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注意)追い詰めないでください。喜びます

 VR規制条例によるゲーム開発、運営において発生する弊害予測


 ①リアルマネートレード。通称RMTの全面禁止と、企業側への対応要請および罰則条項。

  

 罰則規定が設けられたこと開発メーカーには積極的な対策が求められており、対策が不十分と認められた場合、最悪運営停止処分が科せられる。

 

 メーカー側は管理外での売買に対するためにシステム的な制約を設ける必要性が発生するが、不特定多数のプレイヤーが参加する状況下で実効性のある対策は困難と推測される。



 ②脳内ナノシステムを用いたVR機能のスペック制限。


 地球におけるナノ制御機構と、それによるVRシステムまたそれを用いた娯楽遊戯において地域政府が定めた機能限界値を当てはめると、表現上の制約、脳内ナノを使った感覚強化の制限は、他地域の企業により開発、運営されるソフトに対して将来において、性能的に見劣りする部分は否めず、劣勢を強いられる可能性は無視できない。


 ③娯楽目的におけるフルダイブ状態の時間制限


 VRシステムの真髄である全感覚変換機能は、娯楽目的においては現地時間単位で極々短時間に限定されている。


 規制前の同種ゲームと比べると、その利用可能時間は8%ほどまで低下しており、既存もしく類似システムを用いて開発するのは実質不可能。


 新しいシステムと概念を構築する必要あり。






 地球の極東地域の一国において設けられた条例において、ターゲットが所属する企業を取り巻く状況と予測を、リルから簡素ながら提供されていたサラス・グラッフテンはそれらを思い出しながら、空を見上げる。


 その仮の瞳に映るのは彼女にとってよく見慣れた物。第二の故郷といっても差し支えない本社人工惑星『創天』


 銀河で有数の船歴を誇りながらも、未だトップクラスの出力を誇る帝国末期に誕生した名鑑……によく似た船。


 創天のみならずその周囲に浮かぶ船もサラスの知る物とは微妙な違いがある。法に接触しないようにいくらかの手を加えてきているようだ。


 仮初めの地上から見上げた衛星軌道に雄々しく映る雄姿に、周囲からも驚きを込めたざわついた声が上がっている。



『なかなか派手なことになっておるが、このまま見物かな。こちらの情報を未開惑星に出すのは御法度じゃろ』



 地球側のシステムとは別に用意された秘匿回線越しに聞こえてきた通信の主は同様に潜入しているノープスだ。

 


『この状況を面白がっている貴方が言いますか……フリーライセンスの艦船データをさらに微妙に改竄して、法に抵触しないよう小細工を施しているようです。それにこの情報が現実の情報だとは、この場にいる誰も思っていないでしょう。グレーゾーンでありますが問題は無いはずです。このまま様子見といきます』 

 



 ノープスからの通信に現状維持と短く答えたサラスは視線を地上へと降ろし、ギャラリー環視の中で堂々と立つ男女を注視する。


 自らに対する自信と隣に立つパートナーへと寄せる信頼を、互いの表情の端々に覗かせている二人組。


 男の方は報告書で見知るだけだが、女性の方は違う。


 この星にあわせて現実とは多少姿形が変えているが、サラスがよく知るアリシティア・ディケライアの姿だ。


 会社存亡の危機に未だ未熟な心身で立ち上がり、打ちのめされ笑顔を無くしていたアリシティアが、あのような溌剌とした姿を見せるのは何時以来だろう。


 よく知るが故に懐かしいその姿に感慨深い物をサラスは抱きながらも、それを心の片隅に追いやる。


 一瞬緩みかけた心を締め直し、二人が仕掛けたこの状況を冷静に見極め分析を開始する。


 ディケライア社を如何に復興させるか。この二人が仕掛けた手はディケライアのためになるか。その一点に尽きる。


 サラスの厳しい目線が二人を見据えた。






「新作ゲーム開発において、避けては通れない問題はVR規制条例。これが如何に苛烈であるかは、国内VRの現状を知る皆様方には今更多くを語るまでも無いでしょう」



 俺が大きな身振りで手を振るうと同時に、背後と上空に無数のスクリーン群が浮かびあがる。


 その画面に映るのは国内で開発運営されていたVRMMOのトレーラー映像群だ。


 可愛らしい外見を売りにしたファンタジーゲーム。


 精密に書き込まれた戦場で泥臭い戦いが繰り広げられたFPSゲーム。


 プレイヤーとMOBが混在する数万の混成軍同士が巨大兵器群を駆ってぶつかり合う大規模な戦略ゲーム。


 かつて存在し、規制により消えていったゲーム達。



「数多の国内ゲームが、その嵐の前に沈み、もしくは変容を余儀なくされました」



 派手できらびやかなトレーラー映像を映し出していた無数のスクリーンは、ノイズが走る白黒の画面へと一斉に切り替わっていく。


 クロガネ様の台詞を拝借するなら殺された世界って所か。


 この映像を作る際に運営停止や開発停止に追い込まれたVRMMOをざっと調べたが有象無象含めて100オーバー近く。そこに参加していたプレイヤーの数はさらにその何枚倍だろう。


 赤字でこれ幸いにと運営を取りやめた所も有ったようだが、大手も軒並み潰されている辺りVRは規制すべきって世論の強さを改めて感じた。


 周囲のお客様方はクロガネ様を含めて、俺らが用意した映像にVR業界の現状を再認識したのか、上空を見て険しい顔を浮かべている。



「今の状態で新作だって……正気か?」



 誰かがつぶやいた言葉が聞こえてくる。



『今の状態で新作だって……正気か?』



 アリスがその声を全体に聞こえるようにピックアップしたのか、少し遅れてからグランドに設置された拡張器や構内の放送機器から響いた。


 さすが相棒。俺のやり口を知り尽くした故の、打ち合わせ無しのナイスアシスト。


 声を発したであろう若い技術者が突如響いた自分の声に驚いて目を丸くしている。


 会場全体の心理をこちらの思うように向けていくには、俺の一方的な話だけじゃ些か弱い。他者の素の声も利用させて貰う。


 世間の逆風。


 厳しい規制条例。

 

 規制の切っ掛けとなった事件と同じようなことがまた起きたら、今度こそとどめを刺されかねないだろう。


 そんな逆境で一発かまそうってのに、俺達と同じ思いを心底に抱いているであろうクレーマー廃人様やら、同業他社様ごときの説得に苦戦してるようじゃこの先はおぼつかない。


 第一俺達の前に立ちはだかるのが、安地もルートも攻略法もまだ見つかっていない未知の迷宮とボスキャラと思いこめば、心躍らないわけが無い。


 被っていた社会人としての面を僅かに外して、俺は心の底からの笑顔を浮かべながら次の言葉を紡ぐ。 



「無論正気ですとも…………俺は知っています。ゲームの楽しさを。ゲームの面白さを。どんなクソゲーだろうが無理ゲーだろうが楽しんで攻略していく。それが俺ら廃人ゲーマーの心意気ってなもんです。この状況を楽しんで攻略してなんぼの物でしょう」



 胸によぎるのは現役時代の思い出。即死罠を如何にかいくぐり、雲霞のごとき敵MOBを躱し、つぶし、凶悪無比なBOSSに如何に肉薄して打倒するか。


 論戦を交わして、いろいろ試して、幾度も失敗の多い勝利を重ねた上で、ようやく掴んだ完全勝利。


 あの日々が俺を、そしてアリスを奮い立たせる。


 ゲームと現実の区別がついていない。VR中毒といわれても可笑しくないかもしれないと自嘲気味に思いながらも、空に浮かぶ俺と横に立つアリスは強気の顔を浮かべている。



「VR規制条例? 会社存亡の危機? 世間一般様? そんな中ボスは真の敵じゃありません。俺らの真の相手はユーザーたるお客様。彼らに満足し楽しんでもらえるゲームを作る事こそが一番難しい。それは皆様も知る所でしょう」



 VR業界の周囲を取り巻く状況の攻略はあくまでも前菜。攻略すべき主菜はプレイヤー様。



「だからこそ、今この時期のゲーム開発です。ゲームに飢えているであろうプレイヤー様に満足してもらえるゲームを作る。それがお客様を第一に掲げ、楽しんでもらえるゲームを作ってきた俺達ホワイトソフトウェアの役割だと思っております」



 ちらりと社長を見れば、俺の視線に気づいた社長は、満足げな表情を浮かべて頷く。


 入社してから3年。伊達に社長の小姓やってたわけじゃ無い。


 ”プレイヤーを楽しませる楽しさ”


 ホワイトソフトウェアの源流みたいな物を俺は受け取っている。


 だからこの状況においてもゲームの概要を説明をしつつ、周囲のお客様にも楽しんで貰う状況へと持っていく。


 その為にはうってつけな人物が俺の目の前にいた。



「さて、前置きはこれくらいといたしまして肝心要のゲームの基本仕様解説といきたいところですが、その前にゲストのご紹介を」



 我ながら意地の悪い顔を浮かべた俺はクロガネ様に視線を向ける。


 突然の展開に呆けていたクロガネ様が俺の意地の悪い視線に気づいて、目尻を上げてきっとこちらを睨んできた。


 アリスとの会話からの流れでゲームご披露の展開に、自分が出汁にされたとでも思ったのだろうか。


 いやいや、まだまだ。あんたはもっと美味しい敵キャラだろ。


 厳しい目線を向けてくるプレイヤーの代表格みたいなクロガネ様がこの場にいたことを喜びつつ、俺は右手を微かに動かしアリスに文字チャットを送る。



(アリス。お前にあやかって討論方式でいくぞ。お相手はもちろん)



『りょーかい。狐狩りね』



(おう。後リルさんに頼みがある。このメールを送ってくれ)



 日時と俺の脳内ナノシステムのパスコードを添えただけのメモをアリスに送り、さらに転送を頼む。


 用意するのは切り札。


 言うなれば悪しき衣を剥ぐ光の玉ってか。リルさんならこっちの意図を察してくれるはずだ。



『リルに? オッケー。急ぎでやって貰うね。今から必要なんでしょ。ふふふ。シンタ相手に戦う大変さを思い知って貰おうじゃない。じゃ。いくよ』



 なにやら悪者めいた笑いをこぼしながらWISでアリスが返すと同時に、創天を挟んで俺と相対するように金色の毛色の狐娘の姿が空に浮かび上がる。


 地上と空。敵意混じりの視線を受けつつ、俺は目の前の相手に一礼をする。



「こちらは、かつて国内開発VRゲームでもっとも支持を受けていたカーシャスにおいて、活躍なされたプレイヤー『クロガネ』様です。ゲーマーとして高名でありVR雑誌においてコラムを抱えておりました彼女に、ユーザー目線からのご指摘を受けつつゲーム概要の説明といきたいと思います」



 丁寧で緩やかな口調に戻しつつ俺は右手をまた走らせ、VRゲームじゃお馴染みの決闘要請コマンドを即席で作り、軽いメッセージを添えつける。

 


(闘論で決着といきましょうかお客様。こちらはスタンドプレー。新作案を披露しても完膚無きまでに打ち負かされたら、会社の面目を潰したと言うことで俺は首かもしれませんよ。しかも業界関係者ばかりのこの場じゃ、悪評が広まってVR業界に二度と関われない可能性もあったりしますが……いかがです?)



 クロガネ様の目的は俺をこの業界から追い出すことと予測できる。ならその恰好の場を用意してやろう。


 先ほどのアリスとの討論からみて、クロガネ様のゲームに関する知識と見識は鋭く深い物がある。


 おそらくは私情に任せて何でも反対して罵るのではなく、こちらの指摘されがたい欠点や弱点を攻めてくるはず。


 VRに関してのみならある意味公平で清廉な性格は、至極読みやすく、乗せやすく、そしてこちらの思惑とも合致する。

 


(上等! あんたなんて潰してやるわよ!)



 慇懃無礼この上ない俺のメッセージに、さらに敵意を強めたのか視線を険しくしたクロガネ様は叩きつけるように仮想コンソールを打ち受諾メッセージを打ち返してきた。



 ちょっと短いですが切りが良いので更新します。


 リアルが2月くらいで一度落ち着くので更新速度を戻せるかなと期待しております。


 12月が労働400時間オーバーなうえ年越し職場。さらに三ヶ日も通常出勤な状況なんで、過度の期待はしておりませんがw


 次話以降は討論会ならぬ闘論会という流れなんですが、どういこうかなと悩み中です。


 随所に設定解説を挟むと流れぶった切り。


 でもゲーム内容がスカスカだと面白くなさそうで、人気ゲームを作るって言う作品のメインストリートに説得力無いかと。


ちなみに設定の一部ですがこんな感じです。




 RMT規制に対しては、プレイヤー間での直接トレードの概念を撤廃。


 ゲームの根幹としてプレイヤー間でのアイテムと金銭の直接交換が不可能となる仕様とし、厳重な登録制および脳内ナノシステムの個人特定機能と連動させアカウント譲渡を不可能としたシステムとすることで、物理的にRMTを不可能とする。




 既存ゲームにおけるスキルポイントや経験値も複合した総合システムとして、社内貢献度を設定する。


 導入を検討するこのシステムの特徴は、他者への譲渡不可能なポイントを元にする。


 ポイントを使用し装備、スキル、艦隊所属NPCをプレイヤーの選択によって自由に構築可能とする事で、プレイ可能時間やプレイスタイルによる変化に対応。


 貢献ポイントは全プレイヤーがスタート時に一万ポイントと仮に設定。


 このポイントはスタート時の基本的スタイルである、低価格帯の旧式戦闘艦3 中速偵察艦1、量産型補給艦1をもって小規模艦隊を構築した上で、低レベルの砲撃スキル、偵察 スキル、補給スキルを持つ乗員を搭乗させることが可能なポイント数となる。


 ただしプレイヤーはスタート時点で艦船リストから自由に艦隊編成を可能とする。


 基本スタイルの艦隊を率いて、所属会社から下される指令クエストをクリアして【企業力】を上げていく艦隊司令プレイは、任地の選択や、艦隊構成に重きを置いたシミュレーションゲームとしての要素を強めに。


 シューティング型の戦闘を楽しむ艦長プレイにおいては、スキルレベルにあわせて艦装備の変更が可能な幅広い換装システムを導入することで、足を止めての打撃戦や、高速離脱戦法など、戦闘自体の自由度を高めつつ、装備による変化の幅を広げやり込み要素を添加する。


 突撃型揚陸艦を用いた敵対勢力の要塞や資源基地への強行進入による破壊、占領や、逆に敵勢力から所属勢力の基地や艦を防衛する直接戦闘をメインにする戦闘部隊プレイは、リアルタイムストラテジーを基本とし、防衛側には防衛拠点設置やタワーディフェンス型ゲームの要素を組み込む。



 上記三つのスタイルにおいて挙げた功績により、プレイヤーはポイントを獲得する。 


 ただし、その取得ポイントは画一的な物ではなく、その状況状況に合わせ、設定される物とする。


 また初期ポイントである一万を最低ラインとし社内貢献ポイントは増減する物とする。


 ただし功績ポイントには増減するフリーポイントと、一度取得すれば固定される永久ポイントの二種類に分ける。


 フリーポイントは提示されているクエストをクリアして増減する。



 永久ポイントの種類としての候補を以下に挙げる。


 戦域におけるトップエース。


 敵惑星や要塞を陥落させ取得した攻略戦参加者。


 撤退戦における殿を勤め一定以上の味方を逃げ延びさせた者。


 全滅判定された戦場において生き残った者。


 大型恒星系を発見した者。


 大規模資源回収、生産設備生成に成功した者等々。


 社の業績に著しい貢献が有ったと見なされる場合のポイントは減少値の枠から外れる。

 



 功績ポイントを積み重ねることでより大規模で最新鋭装備で固めた熟練乗員を要する精鋭艦隊を組織することが出来るが、艦隊壊滅やミッションにおける失敗においてはその責を負い大きくポイントを下げる物とする。


 基本スタイルであるこの三つはクエストとしてのミッションを受けて行われるが、それ以外にも、プレイヤーの自主的行動にもポイントを設定する。


 高速偵察艦を中心にした艦隊を構成しての敵対勢力圏の威力偵察。


 安価な作業艦を大挙に率いて自社地域での資源基地構築。


 補給艦を多数連ねた未開地域への長期資源探索。


 デブリ回収による航路の安全確保。


 プレイヤーの独自行動にも各々ポイントを付与する。


 ポイント増減はその都度では無く、一定期間毎に変化するものとして、プレイヤー側の構成負担を減少させる事とする。


 1週間もしくは1月の間から選択。オープンβテストプレイを実地して、その際のユーザーの反響によってその時期は決める物とする。





 闘論の随所随所にこんな形で設定を挟んでいくと長いし、ぐだるの確定でしょうしw。


 いっその事、一話を説明書と銘打って、そこで書こうともでも思ったのですが、すでにタイトルからして小説じゃ無いなと。


 とりあえず模索しつつ書いておりますので、生存し更新停止はしていませんのでご心配なくw


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