1t目
MTGを題材にした小説を書きたかったです。書けるかわかりませんが、努力します。
それは全くの気まぐれだった。
商店街の隅っこのボロボロのビルの4階にカードショップ花丸がある。
高校に上がりたての頃、新入生気分のまま新しいノートと鉛筆をいつもの大型スーパーではなく、商店街の文房具屋まで行き、その帰り道に売っていたたい焼きに目を奪われ、そこで立ち止まった瞬間に鳥の糞が目の前に落ちてきて、驚きのあまり上を見上げた。
そうしてやっと、その存在に気付くくらい印象の薄いカードショップだった。
入ってみようと思ったのも、弟が昨日遊戯王のアニメを見ていたことから少しの懐かしさと少しの興味本位に引かれただけだった。
今にも壊れそうなエレベーターがガタガタと音をたてながら4階まで登り、ドアを開くと「カードショップ花丸」がそこにあった。中は狭い教室くらいのスペースで聞いたことあるような昔の名曲が流れていおり、ショーケースのようなものが雑然と置かれ中にカードが飾られていた。
壁際に大量のカードが束になって陳列されていたので手を取ってみた。
「なんだこりゃ」
それは自分が覚えている遊戯王とは全然違う、見たことも無いイラストだった。
他の束を取っても見てもそれのカードばかりだった。
「マジックザギャザリング?」
どうもここはそれの専門店のようで、遊戯王は置いていないらしい。しばし、適当にカードを見ていたが、ルールも分からないカードゲームを見ていても面白いわけがない。何枚か、おっこのドラゴンは結構格好いいな、等と適当な感想を抱いたが、陳列棚に戻した。
まぁ、帰ろう、もともと何となく寄っただけだし。踵を返し、入り口に向かおうとすると店の奥の方からワッという歓声が聞こえた。少し気になり店の奥を覗きこむと、そこには会議室で使うような長机とパイプ椅子がいくつか置かれている場所だった。デュエルスペースという看板が飾ってある。
そこには10人弱の人がいた。
それぞれが向かい合ってカードを広げていたら僕は気にならなかったろう。
だが、その人たちは皆ぐるっと一つの机を取り囲んでその中心をじっと見つめていた。それは監視員のようであり、呪術を行っているようでもあり、キリストの生誕を祝しているようにも、何とも奇妙に見えた。
「トラフトでアタックするけど、何かある?」
最初、その声は店のBGMに混じり、それがあの輪の中心から聞こえてきたことや、増してやそれが女の子の声であるということにすら気づけなかった。
「あー負けた負けた」という男の声と「ありがとうございました」という女の子の声。
その声を合図に彼らを囲む壁たちはバラバラと開いていき、その中身を露わにした。
そこに囲まれていたのはちょっと強面のお兄さんと、それとは全く似つかわしくない女の子。
「いやーやっぱり強いね」
「今回はちょっと危なかったわね、特にあのカガリビミラクルが」と女の子が笑ったところまで見えた。
「あれで負けちゃしゃーねーよ」
とこちらは対照的に疲れた皮肉な笑みを浮かべるお兄さん。
「じゃ、私お先に失礼します、お疲れ様でした」
彼女は席を立ち出口の方……つまりぼーっと突っ立ってる俺の方へ歩いて来ようとする。
目が合った。
不覚にもドキっとした。
そこでやっと俺の存在に気付いた彼女は動くこともできない俺を見てキョトンとした後、何か納得した表情を見せた。
「もしかして初心者?頑張ってね」
「え……お……おう……」
俺の何とも言えない声を聴き、ニコリとほほ笑むとそのまま通り過ぎお疲れ様ーと声をかけ、店を出て行った。
それが俺とマジックザギャザリング、それとさやかとの出会いだった。