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C面 ドット絵で描く宇宙航路

『プラド方面チャーム成功!』


『レイレア星域もバフかましオッケー!』



『トラトラトラ! リング星雲周辺国家も十分ヒート!』



 続々と会場全体に散らばったアリスから報告が上がってくるが、一々どのアリスも小ネタを挟まないと死ぬ病にかかっているんだろうか。


 まぁ、そっちの方がアリスらしいって言えばアリスらしい。


 下手なトラウマ発動して真面目モードなら心配だが、あいつが楽しんでいるなら経過は順調とみていいだろう。


 自由討議は既に開始から2時間半を超え、残り時間はあと30分を切った。


 それでもまだ俺は外縁部から動かず、正確には動けず待機中。


 周囲から見れば余裕綽々に見えるようにしているが、内心焦りまくりだ。


 気分的にはアレだ。あと少しで納期だってのに、まだ全部が出そろわないから、ひたすら待ちの状態。


 いつでも動けるように、攻略ポイントへの目星をつけているが、相手はナマモノの議員さん達。いくら分身体が多くいようとも好き勝手に動いてるんで、効率的なポイントは目まぐるしく変わっていく。


 心情的、そして経済的、政治的な様々な理由を含めて、現時点でこっちの提案に乗ってくると確定できる勢力は全体の数パーセントって所だ。


 ぱっと見にも少ない上に、そのすべてがメイン流通網から大きく外れていたり、難関宙域が多く交通の便が悪かったり、自勢力に属するディメジョンベルクラドが能力の低い少数、もしくは、大手国家からの貸し出しという辺境の困窮星域。


 経済的にかなり追い込まれていて、藁にも縋る思いを持つ星系国家ばかりだ。


 だけど辺境は逆に言えば、まだ星系内開発が完全に進んでいない資源国家の一面も持っている。


 もちろん星系内にたいした資源価値を持たないありふれた物質で出来た惑星、衛星が多い星系国家も数多い。


 だけどそれらの星系国家はどこも、今俺たちが喉から手が出るほどに欲しいある物を持っている。


 太陽、恒星だ。恒星は巨大なエネルギーの固まりにして、この広大な宇宙でひときわ目立つ光量と重力を持つ道しるべ。


 もっとも信頼する相棒がかつて語った言葉を、俺は思い出す。


 その言葉を元に描いた構想は現段階では絵に描いた餅。それをリアルに持ってくるための最終兵器を俺は待っていた。


 時間がじりじりと減り残り15分を切ろうかとした所で通信ウィンドウが開く。



『お待たせしました三崎さん。経理部……いえ、私達の総力を結集して作成した予測データです。一切の私情を抜き、厳しく見積もらせていただきました。私の印は入れておきました。少しはお守りとなるでしょうか』



 ディケライアの金庫番。経理部長のサラスさんが、珍しく顔に疲労感を滲ませながらも、満足げな笑顔で大規模なデータを送信してくる。


 中身を確かめる暇もないし、第一俺がすぐに理解できる簡易な内容でもない。


 それこそ化け物じみた知識量と理解力と想像力、そして決断力がなければ、受け止めきれないだろう。


 だから俺は、サラスさんを、仲間を信じる。きっと俺が望む以上の物が仕上がっていると。



「資料を作り出すために予定以上に加速空間を使いましたので、しばらくは休暇、休憩をリアルタイム基準としますので、その分社員の福利厚生企画をお願いします」



「了解です。考えておきます。んじゃ一気に刈り取り開始と行きます!」 



 お礼を言う時間ももどかしいが、深く頭を下げて、心からの感謝を伝えておく。


 あのサラスさんがかなりの疲労感を見せているから、下手したら高加速空間内で数ヶ月ぶっ通しとか無茶しているかもしれない。


 この先似たような無茶をいくつ頼むかもわからないんだ。無駄にヘイトを上げないために、お礼とお詫びは迅速にってやつだ。



「リルさん! 転移座標D145LW11!」



 そのまま議会場をリアル更新中の見取り図を確かめ、もっともこいつが有効的なポイントを指定し、俺は狩り場へと飛び込んだ。














 臨時議題とはいえ、この宇宙における交通流通網の根幹を担うディメジョンベルクラドに関する重大な報告となれば、議会が近年まれに見る白熱した討論が行われるのは必然。


 だが大半の議員達にとっては、例えどれだけ大きな恩恵であろうとも直接的な利益を狙うよりも、大国や大手派閥が得た利益のおこぼれに、いかにありつけるかが重要になる。


 おこぼれと言ってもその規模は、自分たちが属する星系国家の運営を左右しかねない重大事項。


 確かにディケライアが示したディメジョンベルクラドの能力強化実験は魅力的だが、目立つ真似をして、大国の不興を買い目をつけられては、この先どれだけの不都合が生じるかわからない。


 目先の利益ではなく、その先、長い目線で推し量るために、ディケライアの現社長であるアリシティアが繰り出す様々な論戦に対して、見に徹していた議員達の元に楔が打ち込まれたのは、残り15分を切ろうかという所であった。



「失礼します。大変”お待たせ”いたしました。追加資料ができあがりましたのでどうぞ”お二人”でご覧ください」



 いきなり転移出現したその男は、含みを持たせた笑みを浮かべながら一礼すると、この広い球形会場で偶然にも隣り合っていた二人の議員に大規模データを押しつけると、碌な説明もせず、そのまますぐさまに別の場所へと転移をしていった。


 現れたは一瞬。だがその姿形は見間違えるはずもない。


 この銀河を統べると行っても間違いではない、星連議会へと身1つで乗り込んで、大規模な裏工作を仕掛け、好き勝手にかき乱して、保守系議員達に最大の警戒をさせることになったミサキシンタに他ならない。


 周辺にいた議員達のみならず、彼らがその討論を見物していたアリシティアと対峙していた有力国家の議員さえも思わず討論を止め、つい今し方消え去った男の出現位置を見て、次いで意味ありげに資料を渡された二人へと目を向ける。


 唯一アリシティアだけが口元に笑みを浮かべていた。まるで勝利を確信したかのように。思わず見惚れてしまうほどに勝ち気な笑みを。


 今回はアリシティアが表立って動いている中、残り時間がわずかになっても動いていないので、今回は裏方に徹していたと思われた矢先の出来事。


 多くの議員達が混乱する中、もっとも混乱していたのはデータを渡された二人の議員達だ。


 三崎と個人的な面識など無く、ましてや密約なども何もしていない。そして両議員にしても、出身星系は銀河の端と端ほどに離れていて、互いの惑星国家間のつきあいなどもない。


 かろうじて共通点を述べるならば、辺境域に近くはあるが、かろうじて細い流通網の隅っこに引っかかる片田舎の星系国家の代表というだけだ。


 だがその動揺を表面に出しているようでは、国家の代表など勤まらない。



「そちらはなにか彼と?」


 

 全身を緑色に染める軟体スライムボディー議員が警戒色で色深めながら尋ねると、隣り合った蝶型星人議員が銀色の鱗粉を散らしながら否定する。



「いえ、どうやら策略の1つとして利用されたと思いますが、どうしますかコレを」



 互いに平静を装いながら、他の分身体との情報共有をしながらも、短い言葉の中で探り合いをしつつ、手元に浮かぶボックス状に加工された大容量データへと疑惑の目を向ける。


 むろん議会内で悪意あるウィルスや、クラックデータを送ってくるような真似はいくら三崎といえどしないであろうが、送り主が送り主手だ。必要以上に警戒をするのは当然ともいえる。



「ふふ。そちらは我が社のサラス・グラッフテンが作成した、収益予測シミュレーションデータとなります。経済計画のご参考にしていただけますと幸いです」



 その背中を押したのは他でもない。先ほどまでの勝ち気な笑みを一転させ、自信に溢れながらも、聖女のような人目を引きつける慈愛の笑みを浮かべたアリシティアだ。


 だがその発言の中は、ある意味で三崎よりも警戒される女傑の名が含まれていたため、ざわめきが広がる。


 ディケライアの悪魔。


 利益追求の鬼。


 ディケライアの守護者。


 数々の二つ名と数え切れない逸話を持つ伝説の経理部長の名に思わず、データを開いたのは致し方ないのかもしれない。


 国家代表たる星連議員の存在意義。基本的役目。それは銀河全域の状況を把握し、国の、国民の利益を追求すること。


 解放されたのは膨大なデータ群。一見で理解するのは難しいほどに濃密なデータであるが、生体強化をされた議員が処理できない量でもない。  

 


「……辺境域を球環状に巡る新たな流通網作成計画ですか。そして既存流通網との接点となるのが」



「初期投資金額は膨大だが、出せなくもないと……どこでコレを」


 

 スライム議員がぶるりと全身を振るわせ、蝶議員がまき散らす鱗粉の量を少しだけ増やした。  

そのデータの中では、彼らの星には新たな共通点が見いだされていた。


 新たに生み出される流通網と既存流通網の接続点という、膨大な利益を生み出すかもしれない場所にあるという共通点が。


 それだけではない。過去、現在に彼らの所属国家が流通網において得た収支予測は、口外されていない裏予算まで含めた物で、どこから情報が漏れたかと疑いたくなるほどに正確な物。


 そして多角的目線から成り立つ未来の損益予測は、かなり厳しい目線で見ているのか、数え切れない懸念が出されているが、それに対しての対策や、周辺国家との共同開発まで目線を向けた折衝プランなどでフォローされている。


 そこに描かれているのは、楽観論から描かれたバラ色の未来ではない。


 むしろシビアな目線で作られた、銀河全域を見通し、利益を追求するために苦心の末に生み出された現実的な長期経済計画。


何よりデータをさらに盤石とするのが、控えめにサインされたサラス・グラッフテンの名だ。


 かつてディケライアが銀河最大の惑星改造企業として、並の星系国家を遙かに超える経済規模で君臨していた時代から辣腕を振るい、他社が及び腰になる、いかなる困難な事業でも、圧倒的な黒字をたたき出し、その支配を盤石の物として支え続け、普通なら潰れているのが経済学的には常識であるはずの損益を出したディケライアを今も存続させ続ける原動力たる本社経理部長サラス・グラッフテン。


 後に彼女が生涯で一、二を争う渾身の出来だと即断するほどの経済計画書は、情報データとして売れば、それだけでも一財産とすることが出来るほどの代物。


 今まで傍観に徹していた議員達が、僅かな残り時間の間だけでもと、その芽を植えるための折衝に動き出すには、十分な根拠となっていた。













「宇宙船は点を飛ぶね。あいつのくだらないダジャレもたまには役に立つよな」



 目に見えてざわめきが広がりだした会場を見ながら、外周部に戻った俺は次のポイントを吟味しながら、かつて相棒に聞かされた航路の概念を思い出しほくそ笑む。


 相手の議員さんは分身体。1人攻略すれば、その何十倍の分身達が、リアルタイム情報共有で影響を受け動き出す。 


 多角的視線を持つために意図的に精神状態や考え方に差違を設けているらしいが、その根幹は国家。国民の利益追求があるのは間違いなし。


 誠意を持って真摯に計画を立て、そこに付け込む。


 ウィークポイントがわかりやすいのは実に有り難い。


 一見線に見える現流通網も、通りやすい航路を示した点の集合体で描き出された線。


 なら今手持ちにある点を、線として描き、新たな流通網を重ね合わせる事も不可能じゃない。


 航路が生まれれば休憩、補給、修繕ポイントとしての恒星の役割が増し、辺境の平凡な惑星国家にも意味が生まれる。


 ただ目に見えてわかる新たな交易路を示しただけでは、切り札とはなり得ない。


 噂には聞いていたサラスさんの伝説を、最大限有効活用してクリティカルへと変える。


 それに先ほど渡したデータはあの議員さん2人に向けた特効武器。



『新たな接触ポイントを発見。同時に7組いけますがどうなさいますか』



「もちろん即転移で。あと議会時間中で配布が終わらない場合は希望惑星の方にお渡ししますとアリスに宣伝スタートを」



 指示の途中で無数の通信モニターが俺の周囲に展開され、



『『『『『『ふふん。甘い甘い。とっくに動き済みだよ。シンタの”パートナー”のあたしをなめないでよね。ドット絵なら一言あるんだから』』』』』』



 通信をつないできた300人のアリスが一斉に同音異口で、銀色のウサ耳を揺らしながらキーワードを口にし、勝ち誇る。


 点描画じゃ無く、ドット絵を出してくるのがアリスのアリスたる所以だ。 


 あのサラスさんが疲労するほどにまでにして作り上げたデータは一つじゃない。


 文字通りこの議会に参加する全惑星国家それぞれ向けの長期経済計画こそが、泥縄な俺たちの切り札。


 そしてその計画の中心に流通網の革命を起こすために必然なディメジョンベルクラド育成のための基盤となる地球をぶち込む。


 未だディケライアの敵がどこの勢力かはわからない。


 分からないなら全部を攻略する。


 ハイリスク・ハイリターンな攻略方針だけど、この一戦だけで勝利が確定する訳じゃない。勝利する必要なんて無い。


 起こした波をさらに煽り、いくつも波を起こし、大規模な論争へ。


 ここでは終わらない、終わらせない、長い論争へ。


 王手を打ち込まれたならあきらめるんじゃなく、新たな盤を継ぎ足してフィールドを広げてみせる。


 この銀河は終わらないゲーム盤。


 なら負けを幾度しようが決定的敗北負けじゃない。


 幾度勝とうとも決定的勝利じゃない。


 だから常に全力全開。最大でゲームを楽しむために、常に本気。


 これがおれとアリスの昔からのゲームスタイル。 



「はっ! さすが”相棒”! んじゃいくぞ特効武器でのクリ連発!」



 狩り場を前にテンションを最大まで高めた俺とアリスは、残り時間でどれだけ刈り取れるかを競い合うようにデータ配布を開始した。


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