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ファンタジー

中古ゲームでトリップ!

作者: 紅藤

 

Trip With The Used Game [Lea] !

 

 

 俺はしがない会社員、三十五歳だ。趣味は中古ゲームで遊ぶこと。ちまたではヴァーチャルなオンラインゲームが流行っているらしい。が、気力も体力も、時間も金もないもんだから一切興味がわかない。

 今や小学生ですらVG(ヴァーチャルゲーム機)を持つ時代だ。だから俺はタダ同然のゲームを買う。クソゲーも多いけど、いわゆる名作が埋まっていることがあるからだ。

 中古ゲームはゲーム機自体がもう少ないから、カセットの価値も落ちた、ということらしい。どこのインターネットショッピングでも、断然送料の方が高い訳だ。

 そんなこんなで日曜日を迎えていた俺は、新しいゲームに手を着けることにした。

 ちょうどその前が『問答無用ハンター』とかいう、参考にしたじゃ済まされないレベルのクソゲーだったためか、俺は説明書も読まずにパソコンを起動させたんだ。せめて、どんなストーリーか確かめておけば良かったよ。










 まず始めに目に入ったのは濃淡さまざまな緑色だった。空、太陽、森、山、川、そして地面。俺は緑に包み込まれていた。最初、俺はバグを疑った。俺の視界全体に緑色のもやがかかっているように見えたからだ。

 見たこともないパッケージからして、随分古いソフトだったのかもしれない。カセットの一部が破損していたんだろう、そこまで考えてふと気がついた。 いま、俺の手はどうなっているんだ?

 とりあえずシャットダウンしようと、マウスを探した右手は空をかき、Eseキーを押そうとした左手には確かな空気を感じた。恐る恐る下を見下ろすと、そこにはただ草原が広がっていて、彼は粗末な布の服をまとって突っ立っていた。


「な、なんじゃこりゃ!」


 近所迷惑だろう、と思いつつも騒ぐのを止められない。一通り叫ぶと、今度は世間体が気になってきた。


「ま、まさか幻覚!?い、いや、感覚はある。どうしよう……明日の仕事、どうすれば」


 もちろん俺は、それが杞憂であることなど、知るよしもなかった。










 三日もすれば慣れたもので、俺は朝から狩りに出ていた。どうやら始めに見た謎のもやはこの世界特有の現象で、モンスターがあのもやを発生させているらしい。俺の仕事はモンスターを退治して、もやを取り除くことって訳だ。

 雑魚モンスターはいくら倒してももやは晴れないが、奥のボスを倒すと一気に消えて本来の景色が見えるようになる。その時の気分は実に爽快で、景色も最高だ。とてもやりがいのある仕事だと思う。

 システムはよくあるレベル制で、雑魚はランダム、ボスはシンボルエンカウントだ。セーブの概念があり、致死量のダメージを受けても死ぬことはない。全身筋肉痛になって、最後に立ち寄った宿屋に戻るだけ。お金もアイテムもバトル前のままだ。 つまりデスルーラが可能ってことか。全身の痛みがとんでもないから進んでやりたくはないけどな!

 レベルで上昇するのはHPと防御、素早さだけ。攻撃力だけは武器や装飾品で補わなきゃいけない。だけど、武器は格好いいし、強いし、ついでに言うと攻撃するときはオートだから何の問題もない。いや、なかった。

 アイテム名がすべて英語である、ということを除けば、だ。

 最初に言ったとおり俺はしがない会社員だ。英語の心得なんかない。もっと言えば苦手な科目の一つだったというのに。

 店に並んでいるものはいい。姿形は見えるし、値札や店主に尋ねれば道具の詳細は知れる。困るのはモンスターが落とすアイテムだ。ドロップ品なだけあって未鑑定である。名前と形だけで用途を推定しなければならない。これが難しかった。


《White-Pierceを入手しました》

「ほわいと……ぴえれす?」


 それは《NIELI》というモンスターが落とした小さな玉。パールよりももっとのっぺりとした白さで、まるでおもちゃのビーズだった。《NIELI》はカラスのような鳥モンスターだから、光り物が好きだったのだろう、と結論付けてすぐに売り払ってしまった。

 やけに高く売れたな、なんて喜んでいた俺だが、後日の冒険により謎は発覚した。《Jacket-Pierce》というアクセサリーを店で見かけたのだ。

 それは宝石をあしらった金属製のピアスだった。さらに、さりげなく店主に《White-Pierce》のことを聞いてみると、すべての異常状態を防ぐとかいうレア物だったらしい。惜しいことをしたなあ。










 またあくる日は。


《宝箱からTalwarlを入手しました》

「たるわーる?なんか刀みたいだな。片刃の剣みたいだし」


《Claymoreを入手しました》

「くらい、もあ。……クレイモアか!って大剣じゃないか。俺に扱え……ちゃったよ」


《Foilを入手しました》

「ふぉいる。うん、聞いたことがないな。でも、フェンシングのやつと似てるような?」

 

《Sword-Caneを入手しました》

「そーどか、か……。杖だな。う、うわあ!剣が出てきたぞ!仕込み杖だったのか……」


《Quarter-Staffを入手しました》

「くおーたーすたっふ、だな。うん、こりゃ長い棒だ。スイッチもない。良かった」


《Holy-Lanceを入手しました》

「ほーりーらんす。聖なる槍、か。確かに神々しい。高く売れそうだ」


《Bloody-Maceを入手しました》

「ぶらっでぃます。とげとげだ。すごく禍々しくてグロい。何に使われたかは想像したくないな」


《Trench-Knifeを入手しました》

「とれんちないふ?短剣なことは分かるが。ジャックナイフみたいなもんか」


 その種類の多さもさることながら、それを軽々と使いこなす俺にもびっくりだ。仕様だから、で済ますにはちょっともったいない気がする。

 俺ってば武術の才能があったのかしらん、なんて夢想した。ムフフ。残念なことに、そんな経験はちらともない。










 問題が起きた。終わりが見えないことだ。

 ついこの間倒したボスが復活している。もちろん、もやも元通りだ。一時的な解決でいいのならモンスターを再び倒せばいい。けれどそのモンスターはまた甦った。他のボスモンスターもだ。

 どうやら周期はモンスターによって異なるようだった。最初のボスなら1ヶ月、湖のボスなら一週間、街近くの巨木のボスは毎日だ。

 住民は曖昧な不安を訴えるばかりで、ちっとも元凶が分からない。そもそも見渡すかぎり草原が広がるこの世界では、ラスボスが居そうな場所も検討つかない。

 そういえばタイトルは《Lea》……草原だったなあ、なんて思い出す。だったら、ラスボスは草原にいるんじゃないか?

 とても短絡的な考えだけど、ありそうな話だ。とりあえず、戦力的にまだまだだと思うから、一通りボスを巡回してみるか。そう呟いた俺は、買ったばかりの《Hyper-Cutter》を振り回した。うん、なかなか。

 さあ頑張るぞ!

 

読んでくださりありがとうございます。

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