表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/193

信頼する理由

 平時ならお前はポエマーかと突っ込みたい台詞も、茶化したり冗談を言わせぬ張り詰めた雰囲気をアリスが醸し出していた。


 ついぞ見たことのない真剣味を帯びた瞳でまっすぐに俺を見ているその強さが、アリスにとってこの話がどれだけ重要で大切かを教えてくれる。


 目は口ほどに物を言うって言葉は宇宙人にも通用するようだ。


 信用していない人間に対してこんな表情を向けるわけがない……と思いたい。


 なにせここはいくらリアルに見えてもVR。表情や仕草の微調整から、声や性別に合わせた身体の動きまで変えようと思えば変更できる。


 ましてや宇宙人のオバテクの代物ともなりゃ、それこそ見た目だけでは判別不可能だと思う。


 だからここはアリスの言葉ではないが、アリスを信頼する。素の表情、嘘偽り無いの言葉を向けてくれていると。


 どうにも疑り深いというか、捻くれている自分自身に呆れつつも、アリスの言葉を額面通りに受け入れ考える。


 比喩的な表現が多い辺りはアリスらしいと言えるが、細かな理論理屈は抜きにして結果だけを簡易に理解するならば、アリス達が持つディメジョンベルクラドの力は信頼できる存在と、それに対する信頼度によって増減すると。


 星々を行く宇宙船の空間跳躍の精度が精神次第ってのは、超科学なのかオカルトなのか微妙に悩む所だが、その根性論的理屈でいくならば気になる事が一つ。


 アリスは母親と比べた場合の自分の力の無さを気にしているように見えた。


 この場合アリスの能力は低い=俺はあまり信頼されていないという事になるのだろうか? 


 そんな疑問が一瞬胸に浮かぶが、すぐにその回答がバカらしくなり思考から消し去る。


この場の空気で、『お前って俺を信頼してないのか?』なんて気の利かない質問なんてしたもんなら、それこそ信頼度はだだ下がり確定だ。


なら母親の能力が突出していると考えた方が無難か。


 そうなると気になるのはアリスの能力が世間一般、他に存在するだろうディメジョンベルクラドと比べてどれくらいかだ。


 しかし真正直に聞くのも少し躊躇する。


 もしアリスの能力が平均から見ても低い、所謂落ちこぼれだったら……さっきまでのうだうだ腐ったダウン状態に逆戻りしかねない。



「俺と知り合ってお前の能力ってどのくらい変わったんだ。結構変化あったのか?」



 だからアリスが持つディメジョンベルクラド能力が、どの程度の物で影響を与えたのかだけを何気なく興味本位といった風を装って尋ねる。


 情報としては不十分だが、アリスの機嫌を損ねるよりはマシ。平均値は後でリルさんにでもこっそり聞けば良いと思っていたのだが、



「シンタ狡い。あたしがシンタを信じてないかもって疑った上に、あたしの能力が低いかもって思ったでしょ……素直に聞けばいいのに、なんでそんな回りくどいことするかな。変な気づかいされる方が嫌なんだけど」



 勘の鋭いアリスにはそんな俺の姑息な考えは、端からお見通しのようだった。


 一瞬だけでも抱いた疑念を感じ取り、さらにそこから俺の質問の真の趣旨に気づいてふくれっ面のジト目になり、頭のウサミミも威嚇するように立てている。


 うむ。勘がよすぎる相棒はこういうときには困る。  

 

 現役プレイヤー時代に背中を任せて戦ってた時は、ちょっとした仕草や短い指示で俺の意図を完璧に理解してくれた勘の良さは重宝したんだが、どうにもこういった腹芸の相手には分が悪い。 



「あー……わりぃ。許してくれ」



 見抜かれたなら言い訳がましい言葉を積み重ねても無意味。素直に謝るしかない。拝み倒すように両手を合わせてとりあえず謝る。


 外見だけなら十代半ばの少女相手に、いい年した男が頭を下げるというかなり体面の悪い姿だが致し方ない。

   


「都合悪くなるとすぐ謝るんだから。リル。航路図の地球時間で7年前からの部分をクローズアップ。ジャンプ毎に色を変えて表示」



 ついつい余分な気づかいを考えた俺にさらに気分は害したようだが、それでも律儀に答えてくれる辺りがアリスらしい。 


 アリスの指示から一秒の間もなく俺の目の前で周辺星図を表示していた3Dウィンドウの一部が切り取られ、新たに4メートル四方ほどの大きさで拡大表示された。


 アップ表示されたのはライトーン暗黒星雲を迂回する航路の中間地点を若干すぎた後半部分で、その部分に表示されていた白色の跳躍ポイントが赤青緑の三色に塗り直され再表示されている。


 

『跳躍順に赤、青、緑の三色を繰り返して表示させていただきましたが、変化をご理解いただけますでしょうか。ご要望とあれば、地球時間での日付と、距離の比較をしやすいように跳躍地点を繋ぐラインも引かせていただきますが』



「いえ、大丈夫です……アリスここか? 俺と出会ったの」



 気を利かせてくれたリルさんの申し出を俺はやんわりと断りながら、拡大されたマップをざっと見回した俺は見当をつけると、其処を指さしアリスに確認を求める。  


 その点の直前までは物差しで測ったかのように等間隔で並んでいた点の距離が急激に増加している。


 目算で三割増って所か。これだけ分かり易ければ間違いようはない。



「むぅ……じゃああたし達がコンビを組んだ日はどこでしょう?」



 つまらなそうに唇を尖らせたアリスは正誤については答えず、逆に新たなる問いを投げかけた。


 パッと見にはまだ許していない風なスタンスを取るアリスだが、本人の心を代弁しまくる頭のウサミミは機嫌のよい犬の尻尾のようにフリフリと左右に動いていた。


 当たってるか。単純な奴……でも、これで次の答えを外したら逆戻りするんだろうか。


 大外ししたらウサミミがどう変化するんだろうかという、どうでもいい興味がわき上がり、ついつい答えを外してやろうかという誘惑が俺の中に浮かぶ。

 


「……ここだな」 



 悪戯心を振り切った俺は先ほどの点から少しだけ腕を右にずらして、確信を持って3つ先の点を指さす。

 

 その瞬間、アリスのウサミミがパタパタと大きく動いた。



「うん……両方とも正解。よく判ったねシンタ。最初に指さしたのがシンタに出会った日。この日からねあたしの力は強くなっていったの。そりゃお母さんの足下にも及ばないし、銀河を股に掛ける惑星改造会社の代表としても全然足りないけど、同年代のディメジョンベルクラドじゃトップクラスになれたんだよ。これも全部シンタのおかげなんだから」



 実に嬉しそうな明るい笑顔を浮かべたアリスは大きく頷く。よし完全に機嫌は取り戻したようだ。


 アリスの言うことを自分なりに解釈すれば、プロクラスではないが、学生リーグのトップグループに上昇したって事だろうか?


 しかし喜んでいるアリスには申し訳ないが、この答えを素で外せってのは逆に至難の業だと思う。


 なんせ俺がコンビを組んだ日として指さした場所は、出会った日よりもさらにバレバレだっての。


 そこの地点からは跳躍距離が倍以上に伸びていた上に、さらにこの先も跳躍する毎に大小の差はあれど距離が確実に増加している。


 何かありましたって全力で意思表示をしているようなもんだ。


 ある意味単純なアリスらしい分かり易い物だが、逆にあまりの分かり易すさに一瞬罠かと疑ってしまったレベルだっての。



「ここもすごい伸びてるでしょ。ここはね。あたし達が初めてボス戦MVP取った日で……」



テンションが跳ね上がって周りが見えていないのか、そんな俺の呆れ交じりの心情には気づかず、アリスは跳躍地点を一つずつ指さしながら、どうして力が増したのかと思い出交じりにニコニコと説明を始める。


 

(三崎様。お嬢様が三崎様と出会われるまでの平均跳躍距離を1として、比率表示したリストをご用意いたしました。ご確認ください)



 はしゃぐアリスの邪魔にならないようにとでも気遣ったのか、リルさんが他者不可視チャットで俺にささやく。


 本当に気が利く人(?)だと感心しつつ、俺はアリスの視線に入らない背後に右手を回し仮想コンソールを展開。


 インベントリーに送られてきたリストを開いて地球時間での日付が入った内容にざっと目を通す。

 

 出会った日から最初の跳躍が1.29。


 相棒になって初の跳躍は2.14。


 俺とのコンビ戦闘とギルメン達の支援もあって最高累積ダメージをたたき出したアリスが初めてMVPを取った日が2.46。


 たった一年ほどの間にアリスの力は、今までの三倍近くまで跳ね上がっている事をそのリストは示していた。



「それでここは念願のギルド居城を購入した日だよ。もちろん覚えてるでしょ?」



「あ? ……あぁ、あったな。覚えてる覚えてる」

 

   

(ありがとうございます。少し聞きたいんですけどこれくらいの能力上昇って珍しいんでしょうか? アリスのテンション跳ね上がりすぎなんですけど)



 ウサミミをぶんぶんと風切り音がする位に動かし夢中になって説明するアリスに適当に相づちを返しながら、一目瞭然となったリストをくれたリルさんに感謝しつつ尋ねる。



(この短期間でここまでの上昇は珍しい部類には入ります。ですがそれ以上にお嬢様がお喜びなのは、先代の事故より三崎様達とお知り合いになるまでの数百年間。一切の能力上昇がありませんでしたので、その反動が大きいかと推測いたします)



(……それは他にパートナーになるべき人物があらわれなかったって事ですか? 信頼できる人間がいなかったって事でしょうか)



(ディメジョンベルクラドにとってのパートナーとは、ただ信頼する人物というだけではありません。波長とでも申しましょうか、上手く噛み合わさり組み合わさるそういった人物なのです。これはご本人にしか理解できない感覚ですので、多数のパートナー候補を見つける方もいらっしゃれば、お嬢様のように長い年月で三崎様が初めてという方もいらっしゃいます。思考に合わせようとしてみたり、精神データを調査し探索しても特定は無理でございますので、巡り会いは天運に任せるという類いの物でございます。おそらく三崎様ならこの感覚をご理解になれると思いますが)



 なんとなく、本当に何となくだがリルさんの言いたい事が判る。


 リア友にも他のギルメンでも気の合う奴はそれなりにいたり、いるが、アリスだけは何か別格というか違う。


 考え方も、戦い方も、性別やそれどころか生まれた星すらも違っているのに、どうにも気が合う。


 たまに揉めることはあるが決別することはない得がたい存在。それが俺にとってのアリスだ。



(えぇ何となくですけど理解できます……アリスにとって稀少な存在であるから、リルさんは俺に味方してくれると)



(はい。お嬢様にとって三崎様の存在は大きくプラスであると私とローバー専務は判断させていただいております。無論我々から見て未開星のご出自であることを考慮したリスクもございますがそれを補ってあまりあると私は考えており、逆にローバー専務はそちらのリスクの方が大きいとのご判断です)



(成人ってのは? アリスが前に自分が大人になれば何とか出来るけどまだ無理だって愚痴っていたんですが) 



(ディメジョンベルクラドにとっての成人とは、空間把握能力を補足する頭部機械を必要としなくなった状態を指します。幼年期においては空間把握能力の安定性や精度に揺らぎが多く機械補助が必須となります)



(じゃあアレは歩行器みたいなもんだって考えれば良いでしょうか) 



(そのようにお考えいただいても間違いございません。幼年期から成人期への切り替わり時には数倍から数十倍までの能力増加が起きたのちに能力が安定し成人期を迎えます。同時に成人以降はその最大能力値は減少することはあれど上昇いたすことはありません。成人期の能力値は幼年期に如何に伸ばしたかに比例いたしております)



 分かり易く理解するなら、ゲーム内の一次職、二次職の違いって所か。


 転職と同時に能力値は大幅アップ。ただし一時職の時に頑張っておかないとその伸びしろも小さいと。



(成人っていうのは個人差があるでしょうが、アリスにそれが訪れるのはまだまだ先だっと?)

  


(はい。ご推測の通りです。お嬢様が安定期を迎えるには平均値から見て後3,4期。地球時間で400年ほど必要かと判断しておりました)



(おりました? 過去形って事はその予想に変化があるって事ですか)



(パートナーを見つけられた方が早熟なされて能力値を大幅に伸ばし早々と成人期を迎えた例もございます。短期間で繰り返される能力値の大幅上昇はその典型的兆候でございます)



 パートナーを見つけて少女はオトナになりましたってか。


 エロイ響きを持つフレーズだが、内情は全く色気のないのが俺とアリスらしいといえばらしい。



(また一言にパートナーと申しましても個人個人で違いもございまして、出会った多くの方と気が合い気軽に仮のパートナーとしての関係を結び、正式なパートナーを選ぶ方もいらっしゃれば、広い宇宙を彷徨った末に唯一無二のパートナーたる人物に出会えた方。パートナーたりえる人物についに巡り会え無いまま、成人なされて能力が固定化された方というように千差万別でございます。私共はこのままではお嬢様はパートナーたる存在を得られず、低レベル能力で固定化される事を強く危惧いたしておりました。ですから私はもちろんローバー専務も三崎様には感謝いたしております)



 これがリルさんやローバーさんが俺に対して敬意を持って接してくれる理由か。


 そういえば先ほど読んだ社史では、アリスの遠いご先祖である創業者も身分差を乗り越えて結ばれたとある。


 この事柄からも、ディメジョンベルクラドにとってのパートナーってのは、俺が思っている以上に重要で意味のある存在って事か。理由としては十分に納得できるものだ。



「あと。ここ。ここもすごい伸びてるでしょ。ここも重要な日なんだよ。シンタ判る?」



未だ上機嫌に解説を続けるアリスは踊るようにぴょこぴょこ動くメタリックウサミミの切っ先を俺の方に向けてきた。


 っと、やべぇ。リルさんの話に意識がいってて聞き流しすぎた。アリスが指さす場所を見ながら、視界の隅でリストを動かし該当場所の日付を確認する。


 日付はおおよそ三年前。俺が大学卒業しプレイヤーを引退を決めた頃と被る。しかし何かあったかその近辺? 


 あの頃はホワイトソフトウェアに就職も決まった大学卒業間近のほぼプレイヤー引退時で、距離を置く為にゲームにもあんまり繋がずにいたんで、アリスの信頼度を伸ばすどころか、下げまくってただけのような気もするんだが。



「ん? シンタ何。覚えてないの」



 答えに詰まった俺をアリスが軽く睨んでくる。といっても、からかいの成分が混じっているのか、怒っているような雰囲気はない。



「無理言うな。日付が書いてもないのに、さすがに全部はわからねぇっての。お前よく覚えてるな」



 跳躍日時についてはしらを切りつつ、思い出せない事を素直に告げる。何せ本当に記憶を漁ってみても思い出せないんだから仕方ない。



「むぅ。しょうが無いなシンタは。ここはねシンタがあたしの無茶なお願いを聞いて助けてくれた時なのに。ほらシンタが引退しちゃうからって、いろんな人から結婚の申し込みが来たでしょ、あの時」



「あぁ、あれか。そういや困ってたな」



 アリスの指摘でようやく記憶が繋がる。


 有象無象からの結婚申し込みを防ぐ為に俺が選んだ手段は、アリスと婚姻関係にあるキャラデータを消さずに会社に頼み込んでアクセス不可な封印状態にしてもらうという、入社予定のGM候補だから使えたある意味裏技。


 ……このおかげで入社前に借りを作りすぎて、しばらく給料日に佐伯主任やら開発部の面々に奢らされたり、思惑を崩されたプレイヤー連中から本気の殺意交じりに某掲示板で叩かれたりしたんで、あまり思い出したくない記憶だ。



「ん。でもお前、この後もちょこちょこ伸びてないか? ここから後って関係ほとんど過疎ってたよな」



 リストとマップを見比べていた俺はある事実に気づいてアリスに問う。


 この辺りを境にGMって職業上、中立性を保つ為にアリスを含めギルメン連中とは距離を置いていた。


 だから信頼度を上げるようなこともなく能力は伸びていないと思ったのだが、前半と比べてかなり落ちてはいるが0.2や0.4等、少量ずつだが比率が伸びていた。



「……楽しかったから。何時もセオリー無視のとんでもない手で来るから、操作GMは原則非公開なのに中身がシンタだって判るでしょ。絶対ミサキだ。ぶっ殺してやるって、平時は仲の悪いギルドやプレイヤーも協力する対ミサキ同盟ってのもあったくらいなんだから。シンタも知ってるでしょ。『餓狼』と『Fire Power is Justice』なんかもシンタ相手の時は協力して、貴重な完全蘇生アイテムも惜しげ無くつかって、身代わりガードに入ってたくらい」



 アリスが上げた名は、狩り場などで揉めて、他の無関係なプレイヤーまで巻き込んだPK合戦に発展してた事もある犬猿の仲でよく知られていた大手ギルド達だ。


 俺が現役時代にはその二大ギルドは多数協力前提のボスキャラ戦でも、下手に担当地区が被ると互いの足の引っ張り合いで揉めまくっていて、とても協力プレイって雰囲気じゃなかったんだが、どんだけ嫌われてたんだよ俺。


 

「そんな同盟を作ってたのかよ……いや、まぁゲームを面白くするのがGMとしての仕事だから本望っちゃ本望なんだが。でもそれでよくお前からの信頼度が上がったな。お前、性格の悪い手ばかり使うって怒ってただろうが」



 忘れもしない最後となったボス『アスラスケルトン』の時なんぞ、怒ったアリスが直接怒鳴り込んできた位だってのに。



「判ってないなぁ……そりゃシンタの狡い所にむかっとするし、みんなものすごく苦戦するけど、その分シンタを倒したときはすごい盛り上がったの。みんな一斉に勝ちどきを上げたり、派手なスキル連発して花火みたいにして、お祭りみたいにバカ騒ぎになってたんだよ……シンタはあたしに最初に会ったときに言ってくれた言葉は覚えている?」 



 また試すかのような視線をアリスは俺に向けてくる。さすがに二連続では外せば、機嫌が悪くなるか?


 しかし今度のはばっちりと覚えている。なんせ楽しんでいるゲームをバカにしたかのような発言をしくさってくれたんだから、インパクトが強すぎて忘れる訳もない。



『ねぇ、そこの人。作り物なんでしょここ……そんなに一生懸命やって何が楽しいの?』


 

 つまらなさげな顔をしたアリスからのこの問いかけに俺の答えは、 



「お前、ウチのギルドはいれ。リーディアンの楽しさって奴を俺が見せてやる……だろ」



 当時の言葉を一文字一句間違いなく俺は口に出す。


 今思うと横暴にもほどがあると思うが、これがアリスがウチのギルドに入った切っ掛けだったりするんだから、世の中判らない。



「正解。だからシンタにその意識が無かったかもしれないけど、GMになってもゲームのおもしろさをあたしに見せ続けてくれてたのに変わりは無いでしょ。それがあたしがシンタを信頼し続けれた理由。納得できた?」



 ゲームが楽しかったから俺を信頼できたと。


 人の事は言えないがゲームが中心にあるのが、さすが元廃人と呆れるべきか感心するべきか。



「まぁな。にしてもアリス、お前かなり影響出やすいんだな……ローバーさんが言ってた能力の消失の可能性になる場合もあるのか」



 ここまでは全て+の方向に入っているからいいが、問題は-の方向に振れたとき。こんなに敏感に反応しているとなると、-方面での影響も多いと見た方が良い。



「うん……ローバー専務が心配しているのは、あたし達が失敗して地球を売却しなくちゃいけなかったり、借金の形に取り上げられて、地球人を除去しなきゃいけない時。その時はシンタに対して申し訳なくて、あたしはシンタを感じられなくなると思う。そうしたらディメジョンベルクラド能力は大幅減少、最悪消失しちゃうから」



「アリス。地球の所有権が他に移っても現状維持ってのは無理なのか、それなら罪悪感抱かなくてすむだろ」



「たぶん無理。買ってくれた人や企業にメリットが無いもん。それに地球文明は危険度レベルの判定ギリギリのラインなの。所有者の報告書一つで簡単に殲滅申請許可が通る位に攻撃的で破滅的って判断されるはずなの。原生文明生物がいなくなれば、保護規定からも外れて開発可能になるから、次の所有会社はそうするだろうし、もし地球を売って会社を救おうとする場合も高値にするにはそれしかないの」



「地球人の未来は宇宙人の胸三寸ってか……目的はレア資源狙いか?」



 先ほどの食事休憩中に聞いたアリスの話じゃ、太陽系のあちらこちらに文明レベルがブレイクスルーする為に必要なレア資源が手つかずで眠っているという。


 誰かが配置したんじゃないかというトンでも予想は無視するとして狙いはそちらと考えるのがベストか。



「それもあるけど。地球っていうか太陽系は位置的に中継星系として開発するには最適な場所にあるの。周囲に危険な場所も少なくて航行しやすいし、恒星も安定しているし、星系内に各種資源がバランスよく揃った開発にはうってつけの星系なの。今はシンタ達がいるから、原則周囲は立入禁止で星系外に特殊フィールドを張って内部からの観測をごまかした状態」



「ごまかすってお前。まさか見上げてる空が本当は違うって事か?」



「えと……うん。地球人が初期文明を持った1万年くらい前から、星の移動や開発の痕跡は消して、映像とか熱データ、宇宙線とか偽造してごまかしてるの」



 アリスは少し躊躇した後に申し訳なさそうにうなずくが、肯定しやがった。



「いや待て宇宙人。NASAやらJAXA。あと世界中の天文学者と天体観測少年に詫びいれろ。具体的には小学生時代の俺に謝れ」



 爺ちゃんに買って貰った天体望遠鏡で冬の夜空を見上げた懐かしくも美しい思い出が見事にぶちこわしなアリスの告白はさすがに予想外だっての。



「怒らないでよ。ちゃんと理由あるんだから。いきなり恒星が移動してたり、星より大きな船が観測されたらシンタ達もびっくりするでしょ。大昔にそれで狂乱状態に陥って、内乱が始まって滅んだ原生文明が結構あったから、恒星文明レベルに達するか、自滅する。もしくは周囲の星系や空間に影響を及ぼすような愚行をしでかすまでは、調査以外は不干渉が建前になってるから隠しているの」



 う……確かにアリスの説明は納得できる部分もある。


 遙か彼方に存在する未知の超科学文明。信仰の対象となるか、いつ攻め入ってくるかと恐怖の対象になるか。非常に微妙なラインだ。


 大揉めに揉めて荒れるよりは、隠して貰った方が親切っちゃ親切なのか?  


納得できる部分もあるが、どうにも納得いかない消化不良な部分に頭を悩ませていると、リルさんが、俺とアリスの間にウィンドウを表示した。



「ご歓談中失礼いたします……ローバー専務よりご連絡がありました。三崎様にこなしていただく課題が決まりましたので、入室許可の申請を申し込まれています」



 ようやく来たか。時刻は地球時間で午後十時。かれこれ半日近く待たされていたことになる。


 難航したのか、それとも合格させない為によほど意地の悪い設問を考えていたのか。 


 ついつい雑談交じりになっていたが、アリスやリルさんからある程度の情報、知識は得た。 些か心許ないが後はこれを如何に武器にするかだ。



「シンタ。許可していいよね?」



「おう。いつでも良いぞ」



 俺がうなずくとアリスは短く深呼吸してからウィンドウに表示されていた入室許可申請のボタンに軽くタッチした。



「お二人とも大変お待たせいたしました……早速ですが三崎様にしていただく課題をお伝えいたします」



 ウィンドウが消失すると共に、岩石で出来た棒といった風体のローバー専務が姿を現す。


 一切の前置きを排除していきなり本題から入ろうとするあたりが合理的な性格って事か。 


 その容姿や声からは感情が読み取りにくい相手を前に、俺は軽く息を吸い意識を落ち着かせて次の言葉を待つ。


 どんな課題が来ても驚きは表情に出さないようにと気を張る。


 すでに駆け引きは始まっている。


 開発に向いた星を見つけてこいか。それとも会社の借金をどうにかしろという無理難題か。


 何が来ようとも、何とか知恵を振り絞って考えてみよう。他ならぬ相棒アリスの為だ。



「お嬢様はご存じですが現在、我が社はこれより先の方針を巡り各部署での意見が対立し、業務に支障をきたしております。そこで三崎様には社内関係を円滑に進める為に、慰労会を開催していただきます。その成果によって三崎様の資質を判断させていただきます……お二人ともよろしいでしょうか」



 だがローバーさんから伝えられた課題は、気負っていた俺の予想からは大きく外れた内容だった。


某サイト様の接続障害の復旧を待っておりましたが、まだ続きそうなのでこちらで先に上げさせていただきます。

復旧後あちら様にも投稿予定です。 


7/24 コピペミスって削除していた会話部分を追加いたしました。


 具体的には

 「うん……両方とも正解。よく判ったねシンタ。最初に指さしたのがシンタに出会った日。この日からねあたしの力は強くなっていったの。そりゃお母さんの足下にも及ばないし、銀河を股に掛ける惑星改造会社の代表としても全然足りないけど、同年代のディメジョンベルクラドじゃトップクラスになれたんだよ。これも全部シンタのおかげなんだから」


 この部分のみですが、この先に関わる部分だったので追加いたしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ