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11.逃げてませんよ

 授業をすっぽかした後、チャイムが鳴ってから、教室へとこっそり戻るが、まだ、教卓に先生の姿があった。思わず回れ右をして、慌てて教室から離れたものの、ちらっとこちらを見られてしまった気がする。

 まずいなぁ、むしろ悪目立ちするよなぁとは思いつつ、じっと席に座っていることすら怖くなってくるのだからしょうがない。なんとも聞き心地の良いバリトンヴォイス、流暢な英語の発音も、ゲームの上ならずっと聞いていたいとかと思うのに、現実で聞いていると背筋がぞっとしてしまう。

 この世界がゲームなのだとしても、何かわからない力でゲームの通りに動かされるのだとしても、別に、先生になにか嫌なところがあるわけではない。

 むしろ、先生との恋愛イベントは、ちょっと切なくて好きなぐらいだ。

 まじめに先生の手伝いをしていた主人公が、先生にふと触れて意識してしまう。主人公の恋心に気づいた途端、冷たくなる先生。生徒と教師という立場を考えて、自分からも距離を置きだす主人公。お互いが気になりつつ微妙な距離を保っていたある日、先生にまとわりつく女生徒に嫉妬して、主人公が問いかける「先生、百点とったら、キスしてくれますか?」大人をからかうなとかなんとかごまかされてしまうが、実際に英語で百点を取り、もう一度「次……百点とったら……」、もう一度「次こそ……百点とったら……」と繰り返し、三度目に本当にキスしてくれる。その後はなんとも甘々なもので、誰もいない英語の準備室で抱き合ったり、彼の部屋でまったりしたりというのもあるのだけれど、相手が先生なだけに、外にデートへ行ったりはできない。また、他の攻略対象にちょっとでもなびいたら終了、先生があっさりと身を引いてしまうのだ。

 どちらかというと、二番目に好きなキャラだったので、お近づきになるのはやぶさかではない。厳しくはあるが、生徒思いで人気のあるいい先生。大人な態度の中で、時たまみせる少年のような姿に、ドキドキしていたのも事実である。

 もう、聡くんとは別れる前提でとことん付き合いましょうとふっきれているくせに、どうしても、先生とかかわりあいたくないと思ってしまうのはなぜだろうか。実際の先生自身は、関わりあっていないので知らないというのはあるが、ゲームの中では気に入ったキャラクターだったのに……。

 なんだか怖い……なんだか……決定的な事実を突きつけられてしまいそうで……なんというのか、先生が何を知っているのか、わからないながら、なんだか怖くてしょうがない。ついつい避けてしまいつつ、むしろそれが悪目立ちになって先生に目を付けられている気がする悪循環。


 とりあえず、片づけている最中なのですぐに教室から出ていくのだろうとは思いつつ、すぐに戻る気にはなれず、1階の下駄箱脇にある自動販売機のコーナーへと向かった。お昼休みには混雑していて、長蛇の列にがっくりしてしまうも、昇給系の時間だと、人もまばらで誰も並んでいない。

 一応、裏門側や体育館下にも自動販売機はあるものの、ここは五台も並んでいるので選びほうだいということもあり、他の場所と違って常に在庫が補充されている場所でもあり、どうしても昼休みに混んでしまう。メジャーどころのジュースの自動販売機が3台と、紙パックの自動販売機が1台、最後にパンの自動販売機まで置いてある。

 パンの自動販売機など、ここで初めて見ましたとも。食パン一袋って、だれが食べるんだろう、チョココロネは常になくなっている気がする。アンパンやジャムパンやカレーパン、定番どころはいいのだけれど、時たまシベリヤやちくわパン、プリンパンといった色物が置いてあったりする。ところで、端っこにポッキーやクッキーまであるのは、学校としていいのだろうか……。

 くだらぬことを考えつつ、ミルクティを購入し、教室へ戻ろうとしたその時、チャリッという音と共に、隣に立つ男性の姿を見て驚いた。いつのまにそこに立っていたのか、小銭をポケットから出し、何気ない様子で投入口に入れるところ。

 思わずあわてて立ち去ろうとすると、

「おい」

後ろから声をかけられ、思わずダッシュしてしまった。

 とりあえず、ここからまっすぐ教室まで戻っては、教室から職員室までの最短距離とバッティングする。丁度タイミングよくそこで会うとまでは思わないが、もしものことを考えれば、遠回りするに越したことはない。校舎の端まで行き、非常用扉手前の中階段を上ろうとしたとき、いきなり手をつかまれた。

「なんで逃げるのかな?」

「逃げてませんよ」

とっさについた嘘に、あまりにも真実味が足りないのはしょうのないこと、なんてったって、ついさっき、自動販売機でたまたま隣に居合わせた、高木遥が相手なのだから。

 私の手をしっかりつかみ、なぜだか買ってきたのだろうコーヒーを小脇にはさみ、なにか握りこんでいたものを私の手に握らせる。チャリッという音は、小銭の音だろう、そう気が付いた時、さっき、おつりを回収し忘れていたことに気が付いた。

「おつりを忘れるぐらい、俺の隣にいたくなかったっていうのかな?」

「いえ、そんなことありませんとも」

「明らかに俺のこと見て逃げたでしょう?」

「まさか、そんなわけありませんって」

「俺の顔みて驚いた顔、はっきり見たよ」

「違いますって……」

忘れていたおつりを渡してくれたのだから、はいそれでおしまいとしてくれればいいのに、高木遥は私の手をつかんだまま、詰め寄るように近づいてくる。

 階段に上ろうとしていた足が、後退しようとけつまづきそうになりながら、階段を一段、また一段と上ってゆく。むしろ、その不安定さに、私の方が目線は高くなっているはずなのに、背後は自由であるはずなのに、追い詰められつつあるようにしか感じられない。もう一歩段をのぼって、そのまま振り払って逃げたく思うのに、その手はびくともしない。

 この間といい、こうして捕まることが多いような気がすれば、握力の一つも鍛えておくべきだったかなんて、思わずあさってな方向に頭が向かうも、今更どうしようもない。

「あの、本当に違います……ただ……そのぉ……い、急いでて……」

苦し紛れにそう言いながら、いやだなぁなんてごまかすように手を振り、多少引きつりながらに笑顔を浮かべる。でも、それにごまかされてくれるほど甘くはないようで、彼の目は妖しいほどにじっと、私を見つめてくる。

「へぇ……さっきの授業すっぽかしておいて、いまさら何に急ぐんだい?」

どこで見られていたのか、というか、どうしてこう、聡くんといい高木遥といい、人のこと見ているのか……ちょっと怖くなってくる。

「ほ、本当に、逃げてなんていませんよ」

「……どうだか」

思い切り疑われているところで、ごまかしも何もききはしないよう。かといって、本当のこと……前世でゲームのことを知っているんだけど、君みたいなナンパ男の過去の女になりたくないから~なんてことを言えるわけがない。

 逃げなければいいのかもしれないけれど、なんとなし、逃げなければすぐにつかまってしまいそうな気がしてしょうがない。

 絶対絶命のピーンチ……ってわけではないけれど、もう、ごまかしようもない、ダメだと思ったその時、不意に、背後から聞こえたバリトンヴォイスに助けられた。

「佐藤くん、放課後職員室に来なさい」

言い争っていたのを見とがめられたと思ったか、高木遥は我妻先生の姿を見た途端、その手を離し、すっと立ち去ってしまった。

「……あ……はい」

答えはしたものの、当然行く気はさらさらない。とりあえず助けられたと思えば、頭をさげてそそくさと教室へと向かった。

 にしても……せっかく遠回りしたのに結局先生と遭遇するだなんて……私は本当についていないようだ。

姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:未遭遇 ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇

大野聡:ちょいワル:好感度MAX ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:説教待ち?

高木遥:先輩:疑惑 ・ ???:???:未遭遇

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