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C面 弁解は罪悪と知る男

 太陽が頂点に登り切る前に町内どぶ清掃は、予定時間を大幅に繰り上げ無事終了。


 投入した後輩および高校生組という支援戦力が大きいが、乱入してきた姪っ子の効果もなかなか。

 

 もちろん陽葵本人がやる気があっていくら楽しげだろうと、所詮は小学生女児。任せられる仕事は限られるんだが、その神髄は物怖じしない陽キャがもたらすバフ能力。


 ちょこまかと動いて少しでも手が空けば、あっちの輪に加わり、こっちに手伝いと駆け回り、

最近娘さんが反抗期な近所の少数精鋭若旦那衆やら、サンクエイクの影響で飛行機が使えず遠方の子供やお孫様らが気軽に来られない年配連中の心を、この短時間でがっしりと掴みやがった。


 そしてこんな小さな子が、俺らの街の美化清掃を一生懸命やってるんだ、こっちも負けてられんと張り切るのがうちのご近所様の良いところ。


 おかげさまで予定以上に綺麗になって、時間も早く終わりと良いことずくめだが、張り切りすぎて今夜から明日に掛けての筋肉痛がちょい心配。


 実際腰をさすっている人が何人かいたんだが、



「あ、これ使ってみて。うちのお宿の温泉を再現した試供品~! うちのばーちゃんが腰を痛めたときも、3日ですぐに良くなったから効果有りだよ!」



 堂々と実家のみさき屋の宣伝を敢行する陽葵が、ポケットから温泉の素を取り出して名刺代わりに配って廻る。


 リサーチおよびさりげない気配りで、お客に思わず宣伝させる戦法が得意な姉貴と違い、あの大胆なダイマは菊代おばちゃんの仕込みか。



「ねぇ三崎君。陽葵ちゃんのお婆さまって……女将さんだよね」



 何度かご利用いただいているんでご存じな大磯さんの声を潜めた問いかけに、俺は無言で頷く。


 たしかに祖母と孫なんだが、それを額面通りに差し出すのは詐欺ってもんだ。


 ばーちゃんが腰を痛めたって聞かされれば、結構なご年配を想像するってのが常識だ。

  

 しかしうちの姉貴も大学を出て即女将修行を兼ねて嫁いだんで結婚は早いが、陽葵の祖母こと菊代おばちゃんなんぞ、陽一義兄さんを産んだのは16才の頃で、親戚一同からは犯罪臭めいていると評判。


 もっとも証言者全員一致で加害者は当時女子高生菊代おばちゃんで、被害者が現みさきや経理担当真面目一筋8才上実典おじさんと語る辺り、なにやらかしやがった菊代おばちゃん。

 

 ちなみに陽葵が言う、ばーちゃんが腰を痛めたのは、地球時間で3年ほど前に町内温泉旅館対抗草野球大会で逆転ツーランを打ったあと、ダイヤモンドを一周してきてホームにバック宙インして滑ってこけて腰を打ったと姉貴が言っていた件だろう。


 確かその一週間後にママさんバレーの大会に出て優勝をかっさらったので、後遺症も無かったご様子。


 んな人をばーちゃん扱いする度胸は俺にもないのだが、実の孫である陽葵にとってはばーちゃんはばーちゃんなのは事実。   


 問題はその事実を、意識しているか、していないかだが……


【聞き耳注意】


 ちょっと姪っ子の将来を心配して考えていると、視界の隅に小さな警戒ウィンドウが表示され、天空からのリアルタイム空撮映像が出現する。


 一見青空。実は惑星規模な投影画像を映し出し地球を覆い尽くす天蓋には、時間流やら惑星環境調整以外にも、全地球規模の監視システムの役割が与えている。


 こちらの動きを探ろうとしている各国政府機関や、ちょいとやばめなシンジケートやらも含んだ地球人類全員をだまくらかそうってんだ。当然といえば当然の備え。


 しかし今回の警戒警報を鳴らしたのは、このクソ暑い日でも黒マントな変わり種ご令嬢だ。


 いつの間にやら植え込み伝いに俺の死角に廻り、ぎりぎりこちらの会話が盗み聞きできる位置まで、麻紀さんが接近していたようだ。


 西が丘グループのお嬢様の1人のはずなんだが、どこで身につけたんだよそのステルス技術。それともゲーム内でか?


 さてここで不自然に会話を打ち切るのもアレだし、聞き耳警報が鳴らすほどまでに接近したんだGMとしちゃ、ロール成功判定をださなきゃいかんな。


 さてどの情報を報酬にするか……


 問題は大磯さんが今は会社外で記憶限定処理状態。宇宙側の事情や知識の大半が封印されているから、下手な情報開示は会話に齟齬が生じる可能性もある。



「さすが三崎君の姪っ子ちゃん……あの年で嘘は言ってない商品アピールって」



 俺が支払い報酬に頭を悩ませていると、その大磯さんは若干不本意な御判定をくださりやがる。


 しかしこいつは使える。



「そこで俺を引き合いに出さないでください。陽葵の成長には俺はノータッチなんですから。姉貴と菊代おばちゃんらです」



「いあーでも、天然詐欺師っぽいところ三崎君譲りでしょうがどうみても」 



「不安になること言わないでください。”陽葵を参考”にエリスを育てたのは大磯さんも知っているでしょ。将来が心配になるんで」



 俺がエリスの名を出した途端、カサリと背後で梢が鳴る音が微かに響き、次いで視線端の監視映像には、麻紀さんが素早く撤退する姿が映し出される。


 さて今の一言をどうプレイヤーさんらは捉えるか。


 まぁ嘘は言ってない。そりゃそうだ。


 嘘や言い訳は良くない。特に娘に関しては。


 アリス曰く【弁解は罪悪と知りたまえ】って所か。


 初めての子育て。右も左もわからないので、姉貴夫妻や陽葵を思い出し思い出し参考にさせてもらいつつも、絶対地球の時間凍結解除をしてやろうと奮闘して来たのは事実。


 だけど記憶限定状態での大磯さんの認識では、陽葵を参考にしてエリスが”形成”されている事になっている。


 そのギャップがこの後の対家族戦に向けての鍵となる。


 そして美月さんらへと突きつける最終クエストのスタートにも、もってこいだ。


 実際にエリスと絡んでいた美月さん麻紀さんらには、俺の味方は不本意かも知れないが、まずはこっちの武器となっていただきましょうか。



「うぁ……なんかまた悪いこと考えてるでしょ三崎君」



 そして大磯さんは、先ほどまでの陽葵の嘘がない嘘にはまだ可愛げを感じていたようだが、俺の嘘がない嘘にはどんびきしていやがりました。

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[一言] 三崎族であったか……(おそろしい子!の顔をしつつ) い、今少し時間と予算をいただければ……
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