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ゲームは一日2時間まで

『全チェック異常なし。感覚復帰を開始しますか? …………お疲れ様でした』



 仮想ディスプレイに表示されたナノシステムからの復帰確認メッセージを承認して俺はリアルへと意識を復帰させる。


 夢から覚めるような少しけだるい感覚とともに目を開くと、夏の夕暮れの赤い太陽が総合管理室の数少ない窓から差し込み室内を照らし出していた。


 展開した仮想ディスプレイの片隅に表示されている時刻を確認すると、すでに17時55分。


 正午過ぎにVR世界に入ったから、6時間近く向こうにいたことになる。


 その間リアルの体は基礎代謝しか動いておらず、VRMMOGMの癖として用足しは小まめに行っているので空腹感も尿意もさほど無い。


 たださすがに同じ体勢で6時間も座っていたので体が硬く肩も凝っていた。


 休憩無しで二時間越えの没入を行うときは、社内規定では簡易な補助器具であるダイブデスクではなく、大型筐体の方を使うか、二時間事に10分の休憩をする事になっているのだが、設置台数が少なく、いちいち戻って休憩するのが面倒だと、あまり守られていないのが現状だ。

 


「ご苦労さん。開発部に関わった所為でずいぶん掛かったな。良いデータが取れたって佐伯がご満悦だったぞ」



 俺が入る前と変わらない速度で仮想コンソールを叩いて仕事をこなす須藤の親父さんが声をかけてきた。


 他のダイブデスクに座っている先輩らの顔ぶれはがらりと変わっているのに、親父さんだけは俺が入ったときのままだ。


 還暦をとうに過ぎているのに底なしの体力だと感心させられるやら、呆れるやら。



「後半はほとんど私用みたいなもんでしたけど。あーあとプレイヤー側のこちら側がチートを使っていたという疑いは解けましたんで」



 自分が入った名目上の目的を思い出して一応は報告を入れておく。


 アリスからのチート呼ばわりは単に自分が狩りに参加できなかった憂さ晴らしだったような気もするが、一応ログを隅々まで確認して不正は無かったと渋々認めていた。


 得意距離のスキル設定を絞って不得意スキルへと豪華集中。後はプレイヤースキルと立ち回りで勝負。


 結構苦労してたのに、チートの疑いをかけられたらたまったもんじゃない。 



「そういやそんな理由だったな。それよか午後の打ち合わせ会議のほうも無事終了だとよ。後学のためにも資料に目を通しておけだとさ」



 俺の報告には親父さんはどうでもよさそうに答えると、俺が回線をつないだまま座っているダイブデスクにファイルを転送してくる。


 どうやらこのまま仕事を続行ということらしい。


 本当に人使いの荒い会社だと思いつつも、俺自身も興味があったので仮想コンソールを使ってファイルを展開してざっと内容を確認していく。


 今回の打ち合わせは普段は鎬を削っているMMOメーカーが年に夏冬の二回共同開催する大イベントの打ち合わせ。


 八月の頭に行われるこのイベントまではすでに一月を切っているが、まだまだ情報を隠している会社も多い。


 VRMMOの魅力を多くの人に知ってもらおうという企画であるが同時に、他ゲームプレイヤーにも自分たちのゲームを知ってもらう絶好の機会だからだ。


 どのメーカーも気合いが入っているので、どれだけの隠し球を出してくるか予想がつかない。


 ウチの目玉はVRでアリスに食べさせた、食品メーカーとコラボした秋の大型アップ『食欲の秋企画』


 これを夏アップと一緒に共同イベントでも告知し、会場で一部再現商品をVRで試食してもらう予定になっている。



「……やっぱ、一番注目度あるのはHFGOですかね。強気です。もう情報公開してますよ」



 資料を流し読みながら、もっとも多くの集客を集めるであろうVRMMOの企画出し物をチェックする。


 他のメーカーが情報を隠している中、ここだけは完全オープン。


 それだけ自信があるのだろう。


 正式名称『Highspeed Flight Gladiator Online』


 米国大手エレクトロニクスメーカーMaldives傘下の開発陣が作った超高速空中戦闘と敵MOBである巨大兵器をぶっ潰す爽快感を売りにした古参MMO。


 国外プレイヤーは1500万。日本でも国内VRMMO最大の200万人ものプレイヤーを抱え、VRMMOに疎い者でも名をあげることが出来る名実共に世界人気NO.1VRMMOFPS型RPG。


 ちなみにウチの登録プレイヤーは先月末で18万人。


 月額定額制としているウチと違い、HFGOは基本無料のアイテム課金制のためか参加しやすいのもあり大きく水をあけられている形だ。


 さらに大手故の潤沢な資金と人材もあり、技術力、開発力ともにまさに圧巻。


 国内メーカで真正面から対抗できるのは一、二社だけ。古い言い方でいうところの脅威の黒船。


 HFGOは秋アップに新武装、新機動モーション、新MAPとBOSSの発表。


 さらに会場に訪れたプレイヤー全員への特殊アイテムプレゼントと大盤振る舞いにきているようだ。


 顧客を飽きさせないための矢継ぎ早な投入は、全世界を相手にする規模の企業だから可能となる強さ。


 ウチの企画もそれなりに話題にはなるだろうが、ゲームシステムそのものは秋アップでは細かな修正にとどまりそうなので少しばかり弱いかもしれない。



「そうだろうな。あそこの技術屋共は数も質も業界トップクラスだからな。先月大規模な新要素をいれてきたばかりだが、別開発ラインからMAPやら新規MOBがあがってきたんだろうよ……だが規模はともかく、日本人プレイヤーを楽しませるってならウチが業界1だ」


 

 須藤の親父さんは仕事を続ける手を休めること無く何気なく断言する。


 業界でも異端児扱いされているホワイトソフトウェア謹製リーディアンオンラインを初期から支えてきたからこその須藤の親父さんの自負だろう。     



「三崎。資料をみたぐらいでおたついてんじゃねぇぞ……ほんと、頼むぞ。このさきウチの会社はお前らの世代にかかってんだからよ」



「俺らの世代って親父さんまだまだ現役引退する気無いでしょ」



「あほ。あたりめーだ。俺は死ぬまでやるつもりなんだよ……ったく。そういう意味じゃねえよ。特にお前の場合は。ほんとゲームプレイじゃないと成長しねぇなおまえは」



 こいつはどうしようも無いと言わんばかりに親父さんがため息をはき出した。


 いやそう言われても、相手にしている会社の大きさが判る程度には育ってるつもりなんですけど。


 だからこそ脅威を感じているんだが、



「お前の部署が決まって無いのやら、社長が連れ回したり近所の掃除させ………………なんでもねぇ。あのバカ社長の普段の軽さじゃ気づかないのも無理ねぇか」



 途中まで言いかけた親父さんだが言葉を止めると、言ってもしょうが無いといった表情を浮かべて禿げ上がった頭をかく。


 どうやら親父さんの言いたい事は別にあるようだ。



「それってどうい……!?」



  親父さんの言葉の意味を考えようとした瞬間、新たな仮想ディスプレイが立ち上がり緊急コールが表示される。



『全社員に緊急告知。直ちに全社員はVR内大会議場に集合してください。繰り返します。緊急事態発生。直ちに現業務を停止し大会議場に集合してください。全域総合管理室須藤主任はゲーム内プレイヤーへの緊急メンテナンスを告知。30分後にリーディアンオンライン全システムをメンテナンスモードに変更してください』


 

 非常時の時にしか発動されない文字群が目に踊り、無機質な機械音声が脳裏に響く。


 重大なバグが見つかったり、大規模なクラッキングがあった際に発動される全システム緊急メンテナンスモード発動コール。


 話に聞いていたが実際にコールされるのを見たのは初めてだ。というよりもプレイヤー時代からも発動したことを見たことは無い。

  


「三崎! 名簿閲覧許可! 非番全員に連絡! アルバイト社員も捕まる奴は全員に連絡をいれろ! その後俺らも潜るぞ!」



 親父さんの声にも先ほどまでは無かった鋭い緊張感を感じさせる成分が多分に混ざっている。



「うぃっす!」



 先ほどまでの疑問を忘れて親父さんの指示に返事を返しつつ仮想コンソールを展開。


 閲覧許可の出た社員名簿を呼び出しそこへ書かれた非常連絡先を確認していく。


 なにが起きたのかは判らない。


 しかしゲームを停止させ全職員招集を行う緊急コールをいたずらに発動するはずがない。


 嫌な予感を覚えつつ俺は目についた端から連絡を開始した。













 大会議場は昼にアリスを呼んだVR世界ホワイト商会と同じ場所にある。


 リアル本社の会議室が狭く10人ほどしか入れないので、社員全員を集めての会議や集会などはここで行うことが多い。


 俺が直接降りたVR会議場には、この時間のゲーム管理をしていたGMや、外部から潜ってきた非番の社員などがすでに大勢集まっていた。


 だが誰も事情がわからないのか室内はざわついている。


 なにが起きたか知っている人物はいないかと周囲に目をやると、俺が出現した扉から中村主任が姿を現した。



「中村さん! GMルームの方でなにかあったんですか?」

 


 GMルームから直接飛んできただろう中村主任に尋ねる。


 俺と須藤の親父さんがいた総合管理室でなにが起きたのか判らないのだから、問題があるならGMルームのほうで管理している業務だろうかという予測だったのだが、



「いや、俺の方は判らん。三崎お前総合管理室にいたよな。須藤さんは? そっちも判らないのか」



「親父さんはメンテナンスモードに切り替えてからこっちに降りるそうです。特に問題は出ていなかったみたいですけど」



「そっちでも把握してないとなると……他にまずそうなのは開発部か。それとも社外の問題か」



 互いに事情もわからず情報交換にもならない会話を交わした所で、この会議場に集まっていた全社員の服装が、ファンタジー世界の雰囲気に合わせたGM用のゆったりとした白ローブから、通常来客業務で用いるスーツ姿に一斉に切り替わる。


 服装の変更はリーディアンオンラインがプレイヤーの入った通常営業状態から、メンテナンスモードへと切り替わりはじめた証拠だ。


 広大なVR世界全域を分割管理しているので、その全てを切り替えるのには少しばかり時間が掛かる。


 ただコードを打ち込めば後は全自動で切り替わっていくので、その作業を終えた須藤の親父さんもすぐにVR内に降りてきた。


 親父さんがこっちにいるのを見るのは初めてだ。



「中村! 社長は!? 緊急停止コール送ったの社長のIDだ」



「それがさっきから連絡を取ろうとしているんですけど、繋がってません」



「なんだ一体!? 閉じるついでに全域チェックしたけど異常無しだぞ」



 この短時間でメンテナンスモードに切り替えながら全域チェックもしてたのかこの人は。


 とんでもない作業スピードだと感心させられるしかない。



「ったく! あの社長は! なんかあったなら先に一報をいれろってんだ」



 須藤の親父さんが苛立ちを紛らわすように自分の首筋を叩いていると、どこかのんびりしたような声が会議場前面の壇上袖から聞こえてきた。



「あー悪いね親父さん。問題はゲーム内じゃ無くて外の方なんだこれが」



 ちょっと大げさだったかと頬をかきながら我が社のトップである白井健一郎社長が姿を現した。


 外見は50代前半。白髪の交じった髪を丁寧になでつけたどこにでもいそうな中年男性。


 大胆不敵な手を打つことで若い頃は業界内の風雲児扱いされていたそうだが、ぱっと身にはうだつの上がらない万年課長といったとぼけた外見の所為かあまり敵がいないタイプだ。      



「社長! なにやっていたんですか。こちらから何度も連絡を送ったんですが」



 緊急時の連絡手段くらいはちゃんと確保しておけと中村さんが釘を刺すと、



「あー悪いね中村君。ちょーっと開発部にハッキングしてもらってたんで、それ以外の外部回線を切ってたのよ。ほらまずいでしょ。ばれちゃ。仮にもソフトウェア会社の社長がクラッキングなんて。まぁ、ばれなきゃ問題無いから、みんなも黙っててくれるとありがたい」



 軽いなおっさん……いや社長。


 俺は思わず心の中で突っ込む。


 おそらくここにいる全員が同じような感想を抱いていることだろう。


 主任GMの中では一番の良識派であり生真面目なところがある中村さんは頭痛を覚えたのか額を抑えていた。


 大勢の職員を前にして悪びれた様子も見せず堂々と犯罪行為をやっていたとばらし、軽く口止めを頼んでしまう辺り、ある意味身内を信用しているからだろうか。



「何やってんだよお前は……学生じゃねぇんだぞ! ったく佐伯も佐伯だ! あいつらはどうした!」



 須藤の親父さんは呆れかえり次いで怒声をあげた。


 社長と開発部がハッキングで逮捕なんて事になったら、会社の業務に支障は生じまくるわ世間体は最悪だわと笑うに笑えない洒落にならない行為だ。


 下手すれば会社が潰れるような事になってもおかしくなく、親父さんが怒るのは当然だと思う。



「いや、まぁほら非常時って事で親父さん勘弁と。ちょっと……いや、だいぶ不味いことになりそうなんでね。ウチどころか業界全体が。だから開発部にはさっさと次の手を打ってもらってる所」



 口調だけは相変わらず軽いが、社長の言葉はなぜか重く響き、会議場の雰囲気が一変する。


 怒鳴っていた親父さんもその言葉の意味に気づいたのか、小さく舌打ちを漏らしつつも先を促すように社長に向けて顎を振った。



「ま、全員は集まってないがこれだけいれば十分か。とりあえずこれを見てくれ」



 会場全体を見渡した社長は頷いてから、右手を振って自分の背後に巨大な可視ウィンドウスクリーンを出現させる。



「さてこれはついさっき流れた夕方のニュースだ」



 ネットが広まりリアルタイムで情報が得られるようになった今でも長年の習慣からか夕方の時間帯はニュース番組が集中している。 


 スクリーンに映ったのは夕方に流れている国営放送のTV画像で、中年の男性アナウンサーが淡々と原稿を読んでいる。




『では次のニュースです。本日午後四時半頃。VRカフェ『EineWelt』高島平店で利用客の男性が突如奇声を上げ壁に頭部を何度も打ち付け悶絶しているとの通報がありました。通報を受け駆け付けた救急隊により男性客への緊急治療が行われましたが、頭部陥没骨折による死亡が確認されました。従業員によると男性客は前日夜から入店。VR席でMMOゲームを長時間プレイしていたとのことです。男性の奇行との因果関係は不明。司法解剖で原因の特定を行うとのことです。同店は非会員制で死亡した男性の氏名は今のところは判っておりません。年齢は10代後半から20代前半。中肉中背。右手の親指に蝶の入れ墨。男性の身元に心当たりのある方はお近くの警察署または…………』



 VRMMOゲーム中に死亡。


 確かに珍しく聞こえるかもしれないが、国内だけでも年に数件程度なら発生している。長期没入によるリアル体が弱まった事による衰弱死や病死。もしくは突発的な心臓発作など原因はいろいろだが、自らの頭蓋骨が陥没するほどに壁に何度も打ち付けて死亡したなんて話は今まで聞いたこともない。


 ナノシステムの異常か?


 それとも単なる病気か?


 答えの判らない状況に不気味な静寂が会議場を支配した。


 誰もが心の中に一つの不安がよぎっていた。



「おい……まさかウチか?」



 それが故に訪ねられなかった事を須藤の親父さんがあえて社長に尋ねると、社長は頭をかきながら困り顔を浮かべた。

 


「そこらもあって一応VRカフェの管理サーバにハッキングをして確認を。幸いというか何というか、このお客の遊んでいたのはウチのリーディアンオンラインではない」



 人が死んでいるのに幸いという言葉はふさわしくはないだろう。


 だがそれでも会議場の張り詰めていた空気が僅かに和む。


 しかし社長の次の言葉で誰もが凍りついた。



「だけどある意味もっと最悪だ。プレーしていたのはHFGOだ……しかもその時の映像。奇声を上げて頭を何度も打ち付けている動画を他の客がたまたま撮ってたらしくてね。これが物の見事にネットに流れて絶賛拡散中。かなり強いグロ画像なんで閲覧はおすすめしないかな」



 それを見たであろう社長が嫌そうな顔でつぶやく。


 頭蓋骨が潰れるほどの映像なんぞ好きこのんでみるような特殊性癖など持ち合わせていない者がほとんど、というか普通だろう。


 つまりそれだけ拒否反応が大きい。


 世界一のプレイヤー数を誇る『Highspeed Flight Gladiator Online』はまさにVRMMOの代名詞。


 VRMMMOのHFGOではなく、HFGOのVRMMOとまで言われる抜群の知名度を持つゲームで起きたショッキングな事件を、対岸の火事だと笑っていられるような浅はかな者はこの会社にはいない。


 世間はこう思うだろう。VRMMOは危ないと。



「というわけで気が早いかもしれないが手を打った。開発部には状況を解析して原因予測もしてもらってるけど、とりあえず警察の発表があるまでは停止させて様子を見よう。ただしウチのゲームで死亡者が出たと思われるとあれなんで、広報担当はこれこれ起きましたのでお客様の安全第一って事で緊急停止をしたと告知を」



 社長は一角に固まっていた広報課の女子社員を指さし指示を出す。



「は、はい!」



「中村君達GMチームはお客様からの問い合わせが来ると思うからローテを組んで24時間対応できる体制を。問い合わせ数が多すぎる場合は事情説明会も開くから準備も」



「はい。編成を組んでおきます。説明会場は何時もの商工会議所のホールで良いですね」



「あぁそれで頼むよ。で、親父さんらは全体のログを重点チェック。何か異常が無かったかとか、プレイヤー側からの不正処理によるエラーの可能性も一応考えてくれ。量が多いけどお願いします」



「ちっ! 判った。やってやる」



「営業部はお客様への保証計算と協賛してくれてる企業さんへの文面制作。あとウチみたいな小さいところ一つでやっても、業界は迅速な対応しましたって効果が無いんで、他の会社にも働きかけてみんな仲良くお休みと行きましょうって感じで提案するんで至急アポを取っておいてくれ。あと三崎君」



 各部署に矢継ぎ早な指示を出していた社長が最後に俺を名指しで指名する。


 部署が決まっていない俺の場合は中村さんの所か、それとも親父さんの所かと思ったのだが、

 

 

「しばらく全社あげて泊まり込みでの作業になると思うから、食料補給とか何時ものを重点的に頼む。で、買い出しの際ついでに君が応対していた高校やら近所の皆様の所も尋ねて、もし不安があったらご連絡ください。応対しますのでって一声かけといてあげて」



「はい。でも良いんですか。ただでさえ忙しいのに? 仕事増えそうですけど」



 ちょっと予想外の指示だ。


 思わず聞き返してしまった。



「ま、ちょっと大変だけど、詳しくない人はVR自体も危ないと思う人が出るだろうから説明なんか対応してあげよう。知らない人間から親切にされたのだったら疑うだろうけど、君の顔は近所に売っておいたから大丈夫だろ。ホワイトソフトウェアの三崎ってね。身近な世間様に恩は売っておいて損はないよ」



 ……この社長いろいろ考えていたんだなと気づかされる。


 でも考えてみればそりゃそうだ。濃い連中が多い会社をまとめ上げているんだから、ただ者な訳がない。


 俺みたいな社会人3年目程度じゃまだまだ半人前のようだ。     












 社長が率先して廻ったおかげですぐに国内MMOメーカーは一斉に一時運営を停止し、世間に対する企業、業界としての一応の面目は保つことに成功した。 


 警察の司法解剖結果発表があったのはこの事件から3週間後。


 死因は違法改造されたナノシステムによる過電圧が引き起こした異常行動。


 HFGOにおいてRMTを行っていた男性客は、より稼ぐために反応速度や認識能力をあげ高い戦闘力を得るため微弱な電流を流して脳を活性化させる違法改造を施していたそうだ。


 それが長時間プレイとHFGOの新規アップデートによる負荷増大で暴走。


 あのような異常行動に出たらしい。


 ここまではウチの開発部主任である佐伯さんが解析推測していた事とさほど変わらない。


 普通なら自業自得と言われ、何事も無かったかのようにまた平穏な日々が戻ってきたかもしれないが誰にも予想外のことが一つ。


 死亡した男性はまだ15才の少年だった。


 この事実によりナノシステムとVRに対する規制議論が再燃。


 一時はVR技術を全面禁止すべきとまで極端な意見が出るほどまで白熱したが、さすがに広まった規模を考えると今更無くすことなど出来ない。


 結果あらゆる方面でのナノシステムVR技術への規制と罰則が強化される結論へと達した。


 その火元となったVRMMOに対しては、他の業種よりも重い規制が課せられることになったが、禁止されるよりも幾分かマシと思うしかないだろう。


 現状での最高スペックより2割落としの性能を限界とする機能制限。


 RMTによるアイテムの金銭売買の全面禁止と、違反者が出た場合のメーカー側への新たなる罰則規定。


 一日のプレイ可能時間を2時間とし、週10時間。月は20時間までとする娯楽目的VR利用時間規制条例。


 いくつもの枷をはめられたことで、採算性が合わなくなったり、資金不足に陥りいくつものVRMMOゲームとメーカーが撤退、終了を余儀なくされた。


 その中にリーディアンオンラインの名もあった。



 だけど俺たちは終わらない…………

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