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C面 立ち合いは強く当たって、あとは流れでいきましょう

「状況や過去の経験を反映できる高い自己判断能力を持つ新型AIを、プレイヤーと同等の権限を持たせゲーム内に投入することで、不特定多数のプレイヤーとの交流を行い、さらなるAIの成長を促すことが今回の企画のコンセプトになります」



 SNPC。シークレットノンプレイヤーキャラクターと名付けた新型AINPCの簡易的な仕様や導入目的などをアリスが説明し終える。


 ある程度の差分化された会話テキストがあるとはいえイベント進行用に基本行動が設定されたイベント用NPC。


 ゲーム内店舗の売り子など特定職種に特化し応対する文字通りの接客NPC。


 プレイヤーの行動を学習し、的確な対抗策や、行動が有効とみれば模倣を即座に繰り出して、オープニングイベントから猛威をふるった数多のモブNPC。


 それらの現在稼働中のNPCも、過去のVRMMOのNPCと比べて、相当にフレキシブルな反応を見せる高性能な物だったが、今回投入する新型NPCはそれよりさらに一段踏み込んだ物となる。


 喜怒哀楽。基本的な四大感情を行動に反映させて感情表現をより豊かに、そしてその影響がゲームプレイにも如実に表れる様に調整した特性仕様。


 最も感情表現に力を入れたからといって、それがゲーム内で必ずしも無双が出来る高性能って訳ではないのが最重要ポイント。


 おだてられて喜んで調子にのって、実際の能力以上の力を発揮するかもしれないが、足下がお留守になって罠にはまるパターンもあり。


 馬鹿にされあおられたら怒りにまかせて、無謀にも突っ込むかもしれない、逆に肉を切らせて骨を断つ覚悟を決めたりもする。


 他者から責められて悲しみを覚えたら、自分が悪かったのかと悩んで集中力を欠いて不意打ちを食らう事もあるだろうし、逆に迷惑をかけてしまったお詫びにと奮起してめざましく活躍するかも知れない。


 まだ誰も知らない稼ぎポイントを見つけたら、他人に積極的に教えて賞賛をもらって喜ぶか、それとも情報を隠して独り占めしてほくそ笑むか。


 小難しい説明を抜きに端的に言えば、人間くさい挙動をよりマシマシにして、理屈じゃなく感情で動いて、予想外の手柄も立てりゃ、ミスもする。


 そんな人間くさい高性能AIを、プレイヤー側からは判別できないようにして導入しますというのが今回のコンセプトだ。


 人の挙動に極めて近い行動をするAIってのは絵に描いた餅じゃない。実際に今説明した高性能AIの雛形は開発済み。


 彼らはあのゲーム内宇宙世界を自分たちが生きているリアル世界だと信じ込み、思い込んで活動を続ける。


 大量に増えていくSNPCの増加に合わせて、リアル宇宙人プレイヤーが混在していけば、少し言動が変わったあいつってSNPCだろと、地球人プレイヤーを誤認させるのが狙いの一つ。


 ここ最近高いAI技術を持つ企業買収やら共同研究を持ちかけたりといろいろ仕掛けていたのは、ここがぽしゃると計画が破綻しかねない重要ポイント。


 だから上手いこと開発が進んで、望み通りの人間くさいAIは完成した。


 とりあえずその試作AI一号の設定を社長権限でアリスが指定したんだが、ドジで失敗は多いが健気で一生懸命なタイプのお手伝いAIロボというやけに具体的な設定を、これぞ王道だと力説してオーダーしていた。


 いやそりゃ設定は自由だが、ミスが許されない分野の介護系ロボにドジ機能を追加する意味とは……

 

 そんなポンコツロボなんぞ即座にリコールだろと、正当な突っ込みをしたら、浪漫が判ってないとアリスはご立腹でグーで殴りやがった。


 リルさんという高性能AIと呼ぶのも失礼に当たる超AIの有能さに普段から甘えてやがるくせに、志向の癖が強すぎる奴だ。


 ともかく俺ら夫婦の価値観の違いはともかくとして、実務的な面としては問題ありでも、シミュレーション分野において人と変わらない反応を示すAIがどれだけの利便性と価値を持つかは、声を大にして説明しなくても想像は出来るだろう。


 運営側視点から見れば、AIをより成長させるために不特定多数のプレイヤーと接触させる絶好の機会。


 しかしお客様側のゲーマー目線でみれば話は変わる。


 そんな振れ幅の強いAIをゲームに導入してどうすんだと。


 これが敵対キャラ側のAIなら、予測が難しい無軌道な挙動をして対戦が楽しめるかも知れない。


 だがそのAIをプレイヤー側と同じ条件でプレイヤー側に立たせた上に、プレイヤーからは判断できない仕様にする。


 それはプレイヤー目線からは、単純に知らない他人プレイヤーが増えたことと変わらず、むしろリソース争奪戦がより増すことでプレイヤー側にデメリットしかない。


 実際ここまでの説明を一般プレイヤーに説明しても、それがどうしたとピンとこないだろう。


 だがここにいるギャラリーは、先ほど俺が遊んできたエリスの反応や言動を見ているので、エリスが今の説明にあった新型AIではないかと誤認し始めている。


 姉貴や後輩どもは間違いないだろうが、問題は美月さんと麻紀さんだ。


 彼女達はエリスと直接接触しているので、僅かな差異を覚えている可能性もある。


 ここからが肝だ。その差異をより強めることが俺の狙い。



「基本説明はここまでになります。ここから先は守秘義務に抵触する部分に当たるのでシンタに交代します……もう一度言いますけど秘密厳守でお願いします。中途半端に広まると、ものすごくうちやホワイトソフトウェアのイメージ悪くなりそうな計画ですから」



 社長の仮面を外したアリスが、両手を合わせて心底申し訳なさそうに頭を下げると、姉貴達ギャラリーの警戒度がその一言で高まったのが肌で感じた。



「失礼な。全人類に希望を与えつつ、VR業界に革新を起こす一手のつもりなんだがな」



 アリスから引き継ぎつつ姉貴達へとつなげている通信回線をシークレットモードへと移行。秘密保持機能を最大まで上げて準備完了。


 宇宙側のお客様をこちら側の味方に引き込むという、裏にして究極の目標もあるが、デメリットを感じているお客様の感情を無視して強行なんぞしてたらGMなんぞ名乗れない。


 プレイヤーを楽しませてこそGMだ。


 いつもなら会議での発言となればちっとは畏まって見せるが、ある意味今は身内のみ。


 ならばあえて普段通りでいってみようか。俺が大ボラをついていると姉貴達に見破らせるためにも。



「高性能AIを導入した先の目標をまず伝えとく」



 ご観覧の皆さまのご期待に答えるため、俺は腹に一物ありとばかりに、にやりと笑ってみせ、



「その狙いは4つ。まず一つ目は新型AI人格の人権擁立運動の発生。二つ目は人権を得たAIの為の完全人造肉体製造および脳内ナノシステムを用いた意識転送技術の開発許可取得」



 ゆっくりと指を立てながら、非現実的なSFじみた案件をまずはぶち上げると、さすがに予想外だったのざわつく。


 しかも鉄面皮が常の親父が目を丸くするなんて初めて見たな。


 だがこいつはまだまだ序の口。本命はこの先だ。



「三つ目は、二つ目で確立した肉体製造および意識転送技術を、人間に用いた不老不死技術の確立。先にAIのリアル降臨でハードルを下げておいて、倫理観やら宗教的拒否感やら何やらを超えていくって訳だ」



 人造肉体に意識を転送して不老不死。


 使い古されたアイデアやネタだが、地球では映画や小説の中のお話で、現実感が無いにもほどがある話……もっともあちらじゃ普通の技術で何より俺自身がその実例。


 だからこれは嘘だけど嘘じゃない。


 ざわめくを通り越して、声を失った観衆をゆっくりと見渡していく。


 不老不死技術を開発しますなんて、詐欺も良いところの荒唐無稽な話。


 だがそこにリアリティを生み出すのは、人と変わらない反応を示すAIを実際に生み出す高い技術力。


 もしかしたらと出来るのではないかと思わせるだけの小道具。


 俺の話に一番衝撃を受けているのは、美月さんと麻紀さんの二人。


 いろいろ思い当たるところがあるだろう二人に打ち込む楔がしっかりと刺さった事をその青ざめた表情や硬直した身体から察してから、俺は四本目の指を立てていく。



「以上三つの技術を餌にして、今の地球の技術で実現可能と誤認させた不老不死技術開発と引き替えに、政財界のVR規制推進派のお歴々を切り崩して、VR規制法を撤廃にしてくずかごに叩き込むのが今回のメイン目標だ」



ちゃぶ台返しで全てをひっくり返した俺は、唖然としている皆の前で心底楽しそうに笑ってみせる。


 真面目に聞いていれば聞いているほど、拍子抜けする、損する、巫山戯た話の持って行き方はもちろんわざと。



「……くくっ! いやーその反応良いテストになったわ。権力者相手に不老不死の売り込みなんて、それこそ古代から手垢のついた詐欺ネタなんだが、今の話の持って行き方次第じゃ規制派の連中もだませそうで安心したわ」



 うむ、我ながら性格の悪い小悪党演技が堂に入ったもんだ。


 自画自賛していた俺の頭を軽くこづいてアリスが止める。



「調子にのらない! 全くシンタは! なんでわざわざ悪ぶる感じで巫山戯るかなぁ、最初に計画たてたときはもっと真面目な計画でしょ。やり直し」



 ぷんすかと怒っているアリスだが、これは打ち合わせ済みの演技。さすがロープレ派筆頭。


 ここで一度ガス抜きしてヘイトを下げつつ、今の話を印象に残すことは成功。


 今話した不老不死技術は倫理観やら宗教観なんやら面倒な感情論を抜きにして、技術面だけでみてもまだまだ地球では不可能な技術ばかり。


 だが宇宙では違う。当たり前の技術。

 

 地球で死を迎えたあとに迎える宇宙での第二の生の始まりを、地球人がスムーズに受け入れるための意識改革のステップ1。



「へいへい。掴みをインパクト重視にして話に引き込んだだけなんだけどな、じゃあおふざけ抜きで解説させてもらいましょうか。高性能AIを導入する目的は、端的に言えばあっちもまたリアルだって意識してもらうってのが主な目的だ」



 さてここから先がゲームマスターの腕の見せ所。


 プレイヤーさん達がみせるアクションに合わせて、ストーリーを組み立ててみせよう。   

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