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10.追っかけてこないで

20150218 ちょっと誤字脱字修正。

 チャイムの音と共に教科書を閉じたものの、先生は、まだ話し足りなそうにしている。「あ~」とか「う~ん」とか、少し唸ってため息ついて、先生も教科書を閉じた。

 日直が号令をかけ、立ち上がり、礼をすると、みんな三々五々休憩に入る。私も、すぐさま教科書やノートを机の中に押し込んで、そのまま机から離れた。友人・安奈がこちらをちらと見て、何か言いたそうな顔をするも、そのまま放っておいてくれるらしい。

 何か時間をつぶせるものをと、単行本も一冊ポケットにねじ込んで、そっと教室を抜け出し、なんとなしトイレだけ寄り道して、来た道とは逆の方へと歩み進める。

 渡り廊下を渡った先にある美術室、その上の階で、人があまり来ないし内鍵がついている暗室を持つ写真部部室……美術室はともかく、写真部は部員じゃないのであまり便利使いするのはどうかと思いつつ、隠れ場所を試案する。運動部の部室棟の端も人は来にくいが、休む場所に少し困る。悩み悩んでふと空を見ると、晴れ渡る青空。それだけで行き先を決めると、中央階段へと足を向けた。

 中央階段を上りきれば、屋上へのドアがある。もちろん、鍵は常にかかっているが、美術部員には、こっそり受け継がれた鍵がある。遠くはあるが富士山を臨むその屋上、写生をするのに理想だが、いちいち申請を通すのが面倒だと、何代か前の先輩が作った合鍵だ。もちろん、先生にはないしょだし、ばれたらまずいのだけど、今日ばかりはその鍵に頼りたいところ。こっそり持ち出してきた鍵を使い、屋上へのドアを開けると、気持ちのいい風が吹いていた。

 誰か来たりしたら困るから、きちっと施錠はしておいて、改めてあたりを見回した。普段鍵のかかっている場所だから当然だが、人の気配はない。隠れられる場所など、一段高い階段部分の向こう側しかないが、そちらへ歩いて行っても、誰もいない。

 半周ちょっと行ったところで、上へあがるハシゴを見つけ、スカートにもかかわらず上ってしまった。ちょっと裾を踏んで汚したが、とりあえず上りきってスカートを払い、汚れるのも構わずにそこに座った。

 柵も何もないものだから、ちょっと怖い気がしないでもないが、ここならば、万が一誰かが屋上に来たとして、すぐに見つかることもあるまい。

 持ってきた単行本を開いてみるが、さすがに直射日光では目に痛い。そのままごろんと転がって、両手を頭の上に置く。遠くでチャイムの音がして、次の授業が始まる。それでも起き出すことすらせず、むしろうっとりと目を閉じた。

 不意に鍵が開く音がするが、まさかここまで上がってくることもあるまいと、ドアが開いても放っておいた。

「あれ……」

思わずこぼれたというような、小さな声には聞き覚えがある。誰だかわかったからこそ安堵して、そのまま寝ていることにした。

 何の用事で来たものか、しばらくして、ここまで上がるハシゴが軋む。

「先輩」

声をかけられたけれど、そのまま目をつむったままでいると、間近まで来て、覗き込んでくる気配。

 かすかに、彼のものだろう汗の匂い、私の顔に影が差し、顔に吐息すらかかるよう。まるで添い寝でもするように、すぐ間近に彼の体があった。

「イタズラしちゃいますよ」

耳元に囁かれたその声は、甘ったるい響きを持ち、なんだかくすぐったい。唇も触れそうなほど間近で、むしろそのまま口づけてきそうな彼に、でも、私は制止の言葉しか紡げない。

「したらキライになりますよ」

目を開けることすらせず、否定の言葉だけを継げる。でも、それは、だるいから、面倒だからというよりも、ただただ、彼の姿を間近に見て、心がはしゃぐのをごまかすため。

 勤めて呼吸を整えながら、彼の気配を必死に無視する。

 目を開けて、彼の胸にでももたれ抱えれば、それは甘いひと時だろう。でも、そこに甘えるのは、なんだかいけない気がした。

「やっぱ起きてた」

キライになられるのは嫌なのか、彼は、少しばかり身を引いて、吐息と共にそう言った。

「起きる気ない」

「起きて下さいよ、本当に、イタズラしたくてたまらなくなっちゃう」

「したら許さないからね」

否定の言葉を重ねるも、彼の制止になるのかならぬのか……。

 彼の指先は、そっと私のブラウスの襟に触れ、その一番上のボタンを指先でなぞる。

「こんなに無防備にしているのに?」

まるで甘えるように問いかけて来て、その指先が、少し大胆にボタンにかかる。でも、それを外すことはせず、ただもてあそぶばかり。

「信頼しているから、でしょう? その信頼をなくしたいのなら、今後、1メートル以上近づかないでもらうわよ」

「それは……近づかなければ……いやっ……いやいや……」

今後近づかないと約束すれば、イタズラできるのか……そんな交換条件に、一瞬心が揺れた様子の彼。でも、やはり、それはあまりに分が悪い交換かと思ったか、ぱっと手が離れため息がこぼれた。

 どうやら、もう誘惑もイタズラもするつもりがないらしい。はしゃぐ心音を抑えるべく、深く大きく息をつき、安堵に唇を湿らせた。

「どうしてここにいるってわかったの?」

目を開けると、すぐ隣に座り、頭を抱えて考え込んでいる彼の姿。どうやら、まだちょっと、イタズラに未練があるらしい。

 問いかけにこちらをちらと見ると、自分も寝転がり、片ひじを立ててそこに頭を乗せ、私の顔を見下ろしてくる。

「中央階段を上っていくのは見えたんです。……で、その後……今、俺のクラス美術の授業で校庭で写生とかしてて……先輩のクラスの窓を眺めて先輩の姿を探したんだけど、見えなかったので、ここにいるかなぁなんて思ったんですよ」

「鍵は? かかってたでしょう?」

「あれくらい開けられますよ」

あまりにもあっさり、不穏なことを言ってくるけれど、そこはあまり追及しちゃいけないなぁと思って、スルーしておくことにした。いや、あまり追及して、先輩こそどうやってと問い返されたらさらに困る。

「写生って、何書いてたの?」

「とりあえず、青空描いときましたよ」

「……それって、青一色じゃない」

慌てて変えた話題は、むしろ更にダメな方向に進んだ気がする。

 起き上って彼のほうを見ると、その足元に、たしかに青一色の画用紙がある。これ以上ないってほど手抜きだ。

「抜けるような青ってすばらしいでしょう? ほら、雲一つない」

たしかに雲一つないけれど、さすがにこれはどうかと思う。思わずちろっと睨むと、私の言わんとしていることがわかったか、「え~」とか小さくこぼして身を起こす。

「俺、絵は不得意なんですよ」

「じゃあ、なんで選択授業を美術にするのよ。音楽にでもしておけばよかったのに」

「音楽はもっと不得意なんですよ」

そう言いながら、面倒くせぇとか小さくこぼしつつ、画用紙をひっくり返し、画板へ戻す。画材道具の入っているのだろう袋から、シャーペンを取り出すと、それをくるくる回して思案顔。頭を抱えるその顔も、ちょっとかわいいなんて思いつつ、その横に回って、真っ白なままの画用紙を覗きこんだ。

「……面倒くさい女だと思うでしょう?」

「は?」

「変な女って思ってるんでしょう?」

「はぁ」

「だったら、私のことは忘れて、早く次の子見つけなさい」

真っ白なままの画用紙を眺めながらにそう言うと、彼は、私の方を睨むような目で見た。

「冗談じゃないですよ」

その気持ちが、いつまで続いてくれるものかわからないけれど……ちょっとだけ、うれしいような気がした。でも、きっと、もうしばらくしたら、きっと、こっぴどく振らなければいけないんだ……それは、きっと、私の思いなんて関係なく、それこそ、天変地異とかそんなものまでひっさげて、何かが、私を操作してくるんだろう……。

姫崎凛?:ヒロイン:未遭遇 ・ 駿河裕司:学園王子様:未遭遇 ・ 清水慶介:生徒会長:未遭遇

大野聡:ちょいワル:好感度MAX ・ 谷津タケル:後輩:未遭遇 ・ 我妻圭吾:英語教師:???

高木遥:先輩:興味? ・ ???:???:未遭遇

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