自慢の上司
「味方ボロボロなのにいいの?」
「本当の仲間じゃねぇし。」
おうおう、なんて奴だ。
そう思いつつ、一対一…ではないけど向かい合う。
「よし、これでちょっとは話しやすい。」
「話すことなんかねぇだろ。」
「あるある、めっちゃある。
まず俺の名前はシグレ。そっちは?」
怪訝そうな表情で武器を構えたまま、相手はこっちを見る。
「…はぁ、わかった。本題入る。
こっちについてよ、傭兵なんでしょ?」
俺に戦意はない、と伝えるため自分の短剣を先にしまう。
「バカだと思ってるだろ?」
「そりゃぁな。」
「当ててやるよ、隠れてる奴は2人。」
そう言い放てば、微かに表情を変える。
ビンゴってことかな。
「随分優秀な仲間だよね、何人居るか最初分からなかったよ。」
一歩ずつ近づいて行く。
もちろん、万が一を考えて弾を避けられる距離は取りつつ。
「ねぇ、いくらでこっち側についてくれる?」
最後の一押し、のつもりで問いかける。
「…三食寝床風呂、それだけでいい。」
「それだけ?」
しかし返答は意外なものだった。
「傭兵は昔やってただけだし。
あとは武器の提供だな。おい、出てこい。」
男の呼びかけで、2人木の陰から出てくる。
「俺はウェイド、でクロとルカ。」
「いいんですか、ウェイドさん」
「こんちにはー」
何とも不思議なトリオだ、と感じた。
「…いいの?そう簡単に裏切って」
「勝てそうな方につく、ってのが俺のスタイルだからな。」
よくある話だ、と付け足して彼は2人に何か指示を出す。
「とりあえず、うちの拠点に行くのでいい?」
そう問えば3人とも頷いてくれて、俺の後ろに付いてきてくれた。
「シグレさん、その方は…」
「今日から味方。」
途中合流した兵士たちは驚いていた。
無理もないか。
「こいつら、大丈夫なんですか?」
小声でわざわざ言いに来る奴もいた。
「さぁ。」
「さぁって…」
「少しくらい、強い人は欲しいじゃん。」
裏切られたら、その時はその時。
きっと向こうもそういうつもりで雇っていただろうし、そのくらいの覚悟なかったら誘うわけがない。
けどー
「勝手に変なの連れてくるなよ…」
案の定、マコに報告したら呆れられた。
「変なのとは失礼だなぁ。」
ウェイドが不満の声をあげる。
「変なのだろうが。
傭兵なんだか、そうじゃないんだか…
そもそも、金は要らないって時点で怪しい。
タダより怖いものはないんだからな。」
「マコが怒るのも分かるけど…」
「怒ってない、呆れてる。」
「あ、はい…」
彼は一人一人を品定めするように見据える。
「十分戦力になるって、それは保証する。」
「あっそ…ならいいや。
信用は最初からしてないし。」
少しこれからの話をして、部屋を出る。
「じゃあ、3人の部屋に案内するよ。」
「ねぇ、君の上司…失礼じゃない?」
不服そうな表情で俺を見るクロくん。
「用心するに越したことない、ってことでしょ?」
「でも、何か腹立たないですか?ルカさん」
俺を挟んでクロくんとルカさんが不満を言い合う。
「ちょ、ちょ、挟むのやめろ!」
2人を押しのけ振り返る。
「あのね、あの人うちの上層部の中ではいい人な方なんだよ?
他の人なら許可どころか、俺の首飛ぶかもしれないし。」
「君の言い分なんてどうでもいいの、俺が不満なのはー」
「シグレ」
「何?」
ご立腹なクロを遮ったのはウェイドだった。
暫く真剣な顔をしていた彼は、僅かに微笑み言った。
「いい上司じゃん。」
「…自慢の上司だしね」
自分の事ではないけど、
そう言われて頬が緩む。