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0話 コルト山岳炭鉱ダンジョンボス討伐 下② 出会い編

【定点†求†要塞盾】


【移動雑食要紫】


【祭パ中央広場】


【求野良・どこでも・弓速射型・剣属性型】


【ミク駆け足】


【ミクロープレ】


【ミク初見じっくり】



「何……この暗号」



 思い出の展望公園を守るため、リルの協力の下、偽造身分を手に入れたアリシティアがアカウントを作成しゲームに参加してすでに三日。


 リーディアンオンラインというタイトルのVRMMOに当惑を覚えたまま、サイフォンの片隅。人気のないベンチで、募集掲示板をどんよりとした目で眺めていた。


 軍事や医療技術として開発、導入が始まり、機器の単価下落と共に、家庭用娯楽として普及した全感覚変換型フルVR技術は、大半の地球人にとって未知の体感、体験。


 爆発的人気になる理屈も気持ちもわかるが、アリシティアにとってはそれら技術は生まれた時からすでに利用していたあって当然な技術。


 今更、感動や新鮮味などあるわけもなく、ましてや技術レベルでは天と地ほどの差がある地球文明と銀河文明。


 どうしても粗さ、そして感覚変換の稚拙さ故か、目に見えない粘着性の液体が全身にまとわりついているような鈍重さを感じてしまう。


 そしてそれ以上に気になるのは、現実と瓜二つにした容姿ながら、銀髪色から変えた金髪から出るむき出しのウサ耳の存在。


 選択可能な初期種族。獣人族の外観特徴はその動物耳を頭につけていることだが、ゲーム内では全くの飾り物。そこにあるのに動かせない、動かない。


 それが地球人にとっては当たり前であるのだが、アリシティアは損失感が強く、違和感がどうしてもまとわりついていた。


 それでもVRMMOは初体験とはいえ、現地時間で約半世紀ほど前となるが地球文化の娯楽文明に興味を持ちはまっていた事もあり、当時はまだまだ技術は確立されていなかったがVRMMOを題材とした作品もいくつか見ていたこともある。


 だから違和感は感じていても、少しはその知識が役に立って順調にいけると思ったが、思っていた以上に勝手が違った。


 言い方は変かもしれないが、現実はリアルだ。


 いきなりレアスキルなんて手に入るわけもなく、バグでステータスがカンストするわけもなく、ログアウトが出来ないなんて不具合もなく、伝説のアイテムやら使い魔がそこらに転がっているわけもない。


 他のプレイヤーと全く同条件からのスタートと、まったく当たり前のことが普通に始まっていた。


 そして他のプレイヤーと違い、アリシティアはまずその出だしから躓いた。


 リーディアンはまだまだ手探り段階の完全感覚変換型VRMMOにプレイヤーに慣れてもらうためか、どのプレイヤーもまずは基礎職として庶民があり、そこからキャップのあるレベル8まで上げて、簡易クエストを受け16種の一次職へと派生していく。


 そして庶民状態の時には、全一次職の初期スキルを最低レベルではあるが使うことが出来る。


 自分のやってみたい一次職、もしくはやりたいプレイスタイルに合った一次職を探すためのお試し期間というわけだ。


 一応レベル8までは、ゲームのオープン午前二時からクローズの翌日午前零時までの22時間プレイと、その間の2時間休憩コンボの連発で二日目で上げきったのだが、いざ職業を選ぼうと思っても、スキルがたくさんありすぎて、どの一次職を選ぶのが正解なのかアリシティアには分からなかった。


 攻略サイトを調べたり、誰かに聞くのが正解だとは思うのだが、カンニングになるのでないかと思い、公式の操作説明以上は調べることが出来ずにいる。


 純粋にゲームを楽しもうとしてやっているならともかく、仕事の一環であり調査目的は、原始文明における情報ネットワーク構築技術の発展やその利用法に関する調査。


 仕事の正否が、思い出の艦内展望台の維持継続に繋がる以上、失敗は絶対に出来ないというプレッシャーが、常にアリシティアにはのしかかっていた。


 星連アカデミアは、誰かの受け売りではなく、調査員自らが体験して、そして思考した末に起こした行動で手に入れた調査結果を求めるのは有名な話。


 攻略サイトを見ただけ、他人のまねをしただけで、得た結果なんて情報価値無しと判断されるだけだ。


 とりあえずのとっかかりとして、募集掲示板で求められる、求められやすい職業の傾向を調べようとしたのだが、結果が先ほどの暗号表である。


 人気職を選べれば、自然と交流が生まれて、そこで得たアドバイスなら、現地の生の声としてアカデミアから一定の評価を得られるはず。


 しかしずらりと並んだリストは暗号の羅列で、職業別にソートしてみても、どれもある程度の数が集まっていて、一概には人気職やら不人気職という区別が難しい。


 だがそれも当然だ。


 この時のアリシティアは知らないのだが、リーディアンオンラインを開発・運営するホワイトソフトウェアは、プレイヤーにゲームを全力で楽しんでもらうのが社是。


 小さなバグなどは即修正。不遇職、スキルがあればすぐに手を入れてバランス調整と、設けた毎日2時間の小規模アップデート休止を繰り出す総力戦状態を、正式オープン後から続けている。 


 こうも頻繁にころころ変われば、普通は顰蹙物だろうが、その対策として職業、スキル関係のアップデートが合った際には、本来なら課金アイテムであるステータス、スキル振り直しポーションが無料提供されているので、逆に気軽にいろいろと試せると好評だったりする。


 ただこの特典が利用できるのは一次職から。


 一次職を選ぶときにステータスのふり直しが出来るので、ゲームを始めたばかりの庶民職には関係のない話だ。



「うー……どれがいいの?」



 気軽に振り直せる事をまだ庶民状態のアリシティアは知らず、そして知ったとしても、そんなすぐに無かったことにしてやり直して、アカデミアに納得してもらえるのかと悩むことだろう。


 兎にも角にも、今のアリシティアにはゲームを楽しもうという余裕など皆無。


 むしろゲームを楽しんでいる地球人達を見ると、自分がこんなに苦悩して、苦労しているのに、何で脳天気に楽しそうなんだと、八つ当たりと分かっていても恨めしい気持ちを抱いてしまうほど。


 だから街の片隅、人気のないベンチに隠れ潜んで一人で苦悩していた。


 悩んでいても埒があかない。もう一度リストを頭から確認して、少しでも募集の多い職業を調べようかとしていると、突然足下が揺れ始めて、サイフォンの特徴である奇岩建築の建物も、振り幅は少ないが左右に揺れ始めた。


 

「な、なにっ!? なにっ!? まさか跳躍振動!?」



 宇宙生まれ、宇宙育ちのアリシティアは、惑星上で起きる微細な地殻変動、いわゆる地震はVRとはいえ初めての体験。


 何が起きたのか分からず焦ってしまい、思わず座っていたベンチからバランスを崩して落ちてしまう。


 仮想空間なので痛みはさほどではないが、それでも尻餅をついてびっくりして止まっていたアリシティアの目の前で、募集掲示板が一気に更新され始める。



【急募コルトタコボス扉攻】


【タコタコ殴り】


【コルト炭鉱雑魚狩り】


【コルトタコパ】


【たこ足喰らう】


 新規募集には、どれもタコやコルトといった同じワードが並ぶ。



「これって噂のボス戦……コルト鉱山ってこの近くのダンジョンだ」 


 

 地名検索で調べると、今いるサイフォンと隣接したエリアにある鉱山型ダンジョンが表示され、そこにはボス出現中の緊急情報が赤文字で添付されている。

 

 ゲームを始めたばかり昨日、一昨日は、まだ掲示板を見ずレベル上げに専念していたのと、アリシティアがプレイしていたエリア近くではボスは出現していなかったので、今の今まで、ボス狩りを見に行くという選択肢は浮かんでこなかった。



「たしか、たくさんの人が参加する大規模レイドってやつだよね」



 リルから参考用に渡された宣伝用トレーラームービーには大勢のプレイヤーが集まっての総力戦が表示されていた。


 スキルリストを見ても、募集掲示板を見ても、埒があかない。


 楽しそうにゲームをしている他人を見たら、少しだけ八つ当たり気分になるかもしれないが、それでも実際に見て、決断というのはアカデミアの調査方針には沿っている。


 行ってみよう。


 アリシティアが決断するまではそれほどの時間はいらなかった。














「だーっ! 俺らの射線に入るなって何度言わせる! タゲミスって不発で死に戻りじゃねぇか!」



「あ”っ!? あの狭い場所で広域貫通呪文なんて打とうするあんたが悪いんでしょうが! あたしらが麻痺させてから、狙撃系呪文で狙いなさいよ!」



「単独ならともかく複数なら、殲滅させるにはこっちが早いだろうが!」



「広域は回転率が悪いから、DPSは狙撃系の方が上って知らないの!? このバ火力魔術師ギルド!」



「アホみたいに突っ込んでくおまえに言われたくねぇよ! 引くこと覚えろ狂犬ギルド!」



 コルト炭鉱ダンジョン前。死に戻りのリスポ地点になっている鉱山入り口広場には、なんか最近ボス戦では恒例になってきた罵り合いが響いている。


 ひ、ふう、みいと数えてみると、たこ足の一斉攻撃で死亡したのは24人か。あのとき前に出ていた前衛連中と、ヘイト爆上げしていた後衛魔術組のほとんどかよ。


 でもここにいるのは攻勢に出ていた連中ばかりで、スキルウェイトタイムやらMP回復で下がっていた連中は無事、後方待機組にはうちの頼れる副マスもいるので、まずは一安心か。


 うむ。コルト炭鉱ダンジョンはいくつか入り口があるんだが、こいつらと被ったのが運が悪かったのか、良かったのか、微妙だ。


 狭い通路に沸いてきたたこ足群れを一気に焼き払おうとしたのがプレイヤー名、ロイドって男魔術師で、ギルド『Fire Power is Justice』のギルマス。


 そしてたこ足に先制攻撃を仕掛けて、麻痺スキルをぶち込もうとした獣人女侍プレイヤーが刹那で、ギルド『餓狼』のギルマス。


 どっちもプレイヤースキルの高い高レベルプレイヤーで、それぞれボス戦で何度も共闘した顔見知りなんだが、この二人は水と油というか、考えかたの違いで、なかなかかみ合わないのが難点。


 しかも、今回は最悪なことに、互いにこの前のアプデで導入されたギルドを立ち上げたのはいいが、ギルメンがFPJは広域火力重視。餓狼が近接タイマン特化とそれぞれのギルマスの特徴をこれまた見事に表していやがった為、たこ足処理に失敗して被害甚大だ。



「悪い、焦って確認が遅れた」



「あーこっちこそすみません。突っ込む前に声かければ良かったですね」



 もっとも険悪なのはギルマス同士だけで、ギルメンは互いに謝っているのが唯一の救い、ほのぼのしている。

 


(ユッコさん。すみません。前線どうなっています)



(とりあえずこれ以上の被害が出ないように、遅滞戦術に切り替えています。10分くらいなら一つ、二つホールを押し戻されるくらいでしょうか。初参加のサカガミさんが幻影を撒いて目くらまししてくれているので時間が稼げます)


 

 ギルチャに切り替えつつ確認してみるが、なかなかに状況はまずいが、刹那のリア友とかいう狐面ボクッ子少女エルフサカガミのおかげでどうにかなっているらしい。


 押し戻されるとまた前に出るのに時間が掛かる。扉前に到達する時間が減れば減るほど、こっちが不利だから助かる。


 さて、どうしたもんかと考えていると、いつの間にやらロイドと刹那の視線がこっちに向いてやがった。



「おいこら! シンタ! なに関係無い面してやがる! 二発で沈みやがって、おまえのシールドスキルどうなってってんだよ!」



「嫌みなくらいに堅いのがあんたの取り柄じゃなかったの! いつも死に戻りはしない癖にどうなってんのよ! ギルマスが雁首そろえて死に戻りじゃ、全員ステ下がって前線崩壊するでしょ! みこ、じゃないサカガミさんなんて初参加のボス戦で知り合いがいない前線に残してきてんのよ!」



「うちはユッコさんがいるから大丈夫だっての。ギルドスキルの副マス強化まで取得済みだ。第一あのエルフ娘、フレンドリーリアルスキル最強クラスじゃねぇか。刹那が心配するのは烏滸がましいだろ」



 噛みついてきた二人を適当に受け流す。


 ギルドシステム導入と共に、ギルドスキルシステムも導入。まだまだスキルレベルを上げてないから些細な効果だけど、旗印としてのギルマスがいるエリアに限り、ギルメンの人数に合わせてステータスアップってのが基本。


 要は今回のボス戦のような大規模レイド戦や、まだ未実装なギルド対抗戦用スキル群。


 我らギルド『上岡工科大学ゲームサークル』。通称KUGSは、志願者のみだけど獲得経験値アップの課金アイテム紫ポーションを使ってまで獲得した最近の取得経験値のうち大半をギルド経験値に変換して、旗印対象をギルマスに加えて副マスに増やすスキルを取得している。


 ちょっとお高い紫導入して、経験値を取りに行った理由は、ギルマスの俺が盾職だってのがでかい。


 いつもなら、極振りVITプラス高精錬盾で最後まで生き残る自信もあるのだが、今回に限ってはスキルを振り直しているからだ。 



「突入前はなんか作戦あるとか言ってたけど、それはどうなってんだ!」



「今ホウさんが調べ中だっての。今回限り一発勝負の技だから、そうそう失敗できない。とりあえず扉前に送り込んでくれれば、あとはどうにかする」



 バグ技利用を嫌うやつもいるので、ロイド達には詳しくは言っていないが、出現位置バグを使って裏取りをするにしても、事前に扉前に十分な戦力を寄せておかないと、扉を開けてもその後ろの護衛戦力を、突破した扉に寄せられて結局進軍が遅れる。



「ちっ! 仕方ねぇな。道を開いといてやるからどうにかしろよ!」



「だから鈍足のあんたが先行すんな! あたしらの後から来なさいよ!」



「今回はたこ足の復活が早いステ振りだろうが! その分低HPで再配置タイムが遅いんだから殲滅して行くのが上策にきまってんだろ!」



「それなら逆にデバフ打ちまくって倒さず、弱体化していった方が効率的! タコボス本体どうにかしないと無限沸きなんだから……」



 仲がいいんだが、悪いんだか、回復が早々と終わってダンジョンに駆け戻っていたロイドと刹那を先頭に、周りで休んでいた連中も続々と戦線に復帰していく。



「うむ。ちょっとスキル振りが極端すぎたか、自動回復遅すぎだろ」 



 ただ今の俺はまだ全快していないので、まだまだ一人寂しくご休憩だ。


 回復ポーションを使ってHPやらMPは戻せたが、死に戻り後で喰らったスキル使用制限の回復までまだ時間が掛かる。


 スキルウェイト時間をリセットするゾンビ戦術を抑制するためか、高位レベルスキルは死に戻り後は一定の時間をおいてから再使用可能という形で、今すぐに使えるのは初期レベルスキルのみ。


 そして切り札のシールドリザレクションは最大レベルまで上げた代償で、死に戻りウェイトが重い上に、他のスキルはレベルが壊滅的に下がった柔らか盾状態。


 しかもシールドリザレクションの回復効果範囲は、スキルレベル+最高精錬した高位盾耐久値依存と来ている。


 一度発動したら耐久値が0になって修理しないと使えないが、用意できた最高精錬高位盾は一枚限りなので、試すことさえ出来やしない。


 せめてあと二日あれば、もう一つレベルがあがってスキルポイントを確保して、盾も用意できてと、余裕があったんだがな。



『ホウさん。どっか、いい場所って有ったか?』



『まずいな。どこも既存位置に出やがる配置だ。確定で裏がとれる場所がない。他の扉方面を探るか?』



 ただ座っているだけってのも芸がないので、個人チャットのWISに切り替えて、ホウさんと呼ぶようになった鳳凰さんに状況を確認してみるが、すぐに共有情報として送られてきた地図を見てみると、適した場所がこれまた見事にないと来ている。



『今から他の扉つっても、そっちも外れだと時間が掛かるだろ……しゃーない。おすすめじゃない扉直アタックでいってみるか。あっちは距離が短いからスキル振り直してシールドリザレクション範囲を下げられるから、少しはこっちがマシになる』



『だけど誰を送る気だ。ソウルメイズは単体呪文で一度に送れるのは一人だけ。しかも出現位置が敵モンスター大軍のど真ん中じゃ、扉を壊す前にもう一度死ぬ確率が高くて、誰も志願しないだろ。パーティメンバー召喚も、殴キャンで止められるぞ』



『俺が行く。シールドリザレクションを下げた分で、反射盾スキル構成ならいけそうだ。それで時間を稼いで、後は高クリ確率の高い盾投げでどうにかする。倉庫からいらない盾を持てるだけ持ってやってみる』



 盾投げはアイテム消失と引き替えに、ノーウェイトかつ低MPでクリティカル確率の高い特殊攻撃が出来る盾職の特殊遠距離技の一つ。


 発動確率は7割ぐらいだから、8つのウィークポイントにぶち当てる時間を何とか稼げればどうにか出来る……と信じよう。



『そりゃ博打だな……後で紫おごってやるから気張れよ。じゃあこっちも扉前に向かう』



『祝杯に紫かよ。色と味が気持ち悪いんだけどあんがと』



 ホウさんに礼を言ってから俺は地べたから立ち上がり、ゲームなので土埃はついていないが何となく尻の辺りを払ってから、振り直し用のポーションアイテムを取り出す。


 ボスが毎度ステータスを変えてくるってなら、こっちも最適化だ。


 絶対倒してやると意気込みを新たにして、栄養ドリンクのような瓶を一気に飲むと、辛さと苦みと渋さと酸っぱさが、適度に入り交じった悪臭が口の中に広がる。



「っくまず! たっくクソ運営が。課金アイテムをほいほい利用しないようにまずくしているなら、ただで配るのくらい美味くしろよな!」



 あまりのまずさについつい笑っちまうが、運営への文句で余計にやる気が湧いてきた。


 いざステとスキルを振り直してからダンジョンに再突入と、ステータスウィンドウを開いていると、



「ねぇ、そこの人。作り物なんでしょここ……そんなに一生懸命やって何が楽しいの?」



 不意に鈴のように響く声が背後から響いてきた。


 聞こえてきたじゃない、響いてきたとしか例えようがないどこか心惹かれる声だ。


 その声につられ振り返ると、いつの間にか一人の獣人女性庶民プレイヤーが立っていた。


 見事な金髪とその髪から突き出た同色の産毛に覆われたウサ耳。


 顔立ちはうちで一番気合いの入っている仮想体を作っている宮野先輩(リアル筋肉ダルマ)の猫女性みゃーよりもさらに整っていて、だけど自然な造形という、生きている西洋人形といえばいいのか絵に描いたような美少女。


 だけどその顔はつまらなそうで、そしてなぜか俺に対して怒りを覚えているような、拗ねているような、青い目を浮かべていた。


 普通ならその見事な造形に目を奪われるかもしれないが、今の俺の心に浮かんだのは、口に出すべき言葉は一つしかなかった。


 いくら運営に文句はあろうとも、俺は心の底からこのリーディアンを楽しんでいる。


 それを作り物と見下され、一生懸命にやるのが馬鹿らしいなんて言い方をされたなら怒りを覚えるのは当然だ。


 だけどそれで口喧嘩をするなんて俺の流儀じゃない。


 ましてや庶民プレイヤー相手にプレイヤーキルなんて言語道断。


 でもやるなら徹底的にだ。



「お前、ウチのギルドはいれ。リーディアンの楽しさって奴を俺が見せてやる」



 そう宣言すると共に、俺は開いたスキル取得画面から、あるスキルを選択。


 盾職スキル【絶対庇護】


 スキル使用中は経験値取得がゼロになり、ドロップアイテム取得ルート権が消失する代わりに、死んでも解除されることはなく、庶民クラス初心者を一人、そのダメージや状態異常をすべて肩代わりして高位ダンジョンだろうが、ボス戦だろうが連れ回す事が出来る防御スキル。



「……なにそれ。意味わかんない」



「くくっ、質問してきたのはそっちだろ。だから実戦で教えてやるってんだよ」



「基礎職業の庶民クラスはギルドに加盟できないんでしょ。マニュアル読んでないの」



「と、そうだったな。じゃあパーティで。抜けるから、こっちの要請に応えろよ」



 読んでるに決まってるだろうが。まずは大きく振って、次に小さく。交渉の基本だっての。



『げっ! シンタなんでパーティ抜けてやがる! トイレ休憩ごときなら殺すぞ! 漏らせ!』



 キャラ名ハムレットなクロヒョウ獣人羽室先輩からすぐにお叱りの声と、人としてどうかという命令が来るが、ここはとりあえずスルーで。


 どうせ先輩どもも、ゲームを馬鹿にされたら同じような事するんだから問題なしだ。



「いいけど……あなたレベルが高いんでしょ。狩り場が合わないんじゃないの」



「ボス戦に限っては関係無い。とびっきり楽しめる場所にご招待してやるよ」


 パーティ加入承諾と共に表示されたキャラ名は【アリシティア・ディケライア】ね。


 長い上に、名字まで有りって、見た目といい、気合い入りまくりの癖に何でこんなつまらなそうにしてるんだか。


 粘着PKでもされたか? 庶民キラーで遊んでいる質の悪い連中も少量だがいるからな。



「んじゃいくぞアリスさんよ」



「まって……何で人の名前、勝手に略すの」



「長いっての。呼びやすさ優先だ。それにその見た目でアリスを想像しないのは無理だろ」



 俺がウサ耳を指さすと、意味が分からないのかアリスは不審げな表情で首をかしげているが、一応不承不承ながら受け入れたようで文句は続かない。


 反応無しは反応無しでつまらないので、ちょっとヘイトを上げもかねて、にやりと笑ってやる。



「もし迷子になっても、泣き出す前に呼び出せるようにスキルを使っておくから安心してついて来いよ」



「子供扱いしないで。やたらと偉そうだし……いらいらするんですけど」



 絶対庇護スキルにはノーウェイトで庇護対象プレイヤーを即時、自分の元に呼び出す事が出来る、通称【迷子呼び出し】機能がある。


 本来なら、迷った初心者と合流するためのスキル。


 だけどこいつを使えば俺が向かう死地に、扉裏に呼び出す事さえ出来る。


 庶民クラスなら一次職の初期スキルが全部使える。


 その中の一つ剣士職の初期スキル。


 スマッシュスラッシュは、ウィークポイントに叩き込めば、確定クリティカルになる特殊攻撃。


 そして扉を破壊するには、むき出しのウィークポイントを狙う必要が有りと。


 鴨がネギをしょってきたというべきか、それともウサギが土鍋を担いできたと言うべきか。


 いきなりのボス戦で大役をまかせてやろうじゃねぇか。


 つまらそうな顔を浮かべている癖に、やけに気合いのはいった仮想体を作ったこの拗ねたガキにゲームの楽しさをたたき込んでやる。


 リーディアンに、はまる廃人プレイヤーにしてやる。


 それこそが、ゲームがつまらなくないかという質問に返す、完全勝利な答えってもんだ。


とりあえずこれで0話は終わり。次回から通常に戻ります。

ボス戦内容も考えてはいたのですが、この二人の場合はここで終わっているほうが、いろいろと想像できていいかなと思った次第です。

次は二万ポイントを目標に地道に更新していきますので、お付き合いいただけますと幸いです。

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