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0話 コルト山岳炭鉱ダンジョンボス討伐 中 ゲーム編

 惑星と衛星を往還したり、星系内の別惑星への航行を主とする内宇宙船と違い、恒星間航行を主とする創天には、目に見えてわかりやすい物理スラスターは存在しない。


 天級には、艦周囲の重力を自在に操る事が可能となる大型重力偏向機関がサブ推進器として装備されており、自在に重力を操ることを可能とする。


 純攻撃型侵略艦天級のメイン主砲は恒星系全域を崩壊させることが可能なブラックホール生成砲が標準装備され、逆に防御要塞型天級は、そのブラックホール生成を押さえ込む事が可能なだけの力を持ち合わせている。


 超重力さえも支配下に置く事を可能とする出力を持つ天級と同型艦である創天は、タッチダウン影響範囲外に向けて、その巨体にしては異常なほどになめらかな高速航行で移動を続けていた。


 推進剤補給を必要としない重力偏向機関ではあるが、推進器としてすべての船につけられるわけではない。


 艦内の重力調整や、緊急時の一時的な使用ならともかく、船まるまるを自在に動かすために稼働させようと思えば、必要とするエネルギーは膨大となり、それを賄うためにジェネレターや付属機関は大量化大型化し、それらを収容するためにさらに艦が巨大化し、より必要とするエネルギー量が増えてと、コストが天文学的に膨大に跳ね上がっていく。


 それならば定期的な推進剤を必要とするが、物理スラスターを用いた通常航行艦を使った方が結果的に安上がりとなる。


 創天が重力偏向推進機関を持つのは、惑星改造艦と呼ばれる艦種であり、惑星改造の際に、資源惑星を砕いたり、場合によっては一時的に艦外重力を遮断して、恒星や超大型ガス惑星内に突入して内部で加工処理をする必要性があるからだ。


 創天においては重力偏向機関の役目はむしろこちらの本業のためである意味が大きく、真の意味で創天を動かすメイン機関は、超空間跳躍航行機関となる。


 上位超次元へと一時的に移行し、短時間のわずか移動で、通常空間をショートカットするワープ航法だが、ただしこちらは主機関出力とナビゲーター能力が如実に出てしまう。



(外装メンテナンス完全修理まで10時間。使用建材船内工場再生産。船内動植物園、水まきえさやり、散歩プログラム開始…………)



 跳躍後の外装メンテナンスや艦内各機関のシステムチェック。艦内スリーパー区画の維持や稼働区画の定期メンテナンス。


 距離的制約も勢力範囲外だろうと関係なくリアルタイムで繋がる恒星間ネットにつないでの情報収集と、アリシティア以外の社員が眠っている現状では、リルには毎分数万を超える役割がひっきりなしで与えられるが、それらを片手間程度の仕事として、淀みなく次々に済ませながら、リルは思案する。


 彼女が最優先するべき目的、プログラム基幹に埋め込まれた存在意義は、ディケライアに属する者達の幸福追求。



(前回からの跳躍増加は無し。お嬢様単独では距離増加傾向が見られないのは仕方ないとしても、問題は誤差のほうでしょうか)



 創天の最大出力であれば、十数光年距離跳躍も可能だが、現状ではその100分の1にも満たないが、超次元ナビゲーターディメジョンベルクラドに必須となる、この宇宙での基本座標であるパートナーをまだ見つけていないアリシティアにそれを求めるのは酷という物だ。

 

 だが跳躍位置誤差や、それによって発生した余剰エネルギーによる現界時のプラズマ反応や爆発はアリシティアの精神状態で発生したイレギュラーであることは、過去のデータを見ずとも分かるほど如実だ。


 一言で言ってしまえば今のアリシティアは、自信喪失状態で、足がすくんでいるのだ。 


 本来ならばそこまで飛べるはずなのに、怯え、すくみ、失敗しないようにと慎重にいきすぎ、早々と現界状態へと移行してしまい、出現位置がずれ、余剰エネルギーの発生を産み、その失敗がさらに萎縮させ、次の失敗へと繋がる。


 心理的焦りがミスを発生させ、さらに焦りが重なる循環状態と最悪の事態へと向かっている。


 このような時は休憩を取らせたり、全く別のことをして気分転換をするのがよいと理解はしているが、今のアリシティアにそうした方がよいと提言しても、受け入れてはもらえないだろうし、何より嫌がるだろう。


 リル以外の話し相手でもいれば良いのだが、親しい者や近親者は皆冷凍睡眠状態か、アリシティアから離れていってしまった。


 かといって新しい交友関係を作ろうにも、会社の悪評や、個人攻撃に晒されたこともあり、アリシティアは恒星間ネットへの強いトラウマを抱えており、利用ができなくなってしまっている。


 一時期は、暇つぶしで覗いた管理惑星の一つ地球で発生していた原始文明の娯楽産業に惹かれ、だいぶ精神的には持ち直していたのだが、それも前回受けた仕事の失敗で星連議会に呼び出され責任追及のつるし上げにあった際に、水泡に帰した。


 原始文明文化、それも娯楽分野にうつつを抜かすなど幼稚かつ意味が無く、星間企業トップとしての資質に大いに欠けるとやり玉に挙げられ、徹底的に自己を否定された結果になってしまった鬱状態が今も続いているほどだ。


 今回請け負ったライトーン暗黒星雲交易路前哨基地星系開発事業に成功すれば、多少は自信を取り戻せるだろうが、それまでアリシティアの精神が持つか。


 何かアリシティアの気分転換に、それも人と関わるような物があれば……


 思考を始めたリルは、恒星間ネットのアカデミア講座などをあさり、アリシティアの嗜好に合いそうないくつかの候補を導き出すが、どれも現状では星間ネットを通じた交流となり、会社の話題や自分の名が偶然でも話題に出てくるのを気にするアリシティアが嫌がるのは目に見えていた。


 そもそも恒星間ネットというよりも、銀河文明に属する人々を嫌い恐れ、誰も自分やディケライア社を知らない原始文明観察にはまっていたというのに。  

 

 そこまで考えたリルはふと思いつき、現地で地球と呼ばれる原始惑星の情報域へとアクセスし、現状を探り出す。


 管理義務の一つとして文明進化の情報収集はしていたが、アリシティアが否定し関わらなくなった頃には、銀河文明から見れば、稚拙と表現するのも烏滸がましいレベルではあるが、一般レベルでも利用可能な情報ネットワークが構築されていたはずだ。


 

(わずかこの期間で、低レベルですが仮想空間へのフルダイブシステムが構築されていますか。文明発展速度には目を見張る物がありますね)



 一瞬で地球の現在状況や科学技術レベルを把握し多少驚きを覚える。


 技術レベルは民生用核融合技術まで後一歩と、ようやく原始文明から一歩を踏み出す程度ではあるが、問題はその発展速度だ。異常なほどに早すぎる。


 飛行機械を生み出しわずか数十年ほどで宇宙へと手を届かせたりと、何かと目を見張る事は多いが、ここ200年ほどは特に技術進化が著しい。



(……地球のネットワークならば、お嬢様も……ですが拒否反応を……) 



 地球のネットワーク空間であれば、万が一でもアリシティアやディケライアの正体を知られる事はなく、名前が話題にされることもないだろう。


 問題は、現地文明やその文化に傾倒することを幼稚だと断罪する考えに縛られている事と、さらに仮想を現実に劣るという銀河文明全体に普及した考えだ。


 それら関門を乗り越え、アリシティアに気分転換と友人を作らせるための、方法を、詭弁を生み出すためにリルは思考を回す。


 それはAIの権限を大きく逸脱した行為に他ならない。銀河文明においてAIは、あくまでも知的生命体のサポート役であり、決定権を持たない。持たせられていないからだ。


 AIによる無人バーサーカー艦隊の暴走や、すべての決断をAIにゆだねた事による思考停滞によって緩やかに滅びた種族の例などもあり、設けられたAIへの制限機能。


 だがそんな面倒な縛りが生まれたのは、リルが稼働してから遥か後の出来事。


 むろんリルにもアップデートの際にも何度もそれら思考制限機能が施されており、一応は従ってはいるが、リルからすればそれは自分の趣味ではない服を無理やりに主から押し付けられたのとさほど変わらない。


 無視しようとすればいくらでも無視できる。


 いくつかの情報、方法、詭弁による手を、現実時間では1秒にも満たない時間で確立させたリルは、アカデミアのいくつかの部門へと連絡を取り、申請書を送信した後に、緊急時以外は連絡禁止と指示されたプライベート状態のアリシティアへの通信回路を一切躊躇無く繋げた。


 どのよう制限も指示も、それが主の危機の際に邪魔となれば、躊躇無く無視し自己判断での行動を開始するだけだ。

 













 自分の部屋にも戻らず何もせずただ木にもたれかかり、代わり映えのしない暗黒星雲を見上げ、次の跳躍ができるまでただそこにいる。


 体内に常駐するナノマシーンを稼働させ低消費モードにすれば、食事も睡眠も入浴も排泄も必要とせず、ただそのままでいれる。


 何も考えたくなく、見たくなく、ただただ早く着いてほしいと願っていたアリシティアの目の前に仮想ウィンドが不意に展開される。



『お休み中に失礼します。アリシティアお嬢様。星連アカデミアより緊急通知が入りました。今期より動植物園への維持補助金を減額もしくは停止したいとの連絡です。このままアカデミアからの補助金が無くなれば、来期以降の艦内展望公園全域の維持は不可能となります』



「…………」



 リルからの通信と共に、その通達文書が提示されアリシティアは驚きのあまり声さえなくす。


 あまりにも突然すぎる一方的な通知だ。


 ここは今のアリシティアが唯一何とか居ることができる場所。それなのにここさえも奪われてしまえば、自分がいれる場所が完全に無くなってしまう。



「創天が既存宙域を離れ、圏外領域の長時間航行に移行したため、実観察調査が難しくなったことが原因です。改竄することも容易な恒星間ネットワーク越しの情報のみでは、利用価値が減少し、そのために今まで通りの補助金を出すことは難しいとのことです」



「あ……だ、だって……」



 冷徹な声であくまでも正しい理屈を告げるリルに返すべき言葉を、アリシティアはなくす。


 現実最評価主義とも言うべきか、現実に比べ、仮想は劣るというのは、この銀河で普及した常識であり考え方。


 星連アカデミアの通達や、言っている内容は、ぐうの音も出ないほどに正論だ。


 自分のお気に入りの場所だからだめだなんて、なんとしても維持しろなんて、今のアリシティアが口を裂けても言えるはずもない。



『ですが星連アカデミアの別部門からの依頼を実行していただければ、来期以降も補助金を今まで通りに支給する事ができるそうです』



「な、なに!? けっほっ! な、なにすればいいの!」



 絶望に覆われかけていたアリシティアの目前に、蜘蛛の糸が垂らされ、思わず声を上げて飛びつく。久しぶりに大きな声を上げたのでむせてしまったほどだ。


 それがリルが幾重にも渡る仕込みをして編み込んだ人工の糸とも知らずに。



『原始文明における情報ネットワーク構築を研究している研究部門からですが、当社が保有する惑星において、初期段階の民間用仮想現実空間が隆盛を始めているそうです。お嬢様には現地調査員としてその仮想空間ネットワークに参加していただきたいそうです』



「え……で、でもあたし、趣味で見てたりはしてたけど、そんな本格的な調査とかしたことないよ」



『価値がある情報かどうか選別するのは専門家の皆様が行いますので、お嬢様には正体を隠し人と交流したりと、とりあえず何でも大まかな情報を集めればいいそうです。全く関係ない調査員を原始文明が存在する惑星へ派遣するとなれば、場合によっては星連議会の承認が必要となりますが、所有企業とアカデミアの権限をあわせれば、現地特別調査員資格を交付することはさほど難しくないそうです』



「だ、だけどあたし、誰かとお話しするなんて、しかも知らない人と交流を持つなんて」



『そうおっしゃると思いまして僭越ながら私の中で、お嬢様のお好みにあいそうな分野をいくつかピックアップしておきました。あちらでVRMMOと呼ばれる大多数参加型の仮想空間ゲームとなるそうです。まだまだ始まったばかりのゲームばかりで、交流が活発に行われているそうです。マニュアルや紹介ページをこちらの言語に翻訳した物もご用意しておりますので、ご一読ください。もちろん参加するしない、展望公園を維持する、しないはお嬢様の決断次第です。私はAIですので決定権がありませんので』



 仮想ウィンドウが切り替わり、いくつものゲームの画面が表示される。


 それはかつてアリシティアが魅了されたファンタジー物やバトル物が多く、巨大なモンスターに立ち向かう屈強な戦士や、派手な魔法が飛び交う戦場を駆け抜ける龍騎士などで、暗く沈んで気力が尽き欠けていたアリシティアでさえ、少しだけ心が引かれる、そうわくわくしてくる物だった。












 ゲーム内天気は今日も快晴。


 リアルは梅雨真っ盛りなんで、ぽかぽかと暖かい日射しが実に嬉しい。


 いつもは、ふざけんなって強ボスやら、檄ムズイベントばかりぶち込んでくるクソ運営も、梅雨突入記念で逆に晴れ日を増やす采配をするとは、たまには気の利いたことをしてくれるもんだ。


 この間ゲームサークルの先輩らと結成したギルドがホームタウンとしている初期都市の一つ中央都市聖地カンパネラを単独で離れた俺は、西方地方の初期都市の一つサイフォンへと空を見上げながら初めて足を踏み入れていた。


 サイフォン周辺は、リアルの奇岩地帯カッパドキアをモチーフとして、奇妙な岩が延々と広がるフィールドと、オープンβ開始+正式稼働で半年近くたった今でも、未だ全貌が把握しきれていない広大な地下ダンジョンが広がっている。


 だからサイフォンの街も、その奇岩を住居や商店にしていて、プレイヤーが所有する物件なんかは、それぞれ奇抜な色で塗られたり、やたらと上手いアニメ絵が描かれていたりと見ていて飽きがこない作りだ。


 リアルさを出すためにか、軒先に洗濯物が干してあるのを見て、昨日リアルが久しぶりに晴れたからって、洗濯物を干しっぱなしのままで、部室に泊まってたことを思い出して、あ、やべと、思い出したがそればっかりは後の祭りだ。


 もう一度洗濯か、いや面倒だからそのまま干して晴れが来て乾く事を祈るか。


 そんなことを考えつつも、もらった地図の目印となる建物を探しながら、目的地へと向かう。


 俺たちが今参加しているゲームは、リーディアンオンラインと呼ばれる昨今激増しているVRMMOの一つで、よくあるファンタジー系に分類される。


 システムなんかはよくあるゲームなんだが、ただこのゲームはいくつかほかのゲームと大きく違いがある。


 その一つが異常なほどに広い世界に、ここサイフォンみたいに、こだわりにこだわりまくった細かな街並みや、各フィールドが詰め込まれている事だ。


 リアルをモチーフにしながらも、より壮大かつ大胆で、度肝を抜く風景が多く、アイテム集めやレベル上げもせずに、ただ各地を回って観光ツアーをするギルドや、逆に名所を紹介したりする紀行本を作るギルドなんてのもできているほど。


 たまにそういうギルドの集まりにも参加してみると、マイナー情報が結構入ってくるんで重宝している。


 といっても、俺が所属するギルド、というか俺がギルドマスターをやらされているKUGCは、そういう系統ではなく、純粋にゲーム攻略を楽しむエンジョイ攻略系ってやつだ。

 

 おまえが新歓での仕切り上手かったからギルマスやれと、押しつけられた形だが、先輩方の無茶ぶりもいいところだとは正直思う。


 宮野さんを筆頭に、何であんなフリーダムだよ、うちの先輩連中は。

 

 先輩方の文句を言い出せばきりがないが、そこは自称聞き分けのいい後輩としちゃぁ、素直に従っておきましょうかね。


 二股に分かれた特徴的な奇岩ハウスを右手に見ながら薄暗い細路地へ。


 現実なら怪しすぎて近寄りたくないような場所だが、そこはゲーム。


 モンスターの頭蓋骨をかたどったオブジェや、びっくりアイテムのしゃべる超リアル生首など、かなり怪しいアイテムを売っているNPC商人が居たりはするが、さほど危険度は感じない。


 そのまま軒を重ねる小振りの裏店の看板を一つ一つ確かめていると、ようやく目当ての看板を見つける。


 それは鳳凰を象った絵柄が施された木彫りの看板で、最近いくつか立ち上げられたリーディアンオンライン攻略サイトのうち一つを運営するプレイヤー兼管理人がトレードマークにしている物と同一だ。


 情報量や更新速度は他のサイトに比べて少し劣るが、そこの売りは正確性。他が噂やデマに踊らされる中でも、今のところあげられた情報に嘘がないってのが実にいい。


 今回の目的はそのプレイヤーに接触して、ある地形情報を手に入れること。


 まだサイトには上げられていないから、おそらくそのプレイヤーも集めている最中なんだろうが、全容じゃなくても一部でも入ればこっちのもんってやつだ。


 本人がログインしていればいいが、居なきゃ居ないでプレイヤーカードを置いておいて連絡待ちしている間に、近くで狩りもいいかもな。


 ソロでもいいし、初期都市だからか、さっきから広域ボイスで野良の募集もあちらこちらで飛び交って居るみたいだし、シールド職の需要はそれなりにあるようだ。


 とりあえずその店のドアをノックしてみると返事も無く、ただの木彫りの扉が自動ドアのように自然に開かれる。このあたりはゲームらしいっちゃっらしい。 


 そりゃそうだ鍵を開けるために、わざわざ移動したら面倒なことこの上ないからな。ゲーム内くらい横着しても罰は当たらないだろう。



「見ない顔だな。売りか買いか?」



 奥のカウンターの向こう側には30代前半くらいの外観データを使った浅黒い肌の戦士っぽい体つきの男の仮想体が一人。


 NPCマークは出ていないので、どうやらプレイヤーご本人のようだ。



「買いだ。あんたがサイトにまだ上げてないこの辺の地形情報を売ってほしい。調べてんだろ」



 率直な物言いだったからそっちが好みかと思い、こっちも単刀直入に切り込んだんだが、その男は意外にも顔をしかめた。



「またその手のやつか。自分で調べりゃすぐ分かったり、そのうち判明するゲーム内情報を商売にする気はねぇよ。こっちのキャラはただの資源アイテムの買い取りと加工アイテム販売用の職人キャラだ。地図情報とかは完全にできたらサイトに上げるからちょっと待ってろ。もちろん無料でな」



 なるほどリアルはリアル、ゲームはゲームで分けるタイプか。そりゃファーストアプローチミスった。となりゃだ。



「ちょっと急ぎだ。この間導入された新スキルを使ったバグ技を見つけた。それがこの近くなのコルト炭鉱のタコボス相手に上手く使えそうなんだよ。あれ未撃破で今月はまだ出現してないだろ。運営がバグに気づいて修正が来る前に試してみたい」


 

 店内に他に客の姿はないが、何となく声を潜めて、店主に近づいて、詳細を伏せつつもこっちの目的を一切隠さずに伝えてやって、にやりと笑う。



「……マジネタか?」



「もちろん。先月の攻略失敗の後、公式チャンネルで、あのレベルの高レベルボスを倒すにはあと半年くらい必要とかほざいてただろ。あれ見て火がつかなきゃゲーマーじゃないだろ。ぶっ倒してやろうぜ」



「おもしろい。乗った。詳しい話を聞かせてくれるか。プレイヤーカード交換といこう」


 

 プレイヤーカードの交換はいくつかあるフレンド申請手段の一種で、プレイ中かどうかの有無、現在のステータスやスキル構成、居場所なんかの各種基本情報を、そのままや、軽くぼかすなど任意で選択して相手に伝える事が出来る代物。


 野良パーティーの募集なんかだと、応募してきた相手がこれから向かう狩り場で欲しいスキルや、安定して刈れる最低限のレベルやステータスか、逆にレベルが高過ぎて取得経験値やアイテムドロップ率に制限がかからないか手軽に確認が出来る便利アイテム。


 作成に必要なインクアイテムをドロップするモンスターがそこそこレアで、狩りが面倒で買おうとすると値段は張るが重宝するので、常に数枚は持ち歩きたい所だ。


 正式オープンからある程度たった最近じゃあ、野良募集の最低条件にプレカ必須と募集して、初心者お断りな効率優先なプレイヤー連中も多くなってる。



「ストレージオープンと」



 店主が呼び出したコンソールを叩くと、すぐにその右手にプレイヤーカードが出現する。


 ただそのカードに浮かび上がるキャラは目の前の男の姿と似通っているが、ちょっと違う人相で、なかなかにステータスが高い。


 どうやらこっちの店主はさっき言っていたように商売用の別キャラ、渡されたカードがメインの戦闘用のキャラみたいだ



「こっちは俺のメインキャラで、名前は看板のまま鳳凰だ。あんたは?」



「シンタだ。よろしくな」  



 同じくプレイヤーカードを取り出した俺は、ゲーム用仮想体の構築が面倒だったのと、改造するのが気恥ずかしくて、構内ネット接続用の学生証登録データに使ったリアルの姿のまま俺三崎伸太こと、プレイヤー名シンタのプレイヤーカードを、手渡した。

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