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生きていた男

 京子は、『フェイスチームA班』のメンバーと合流していた。


 六番街西地区、あまり広大な土地を持たないエリアは言ってみれば、東京都のような地区の区切りかたをしている。

 その中でも、学生がたむろしている場所が、このエリア六番街西地区だ。

 当然、夜の街に出て開放感を得た学生達がトラブルを起こす確率は高いわけで、かつあげや万引きは当たり前におき、強盗まがいの事件がおきることもあった(こちらは、学生が起こした事件ではないが)

 つまり、中々に危険な場所なのだ。


 この場所は今の所、人通りは多く、その殆どが学生だ。

 さすがにいかがわしい店などは無いものの、ゲームセンターやゲームショップ、トレーディングカードゲームを売るカード専門店があり万引きが横行するのも分かる気がする・・・。

 その他には、ファーストフードを売る店が立ち並び、こちらもどうやら学生が来ることを前提にして建てられているらしい。


「さて、ここからは固まっていくわよ?」


「でも、荒井さん、散会したほうが効率がよくないですか?」


「もしも、訓練生と遭遇した場合、複数いたときのことも考えて、戦力は分散させないほうがいいのよ」


 蒼龍が質問すると、荒井は即座に答えた。


 蒼龍はなるほど、と首を縦に振り、納得顔になった。

 

 京子は、しばらくメンバー一人一人の顔を見て、他に質問は無いかと視線を巡らせていたが。

 誰も口を出さないのを見て、頷いた。


「じゃあ、行くわよ?」


「「「はい」」」


 そんな訳で、四人は行動を開始した。

 

 だが、彼らは何故か浮いていた。

 姿かたちは他の他の学生とさほど変わらないものの、ひとつだけ決定的に違うものがあるからだ。

 それは、挙動不審気味にあたりをキョロキョロ見渡していることだ。

 だが、当の本人達はそれに気付かず、パトロールを続ける。

 

「やっぱ、事件発生率が高いとは言え、そうそうトラブルに巻き込まれるわけじゃないな・・・・・」


 ホストぜんとした格好のファウストが、退屈そうにあくびを噛み殺したような声で言った。

 だが、その余裕?は、次の瞬間、粉々に打ち砕かれた。


「誰か!誰かあの人を助けてあげてください!」


 そんな風に地面にへたり込みながら叫ぶ少女がいた。

 四人が顔を見合わせ、駆け寄っていく。


「どうしたんだい?」


 最初に話しかけたのは、ファウストだった。

 ラテン系のチャラさを持っているファウストだからこそ出来るキラキラ笑顔でそう言っている。

 もちろん、善意からそう言っているのだろうが、周りから見ると、ホストが若い女性から搾り取るめに口説き文句を言っているようにしか見えないから不思議だ・・・。


 それはさておき、少女は少しパニック気味に、


「私が、『プロファイル』の訓練生に絡まれてて、それを止めに入ってきたんです!白い髪の、弱そうな男の子が・・・。あのままじゃ、あの人死んじゃう!助けてあげてください!」


 白い髪、と聞いて、京子の眉が一瞬、顰められる。


 「どうしたんですか?リーダー?」


 蒼龍が京子の顔を覗き込む。

 京子は、はっと我に返り、


「落ち着いて、まずその場所を教えてくれないかしら?」


 京子も、妙に優しい声と顔でそう言った。


「あのゲームセンターがあるところの裏路地です」


 そう言って、少女はすぐそこの暗がりを指差した。


「あ、でも、貴方達が行っても、どうしようも・・・・・」


「安心しなさい、私達も訓練生だから」


 京子は動き出す、他のメンバーもそれに習う。

 少女は、その背中を追いかけることはせず、呆然とその背中を目で追っていた。



 路地裏には、なるほど白い髪の少年と、訓練生がいた。


 この戦いは、身体能力で格段に勝る訓練生が勝つものだと普通の人間なら思うだろう。

 それも、多勢に無勢だ。数は一対八、少年が勝てる道理は無かった。


 はずだった・・・・・。


 だが、少年は訓練生の攻撃をいとも簡単にかわしながら息を切らす訓練生を見ていた。

 つまり、予想は簡単に裏切られた、ということだ。

 少女が助けを求めに来たことなど、この少年の生死には関係なかった。

 

 この少年は別次元にいる、他と隔絶した力を持っている。

 

 訓練生の一人が滅茶苦茶な動きで少年に掴みかかるが、少年はバックステップでそれを回避する。


「くそ!ネズミみたいにちょろちょろと!」


 先ほど掴みかかってきた訓練生が言う。


「動きが単調すぎるんだよ。だからネズミ一匹捕まえられない」


 少年は楽しそうに含み笑いしながら、そう返した。


 そんな中、もう一人の訓練生がタックルのような動きで少年を襲う。

 そのまま猪のように地面に押し倒し、後は全員で袋叩きしようという魂胆だったのだろう。

 だが、少年はひらりと飛び上がった。それはまるで、曲芸師のような身の軽さだった。

 

 少年は、タックルして来た訓練生の頭の上に乗っていた。

 

「ちくしょう!なんなんだお前?」


 そう言って、訓練生は頭を振った。

 その瞬間、少年は燕のように身を翻し、集団で固まっている訓練生の集団の真上に跳びあがった。

 そして、今度は違う人間の頭に跳び移る。

 華麗な動きだった。

 目を奪われた、傍観している四人はもちろん、少年と戦っている訓練生達もだ。

 

「さて、あんまり遅くなると、ユリアに怒られるから、そろそろ決めようか・・・」


 少年はそう呟く。


 見えなかった。はたから見ていた人間はそう表現するだろう。


 まさに秒殺だった。


 いつの間にか倒れていた訓練生達を見下ろし、少年はそこに立っていた。


「ハイマネティックゲノムを移植されているとは言え、こんなもんか・・・・・。

 やっぱりイグナさんクラスの相手はそうはいないかな」


 ぶつぶつと、少年は一人呟き、ハッとした。


 四人が立っている場所を、少年は見た。


 いや、三人だ。三人が立っている場所を、少年は見た。

 一人減ったのは、京子の姿が消えていたからだ。

 直後、士郎の視界の前に京子は現れた。

 

 刹那、拳が少年のみぞおちに吸い込まれるように放たれた。


 少年は、バックステップで、それを交わした。

 そして、逃走を開始した。

 京子が慌ててそれを追いかけ、アーロンとファウストがそれに付いていく。

 蒼龍は、その場に立ち尽くしていた。


「士郎兄ちゃん、生きてたのか?」


 蒼龍は呟いた。


 髪が白かった、前は黒髪だったのに、一度しか会っていない、だが、命の恩人の顔を忘れるわけが無い。彼は紛れも無く士郎だった。


「生きてたんだ!」


 蒼龍も走り出した。


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