表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/193

廃神プレイヤーvs外道GM  前哨戦

 さてどうしてくれようあの阿呆ウサギ。


 

『ぬるいぬるい! こんな豆鉄砲でこのあたしが止まるわけないでしょ』



 特別ダイブギミック『祖霊転身』は、俺が知っている段階では、まだ練りが足りないにもほどがある素案だったりする。



『シングル! ファイアーランサー!』



 未完成な証拠と言うべきか、戦艦系よりは格段に防御力、HPは落ちるといえど、艦載機が雲霞のごとく落とされていやがる。


 ゲームバランスなんぞありゃしねぇ。


 まぁそれもしょうが無い。


 今のアリスは見た目はちんまいSFウサギ娘でも、そのパラメーターは変換元の高速戦艦の攻撃力と防御力を元の値に、さらに強化された鬼ステ持ちのちんまい弩級戦艦娘だ。


 初期シングル魔法と言えど、基本攻撃力が戦艦砲と同等じゃ、艦載機なんぞそりゃ落とされる。


 三重バージョンじゃ防御艦も落とされたくらいだしな。


 触れたら死亡って辺りに、ちょっとした段差で死ねる某先生を思い出す辺り、俺もまだまだ余裕があると思って良いのだろうか。


 それともてんぱった末の現実逃避か?


 アリス側の守備隊からの攻撃を防御し、後続の打撃艦隊群が到着するまでこちらの陣を維持しつつ、目下の所最悪の敵である相棒へと旗艦である艦載機母艦より先行発進させた戦闘機群でちまちま牽制を仕掛ける。


 唯一の救いというか、なんというか、助かっているのはアリスが最初に出現した位置から動いていない事だ。


 ただその陣取った場所が問題。


 アリスの真後ろには、目標である敵基地。アリスを回避して通るルートも無く、あいつを真っ正面から撃破する以外に今の俺には勝ち目はないって事か。



『ふふふ。さぁどうするシンタ!? このままじり貧でやられるような諦めの良い性格じゃないでしょ!』



 そらそうだ。さすが相棒。よく判っていやがる。


 とりあえず真正面からのバンザイアタック決行と。


 艦載機の一機に簡易命令を下しアリスへと真っ正面から突っ込ませるが、攻撃安全圏リミッターを解除した自爆覚悟の神風アタックで真っ正面から突っ込んできた戦闘機に対してアリスはあえて前に出てきやがる。


 こっちの手を読みやがったか……あの野郎。


 高速戦艦譲りの加速力で突っ込んできたアリスはウェポンベイが開ききる前に戦闘機にとりつく。


 戦闘機の勢いで多少後方に押し戻されつつも右手を振りかぶり、



『とっ! 自爆なんてさせないもん! なめないでよ!』



 ゼロ距離ミサイルを放とうとした機体へと一瞬早くバンカーを撃ち込んで、ひらりと離脱して見せる。



『さぁこれでおしまい? そろそろシンタを落としに行っちゃうけど、もう降参かな?』



 爆炎を背に決めポーズらしき構えを作り広域ボイスで俺を煽ってくるアリスの声は楽しげで…………正直むかつきやがる。


 こちらが牽制で出した艦載機を3分で12機もたたき落としまくりやがったMS少女チックなあの大馬鹿野郎の戦い方に、忘れがたい既視感が蘇る。


 なんというか外見データは現役時代のアリスを流用した物だというのは一目でわかるので既視感も糞も無いが、既視感を覚えたのはその攻撃一辺倒の戦闘だ。


 ちったぁDFやら防御系スキルも上げろと散々忠告してるのに、


『やられる前にやれ、鎧袖一触が先祖伝来の戦い方だもん』


 と堂々と言い放ち、レベルキャップが解かれるたびに最速で攻撃系スキルを上げまくっていた相棒時代、つまりは俺が現役時代を思い出す。


 こんな大馬鹿野郎な相棒に合わせて壁役に徹してきた俺が引退した後は、さすがにデスペナが連続し、ついにはレベルダウンまで起こしちったぁ反省したのか、攻撃寄りのバランス系スキルとステに変更し、無茶な特攻も控えていたようだ。


 だが今日の戦い方はその最終タイプではなく、特攻馬鹿の戦い方そのもの。


 しかも今の煽り…………今アリスが何を望んでいるのか? 


 その答えは俺の中で、すでに出ている。


 祖霊転身に対抗できるのは、祖霊転身のみ。


 それが俺とアリスの共通した意見だ。


 俺に同じギミック祖霊転身を使わせ、あの時の”俺”を出現させる事。


 まぁアリスがなんでそんな事を望んでいるかまでは予想できないが、ロープレ派筆頭なアリスの事だ。


 かつての相棒同士が、数千年を経てぶつかり合うというシチュエーションに燃えたとかか?


 とにかく、佐伯さんがあっち側。封印された現役時代の俺の仮想体データなんぞ好きなように引っ張ってこれるだろう。


 アリスの望みは予想できた。


 だがその思惑に乗る案は使いたくない。というか使えない。


 ……なんと言うか、今のアリスの動きを見て判ったんだが、あの野郎昔より格段にプレイヤースキル上げてやがる。


 今のままじゃ、同じ強化要素の祖霊転身を使っても、俺の負けは確定的だからだ。


 デモプレイと言えど、ここまで好き勝手にやってくれやがった、あの野郎に負けるのは大人げないかもしれないが、絶対に拒否したい。


 かといって、このままじり貧でいってタイムアップ負けも情けない。


 さて……どうするか。




 


 俺が『祖霊転身』と名付けたギミックを考案した理由はいくつかある。


 こっち側、制作者側としてぶっちゃけると、コスト削減と客寄せ。


 昔の遺産であるリーディアンの世界観やデータを活用して、開発費用や期間を削減。


 さらに性能的には低下してしまう上、リーディアンとは違ったゲームスタイルにならざる得ないPCOのスタートに、一定以上のリーディアンユーザーを取り込む事で、初期スタートを順調にする目論見もある。


 規制により突然奪われてしまった自分たちの世界が、形を変えてとはいえ、また戻ってくるかもしれないとお客様に臭わせ、試しに一度くらいやってみようかと思わせれば勝ちという方針だ。


 GMとして俺の目論見がこれなら、プレイヤー目線ではまた別の意図もある。


 多くのプレイヤーがゲームに求める物は、非日常のスリルやら、リアルを離れた派手なヒーロー的な活躍。


 つまりは自分が目立ち活躍できる特別な体験。


 無論ほのぼのした日常を送りたいというプレイヤーもいるだろうが。


 仮想現実。VRはそれこそリアルと比べても遜色のない現実感で、非日常を疑似体験出来る技術。


 しかしこれが大人数参加型VRMMOとなると話は少し違ってくる。


 なんせゲーム内では、自由自在に空を飛んだり、小山ほどあるモンスターを一刀両断できるといっても、それは自分一人ではなく、どのプレイヤーだろうが、スキルを取得しレベルを上げれば使用できる。


 大規模人数がぶつかり合う集団戦ともなれば、アリスのような一握りの特殊な例を除けば、大抵の者が集団その1という存在感に埋没してしまう。


 自分一人だけの、オリジナルスペシャルな体験となると、VRに限らず既存のMMOではほとんどあり得ないだろう。


 だからこそ俺は元プレイヤーとしての観点から、ゲームとしての楽しみを考えた。


 時間制限、機能制限を逆手にとりPCOの売りの一つとなるキーワード。それは、



『誰もがヒーローとなる瞬間が生まれるVRMMO』



 通常のフルダイブが艦隊全体を強化する特殊ギミックだとすると祖霊転身は真逆。


 祖霊転身を行う事で全ての強化ポイントは、強化された艦隊から兵器から、プレイヤーの仮想体に移動。


 攻撃可能範囲は変換前と比べ激減し精々300メートルほどとするが、攻撃力、防御力、HPは元数値×強化ポイントという一点豪華主義仕様だ。


 攻撃範囲を減少させた理由は、通常フルダイブとの差別化。


 通常フルダイブが戦場全域へと効果を及ぼす強化だとすれば、祖霊転身は激戦地での英雄出現といった所か。


 使いどころとして俺が考えているのは、



【強固な敵防衛網に突っ込み暴れ回り、パーティメンバーのために突入口をこじ開ける】


【撤退時の殿としてギルメン艦隊を護るために敵追撃艦隊を単身で押さえ込む】


【陣営戦。敗北必死の戦場で敵巨大要塞への起死回生の内部侵入攻撃】


【祖霊転身した強力な敵プレイヤーに対抗できるのは祖霊転身を使ったプレイヤーのみという状況で行われるタイマン戦】  



 そのどれもが特別な瞬間。


 戦況の行方が、勝敗が己のプレイにかかる緊張感と高揚感。


 砲火が撃ち交わされるど派手な戦場をバックに、祖霊転身プレイヤー同士の手に汗握る全力勝負。


 時間制限により一日に2時間しか使えないフルダイブ時間を、オリジナルな特別な物として彩るスペシャルな体験を、どのプレイヤーにでも起こりうる物とするギミック。


 それが俺の考えた切り札その2……と、胸をはりたい所なんだが、ここからダメ出しやら路線調整なんぞいろいろあって、精々臭わせる程度でいこうかなと思っていた何とも情けない切り札だ。


 まぁ正直、俺のGMとしての企画力やら構成力はまだ素人に毛が生えた程度。


 時間は無い、経験も少ないで、我が社の先輩方にはこの裏で、まだまだとか、バランス調整しろよとか、相当扱き下ろされているんだろうなと、予感というか、確信している。


 未完成。バランスが悪い。


 しかしだ…………だからこそ俺に勝ち目が生まれる。


 一部の例外を除いて、完成形では祖霊転身に対抗できるのは祖霊転身のみという形にほぼなるかもしれない。


 しかし今ならまだまだ設計に穴がある。そしてすでに俺はそれを一つ見つけている。


 祖霊転身を使った高攻撃力、高防御力のアリス相手に、あいつの希望はガン無視してフルダイブ状態で強化されているとはいえ通常兵器艦隊で勝つ。


 ふむ。我ながら意地が悪いと思うが、正直心が躍るシチュエーション。 


 まぁアリス。恨むなら己の浅はかさを恨め。


 基本設定やシステムがまだまだ素案で未完成なギミックを、俺に無断で投入してきた罰だ。


 ぶっ殺したいGM断トツ一位のGMシンタミサキらしい底意地の悪い戦闘を見せてやろう。


 口元に浮かぶ性格の悪い笑みを隠しながら、俺は勝ち誇るアリスに対して回線を開き、



「あーアリス。元相棒だしお前の考えは判るから先に一応言っておくけど、俺は祖霊転身は使わないからな」



『…………えっ!? ちょ、ちょっとシンタなんで!? だって祖霊転身に対抗できるのは祖霊転身だけだっ』



 俺の宣言にアリスは勝ち誇った表情から一変しばらく間が抜けたを表情を浮かべてから、慌てて言いつのるが、



「お前の事だろ。さっきみたいな中二病全開な変身呪文やら、ど派手な変身シーン用意してるだろ……あれはさすがに恥ずかしいからよ。っていうかお前もいい年なんだし、ちょっとは控えろよ」



 なるべくゲンナリした顔を浮かべ、かなり引き気味の声と重々しいため息を交えながらアリスへの挑発を開始した。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ