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地球の所有権売りますか?

『ようこそ。お客様。大規模恒星系改造から惑星のお引っ越し。大小様々な惑星改造なら当社まで。ディケライア惑星改造社。恒星系級改造艦『創天』はお客様の御乗艦を心より歓迎いたします』



 巫山戯た台詞を宣う落ち着いた雰囲気の女性の声が頭上から響く。

 惑星改造。

 SF系の物語でならよく聞く言葉だ。

 居住に向かない惑星の環境を人の手によって改造してしまう超技術。所謂テラフォーミング。

 真面目に研究をしている学者もいるらしいが、現在の試算では天文学的金額と最低でも千年単位の膨大な時間が掛かる空想の世界。未だ夢の話。

 だがそんな夢が実現する世界を俺はよく知っている。

 剣と魔法。巨大ロボットやゾンビ、幽霊が闊歩する仮想の世界。

 そうなるとここは……



「アリス。あいつ……」



 俺は瞬間的に理解した。 

 コンビを組み信頼し背を預けたアリス。 

 あいつのことならよくわかる。



「他のVRゲームに嵌まっていたのか」



 あのゲームは一日二十時間廃人が、VRMMOから離れられるわけが無い。

 仕事とはほかのVRMMOのクローズドβテストプレイのことか。

 ここがどういうゲームか判らないが、まだ表に出ていない開発中のゲームの可能性は極めて高い。

 それで面倒に巻き込まれたのかもしれない。

 全ての辻褄が繋がっ、

 


「な、なんでそうなるのよ! ほんとは呼ぶのもいけないのに! リル解除! 来客モード解除!」 



 さもありなんと頷きかけた俺に対して、思った以上にすぐ近くから泣きながら怒るという器用な真似をする怒声が響いた。

 プラネタリウムのようになっていた周囲の星空が消え去り、どこかの応接室のような場所へと周囲の風景が切り替わった。

 十畳ほどの広さの部屋にはテーブルが一つと対面におかれたソファーが二つ。

 見たことも無い植物が植えられた鉢が一つ部屋の隅にぽつんとある殺風景な部屋だ。

そして俺のすぐ目の前にべそをかく一人の女の子が立っていた。



「信じらんない! シンタ! なんでそうなるのよ!」



 俺の肩くらいの背丈のすらっとした少女は十五才くらいに見えるだろうか。

 鈍く光る銀髪から突き出ているのは、兎の耳のような形状ではあったが、金属で覆われた機械らしきもの。

 涙目できっと睨む表情の強さは俺がよく知るものだが、その目は青では無く濃い金色。

 薄い紅色のジャケットのような上着を羽織り、その下には同系色のパンツスーツを身につけているが、何というか子供が無理矢理大人の真似をしているような印象があって似合わない。

 


「お前……アリスか?」



 仮想体の見た目などいくらでも変えられるのは判っていたのに、思わず問いかけてしまう。

 俺の中でアリスのイメージは金髪碧眼の兎娘として凝り固まっていたからだと思う。



「そう! なんでわかんないかな! アリス! アリシティア・ディケライア!」



 アリスはそれが気にくわなかったらしく、頭の上のウサミミのような機械をジャキンと立てた。

 あーここら辺は変わらないのか。相変わらずこだわる奴だ。

 怒るアリスを見て少し落ち着くあたり、ひょっとしたら俺は性格が悪いのかもしれない。



「なんで!? 来てくれるって言って嬉しかったのに! なんでそうなるかな!? 話しちゃダメだってみんなに反対されても繋いだのに!」



 ぼろぼろと悔しそうに涙をこぼしながらアリスはだだっ子のように俺の胸を叩いてきた。

 痛覚伝達モードは最低レベルなので痛みなどというほどの刺激はないが、それでもアリスが抱えているだろう苦しみが伝わってくる。

 息を吸ってゆっくり吐く。

 考えを纏めるときに使う癖。

 ともかく今のままでは何が何だか判らない。

 状況確認からだ。



「とりあえず落ち着けって。正直状況がわかっていないから。ここどこだ。新開発中のゲームの中なのか?」



 不満そうに唸りながら俺を叩くアリスの右拳を左手で受け止めつつ、その肩を弱めに数回叩いてなだめる。



「ゲームじゃ無い。あたしの会社……ディケライア社の船……創天の来客者用仮想空間。プライベートモードにしてようやく事情が話せるようにしたのに、なんでそうなるかな」



 幸いアリスも多少は冷静な部分を残していたのか、俺がなだめるとすぐに叩くのを止めて愚図りながらも答えてくれた。

 ディケライア社、創天という名には聞き覚えがある。先ほどのアナウンスにも出ていた。確か惑星改造社に恒星系級改造艦とか。

 これは…………あれか。あれなのか。

 あまり認めたくない事実に気づかされてしまう。 

 

  

「アリス。お前は一体誰だ? というか何だ?」



 一番肝心な質問をしてみるしかないだろう。

 これではっきりと判るはずだ。



「ディメジョンベルクラドのアリシティア・ディケライア……シンタ達の、地球人の感覚で言うなら異星人……惑星改造を専門にする会社の社長をやってるの」



 アリスは拗ねた口調ではあるが、はっきりと自分が宇宙人だと答えた。

 しかも惑星改造を行う企業の社長だとも言っている。

 …………………仕方ない。

 ここまで来たら認めるしかないようだ。

 他に思いつかない。

 このバカ兎。完全に我を失っていやがる。

 VRが精巧になりすぎたことで新たに生まれたという精神病の一種。

 現実と空想の境界線の認識が曖昧となる解離性症候群で、酷くなるとVRを現実だと思い込む厄介な病気。

 通称VR中毒。

 リーディアンが終わってしまったことでショックで錯乱し発症したか。

 いくらアリスが設定に入り込むロープレ派といえど、完全に病気になったのでは笑えない。

 この手の精神病ならミャーさん事、宮野先輩が詳しいかもしれない。あの人ならアリスのことも知っている。連絡してみるか。

 借りを作るのは後が怖いが、他ならぬ元相棒のためだ……致し方ない。



「アリス。すぐ接続を切ってちゃんと寝るんだ。私用アドレスを教えるから目が覚めてからリアルでかけてこい。仕事中だろうが相談に乗ってやる。だからしばらくゲームは忘れろ」



「し、信じてよ! せっかく一大決心して告白したのに!」



 無理だアリス。いくら相棒の言葉でもこれは無理だ。

 そう。ありえない。

 なんだろう。判りたくないのにVRを規制した連中の気持ちが少しわかってしまう。

 アリスがこんなに変貌してしまった様を見ていると痛々しい気持ちしか浮かばない。

 いや……人ごとのようには言えないな。



「いいかアリス。良く聞け…………年中無休二十時間接続当たり前なゲーオタ宇宙人がいてたまるか!」



「ぁぅ!」



 俺の返した当然と言えば当然すぎる言葉に、痛いところを突かれたのかアリスは絶句した。

 頭のメタリックウサミミもしゅんと倒れ込んだ。



「ちゃんとリアルを見よう。俺も社会復帰が出来るまで付き合ってやる。だから早く病気を直そう……ユッコさんとか他の奴らも心配してたんだぞ」



 アリスの肩を優しく叩いて安心できるように笑顔で諭す。

 ギルドに誘ったプレイヤーとして、そしてリーディアンオンラインのGMであった俺の責任もある。

 アリスがここまで壊れる前に気づいてやれれば良かった。



「あ、あ…………ぅ……なんで平常運転の時は常識人なのよシンタは……うぅ。その無駄な優しさ……心配してくれて嬉しいけど、とことんむかつく……信じてよぉ」



 がくりと膝をついたアリスはうつむきながらも、しかしまだ同じような妄言を繰り返している。

 しかし信じろと言われてもさすがに無い。これは無い。

 ネットゲーの相棒が宇宙人でしたなんて真顔で言う奴がいたら、俺はとりあえず病院行きを勧めるか、ゲームから引退しろと忠告する。

 

 

「うぅ。リーディアンが終わっただけでも大ショックだったのに……ラスフェス行くの諦めてお仕事してたのにあんまりだよ」 



 いくら何でも宇宙人でし…………ラスフェス。

 ラスフェスがあるのは知っていても来なかった。

 それは接続時間では他の追随を許さない最強廃人のアリスらしくない。

 俺が知るアリスらしくない行動。よほどのことが起きていた……アリスが言っている事は全て事実なのか?



「アリス。お前は宇宙人だったのか? 疑って悪かった。詳しく話してくれ」



「なんで信じるかな!? なんで今の言葉であっさりと信じるかな!?」 



 詳しく話を聞こうと思った俺に、頭のメタリックウサミミをぎらりと光らせながら立ち上がったアリスが逆ギレする。

 いや、だってな…………日頃の行いだろ。












 広大という言葉では語り尽くせないほどに巨大な宇宙。

 そんな空間で知的生命体が発生した星が地球だけで無いのは当然と言えば当然だろう。

 所謂異星人がいる可能性は結構昔から指摘されていたが、実際に彼らと接触できる可能性はその広さ故に皆無。

 科学技術が進み光速航法、超空間跳躍等々、SF映画とかでお馴染みな理論と実際に行う技術系が完成しなければ無理だろうというのが定説だ。

 つまり夢のまた夢。お伽噺。

 ところが異星人と呼ばれる他星生まれの文明種族は地球人類が思っていた以上に多く存在し、そして科学技術は夢見ているほどに発達はしなかった。

 恒星や惑星を自由自在に配置換えし改造できるほどまでになっても、短距離ならともかくとして、宇宙を狭くできるほどの長距離を一瞬で物体を跳ばすことが出来る技術は、アリスの説明では極々一部の例外を除きほとんど存在しないらしい。

 ではどうするか?

 答えは簡単。

 資源衛星から切り出した物資や、改造を施した小惑星。はたまた超新星爆発の前に廃棄する恒星などを安全領域まで、短距離超空間跳躍と通常空間航行を繰り返して運んでいく。

 約1光年離れた恒星系文明とレア資源小惑星を行き来する短距離専用の鈍足貨物船に至ってはおよそ5年もかかるらしい。

 地球人の感覚からすればずいぶんと気の長い話なのだが、肉体複製や精神固定など胡散臭い技術も手に入れて、ほぼ不死といえる長寿命を得ている恒星間文明種族にとってはちょっと時間が掛かる程度のことらしい。

 また生身の肉体を持って恒星間移動をする者は惑星改造業者や移民など目的を持った者に限られている。

 彼らはこれまたSFでお馴染みな冷凍睡眠技術をもって、限られた資源を無駄にせず、長ければ数百から数千年単位にも及ぶ旅路を越えているそうだ。

 そんな時間もかかり大変な宇宙旅行よりも、超空間を用いたリアルタイムでの情報をやり取りできる通信網を使った仮想空間網。通称恒星間ネットが存在し、昨今はそこでの交流がメインとなっているため、大半の生命体は生まれ育った星系内から出ることもないそうだ。 

 さてそれで肝心のアリスの立場と言うことなのだが、アリスはその例外である惑星改造業者。

 しかも社長をやっているらしい。なんの冗談かと思ったがマジらしい。

 恒星間移動中は他の職員はみんな眠っているが、アリスのみは諸事情から起きていたそうだ。

 その事情とはアリスの種族は冷凍睡眠が出来ないというか、やると不味い種族だとのこと。

 ディメジョンベルクラド。

 これがアリスの種族の持つ特性で、簡単に言ってしまえば『歩く多次元レーダー』

 アリスの頭から生えたメタリックなウサミミは、この宇宙が存在する三次元のみならず低位や高位の次元すらも感じ取れる感覚器官。

 宇宙的には短く見えても短距離超空間跳躍は、通常空間航法では数万年掛かる光年距離を数年単位まで短時間化する重要技術。

 この跳躍には別次元を感じ取れるアリス達の特性は欠かせないらしく、アリスだけが冷凍睡眠してなかったのはそのためらしい。

 そして一人で起きていても暇すぎて、たまたま目に入ったリーディアンをプレイして嵌まったとのことだ。

 わざわざアリス達から見て未開文明の地球のVRMMOなんてやらなくても、その恒星間ネットでも良いんじゃ無いかと思ったのだが、恒星間ネットを説明した時の顔が嫌そうだったので、なにかトラウマでもあるのかもしれず、詳しくは聞けなかった。

 






「しかし宇宙人に惑星改造ね。いきなりそれを言われたらゲームの話だと思うだろ普通は。だから許せてっば……これ甘いけど結構いけるな」



 アリスの説明を聞きながら自分なりの解釈で纏め終えた俺は、マグカップのような容器になみなみと注がれた緑茶色の謎液体を一口含んでみる。

 ハッカとシナモンが混じった香辛料のような香りとほのかな甘みが口の中に広がる。

 ちょっと風変わりだがこれはありだな。

 新しいVRMMOを立ち上げたら、ここら辺の飲食物も変化球でいってみるように提案してみるか。

 別世界に来たと感じさせる効果がありそうだしな。



「なんでシンタ。そんなに落ち着いているのよ」



 アリスは恨みがましい目で俺を睨みながら、両手で抱え込んだカップをちびちび飲んでいる。

 こくんと飲み干すたびにジャキリと尖って臨戦態勢だった頭のメタリックウサミミがふんにゃりとなっていた。

 どれだけ精巧でもここはVR。腹はふくれないが精神的鎮静効果を狙うくらいの御利益はあるのだろう。 



「なんでって言われてもな。想像の範囲外の話だから逆に落ち着いた。あとお前が元気そうだったからもあるな。ほんと病気とか事故じゃ無くて良かった……だけど何があったんだ。ずいぶん取り乱してたけど?」



 正直言って俺がアリスの手助けを出来るような話ではないと思う。

 だけど助けてと俺を呼んだって事は、どうしようも無く切羽詰まり、ともかく話だけでも聞いてほしかったということだろうか。

 とりあえず聞くだけでもとメインに切り込む。

 悩みは解決しなくとも人に聞いてもらえるだけで少しは軽くなる。

 この辺りの経験則が異星人でも通用するのかは判らないが、地球のゲームに嵌まっていたアリスならたぶん大丈夫だろう。


 

「ウチの惑星改造会社。最近いろいろあってあんまり上手く廻って無かったんだけど、ようやく大きなお仕事がつかめたの。辺境域だから行くだけでも時間が掛かるけどそれだけのリターンがある大きなお仕事。30年かけて仕事先の恒星系に創天が到着したのが、シンタに最後にあった日から3日後。でもついたら無かったの」



「無かったって?」 



「この星域に来たら肝心のお仕事先が無かったの。みんなで話し合って、調べてみたけど盗まれたんじゃないかって……こんな事初めてだから……どうしていいのかみんな判らなくて大混乱してたの。シンタに最後にあった日でリーディアンは終わっちゃうし……リアルもあっちも最悪だよ」



 気落ちしたアリスは顔をうつむけ肩を落とし泣きそうな小声でつぶやく。

 なんかこのアリスに詳しく聞くのが心は痛むし、何となく予想はついたが一応聞こう。

 心に浮かんだのはそんな物どうやって盗むんだという呆れ混じりの疑問だけだ。



「盗まれてたって何が?」 



「今度うちが開発するはずだった恒星系丸々一個……恒星も惑星も小衛星帯も資源価値がある星は創天が到着したら盗まれてたの。残ってたのはレアメタルが埋蔵されてた大昔の掘り尽くされた衛星一個だけ。最後の最後……起死回生の受注だったのに。この開発に残ってた総力を全部つぎ込むつもりだったから今期のお仕事を全部集中させてたのに、だめになっちゃった」


 

 ……うん。予想が当たった。そして無理だ。

 要は太陽系が一個全部無くなったって事か。

 なんか星が一つだけ残っているみたいだが、どちらにしろスケールがでかすぎる。さすが宇宙。

 俺みたいなしがないサラリーマンどころか、地球の英知が集まった所で何の妙案も出てこないだろ。

 さてどうしたもんか…………



「一応ね。手はあるんだ。今期の不渡りを出さないで会社を潰さない方法。ウチが持っている唯一の優良物件。大規模改造不要でちょっとクリーニングして……その変な意味じゃないんだけど、現地害獣を駆除すれば高く売れる惑星が。リル。映像出して……それがこれ。シンタ。判るでしょ」



 ものすごく言いにくそうにするアリスが上に向かって指示をすると部屋がまたプラネタリウムへと入れ替わり、俺たちの頭上に青と緑に覆われた星が出現していた。

 宝石のように美しく光る星。

 すぐ横には白い衛星が静かにたたずんでいる。

 海に囲まれた大陸がいくつかあり、ひときわ大きな大陸の端には弓状の島。

 判るよな。うんわかる。学校の教科書でお馴染みだ。

 というかアリス所有者なのか。

 我が母星は機械ウサミミ少女の手中。どこの三流SFだ。



「ウチの管理区域で差す所のG45D56T297の3。現地名称で『地球』なんだけど……売れば会社は助かるけどシンタ達困るでしょ。あたしも……嫌だし。だからお仕事頑張ろうと思ってたのに。でもこのままだと会社倒産でどっちにしろ借金の形に取られちゃうし、どうして良いのか判らないの……シンタ。どうすればいい?」



 悔しいのかぼろぼろ涙をこぼすアリスを見て、俺は落ち着く。

 何だろう。あまりにあれな話でリアリティが湧かないのもあるが、こうまで泣いている人間を見ると、どうにかしてやろうという気持ちがわいてくる所為だろうか。

  

 

「ちなみに聞きたいんだけど害獣ってのは?」



 アリスは腕を上げ俺の顔を指さす。



「環境レベルを……っぅ……著しく悪化させている現地生物のことを指す業界用語なんだけど……シンタ達……でもあたし思ってないから……誤解しないで」



 まぁ公害とかマシになったと言っても酷いよな、地球からすれば害獣か。

 よしここまでは納得した。

 だがまだ焦るな。まだだ。あと一つ聞いてからその答え次第で焦ろう。 



「今期ってのはいつまでなんだ。地球での1年後か? 10年後か?」



「……地球時間で100年……ぐすっ……後100年しか時間が無いの。無理だよ。今から他の仕事見つけても戻るまで時間が掛かる……あたしが大人になれれば何とかなるけど。まだ無理だもん」



 び、微妙だ。 

 気長な宇宙人の感覚なら一千年とか万年単位を期待したのだが思ったより短い。

 アリスのいう大人になるとの意味はわからないが、とりあえず最優先でやることは決まった。



「あーとりあえず仕事が忙しいから、今の仕事が一段落したら相談に乗ってやるから少し待ってろ。それでいいか?」



 ユッコさんの仕事を終わらせてからにしよう。

 はっきり言ってこっちの会社も倒産の瀬戸際で、地球の危機(ただし100年後)と言われてもそこまで頭が動かない。 



「シンタッ! 真剣味が足りない! 100年だよ100年! たったそれだけしかないのに! なんで当事者なのに気長なの!?」


 

 社会人としては真っ当な俺の答えに、巫山戯ているとでも思ったのか、アリスが垂れ下がっていたメタリックウサミミをジャキンと立てた。

 自分の会社のこともあるだろうが、他人の惑星にここまで泣いて怒れるのだから、やはりアリスは良い奴だ。

 だからこそ助けになりたいと俺に思わせる。  



「そう言ってもたぶんその頃には俺死んでるし。一応考えるから資料を纏めといてくれ。地球人の頭でも理解できるレベルで。無理ゲーでも解説書くらいは読んどかないとルールも判らん」



「ゲームとかボス戦じゃないんだよ! シンタわかってる!?」


 

 100年。アリスからすれば一瞬かもしれないが、俺にすれば長い。

 何が出来るか判らないが、考える時間だけはたっぷりとありそうだ。

 そしてこの状況が少し楽しいと思ってしまう辺り、俺もVR中毒気味なのかもしれない。

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