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扇動から始まる戦略戦

「Planetreconstruction Company Online。通称『PCO』において顧客層は、ヘビー、ライトを問わずゲームユーザー全般を考えています。VR規制条例をカバーした上で、幅広い顧客のニーズに応える為に、ゲームの特色として戦略、戦術、そして戦闘それぞれのステージ全てが密接に絡み合うゲームデザインを提案します。まずはこちらをご覧ください」



 クロガネ様の前にプレゼン用に立体的な3D仮想ウィンドウを展開しデータを送ると同時に、アリスが一斉送信機能で会場、そしてリアルでこちらを見守っているうちの上層部やら先輩方へと同様の仮想ウィンドウを展開しデータを送る。


 親父さんを筆頭に中村さんやら佐伯さんにも目を通して貰うってのが、レポートを提出する学生時代の気分を思い起こさせてちょい緊張するのは致し方ないだろうか。


 不可は勘弁と軽く思いつつアリスに目で合図を送ると、俺の目の前に展開した仮想ウィンドウと連動しながら頭上の天空が大きく変化していった。


 空で対峙する俺とクロガネ様の巨大投影像の距離が開き、その間に直径5メートルほどの大きさの星系がいくつも出現して輝く。


 太陽系と同じように一つの恒星を中心にいくつもの惑星、衛星が回る星系。


 恒星を中心に宇宙ガスが渦巻く生まれたばかりの原始惑星系円盤。


 双子の巨大恒星が盛んに燃えさかる灼熱地獄の宇宙。


 様々なバラエティに満ちた無数の星系で描き出された天球図が出来上がると俺の横に浮かんでいた創天がバスケットボールほどに縮小して、その天球図の中心へと跳躍した。


 言葉だけでなく視覚にも訴える。


 VRにおけるプレゼンの基本を思い出しつつ、俺は戦闘を開始する。



「まずは戦略ステージ。これは艦隊司令の領域に属します。艦隊司令の目的はおおざっぱに言ってしまえば、本社企業から下されるクエスト消化や、独自行動によって自社支配領域を拡大する事です。プレイヤーは艦隊構成や攻略目標の選定を行った上で、その宙域、星系や小惑星帯へ艦隊を派遣します」


 

 手元の仮想ディスプレイに描かれた星系の一つを俺は指さし、ピックアップしてからその星系拡大しメニューリストを開く。


 その星系で採取、製造される資源や物資、人材等を表示した資源項目や、防衛衛星、軌道塔、軌道リングなどの設備関連など、その星系の基本情報がずらりと並ぶ。



「プレイヤーは選択した地域において物資搬入、商取引。雇用創出。人材育成。資源基地または防衛要塞の設置、敵対戦力の排除、妨害。鉱山開発や資源採取や、艦船建造能力や惑星開発力などを上げ、星系もしくは宙域毎との支配度を上げていくことになります。支配度が50%を超えている場合はその星系や宙域はその企業の支配領域となり、企業のレベルである総合企業力へと変換されます」



 空に浮かぶ創天が緑色に染まり、周囲の宇宙空間や星系が創天の支配域である緑や、敵対勢力の赤。まだどこも50%に達していない無所属地域の白へと変化し、目に見える形で表現していく。



「所有する支配領域がその企業のもつ資源や生産力や技術力等、総合企業力を決めます。総合企業力はその企業に属するプレイヤーが取得可能な艦船や装備やNPCを左右する重要な要素となります」



 数多くの星を支配領域に納めておく事は無論重要だが、一部の艦船や装備、もしくはスキルを持つ住民を確保するためには、特定の星系、星域を確保していなければならないと設定してある。


 それらの星系や星域は複数の企業がぶつかり合う最前線となり重要戦略拠点となるだろう。



「また自社支配度が強い宙域や星系では所属プレイヤーの能力は強化され、そして反対に敵対勢力の支配度が強い場所ではプレイヤーの能力は減少していきます」



 砲撃精度、威力、跳躍距離、跳躍位置の誤差、艦隊整備などの戦闘系。


 資源採集速度や建築効率、施設劣化速度など生産系。


 商取引における取引可能量、額、商品項目、雇用可能人材などの商業系。


 プレイヤーの持つ全ての能力が支配度の影響を受けていく。


 これは支配度が高ければ高いほど、また低ければ低いほど影響し、最大で±50%までの影響を受けることになる。


 ただし敵支配域への強行偵察やら諜報行為を行うことで一時的にだが地域全域での減少を緩めたり、個人のみに限定されるがプレイヤースキルによってマイナス影響を無視する事も出来る。

 


「続いて支配度の増減に影響するクエストの説明を行わせて頂きます。どのクエストを選んでも支配度は基本的に変動します。しかしクエストの中には大きく影響する重要クエストが存在します。赤色で表示されていますこれらは難易度は高いですが、大きく影響を持ちます」



 敵対勢力との直接的な戦闘系や、惑星開発での雇用創出をする生産系。恒星系政府や住民との商取引で自社ブランドの製品を納める事で増減していく商業系など、重要クエストにも種類はある。



「この中から商取引におけるクエスト『乾く星に海を』を例に説明させて頂きます」



メニューの中から、俺は星系政府や住民から提示されるクエストの項目から、増減が多い重要クエストの一つを選択。


 乾く星は読んでそのまま渇水に悩む惑星へと水や氷衛星を運び、星の面積に対して一定以上の海や湖沼を生み出せば、クリアという一見単純な物だ。


 不足している資源を運べば、恒星系政府や自治組織。居住住民からは好意的に受け取られ支持率つまりは支配度が上がるという、ただ運ぶだけのお使いクエストにならないように、そこでもう一ひねり。


 プレイヤーにいくつもの選択肢を用意する。


 運ぶ水一つとっても、生成に時間はかかるが、住民からは好評価の惑星環境への考慮をして完全消毒された無菌水。

 

 短時間で生成が出来るが、そこそこの評価の最低限の殺菌水。


 生成する必要も無くそこらのアイス衛星を軌道上から直接シュートな、低ポイントを大量生産する方法。


 星に一定量の水が確保できればクエストは消失する。それまでに如何に支配度を稼ぐかはプレイヤーの思考によって変わるだろう。


 高品質で納め高ポイントを取る路線で行くか、それとも低品質を大量に用意して一気にクエスト消失へともっていって決めるか?


 多数のプレイヤーが参加する状況で、自分の陣営にとって何が得策か個々のプレイヤーの判断にゆだねられる。


 PTを組んで高速輸送船組と、生成プラント艦組に別れて分業で高品質品を大量生産、大量運搬で膨大なポイントを稼ぐか?


 他のプレイヤーが星系にたどり着けないように周囲に網を張り妨害撃沈して自分たちだけがポイントを稼ぐか?


 支持率逆転が無理だと思ったら、殺人ナノ入り水を大量に運搬して住民一掃。直接戦力で無人星を占拠なんて、一発逆転な外道な手も良いだろう。


 ただしその禁断の選択肢は、その企業体に所属するプレイヤー全員の投票によって可決されて初めて派生するほど、いくつものリスクをもつ。


 他の惑星政府からは警戒され、全域で支配度が減少するだろう。


 住民が消えほぼゼロになった生産性を戻すには、余所から人を連れて来なければならない。


 人手不足で防衛衛星すらろくに機能していない星を狙うハイエナのような海賊NPCやら、無防備な星の支配権をかすめ取ろうとする他のプレイヤーと戦う必要も出てくるだろう。


 もたもたしていれば殺人ナノが自己進化して、無数の殺人兵器が蠢く殺戮惑星になるかもしれない。



「クエストを攻略する過程、そしてクエストクリア後も無数の状況と選択肢を用意することで、ただ運ぶだけの単純な作業ゲームでは無く、プレイヤー間での駆け引きを発生させる高度なゲーム性を確保するクエストを考えています。また一度支配度が上がって領域になったからといって、それは不変ではありません。渇水に悩んでいた惑星が水を得たら次のクエストが発生します。プレイヤーの行動によって変化した様が反映され、新たなクエストが発生し、無限に変化していきます」



 海や湖が出来れば惑星環境は激変し、それに伴いいくつものクエストが発生する。


 天候操作システム建設や水生生物搬入依頼など惑星自体に影響する大規模なクエストから、湖畔にたたずむリゾート施設建造など小規模クエストもあるだろう。


 それ以外にも星系政府や住民からは、やれ娯楽が少ないだ、仕事先がないだといった生活レベルの要請から、恒星が爆発寸前だから捨ててきて、ついでに代わりを持ってきてくれ、作ってくれなどいろいろ無理難題が上がってくる。


 それらを如何にこなし支配度を維持するか、はたまた妨害して他社の支配度を下げ支配域をもぎ取るか、それはプレイヤーの判断と行動にゆだねられる。



「通常クエストの行動もまた世界に影響を与えていきます。この中からいくつかを簡易ですが説明させて頂きます」



 今のところ考えているクエストを、とりあえず表示した画面にずらりと並べながら、俺はイメージ映像混じりで解説を入れていく。 


 惑星周囲のデブリを除去して航路確保。


 軌道塔の建設もしくは破壊。


 自社企業麾下訓練校用練習専用星系を創設しての企業レベルの底上げ。


 変わったところじゃ多数プレイヤーの協力必須だろう、惑星サイズな生物兵器から派生した宇宙怪獣撃退等、考えているクエストを発表していく。


 ……まぁ、ぶっちゃけると、実のところ、このクエストの大半はアリスの会社が過去にやった業務を参考にしていたりする。


 さすが創業420万年の老舗惑星改造企業。元ネタにだけはこまりゃしないほど、多種多様な仕事をこなしていやがった。


 つーか星を喰らう宇宙怪獣を退治って。なにやってんだアリスのご先祖様らは。


 適当に面白そうで使えそうなシチュエーションを抜いて来たんだが、あまりにも膨大すぎるんで、選ぶのに困ったほどだ。



「このように多数のクエストとプレイスタイルによる選択肢をいくつも用意し、さらに他のプレイヤーの妨害や、同勢力プレイヤーの協力も盛り込んで、幅広い自由度を確保した画一的な攻略法が無いゲームデザイン。これがまず戦略面としてのPCOが持つ特徴となります」



 速すぎず、遅すぎず、なるべく一定のリズムを保つようにして俺はプレゼンを続けていく。


 会場の雰囲気は俺らが用意した資料に集中しているのか物静かだ。


 時折誰かの唸るような声が聞こえてくるが、この静かさは少しまずい。


 人の記憶に残りづらく、さらにこの先、絶対必要な協力を得るための雰囲気を作りづらい。


 クロガネ様も画面を見つつメモを取っているだけで、まだ仕掛けてくる様子は無い。あらを探しこちらの出方をうかがっているのだろうか。


 仕掛けてくれれば会場全体を盛り上げられるのだが、そう思い通りにはいかないか。 


 年配のお客様からは、己の若いときでも思い出しているのだろうか、苦笑混じりの生暖かい視線が多いように感じる。

 

 会場にいる業界の大先輩方から見れば、右も左も判らない世間知らずの若造が、理想と夢だけで開発に膨大な時間と金の掛かるゲームを語っているようにしか映らないのかもしれない。



 ……いやいや先輩方。こちとら本気ですよ。



「では続きまして実際にクエストをこなしていく為の艦隊構成の説明へと移らせて頂きます」



(アリス。少し早いが”こっち”での最終目標ご披露といくぞ。本気だって判らせてやろうぜ)



少し冷めた会場の熱を上げるために、俺はプレゼンの構成を変化させ度肝を抜いてやろうとアリスに悪戯混じりのメッセージを送る。



『ほんとシンタらしいよね。大言壮語な夢で大勢を巻き込もうっていうんだから。しかもそれが真の狙いじゃない上に、あたしを表に出すしさぁ。裏の権力者とか政治家にでもなったら?』



 からかうような声でWISを返しつつ、アリスは目を閉じて完全ロープレモードへと入るための準備に入る。


 降ろすのはドイツ系アメリカ人アリシティア・ディケライア。今は亡き父の夢を継ぐために、会社を引き継いだ若き女性社長。


 アリスが準備に入ったのと同時に空に浮かぶ創天の周囲にいくつかの艦隊群が出現する。



「攻略するクエストや自由行動によって適正な艦船や人材は大きく異なります。そこで装備、スキル、乗艦NPCを、本社人工惑星や支配領域拠点でいつでも再構築可能とする事で、クエスト内容、プレイ可能時間やプレイスタイルの変化に柔軟に対応出来る形を模索しています」



出現した艦隊の構成はばらばらだ。


 鈍重そうな輸送船が大量に並ぶメインの艦隊もあれば、少数ながら獰猛さを感じさせる外見の打撃艦隊。


 さらには他の艦船とは比べるまでも無いほど巨大な大型プラント艦と、一目で違いがわかりやすい物を選別してある。



「しかし選択したからといってすぐに艦隊が構成できるわけではありません。少数の艦隊ならばそれほどでもありませんが、大規模な艦隊構成となった場合は出港準備の時間が掛かります。同性能の同型艦や、最新鋭艦を揃える場合においては、出航可能となるまで長時間が必要となります。こちらは本社や拠点の工場や宇宙港レベルにおいて増減しますが、最大規模艦隊でリアル時間一日ほどを考えています」



速度や跳躍距離を統一するために同型艦で構成した船団は、準備に時間が掛かるが安定した航海が可能。


 欠点を補った様々な船が揃う混成船団は、そこそこ短い時間で構成可能。


 船種はばらばらだが出航可能艦を抽出した即席船団は準備が即座に出来るが、それぞれの艦の欠点が噛み合って個別のフル性能は発揮できない。



「編成はAIによる自動編成とプレイヤーが選ぶ手動編成の二通りの方法があります。自動編成もAI完全判断と、構成時間の指定を筆頭に速度や積載可能量など細々とした条件を設定する半自動編成を用意。やり込み派や拘りを持つプレイヤーならば手動編成で頭を悩ませてもらいます。こちらはデータリストの一部ですがご自由にご覧ください」



 俺が構成可能艦リストを呼び出し広げると、静かだったお客様からざわめきが上がる。



「……なんだこの数! 多すぎだろ」



「設定だけじゃ無くて、VRの稼働映像もついてるぞ!? これだけの量を用意してあるってのか!?」



 ずらりと並ぶ船舶リストはざっと千種類。お遊びや企画段階で用意できる量を遙かに凌駕したデータ群にお客様は混乱している。


 資源採取に特化した作業艦や、星すら運べる特殊フィールドを展開する惑星輸送艦などの商業系宇宙船。


 反物質生成力を持つプラント艦、コロニー型農業艦やらの生産系宇宙艦。


 レーザー兵器、光速ミサイルなどでハリネズミのように武装した戦闘艦。機動兵器を搭載した空母などの星すら破壊する機能を持つ戦艦群。


 巨大ガス惑星内部探査艦やステルス機能を搭載した高速偵察艦を筆頭とした特殊艦類。


 それらのリスト群には武装や跳躍距離、速度、燃料費、出航準備終了時間まで、事細かな詳細データが付随する。


 一部のみだが完成されたゲームデザインに、こちらの本気度を悟ったのか会場の雰囲気が変わる。


 つい今し方までは実現不可能な夢を語っていた若造を見守るといった周囲の目線が、訝しげに俺を値踏みするかのように切り替わる。


 このご時世に何を考えて、こんな数のデータを用意しているのか理解不能だとでも思ったのだろうか。


 そんな混乱したお客様の前に、俺は一つの道筋をつける為に言葉を紡ぐ。


 こちらの思惑に乗せる為にVR技術者なら誰もが夢見て、そして現実を知って諦めた夢を。



「これらのデータは実は私が用意した物ではありません。私の友人にしてかけがえのない”相棒”が、今は亡き父の夢を叶えるために俺に託してくれた物です。俺はその夢に共感し、そして叶えるためにこの夢を実現に持っていくつもりです……」



 俺が言葉を区切ると同時に空に浮かぶ俺の横にアリスの投影像も出現する。


 出現したアリスは軽く礼をして頭を下げてから、閉じていた瞼をゆっくりと見開く。



「皆様初めまして。私はアリシティア・ディケライアと申します。私が託された父の夢。そして”パートナー”であるシンタと共に叶えようとする夢……それは世界一のプレイヤー数を誇るVRMMOゲームHighspeed Flight Gladiator Online。通称HFGOを越えるゲームを制作することです」



 令嬢然とした微笑を浮かべたアリスの口から出た言葉に会場が静まりかえる。


 国内VR技術者にとって、膨大な資金力と技術力をもつ大企業をバックに持つHFGOは越えられない壁として常に脅威としてあった。


 さらにはVR規制の発端となる事件を起こしたHFGOは、国内のVRMMOが壊滅状態に陥った今でも、海の向こう全世界で我が世の春を誇っている。


 口には出さずとも国内VR関係者ならば、HFGOに対して心の中では恨み、怒りなどのしこりを持っている者も多いだろう。


 ならそれに火をつける。


 会場の雰囲気を変える熱に。


 新たなゲームを作り出すという前進するための原動力に。


 夢を現実へと変えるための起爆剤に。 


 実現不可能な夢では無く、掴むべき目標としてはっきりとした形をあぶり出すために。


 俺とアリスの口から飛び出した大言壮語に、対峙していたクロガネ様が驚いたのか呆気に取られている。


 まずは先制攻撃は成功ってか。しかしここから。相手はまだ攻撃を繰り出してもいない。


 ボス戦は始まったばかりだ。

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