廃神プレイヤーvs外道GM 本戦①
三島由希子によって用意されたVR会場に集う者達は、大まかに分けて2種類に分類される。
濃いプレイスタイルと他者を寄せ付けない接続時間の名物プレイヤーと同名、同容姿の仮想体が、新作ゲームである『Planetreconstruction Company Online』で出現してから、一連の流れに最初は呆然とし、次いでその戦い方や用いる魔術システムがリーディアンと同様の物だと気づき、これはどういう事かと混乱状態に陥いり始めた者が会場の半分ほど。
やたらと派手な出現シーンや、SF世界へ急にファンタジー要素が入り込んだ事などを、そういう設定や世界観だろうと冷静に受け止め、やけにざわついた一団があちらこちらにいる事には訝しげに眉を顰めていたが、先ほどまでと変わらず批評を続けるのが会場の残り半数ほどだろうか。
両者が持つ違い。
それはかつてホワイトソフトウェアが開発運営を行っていたVRMMO『リーディアンオンライン』をプレイしていた者か、それ以外の者という違いだ。
『KUGC』こと上岡工科大学ゲームサークルの面々は、無論前者で有り、かつその有名プレイヤーである『アリシティア・ディケライア』と個人的な付き合いもあるので、画面狭しと暴れ回る”あれ”が、彼らのよく知る二代目ギルドマスターそのものだと、一目見た瞬間に理解していた。
「…………さすが先輩。リーディアンをそのまま使う気なの? 世界観が違いすぎるのにどうする気よ」
その中でも古参ギルドメンバーは初代ギルドマスター三崎伸太の人と形。そしてその考え方もよく知る。
大宇宙で宇宙戦艦が飛び交うSFであるPCOと、大空を龍が舞うファンタジーだったリーディアン。
世界観の全く違うその二つを直結してくる気なのだろうか。
大胆と言うよりも、かなり無謀な手だが三崎の事だ。おそらく勝算を十二分に見積もった上で賭に出る気だろう。
追い込まれてから本領発揮するのは相変わらずのようだと、宮野美貴は呆れるしか無かった。
「んにゃ。まだまだ甘いな美貴。勝つためには何でもありなシンタだぞ。開発系に育成系やらレース系。その他諸々も盛り込んでごちゃごちゃしたのこさえて、ここに来るような多種多様なゲーマー連中も全部取り込むつもりだぞ」
どこまで知っているのかは判らないが、兄である宮野忠之は暴れ狂うアリスが映った映像を外部に、簡単な問題付きで送信を続けている。
「マスターさんの場合は事が大きければ大きいほど楽しめる性格ですから。私が出会った頃と変わらないやんちゃな男の子のままです」
その横では三島由希子が上品な笑みを浮かべつつ、三崎本人が聞いたら実に微妙な顔を浮かべるしかない評価を下していた。
「全部って…………まさか」
兄の目線に釣られ美貴は周囲を見渡し、はたと気づく。
周囲には温度差がある。それの原因は美貴も気づいている。
元リーディアンプレイヤーなら、アリシティアの登場にある予感を抱くだろう。自分たちの世界が復活するかもしれないという希望と共に。
しかしそれ以外の観戦者には、ただの使い回しを用いただけで、少しばかり毛色の違う
VRMMOを物見遊山気分の見物しにきただけだろう。
「マスターさんの目論見はアリスちゃんから伺っています。そのちょっとしたお手伝いで獲物集めを副マスの仕事をさせていただきました」
「アップデート後の美味しい狩り場やら、狩り方を見つけるのがうまいからなシンタの奴は」
だが元プレイヤー以外の観戦者にも共通点はある。
時は平日の真っ昼間。春休みの学生連中はともかくとして、真っ当な生活を送っている社会人なら、決算期前の忙しい時期。
ゲリライベント的な新作VRMMO発表会なんぞに易々と来られないはずだ。
それでも広い会場もいつの間にやら人で埋まり始め、さらに内部の観戦者から外部発信された情報を伝手にしたのか、流入は停まる事無くどんどん流れ込んできている。
つまりここに来るような大半は生粋のゲーマー連中。
リアルを捨てて、VRに生きていたような濃い連中もいるだろう。
三崎からすれば、ここにいる全て仮想体が美味しいMOBモンスターに見えているのかもしれない。
「さすが先輩……転んでもただじゃ起きないか。でもどうやって狩る気よ。こんなにたくさんのプレイヤーを」
「そらあれだ。何時もの腹黒い悪辣さで、とことんプレイヤー心理を突いてくるだろうよ。今のアリス相手みたいにな」
『だ、誰が中二病よ! シンタのセンスが変なんだって』
『変なお前に変って言われるって事は俺は正常だな。うん』
作業の手を一端止めた忠之が指さした先では、ヒートアップするアリシティアに、やる気なさげな口調もしっかりと煽っている三崎という、数年前にはよく見かけていた極めて低レベルな口喧嘩が始まっていた。
しかもその口喧嘩の最中も、アリスの猛攻は続き、三崎が配下の艦載機を使い何とか防ぐというハイレベルで目まぐるしい攻防は平常運転で行われている。
「うわぁ。本当に始まった『SA』が……千沙登ちょっと良い?」
こんな衆人環視の中でプライベートな成分たっぷりの喧嘩が恥ずかしくないのだろうか。
それともあの二人は、これだけのギャラリーがいることを知らないのだろうか・・・・・・もっともこれはデモプレイなのだから、ほかの会場で企業関係者が見ているはずだ。
ゲームプレイに集中しすぎて気にしていないのか、気にする余裕もないのだろうか。
美貴は呆れかえりつつも、近くにいた後輩を手招きして呼ぶ。
「へっ!? は、はい!」
突然始まった喧嘩に驚いたのか困惑した顔を浮かべていた千沙登だったが、急に名前を呼ばれてびっくりしつつも返事を返す。
「あれが『SA』。意味は極めて簡単。『シンタとアリスがまた喧嘩始めやがった』の略」
千沙登にリアルで聞かれたSAの意味を教えてやりつつ、美貴はその経緯を簡易だが説明し始める。
兎にも角にも、三崎伸太とアリシティア・ディケライアの両名は、ゲームに対するプレイスタイルに大きな違いがある。
三崎の場合は、ゲームはゲームと割り切り、罠だろうが、味方を犠牲にしようが、最終収支が+なら全て良しな主義。
アリシティアの場合は、そのキャラクターになりきりロールプレイを楽しむ『ロープレ派』で過程を楽しむ主義。
そのプレイに対する方針の違いやら、攻略方針で大揉めに揉めて喧嘩になるのは、三崎が現役時代は日常茶飯事だった。
最初期にはその喧嘩の原因やら経緯がギルド内でも情報共有で流されて、間を取り持って仲介しようとしていたメンバーもいた。
だが週に一、二回、ひどい時には一日に何度も起きる発生頻度の多さやら、低レベルな口喧嘩から、PvPに発展した二人のハイレベルな戦闘に巻き込まれて、デスペナを喰らう者も出るなど散々な目に遭った者も多く、すぐに放置という方針が固まった。
その結果として、些細な事から始まる喧嘩の経緯やら理由を説明するのも面倒なのと、口喧嘩はともかく、スキルを駆使したハイレベルPvPは見世物としてはそこそこ面白いということから『SA』サインと場所だけ送って、暇な奴は観戦というスタイルが出来上がるまで、そうは時間が掛からなかった。
『シンタ性格が悪すぎ! いいから早く使いなさいよ!』
『だから嫌だっつてんだろ。お前は名乗り口上やら魔法陣が格好いいと思ってても、世間一般はそうじゃないからな。ちゃんと周りの反応を見ような。いい大人なんだし』
『うー! またそうやって優しく諭す口調で馬鹿にするし! そういう所が腹黒いの!』
説明を聞いている間も、二人の口喧嘩から罵り合いにアップグレードし、戦闘はその激しさを増していく一方だ。
「で、でも放置ってアリスさん涙声になってきてますけど。いいんですか? 会場の他の人も変だって気づいたみたいですし。ユッコさんなら止められますよね?」
会場の観戦者達もこれが演出ではなく、ガチの喧嘩だと気づいたのか、ざわざわとしたざわめきが起き始めている。
美貴と由希子の顔を交互に見やりながら、どうにかして止めた方が良いんじゃないかと千沙登はおろおろしているが、
「初めて見ればそう思うだろうけど、心配しなくても大丈夫だから。ほら周りの古参の先輩らは楽しんでるでしょ」
そんな後輩の肩に手を置いてなだめた美貴は、他の観客の反応ではなく周囲のギルドメンバーへと千沙登の注意を向けさせる。
サークルのOBやら校外古参メンバーらは三崎達の喧嘩を見ても落ち着いた物で、この喧嘩を楽しんでいる素振りさえ見せている。
「シンタの奴も相変わらずやり口がえげつねぇ。あれアリスを怒らせて意識を余所に向けて罠でも仕掛けてる最中だろ?」
「あいつの場合は罠を仕掛けていると思わせる事が罠だったりするからどうだろ。ただの時間稼ぎか? 湾曲通路内の艦隊とかどうなってやがる?」
「ちょっと速度が落ちてるな。本命らしい大型砲艦がエネルギーでもため込み始めた影響みたいだぞ」
男連中は三崎の行動の裏を読んでいるのか、三崎達のやり取りや戦いよりも、その後方で戦場へと急行している後続部隊へと注意を向けて、あーだこーだと戦闘分析を行っている。
「あっちゃん煽り耐性低いからなぁ。特に三崎君相手だと、的確に痛い所を突いてくるから……なんかいじめてオーラでも出てるのかな」
「あれシンタの方がどSなだけでしょ。性根が腐ってるからあいつ。本性を知らないで前に告ろうとした別サーの知り合いがいたから、一度SAの映像を見せたら速攻諦めてたし」
「それアリスの存在を知ったからじゃない? っていうか今回の企画とか見た感じだと、やっぱりあの二人リアルで繋がりあったみたいだし賭けはあたしの勝ち。次のご飯ミナとエリのおごりね」
「ちょっと待った。賭けたのはあの二人がリアルでヤッてるかどうかでしょうが。次のOB会でシンタを締め上げて全部吐かせるまで延長でしょ」
一方で女性陣の方は、VR以外での繋がりを臭わせた二人に興味が集中しているようで、下世話な話が飛び交い始めていた。
あの二人の激しい喧嘩をイベントの一つ位にしか見ていないかのようなリラックスぷりに、千沙登はどう答えていいのか判らなくて唖然としている。
「……えと……いいんでしょうか?」
「そのうちあんたも慣れるわよ。でもどっち勝つかな……そこらへんどうなんですユッコさん? 勝敗って決まってるんですか?」
「予定ではアリスちゃんの勝ちだったようですが、ここから先はマスターさん次第ですね。マスターさんがどうし掛けてくるかは私にも予想がつきません。臨機応変がマスターさんのやり口でしょ」
「ユッコさん。シンタのありゃ臨機応変なんて上等なもんじゃなくて、行き当たりばったりを口先で誤魔化してるだけですよ」
三崎とアリシティアをよく知る三人は、心配する千沙登の横でほのぼのと勝敗予想を始めだした。
『シンタ食らいなさい! トリプルストレート!』
こちら側の艦載機の攻撃に囲まれたアリスが、一瞬の間隙を突いて右手のマジカルな杭打ち機を発動させ、三重直列魔法陣を配置した。
初見の攻撃。しかし半泣きで俺が搭乗する艦を睨み付けるアリスの顔に殺気を感じたのは気のせいじゃないだろう。
とっさに陣形を生成している防御艦の一つを最大速度で直衛に移動させる。
『貫く閃光よ! 打ち砕け敵の頭蓋を!』
システム的に必要なのかどうなのか非情に微妙だが、怨念が篭もった詠唱らしき物を唱えたアリスが右手を振ると同時に、細く絞り込まれたレーザー光が戦場を貫く。
しかし俺が搭乗する防御指揮艦とアリスの中間地点くらいで、先ほど動かした防御艦が受け止めて、レーザー光は霧散した。
『うー! ほら格好いいじゃん!』
「いや、だからお前が詠唱とか張り切れば張り切るほど、おれ使いたくなくなるんだっての。黒歴史確定しそうだからよ」
ちっ。アリスの野郎。マジで腕をあげてやがる。
呆れ声を出しつつも、俺は戦況報告を見て内心で冷や汗をかく。
先ほどアリスが撃ったレーザー攻撃は、受け止めていなかったら艦の防御シールドと外壁を貫いて”艦橋にいる俺のすぐ近く”を通る威力とコースを辿っていたと、表示されていた。
いやお前。宇宙的には近距離といっても数十キロの距離で対人戦仕掛けてくるなや。しかも艦橋内にいる相手だぞ。
超遠距離精密射撃で狙ってくるなんぞ、どこのスイス銀行口座持ちスナイパーだ。
あれか? ディメジョンベルクラドの探知能力か? こっちの位置を正確に把握していやがるのか?
普通のやつなら煽ればいらついて攻撃が荒くなるもんだが、むしろより正確に鋭くなってくる当たりアリスは本気で恐ろしい。
祖霊転身を使ってタイマン勝負となったらマジで瞬殺されかねん。
というか、アリスの奴が本気で落としに来れば、周りを防御艦で固めていても、その防衛網をすり抜けて俺が乗艦する防御指揮艦を1分かからず撃沈可能だろう。
それをしてこない理由は明白。俺に祖霊転身を使わせようとしているからだ。
ちと情けない上にせこい話だが、このアリスの甘さを最大限に利用して俺は首をつないでいる。
かといってこれ以上の消耗戦が続けば、この後の策の途中で戦力値が下がりすぎて撤退敗北しかねない。
アリス相手に無傷ですむわけがない。ある程度の被害は覚悟の上だが、完全勝利を拾う為の準備はまだまだ途中だ。
「だぁっ! 後続の打撃艦隊あとどのくらいだ!?」
一時的にアリスとの通信を解除して、艦橋オペレーターに準備の進み具合を確認する。
このままじり貧かタイムアップでの負けなんぞしてたまるか。
「あと2分で湾曲通路出口に到達予定。対要塞砲艦エネルギーは設定限界値オーバータイミングも同期させてあります。砲撃後反動で轟沈いたしますがよろしいですね?」
「突撃艦のほうは?」
「牽き船との再ドッキング完了。しかし敵艦隊に対して防御艦群が防衛行動に出ている為、護衛陣形内部に突撃艦を隠す事は難しくなります」
こっちの能力が上がっているのでアリス側の防御艦隊はしっかり防御していれば、さほどの脅威ではないが、それでも無視が出来るほどでもない。突撃艦の護衛に割ける数は精々5、6隻か。
俺の本命はこいつら。だが種が見えているマジシャンに存在価値はない。
ど本命の切り札を最大限に有効使用するには、直前までアリスに俺の意図を見抜かれるわけにゃいかねぇ。
何せアリス側の基地のシールドを一回の攻撃でぶち破り、基地そのものを破壊する為とはいえ、虎の子の砲艦を一回こっきりの使い捨てにする一発勝負。やり直しは利かない。
あの野郎の勘の良さを考えると、もう一つ二つ、クッションを挟み込まないと、
「偵察機が帰還しました。補給後再出撃なさいますか?」
手持ちの戦力でどうやり繰りしようかと考えていた俺の思考を遮り、オペレーターから報告が上がる。
それは先ほど俺が乗り捨ていたステルス偵察機が、最後に出した帰還指示に律儀に従って帰ってきたという報告だった。
この最終局面の近距離戦闘で偵察機を出しても余り意味がない。しかも戦力値として見た場合、ほぼ使い捨てている戦闘機よりもステルス偵察機の方がちょいと高い。
無駄に撃沈される前に帰還させておくべきか。
「着艦させて……いや。燃料のみ補給。即座に再出撃。完全ステルスで突撃艦に追従させろ。これで最終指示にするぞ」
だがふと思いつき、再出撃の指示を出す。アリスの反応速度なら……
「了解しました。燃料補給のタイムスケジュールも同期させます。変更した全自動戦闘スケジュールを表示します」
俺の思い付きを織り込んだタイムスケジュール修正プランがすぐに表示される。
一連の流れ、アリスの性格から予想した行動、牽制、本命、そして最悪の事態に備えたバックアップ三重のトラップ。
うまくはまれば、いくらアリスが相手といえど出し抜けるはずだ・・・・・・問題はバックアッププランまでに撤退限界戦力を維持できるか微妙なラインってところか。
本命段階で砲撃艦の自己破壊は確定。それで撤退値までレッドゾーン。バックアップ案を実行する余裕があれば御の字か。
「よし。じゃあ総員退艦準備。勝負を仕掛けるぞ」
だが現状でこれ以上の手も思いつかない。あとは出たとこ勝負。獲物のSFウサギ娘をこちらの意図通りに動かすだけと。
んじゃ本気で泣かせにいきますか。
「あーもう! しつこい! はじけ飛べ!」
突っ込んできた戦闘機へと右手の杭打ち機をたたき込み爆散させながら、アリシティアは後方で待機している三崎の搭乗艦を涙目で睨み付ける。
ちまちまと突っ込んでくる戦闘機を一方的に次々に叩きつぶしながらも、アリシティアの苛立ちは募る一方だ。
明らかな時間稼ぎの意図を持った攻撃なのは判るが、三崎が何を考えているのかがアリシティアには未だ読み切れていない。
相手はひねくれ者で負けず嫌いの三崎だ。
微々たるものとはいえ無駄に戦力を浪費するような事や、時間切れでの負けを良しとするはずがない。
戦況は本拠地に攻め込まれたアリシティアが一見不利に見えるが、状況は三崎の方が分が悪いはずだ。
何せ三崎が勝つには、例え小衛星帯基地を破壊しても最終的にはアリシティアを倒さなければゲーム的な勝利はつかめない。
しかもそのアリシティアは個人強化を最大限にする祖霊転身中。
こんな時間稼ぎの戦闘機による攻撃をいくら繰り返した所で、直撃を喰らったとしても今のアリシティアのHPの1%にも届かない。
そして元となった戦艦と同様の防御力と攻撃力を持つアリシティアに対して有効的な大型対艦兵器も、アリシティア持ち前の反応速度を持ってすれば回避するのは容易い。
後続の打撃艦隊が到着してもアリシティアからすれば、獲物が増える程度で脅威にもならない。
そんな事は三崎もよく判っているはずだ。何せ三崎はアリシティアにとってかけがえのないパートナー。
ゲームに限って言えばアリシティアの能力もその戦い方も、この宇宙で誰よりも知っていると自信を持って断言できるほどだ。
だから三崎が”勝つ”には、同じように祖霊転身を使って、アリシティアに対抗するしかないはず……”勝つ”?
ふとアリシティアの脳裏に疑問が浮かぶ。
三崎はひょっとして”ゲームには”勝つ気が無いのか?
アリシティア達の真の目的はゲーム事業に見せかけた地球売却阻止計画。
三崎がもし本来の目的に重点を置いてそちらで勝とうとしているのだとしたら、盛り上がりを優先し当初の計画通りにアリシティアに勝ちを譲ろうとしているのかもしれない。
だが三崎は負けず嫌いだ。本命の計画のためとはいえ、ゲームで負けることを良しとするだろうか? しかも相手はアリシティアだというのに。
三崎がアリシティアをよく知るように、アリシティアも三崎をよく知る。
あのゲーム狂いなパートナーが、負けても良いと思ってプレイするはずがない。だがこの消極性はなんだ。
お得意のトラップでも仕掛けているのだろうか?
考えれば考えるほど、余計に混乱してくる。アリシティアを混乱させるこれすらも三崎の意図か?
「シンタ! いい加減に諦めて使いなさいよ! 勝つ気無いの!?」
苛立ちが最頂点に達したアリシティアはこれ以上考えていても埒があかないと、直接に問いただす。
『恥ずかしい変身台詞を叫ぶってある意味負けだろ。つまりお前がすでに負け確定じゃねぇ?』
しかし三崎が返してきたのは実に小馬鹿にしたもので、アリシティアの趣味思考を全否定する辛辣なものだ。
「は、恥……ふ、そ、そんなこと言って、ど、どうせ、ち、直接対決であたしに負けるのが怖いんでしょ! シンタGM生活で腕がなまってるから」
半泣きになりながらもアリシティアは再反論を仕掛ける。
直接対決だと勝ち目を見いだせないからだろうと、三崎のゲーマーとしてのプライドを挑発してみるが、
「あーお前が予想以上に成長してるからな。今の俺の実力じゃ祖霊転身を使っても一方的にフルぼっこだわ・・・・・・まぁ、だからゲームシステム的には負けでも、ロープレ派のお前が負けだと思うような実質勝ちにいってんだよ。小衛星帯基地は落としてとっとと逃げさせてもらうぞ」
あっさりと自分の負けを肯定した次の瞬間、三崎の口調がふてぶてしい物へと変化する。
それと同時にアリシティアの周りを飛び交っていた艦載機や、アリシティア側の艦隊の攻撃から湾曲通路の出口を守っていた防御艦群の防御遅延行為を主体とした受動的な動きが、攻撃的な物へと一変する。
艦載機から一斉に一定時間移動速度が低下する妨害チャフが撒き散らされ、防御艦群が陣形を変化させ、後続の艦隊を迎え入れる態勢へと変化し、さらに一部が陣から離脱する。
『湾曲通路内に巨大エネルギー探知。索敵開始・・・・・・船体形状、エンジン波長から対要塞用中型特殊砲艦と推測。予想射線軸を表示。基地およびプレイヤーが範囲内に入っています。自動防御シールド展開。プレイヤーの退避を推奨します』
警報音とともに、緊急情報ポップアップウィンドウがアリシティアの周りに出現。危機を知らせる。
射線軸ど真ん中に位置する衛星基地の対砲撃用シールドが最大出力で自動稼動を始めるが、三崎側の予測攻撃力はそれをはるかに上回る。
どうやらフルダイブ状態での能力上昇状態でもかなり無茶な、設定限界値以上のエネルギーを溜め込んだオーバースペック砲撃を行うつもりのようだ。
そんな攻撃をすれば砲艦が反動で自沈してしまうが、それすらも織り込み済みで三崎は勝負に出ている。
三崎の先ほどの発言、そしてこの行動、アリシティアは三崎が考えた絵図にはたと気づかされる。
これはゲーム。しかも一回こっきりのデモプレイ。ゲームの勝敗条件的には、アリシティアと小衛星帯基地の両方を落として惑星制圧の条件を満たさなければ三崎の負けとなる。
だがアリシティアはゲームプレイでの役割に入り込むロープレ派と呼ばれるタイプ。
もしアリシティアが実際に小衛星帯基地の防御司令官を務めていたとすれば、敵艦隊に小衛星帯内部まで入り込まれた上、惑星侵攻防御用シールドをコントロールする基地を破壊されていれば、自分は生き残り、敵艦隊も戦力低下で主目的である惑星制圧ができずに早々に撤退したとしても、”この先”の状況を考えれば、ぼろ負けといっていい。
”この先”など無いのは重々承知だが、ロープレ派アリシティアの心情的に敗北感を抱くのは間違いない。
「なっ!? か、勝ち逃げするつもり!? シンタ卑怯すぎない!?」
ゲーム的には勝てないと割り切り、プレイヤーであるアリシティアに敗北感を与える心情的勝利を三崎は狙っている。
アリシティアの趣味、思考、性格をよく知り、さらに勝つためなら手段を選ばない三崎だから考案できる、裏技的な勝ち。
「させないもん! 撃たれる前につぶす!」
三崎が描いた”表の図面”通りに気づかされたアリシティアは、砲撃艦が攻撃を放つ前に撃沈させようと、湾曲回廊出口へと背中のスラスターを最大噴射させ突き進み始めた。
その加速度が先ほどの移動速度妨害チャフにより、ほんの少しだけながら落ちていることに気づかぬままに。




