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C面 ポケットはなくともソノウソホント使いはここにいる

 うむ。やはり姉貴には頭が上がらん。どうも叱られると白旗を揚げたくなる。


 ついびくっとなった反応をごまかすために肩をすくめて、余裕ありげに笑っては見せたが、姉貴に効いているかは微妙だ。


 実年齢でいえば70才をとうに超えたというのに、未だに姉貴に弱いってのは情けないちゃぁ情けないが、精神固定している影響を除いても、ガキ時代になにかやらかして怒鳴り声と一緒に拳骨が飛んできたトラウマを思い出すからしゃーなし。


 拳骨なんぞこれが相手が親なら今のご時世なら下手すりゃ体罰扱いだが、姉貴相手だと姉弟喧嘩扱いになるのは些か理不尽な気がする。


 もっとも当時の周囲の反応は俺が悪いで10対0で一致してたので、自業自得な気もするが。


 ただでさえ姉貴相手のタイマン勝負じゃ分は悪いのに、画面の向こうには今のところ動いていないとはいえ、同じく俺の嘘を見破りやすい親父、お袋も降臨中。


 隠し子発覚。家族会議勃発とくりゃピンチもピンチ。


 さらにはリアルの本社会議室の壇上に立つ俺の周囲には、我が姪っ子の陽葵は当然のことに、美月さん、麻紀さんを筆頭とした高校生組と羽室先輩や、カナ達後輩組とギャラリーには事欠かず。


 さらに本社会議室を極々私用で借りる代わりに、暇じゃないはずの大磯さんやうちの会社の先輩ども、果てには社長まで別室やらVR空間側で視聴中と。


 見世物感は強いが、むしろ複数対象を攻略する良い機会と思えば悪くない。


 難易度倍増。だが高難易度でクリアとなけりゃボーナス倍増はゲーマーの常識。


 それにこの事態は元々想定していたピンチの一つ。


 だから出し惜しみは無しで、俺も最強のカードを……【相棒召喚】を発動が出来る。



『三崎様大変お待たせしました。アリシティア社長のスケジュール調整を最大限しましたが、地球での滞在時間は30分が限界となります。時間流遅延解除は、予算と機材の関係でサラス経理部長より却下されています』



 リルさんからメッセージと共に、アリスの滞在可能残り時間を表示したタイマーが視界の片隅に現れる。


 絶賛監査中ということもありディケライアの最高責任者のアリスは、銀河時間でも元々分刻みのスケジュールで動いていたが、時間の流れが遅くなっている地球に合わせるとなると、30分の時間を急遽確保するのは至難の業。


 最終手段の時間流遅延解除は使用不可能な状況で、かなり苦労してくれたようだ。


 メッセージと共に送られてきた変更スケジュールを確認すると、シャルパさん達監査チームには今は予定を変更して、火星で生活している再生地球人組の生体調査と聞き取りに廻ってもらっているとのこと。


 監査スケジュールのいきなりの変更なんぞ普通は認められないが、どうやら俺がこっちに来ている間に不測の事態発生が……っとこりゃアリスの豪運発動か。さすがラッキーウサギ娘。


 そりゃ最優先で今現在いる宇宙側にいる地球人の希少サンプルを調べ始める。


 レンフィアさんとこの見習いディメジョンベルクラドの一人が火星訪問後、急激に次元探知察知能力を上昇させ、その才能を開花させ始めたそうだ。


 ……すなわちこの宇宙における道しるべたるパートナーを見いだした可能性が極めて高いとなりゃ。


 しかもその情報が噂レベルで流れるとともに、様子見していた残り9割のフォルトゥナ乗員の中から火星への上陸許可申請が爆増中。


 もちろん全員が全員見習いディメジョンベルクラドって訳じゃないが、フォルトゥナは宇宙最大運送会社本社であり、その乗員は最大手企業本社勤務のエリート揃い。


 パートナーとなり得る地球人の生態やその思考を、業務上の知識として知りたがるのは当然。


 監査対象変更に、急激に増えている滞在希望要請で、火星側は大わらわになっているようだ。


 正直キャパオーバーな部分はあるが、この土壇場でラッキーイベントが発生したのはありがたい。


 そして実例として観測されて地球人の存在価値が跳ね上がる可能性が高いとなりゃ、ますますこちらは負けられない。


 選択肢を増やすため、お客様を増やすため……


 

『あちらの皆さんに調整ありがとうございますと伝えておいてください。とりあえずうちの家族対策はアリスがいりゃどうにかします。切り札も一つ、二つは用意してますし』


 

 高速思考でリルさんに答えながら、右手を軽く動かして仮想コンソールを叩き、アリスからの接続要請を承認。


 俺をメインに映していた画面が二分割されその横に並ぶように地球側での茶褐色髪のアリスが表示され、同時に本社会議室の立体映像機能が発動してリアルの俺の横にもアリスが現れる。 



「ごめんシンタお待たせ。ちょっといろいろ面倒なことになってて予定よりだいぶ時間かかちゃった」



 開口一番、両手を合わせて謝ってきたアリスは、どこか嬉しそうだ。


 そりゃそうだ。地球人の俺を見いだした自分に次いで二例目、いやエリスも含めれば三例目の兆候が出てきたとなれば、流れはこちらに向いてると判断しても当然。


 もちろんそれがさらに面倒を引き起こす可能性はアリスも判っているだろうが、連続イベント発生とくりゃテンション上がらなきゃゲーマーを名乗れねぇ。



「なに気にすんな。うちのおっちょこちょいな姉貴が勘違いで騒いだのが原因だからよ。昔から俺関連じゃ大げさに騒ぐブラコンなんで許してやってくれ。わざわざ忙しいアリスを呼び出す羽目になるなんてなぁ。迷惑を掛けて悪い」



 俺がわざとらしくアリスに対して優しく接してみせると、画面の向こうで姉貴が眉を一瞬しかめたが、何も反論はしてこない。


 挑発には乗らずか。


 俺の言動にかなり警戒しているご様子。さすが俺の姉貴だ。


 むしろ俺の見せた優しさに引いて慌てたのはアリスだ……失礼な。



「ちょっ! 葵さん違いますから! あたしは迷惑なんて思って思ってませんから! ちょっとシンタ! なんでわざと波風たててんの!?」



「そりゃ母親の教育のたまものだ。結婚したら自分の親兄弟より、嫁さん子供を大事にしろってのがうちの家訓だからな」



『アリシティアさん大丈夫です。シンの手口だって判ってますから。それはそれとしてお忙しい中、お手を煩わせ申し訳ございません。うちの愚弟に至らぬ所あれば遠慮無く締めてください。ネタが無ければいくらでもご提供しますので』



 慌てるアリスににこりと微笑んで返した姉貴は、あくまでも標的は俺に定めていると宣言してのける。


 しかもブラフじゃなく、俺の過去のやらかしを姉貴がいくらでも握っているのもまた事実。


 隠し子疑惑にごまかしや嘘はゆるさないって紛れもない宣戦布告だわな。



「というわけで姉貴、あと親父、お袋。最初に改めて言っとくぞ。業務上の守秘義務があって伝えられなかったが、姉貴達がどう思おうがエリスは、俺とアリスの間に生まれた可愛い娘だ……ただし地球上には”今”は存在しないけどな」


 

 では敬愛する姉貴様のお望み通り、紛れもない本心で家訓に従って宣戦布告を返してやろう。


 そう俺は嘘は言ってない。エリスは地球には今はいない。火星だからな。

    

 さて久しぶりの姉弟喧嘩……楽しみますか。

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その嘘っぽいことホントでしたか 状態な件
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