表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

6

「次の電車は○○線○○行の最終便です」

 アナウンスを聞き流しながら、こんな時間に電車に乗るなんて久しぶりだな、と思った。

 連休を間近に控えた深夜のホームは、それほど人の姿はなかった。電光掲示板と時計を見ると、最終便の発車まであと1分もない。

 到着を告げる耳慣れた音楽が流れ、ホームに電車が駆け込んでくる。扉が開き、車内の人間が入れ替わっていく。僕も流れに乗り、扉のすぐ横に背を預けた。

 退院おめでとうございます、と言われたのが先週。職場に復帰したのが3日前だ。まだ慣らしということで、定時に退社したのだが、結局今こうして最終便に乗り込んでいる。

 今こうしてここにいるのが、自分でも不思議でたまらない。

 最期だと思ったあの夜から、もう既に一月ほど経過していた。

 本来ならば、あの夜、正確にはあの朝、僕は全てが終わっている筈だった。

 だが、気付けば病院のベッドの上で意識を取り戻していた。

 医者によると、もう1時間発見が遅ければ危なかったとのことだ。

 誰が発見したかを尋ねると、明け方に通報があり、救急車で駆けつけた隊員が、施錠もされていない部屋で意識を失っている僕を見つけたらしい。だが、通報してきたのが誰なのかは分からないという。医者も僕も首を傾げるばかりだった。

 その日以来、僕もそのことをよく考える。あの夜、僕が何をしようとしたかを知る人はいない。誰にも何にも言わなかったのだから。あの封筒も、僕が帰ると、抽斗に鍵がかかったまま読まれている形跡はなかった。

 窓も閉めていたし、施錠もしていた。それなのに何故―――。

 疑問は尽きないが、心のどこかで「もう済んだこと」と割り切っている自分もいる。このまま日常に帰ってしまえば、やがて疑問も消えてしまうだろう。

 発車のベルが鳴る。僕はエレベーターがホームに昇ってきているのを見た。

 だが、誰かこの便に乗ろうとしていても、残りの時間では間に合わないだろう。

 エレベーターの到着と、扉が閉まるのはほぼ同時だったと思う。僕の視線の先では扉が開き、後ろでは逆に閉まっていた。中から女の子が飛び出してきたが、無情にも電車は動き出してしまった。

 恐らく駅まで走って来たであろう女の子は、まだ息を弾ませている。電車は速度を上げ、街灯りを従え、暗闇に向かって走って行った。

 僕はホームに飛び降りた姿勢のまま、女の子を見つめた。

 女の子は電車が行ってしまったショックと落胆のせいか、口をぽかんと開けている。じっと僕を見据え、その顔が少しずつ笑顔に変わっていく。

 僕は最初になんて声をかけようか考えた。

 彼女が去って行った電車を一瞥して、またこちらに目を向けた。

 はにかんだ彼女の口元が開く。

「明日の朝はゆっくり出来ますから」




自分の中で色々条件を決め、実験的に作った作品です。

成功したかどうかはこれからの自分の成長次第なので、今のところ何も言えませんが……。

もし読んで頂いた方の中で、少しでも印象が残ればと思っています。


今後の投稿の予定は今のところ未定ですが、また別の作品に挑戦してみようと思っています。

読んで下さった方、有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ