえ、公園の入り口近くのこのベンチは、周りから丸見えだ。ちょっと呆然と考えに没頭していた折ならまだしも、冷静に回りを見てしまうと、さすがにこんなところで口説かれるのも抱きしめられるのも遠慮したいもの。

 チェッとかケチィとか小さく呟いて、でも、彼は私の両手を解放すると、その間に握りつぶされていた紙コップを取り上げ、立ち上がって自販機すぐ隣のゴミ箱へ放り投げた。吸い込まれるようにゴミ箱の口にナイスショットして、ちょっとだけ得意顔な彼を見上げると、彼は私に手を差し伸べてくる。

 なんとなしつかんだその手、不意に、また、逃げないか用心されているのかしらなんてこと思ってしまうも、私を椅子から引っ張り上げるその力強さと、繋いだ手の暖かさにほっこりして、聞かないでおくことにした。

 公園の中を、手を繋いだまま散策して、時折くだらない話なんてしながら、ソフトクリームなんぞを食べたりもして時間をすごせばもうお昼時、軽くファストフードで食事して、近くのお店でウィンドウショッピングをすれば時は既に夕刻となっていた。

 公園デートだけのつもりだったから、もっと早くに切り上げるつもりだったんだけど、思いのほか時間がたつのが惜しかった。楽しくていつのまにやらといった具合で、ちょっとだけ、もうちょっとだけと思わずにはいられない。

「先輩、もう遅いし、家まで送りますよ」

という言葉に、思わずデートイベント成功かとか思ったのはおいといて、とりあえず、帰り道はもう少し一緒にいられるのだと、ちょっとだけうれしくなった。

 繋いだままの手は、ちょっとばかり不自由で、わずらわしくって恥ずかしくって……それでいて心地良い。

 並んで歩きながら、ここはつんつんしておくべきか? つい、そんなことを考えてしまう。つつける場所についても、前髪の付け根あたりとか、目の下あたりとか、ポイント覚えているのがなんだか嫌だ。実際になでなでつんつんしたところで、おそらく彼はちょっと照れるぐらいで済ませてくれそうな気が無きにしもあらずなのだけれど、そんなバカップルじみたことちゃダメだと理性が制止してくる。

 公園から家までバスで二区間ほど、1人で歩いているとそれなりに遠いのだけれども、2人で歩くと案外近く感じるのだから、なんとも現金なものだ。家の近所の道が見えて、あと数メートルだというところで、ついつい足がのろくなってしまう。とうとう門までたどり着き、さてと手を離そうとしたのだけれど、彼の手は、まだしっかりと私の手を握っていた。

「先輩、デートのしめくくりっていったら、やっぱり」

「却下」

「そうっすよねぇ~っち」

また甘ったるいこと考えていたらしき彼に、速攻で却下すると、がっくりと肩を落とし、でも、その手をまだ離してくれようとはしない。

「手」

「ダメですよねぇ……」

「手、離してって」

「……却下」

「却下すんな」

ペシッともう片方の手でその手を叩くけど、痛いとかぼやきながらもその手に力がこもり、やっぱりまだまだ離してくれないらしい。

 なんだろうと改めて彼の方を見ると、彼は、しばし何か言いたそうに、言い難そうに口元を歪め、小さなため息をこぼした。

「……俺……本気で、先輩の役に立ちたいです、先輩を支えたいです、先輩のこと……好きっすから」

「あ……うん」

「俺じゃ、何もならんかも知れんですが……助けがいるなら、何でも言って下さいね。いつでも、どこでも、なんでも……どんな下らんことでもいいですから、まず俺に言って下さい」

「……うん、うん、ありがとう……じゃ、ま、またね」

本当にありがたくってうれしいのだけれど、つい、ちょっとの気恥ずかしさと、母や兄やご近所さんに見られたらとか思ってしまい、ついつい焦りが先だってしまう。

 手が離されたのをチャンスとばかり、ぱっと離れてドアに飛びつくと、軽く手を振って玄関に入った。

 まだ、胸がドキドキと早鐘を打っているけれど、こんな気持ちは、きっと、私のシナリオには書いてなかったことだろう。

姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:未遭遇 ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇

大野聡:ちょいワル:ラブラブ恋人 ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:説教待ち?

高木遥:先輩:疑惑 ・ ???:???:未遭遇

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