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C面 ミサキシンタラスボス計画発動

 発着所に降り立つと、まず視界に飛び込んでくるのが、火星の象徴たるオリンポス山。


 斜面の角度はあまり無いが、高さは太陽系最大を誇る25㎞強だけはあり、視界の半分以上を覆い尽くす巨大火山の距離感が狂うスケールで広がっている。


 上空から見ても良し、麓から見上げても良しと、更なる観光名所として用いる為に植林も急ピッチで進んでいる。


 その斜面を走る銀線は、アリスの趣味感ありありな社長命令で敷設された、創天ロスト倉庫の片隅で眠っていた銀河大戦直後の再開拓時代初期に使われていたという長大な旅客貨物用マスドライバーレール。


 銀河中枢の復興と共に、もっと安価で整備が簡単な大型大気圏離脱突入貨物船やら、一度に運べる容量は少ないが設置、撤去も1日で済む移動式軌道エレベーター船の登場なんで取って代わられたという太古の遺物。


 今じゃこの宇宙で稼働している星は皆無、かろうじて両手で数えられる僅かな星で、開発初期文化遺産として、遺跡、史跡扱いとなっているとの事。


 ただしこのVR火星はもちろんリアルでも未だ現役。地球人からみりゃ超未来、そして宇宙からすれば、レトロもレトロな火星都市を盛り上げるためのアトラクションだ。


 そのうち社内サバゲー大会でも開いて、マスドライバー防衛線をやりたいとかアリスが言っていたが、さすがにこっち側VRでの話だと思いたい。


 ……リアルでやらかしそうなのが、アリスのアリスたる所以だから、行動監視は厳重にしておこう。



「こちらの火星都市は無人機械によるオート設計となっています。最初に3D工作装置と資材を複数積んだロケットを火星表面に着陸。その後自己コピーを繰り替えした機械群による採掘、建造、そして組み立てという手段を持って行われています」



 本来の地球文明の進み具合からすりゃ現実感が無いにもほどがある火星都市とその背後のオリンポス山に、言葉を無くしている柳原さんには気づかない振りをして、俺は口から出任せを続ける。


 ちょっと考えれば判るが、んな便利な物が机上の空論じゃ無くて実用化されていたら、深海開発やら、それこそ月のルナプラントだってもっと早く進んでいた事だろう。



「こんな技術があったと信じろだと。ここがVR世界だというなら納得が出来るが、あり得ない! あり得るはずがない!」



 再起動と同時に、そりゃそうだな至極真っ当な柳原さんのご回答。


 さてここからが腕の見せ所にして、星連のお偉方に一泡噴かす、いかさまを産み出す正念場だ。


 上手いこと柳原さんをだまくらかして、信じさせた実例を見せつけた上で、後で記憶消去使用前提な上で仮想空間上とはいえ大佐達と面会。


 宇宙文明側の事情で引き離された家族、恋人達の悲劇、再会劇、そしてまた訪れる無情な別れ。


 この一連の流れを受講生に目撃してもらった上でその情報を拡散。人心やら、世論を地球側への同情へと誘導。


 さらにはちょいとアリスのご先祖様には悪いが、今の星連議会主流派の地球人への扱いややり方は、旧銀河帝国が高圧的に行っていた他星への支配統治と変わらないという、プロパガンダ発生の裏工作も銀河のあちこちで準備済み。


 さらには美月さん達のプレイヤーの必死さを悲劇にプラスさせて、さらにブースト増加と。


 この流れをもって、民主議会制星系国家の与野党をいくつかの星で逆転させて、星連議会主流派への切り崩し工作ってのが、ここ十数年を掛けて俺が仕掛けていた裏工作の集大成。


 さすがにここまで大がかりな政治工作となると、辺境宇宙にいてどうこう出来るわけもなし。


 銀河中枢まで行っての顔つなぎやらの裏工作が幾度も必須で、そのおかげで愛娘なエリスは放置気味、アリスは色々趣味ありありな火星開発をやっていたりと、家庭的には父親失格もいいとこ。


 しかもその上ここまでやっても、今の議会の力関係じゃ、いくつかの規制を取っ払うことは出来るだろうが、こっちにがっつり関わった上に、適応するために肉体強化、年齢固定処置済みな、ルナファクトリーの面々を地球帰還……はさすがにちょいと無理。


 何とかご家族やら友人連中と、秘密裏に、しかも今柳原さんについている嘘を用いて面会させるのが精々というのが悲しい懐事情だ。


 それにここまであからさまな議会工作となりゃ、発動直前ともなりゃ隠し通すのは難しく、気づかれた以上はみすみす見逃してくれやしないご様子。


 こっちが切った切り札を潰すためのあちらの手が、いきなり送られてきた星系連合広域惑星特別査察官のシャルパさんと見て間違いないだろう。


 シャルパさんの査察が完全に完了するのが先か、俺の政治工作が先に発動するかと、なかなかの修羅場。


 しかしアリスに言われるまでも無い悪い癖だが、このギリギリで手札を回す土壇場感が何とも楽しいのは高難度を楽しむマゾゲーマー気質故だろうか。



「えぇ、そう思われるのは当然でしょう。ですが……」



 しかし楽しいのだから仕方ない。地球文明をチップに大勝負に出る為の出任せを、



(三崎様。アリシティア社長より緊急伝達です。エリスティアお嬢様の超空間感知能力に急変動を計測。Cプラン実行可とのことです)



 そんな俺の目前に他者不可視状態の機密ウィンドウが開き、アリスからのメッセージが表示される。


 言葉を無理矢理に打ち切った俺は、そのメッセージをざっと流し読む。


 それはうちの可愛い娘様のエリスが、ディメジョンベルクラウドとして必須となるパートナー候補を感じ始めた前兆現象を感知したという知らせ。


 しかもその状態になった今は、美月さん対サクラさんエリスコンビでの戦闘中で、麻紀さんは改装を終えて戦場に急行中か。


 仕掛けたのもさらに押しているのも意外にも美月さんのようで、そのピンチがエリスを刺激したかこりゃ。


 あの4人がかち合わないようにいろいろしていたはずなんだが、どうして思惑が外れてこうなったのやら。後で戦闘ログを見るのが楽しみだ。


 しかし大逆転へ一縷の望みを掛けて、無理矢理にPCOに放り込んでみたが、マジでなんとかなるとは。


 さすが俺とアリスの娘。ゲーム内で覚醒するか。


 思わず頬がにやけそうになるが、ふと見れば、不自然に言葉を止めた俺に柳原さんが不審の色をさらに増した目を向けている。


 しかしCプランが可能と、なりゃ方針変更だ。


 臨機応変の1つも出来なくて、GMなんぞ名乗れるかって話だ。


 そしてCプランとなりゃ、いつも通りの手口で行きますか。



「くくっ。やーっぱ無理ですか。いや姪っ子があのサクラさんでしょ。こんな馬鹿馬鹿しいブラフでも騙されてくれるかと思ったんですけどね」



 先ほどまでの真面目な表情は放り捨てて雰囲気を一変。


 アリスが命名する所のGMミサキシンタボス操作モードへとモードチェンジ。


 要は策略増し増しでだまくらかしてあざ笑い、プレイヤー達からのヘイトを最大値まで高めてボス戦を盛り上げるGMとしての俺の得意技を本領発揮状態だ。



「なっ!」



「いやーぁ。笑い堪えるのに必死でしたよ。火星移住、クローン肉体に記憶をコピー、どこで大嘘って気づくかと思ってたんですが、さすがメンタルアメリカ人。SFに寛容というか大ざっぱというか、B級映画の楽園ハリウッド持ちは違う違う」



 大佐直伝のアメリカ人男性相手にやったら10人中10人が怒り殴り合いになるという煽りを入れつつ、後ろの左手でGM専用コンソールを叩いて転位スタート。



「さてちょいと細工して強制的にフルダイブしていただいてお送りしたサプライズ。お楽しみいただけましたでしょうか」



 慇懃無礼な大仰な礼をいれつつ転位。俺達の周囲の景色が歪み、次の瞬間には足場の無い宇宙空間が周りに広がる。


 足元を見下ろしてみれば、不法投棄された廃船が積み重なって出来た廃船置き場が遠くに見える。


 時折その内部で閃光が走っているのは、戦闘を仕掛けたという美月さんが仕組んだ罠にはまったエリスとサクラさんの船だろうか。



「ふ、巫山戯るな! なんのつもりだ! 俺達を! サクラを玩んで何を企てている!」



 あぶね、あぶね。転位ついでに少し距離を取っておいて正解だった。近くにいたらくびり殺されそうになるほどぶち切れ気味で柳原さんが激怒している。


 

「さてそう言われて素直に教えるのもつまらないですからね。1つ賭けをしましょうか。足元をご覧ください。あちらではその貴方が大切にしている姪御さんと私の切り札が戦闘中のようです」



 芝居がかった台詞を言いつつ、指を弾いてウィンドウを展開。戦闘状況を判りやすいモニターで表示してみせる。


 

「貴方の大切な姪御さんが勝ったら、お二人を大佐やシルヴィーさんと本当に面会させましょう。ただし私の切り札が勝ったら無しです。さらには私の説明を歯ぎしりでもしながらご静聴なさってもらいましょうか……あぁ。拒否は出来ませんよ。何せあのお二人の命は私が握っていますから」



 口元を歪めつつ忍び笑いをこぼしながら、ヘイトを一気に最大まで。


 切り札が誰とは言わず、そして俺が負けたら大佐達どころか地球人類総負けとなりかね無いので嘘は言ってないな。うん。


 サクラさんが勝てば、後から言った方が優先されるに決まってるじゃないですかと煽り、美月さん達が勝てばやはり面会は無しとして煽る。


 柳原さんから見れば、最初から勝ちの目が無い俺が吐いている質の悪い嘘は、現段階では見抜けない。


 だが、この裏舞台を見て、そして気づける人達がいる。


 そう、それは先ほどまで俺が味方に引き込もうとしていた講座を受講している無数の銀河の人々だ。


 その人らのヘイトを最大まで高めて、俺という存在を見せつける。


 かつてアリスが宇宙人だと知ったばかりの頃、割れる社内、正確にはサラスさんシャモンさんを親子を1つにまとめるためにどうすればいいかと聞かれたときに、俺があげた安易な手段。


 俺が悪役となってみせればいいという簡易手段を、銀河スケールで焼き直し。


 ミサキシンタラスボスプラン。それこそがCプランの真骨頂。


 俺という悪辣外道を止めるために、そしてその野望に利用される地球人を救うために、銀河中の星々が協力して行くという判りやすいストーリーを組み立てる為のラストピースこそがエリスの覚醒。


 星連議会を、銀河の星々の国家を手玉に取り、俺が思い描く未来へと導く為に、最短でもっとも確実な攻略ルートが見えたんだ。


 ゲーマーとしちゃ見過ごせるわけも無し。


 それに今の俺はゲームマスター。


 ハッピーエンドをプレイヤーのお客様がお望みならば、表向きには銀河全部を敵に回すラスボス程度軽々と演じてみせよう。


 私生活犠牲上等、仕事最優先な社畜根性MAXな日本人サラリーマンの腕の見せ所だな。うん。


ここから先は表裏のAB分岐は無しで全て統合なCプランなC面となります。

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