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C面 真ラスボス降臨

 仮想球形議場外縁部。非接触エリアに陣取った俺は、分身して散らばった各アリスの戦況を見張ってたんだが、その中の1つ。


 旧帝国系に当たるアルデニアラミレット派の重鎮ブルレッカの爺様相手に、趣味前回のアリス節を効かせた討論を真っ正面からぶち当てている。


 どう考えてもわかり合う気のないオタク理論で武装したアリスと、武人堅気なブルレッカさんの話が合わないこと合わないこと。


 まぁ、アレも作戦の1つ。例えるなら、ヘイト値を突き抜け強制イベントバトルが勃発するまでアリスには上げていただきましょうか。


 全面星間戦争が禁止された現在でも、戦闘用人工種族であるアルデニアラミレットには、闘争本能が根っこの部分にある。


 口じゃなくて、直接武力で片をつけたくなるってのは種族本能として仕方ない部分。


 押さえきれない血の気の多い連中は、傭兵として他星に渡り、海賊艦隊狩りや、全銀河大戦時の遺物兵器鎮圧、遺物兵器群によって封鎖された資源小惑星体への強行調査や採掘護衛など荒事をして、その欲求を満たしている。


 それはあの龍の爺様も変わらないが、そこは年の功。理性で押さえつけることも可能。他のアルデニアラミレット派議員さんにしたって、選ばれるだけあって、そうは踊らされない。


 だけど、星系連合議会の中継を見ているであろう国民は違う。


 自分や同胞を捨て駒にしようとする帝国を裏切るという選択を決め、反乱を防ぐため帝国から埋め込まれていた自死機能であるアポトーシスを克服した英雄であり、今も同派閥から敬意を集めているブルレッカさんへの暴言は、種族全体のヘイトを爆上げする起爆剤。


 勢いは力。その勢いを受け止め、自らの利益にするための水路は既に俺らの手にある。


 戦闘意欲を満たすための仮想フィールドが、PCOが。


 銀河文明では仮想は所詮代替えの偽物って風潮は根強い。でもそれを忘れさせるほどの力が、怒りがあれば、流れは生まれる。


 今現在銀河のあちらこちらで戦っている傭兵さん連中も巻き込めるなら、勢いはさらに倍か。高難度クエスト導入もありだな。



「オープニング終了後は大規模襲撃イベントと行きますかね……しかしドラゴン系相手だとやけに好戦的だったの、あの爺様が原因か」

  


 リーディアン時代の長年の疑問が解決するとは思わなんだ。


 他フィールドに目を向ければ、重要攻略地点でのヘイトや、攻略進度も続々と高まっている。


 自由討議中の外縁部エリアは、全体に散らばった分身体から寄せられる情報に参加者は集中し、全体の状況を見て動くために設けられた特別エリア。


 外縁部は会談要請以外の他勢力との直接接触は禁止されているので、自由討議開始早々ここに移動した俺は、緒戦は他から山のように寄せられる会談要求を見ながら、状況によって分身を増やしているアリスに割り振って、直接的対応は全面的に任せ、引きこもり、もとい戦況分析と調整にいそしんでいた。


 分身を無数に生んでいるアリスや、他の連中と違い、身一つな俺が、絶賛引きこもり中なのは、ぶっちゃけ準備不足が原因だ。


 C案はエリスのナビゲート能力早期覚醒が絶対条件。


 リターンは大きいが、可能性的には限りなくゼロに近いと判断して、さすがに優先順位を低く見積もっていたので、計画の概要は出来ていたが、それを実行に移すための根回しは、他の計画とも併せて、友好勢力相手に精々足がかりのための橋頭堡を築いていたくらい。


 泥縄と言ってしまえばそれまでだけど、だがこれはチャンスと言えばチャンス。


 星連議会においての諸勢力は大きく分けて3つの陣営に分類される。


 1つが星系連合最大勢力である、帝国に最初に反旗を翻した旧反乱軍系で、宇宙交易商人たるランドピアースや、水で満たされた特殊星域アクアライドに属するアクアライド星域人などが属している。


 それと拮抗するもう一つの大規模勢力が、アルデニアラミレットや、帝国艦船搭載生体コンピュータとして利用されていたグレイアロットなんかの、銀河大戦勃発時は帝国に属しながら、自らの種族や生まれ故郷、同胞を守るために帝国を裏切った旧帝国系。


 そして最後が、それら二大勢力には属さない独自勢力や、新興勢力などの、集団とも言えない集団を一纏めに呼ぶ第三勢力の諸会派。


 前回この議会に訪れたときは、既に発展しきった惑星を基準で作られていた星系開発法の縛りがあって、なかなかに自領域での開発さえ出来ていなかった諸会派や、一部の二大勢力の新規惑星政府を巻き込んで、星系開発法の緩和に成功。


 その見返りに地球の時間流凍結解除と、諸々の開発許可を得たわけだが、今回はそういう限定条件ではなく、どこの惑星国家でも重要と考えるディメジョンベルクラドの育成に関する案件。


 ディケライア本社から送られてくる絶賛リアルタイム更新中の、各惑星政府の詳細分析データを元に、切迫度を測り、攻略手順を速攻で編み込んでいく。


 広げた糸を全銀河に延ばし、各惑星政府をひも付け、相互作用で衰退しそうな星系には別の要素から+を持ち込むプランを断片的にして、アリスへと送り、アリスがそいつを元に論争を引き起こして衆目を集める。


 自分が属する勢力単位ではなく、各惑星政府単位の利益から、周辺星域、そして銀河全体への利益へと。


 現時点では物流改革を持って銀河全体の活性化を目論むって最大目標とまでは行かないが、その目があることを全員の心に植え付ける。


 俺たちの勝利条件は、自分たちに有利な法案を通すために星系連合議会を制圧するでも支配するでもない。


 ひたすらに味方を作ること。


 そして俺の基準の味方とは、見方が同じ連中ってのが最低にして、唯一の条件。 


 自己勢力の安寧と繁栄、ひいては銀河文明全体の利益を願うって言ったらいささか大げさだが、それを共通認識として最低限度では持っている星系連合議員の皆さんは、既に俺とおなじ見方をする味方。


 だったら既にここは敵地ではなく、俺たちの狩り場。


 手段や過程はどうあれ、最終的に望む形に収まるなら問題なし。


 大きな目線ではディメジョンベルクラドの力を爆発的に引き出す可能性を持つ地球人という誘い水を用いて、銀河の発展には地球人の要素は必要不可欠というロジックを組み込む。


 そして星連基準で原始文明に属する地球への接触と言う問題には、俺とアリスがもっとも得意とする仮想空間を、PCOを用いて、地球人には現実とは感じさせずクリアする。


 そりゃそうだゲーム内で知り合った奴が、宇宙人だと考える奴は普通はいない。俺自身がなによりの証人だ。


 見抜いて吹聴する奴がいたら、病院行きか、睡眠をおすすめな、地雷案件。


 だけどそれが地球人の常識で日常。リアルじゃないからこそ、それを受け入れることが出来る土壌が生まれる。


 仮想空間は現実の、リアルの劣化じゃない。


 現実では出来無いことが出来る、また別のリアル。


 2つのリアルの乖離がいつか問題になるかもしれないが、そこも心配なんてしていない。


 なんせ現実の外から来たあいつは、今もゲーム内と変わらず、無二のパートナーであり、かわいい娘様までいるんだ。


 だったら躊躇する必要なんて、臆する必要なんて無い。


 小さな目線では、議員さんを通して、星系連合議会中継を見ている銀河全域の人々の間に、ヘイトと興味と利益を絡め、地球人と銀河全体の宇宙人を繋げる事に恐れはない。


 銀河全域の見方を俺と同じ見方として、味方に、すなわちお客様へと、ゲームに、PCOに参加するプレイヤーへと変える。


 敵対しているつもりの人たちだって、それは見方さえ同じなら、同じ方向へと流れる力に他ならない。


 不具合をあぶり出し、修正点を導き、改善するためのいい意味でのクレームと思えばむしろ有り難い。


 差し迫ったアリスの従姉妹であり、サラスさんの娘にして、シャモンさんの双子の姉妹であるシャルパさんは、星系連合特別査察官という肩書きを持つ、ある意味最高のクレーマー。


 ピンチのベクトルを変え最大のチャンスへと。      


 ゲームマスターとしてプレイヤーの皆様を盛り上げつつも、カウンター使いの盾職として本分で見事にクリティカルな反撃へと変えてやろう。










「ここまで盛り上がる議会は久しぶり……帝国本星を落とした最終決戦の軍略会議並みに盛り上がってるわね」



 星系連合議会の様子を慈愛の目で見つめる妙齢の女性は、懐かしげに笑って、傍らのカップへと手を伸ばす。


 すっきりとした香辛料の香りとほのかな甘みが口の中に広がる緑色の茶は、一族に伝わる秘伝のレシピの作。


 目の前に浮かぶ球体モニターの中では、星系連合議会で繰り広げられる陣取り合戦にも似た予測勢力図が目まぐるしく書き換えられている。


 あのときは帝国主星、ひいては最後の銀河帝国皇帝の首印を取るという名誉という名の、その後のアドバンテージのための争い。


 血なまぐさいアレを思えば、今後の銀河の物流革命を担うやもしれぬ遺伝子を得るための、駆け引きの何とも平和なことか。


 そしてこの騒乱の起点は、かつて何も出来ず、泣き崩れて撤退した情けない娘だったのだから、遙か彼方を見通す洞察力を持つ彼女にしても、予想外で驚きとしか言うしかない。


 あれからまだ二期も経っていないというのに、ここまで精神的に成長し、さらにナビゲート能力でも頭打ちであったはずの種としての限界を超え、さらに上へと突き抜け、その血を引く娘もまた新たな可能性を見いだしている。


 ここまで来ると彼女が長年計画していた予定を大幅に変更して、修正を施す必要はあるが、それはいささか無粋という物だろう。


 子供がせっかく作っている工作に手を出すのは、趣味ではない。


 成功し無邪気に喜ぶ姿も、失敗し落ち込んでいる姿も、どちらも興を覚える。


 数万周期の年月を経ようとも、この世界はこれほど楽しいのに、なぜ他の者達は100周期程度で精神的に死を迎え、記憶を消去してしまうのか。 



「もう少し任せてみましょ。ずいぶんとおもしろい方向に進んでいるみたいだし、ディケライアは潰すのは延期で」



 使い慣れた玩具に新たな遊び方を見いだした童女のように朗らかな笑いを浮かべるが、同席している者達は、上座に鎮座する彼女の気まぐれにまたかと息を吐く。


 特に末席に座る別の女性は、異議ありと手を上げる。



「……あの子は巻き込まないというのが私とのお約束でしたが、どうなされるおつもりですか」



「だって仕方ないでしょ。私はディケライアを潰しにいっているのに、あの子達の方から乗り込んできたんだし。それにしても男が出来たくらいで、ここまで箱入り娘が変わるなんて……毒されやすい家系にいつの間になったのやら、アレかしら、それともコレかしら」



 抗議の声を軽やかに受け流した彼女は、過去にやらかした覚えのある列席者へと目を向けてほくそ笑んでみせる。


 その笑みはばらされたくなかったら、自分の味方に付けと言外に語る。



「あぁ貴女もそういえば、煮え切らない旦那さんを押し倒してたわね。いやー今思い出しても快挙だったわ。主家に手を出せないって、涙をのんできた先達が多かったのに。まさか落とすとわ。初夜の体験映像は今見ても初々しい、いえ生々しいから笑えるわね」



「あぁぁっ、し、始母様! い、いい加減にその話題には触れないください!」



 さらにそのからかいは抗議の声を上げた末席の女性へと及び、一撃で撃沈してみせる。


 銀河を自らの盤として、長年権謀術数を繰り広げてきた彼女にとって、生まれてから、表舞台から姿を消すまでの間をつぶさに鑑賞してきた列席者を手玉に取るなどたやすいこと。


 なにせその住居を管理するAIの最高権限は今でも変わらず彼女の物なのだ。


 どれだけ秘密を積み上げようとも、すべては彼女の手の中にある。



「すまん。母の悪趣味は昔からだ許せ……それでいかがしますか。グラッフテンの娘が到達するのは20時間後の予定です。正直真っ黒です。特に設備点検や、使用制限に関してはかなりの違法行為をしていますので、何も仕込まなくても事業停止は確定です。手がないため仕方ないとはいえ、あのディケライアがここまで貧乏所帯になるのは……立ち上げで苦労しただけ私も思うところがあります。だから当代達には共感を覚えます」



 このまましょっちゅうある身内同士の争いになっても疲れるだけだと、次席に位置しとりまとめをしていた男が立ち上がり、強制的に話題を進める。


 彼としても丹精込めて育て上げたディケライアが、壊れていくのは忍びない物があるのだが、その大本、創業者たる母が一番乗り気だというのが問題だったが、それも当代になってから少し変わってきた。


 他社の成長を妨げるほどに巨大化したガリバー企業たる惑星改造会社ディケライアとしての役割は終えたが、新たな役目を当代達が自ら見いだし復権を目指してきた事を何よりも楽しんでいるのは、その創業者だ。


   

「泣かなかったご褒美に、あの子達の思惑に乗ってあげましょ。監査対象を変更、目標は火星の居住区画の多様性確認に。ここでも及第点なら、リルの制限を一段階解除」



「お待ちください始母様。最も重要な天さえも当代達の手に渡らせるおつもりですか。我々の計画の要ですあの艦は」



「それ以前に今のディケライアの戦力では、あの防衛網を突破するなど無理です。他の勢力が介入して奪取されれば、銀河に新たな争いの種を生み出すことになります」


 

 始母の指示に室内の列席者全員がわずかにざわめく。


 一族の悲願として長年にわたり積み上げてきた計画を根本から覆すことになりかねない選択でしかない。



「あらあの子が選んだ人は、最終的には私達と同じ方向を見ているようですから問題ないでしょ。後は視点の高さだけ。いい成長の糧とするなら良し。だめなら当初の計画に基づきディケライアを潰すだけの話」



 だが始母は簡単に答え、物事がよりおもしろく、そして良い結果になる選択肢を選び出す。


 彼女が作り出した盤面のなかでは無く、その対面に座る者が生まれてくるならば、切磋琢磨してよりよい結果が、今の自分では想像も出来ない結果を生み出せるやもしれぬ。


 星の寿命さえも超えて生きる可能性が見いだせた今のこの世界はおもしろい。


 ならばこそ宇宙の終焉と共に、滅ぼしてなる物か。


 自らの力を、一族の総力を、積み上げてきたディケライアのすべてをつぎ込んでも、次へと繋げてみせよう。



「さて、では私の対面に座る素質が、貴方が言うゲームマスターとやらの資質があるか、お手並み拝見といきましょうか。婿殿」 



 銀河帝国最後の皇女にして、星間企業ディケライア初代姫社長ミリティア・ディケライアは金髪から突き出たウサ耳を軽やかに踊らせながら、子供達の作り上げる局面を見つめ楽しんでいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやー、今まで影も形もなかったから、精神リセットかけてどっか別の場所で働いてんのかもしくは精神リセット技術がギリギリ出来上がるかどうかの頃に間に合わなくて死んだのかと思ってた人が出てくるとわ…
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