表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/193

B面 地球を救うお値段は110916円也

 本日は天気も快晴。昼過ぎには真夏らしい強い日差しで猛暑となるのは、リルさん管理の下確定済み。


 本日の御本命なお客様のご来社までは30分ほど余裕もある。


 となりゃ、実体はともかく、一番下っ端な何でもやる雑用社員としちゃ、暇しているわけにもいかない。


 空いた時間に、まだ涼しい朝方に本社前の花壇に水まき&道路に打ち水と行きたい所なんだが、そうもいかない事情が発生していた。


 火星から転位して、アリス曰くセーブ場所な地球のホワイトソフトウェア本社の仮眠室から這い出して、1階階段下倉庫から水まきセット一号(大じょうろ)の準備をしていた俺に、受付にいた大磯さんから外線の呼び出し連絡。



『シン。昨年末、年始も帰ってないんだから、お盆くらいは休みとれないの』



 取引関係者からかと受付のコンソールを借りて出てみれば、待ち受けていたのはうちの姉貴様。


 頭が上がらないので速攻切りたいが、それをやったときは、ご本人+お袋召喚となりかねない不肖な弟としちゃ、何とか電話で撃退したい所だ。



「サービス業に、んなのあるか。姉貴だってよく判ってるだろ。つーか姉貴、会社に直接連絡を入れんな」



『アパートや個人アドレスにかけても、何時も留守電なのはどこの誰よ。あんたがどこで、なにやってんのか判らないって、母さんが心配してんのよ。とんでもない悪さしてるんじゃ無いかって』



 うむ。相変わらず実家からの信頼度が低いな俺。


 いや、まぁ主に高校、大学時代の所行の自業自得だとは反省しているが、さすがに公式年齢25。実年齢+50なんだから、そろそろ首に鈴をつけるのは止めてほしいんだが。


 かといってちょっと銀河中心核星系までいって、地球存亡を賭けて数年ほど裏工作してましたなんて真実をいった日にゃ、巫山戯るなと説教コンボからの半殺し確定。



「色々忙しいんだよ。あちこち飛び回って、外部との連絡禁止なんて時もあるから。守秘義務あって詳しく言えないからな聞くなよ」



 画面向こうからも締め上げてきかねない姉貴の探ってくる鋭い目線を躱しながら、言葉を濁す。


 サラリーマン御用達の必殺技。守秘義務様々だ。   



『ゲーム開発会社に入ったはずなのに、なんでそんな事になってんの。あんたって子は……母さんには上手く言っておくから。貸し1つ。だいぶ溜まってるんだから、ちゃんと返しなさいよ』



 胡散臭さは感じて嘘が入っているのは見抜いているようだが、これ以上は聞いても無駄だと判っている姉貴は、しょうが無いと、追及の手を緩め、上手いことお袋の方にカバーに入ってくれるようだ。


 こういうときは頼りになる姉に感謝だ。



「あいよ。もう少ししたら、ちょっとは余裕が出来るから、そんときゃアリスも連れて帰るから上手いこと引き延ばしといてくれ」



『あ、その件だけど、アリシティアさんを連れてきたときは、三崎の本家、分家のおじさま、おばさまら親戚一同で顔あわせするって事になったから』



 前言撤回。なんで、んなしちめんどくさい事になってやがる。


 婿養子な親父方はともかく、母方の親戚はろくなのいないぞ。何せ俺の親戚だからな。



「いや、今時本家、分家ってどこの田舎だよ」



『あんたの田舎よ。こっちの温泉街も最近は景気が悪い話が多いから、シンの人脈で町興しやってやるかって画策してるじーさま、おじさまも多いんだから。逃げるんじゃ無いわよ。貸し回収だがら。こっちもお客様のお見送りで忙しくなるから、じゃあね』



 反論をさせないためか一方的に用件を伝え終えた姉貴は、俺が反論する前に通話を切りやがった。


 

「三崎くんおつかれー。なんかプライベートでも面倒そうなことになってたね」



 今日の来客リストをまとめながら、横目でこちらの会話をちらちらと盗み見ていた大磯さんは、同情半分、興味半分な笑みを浮かべている。



「そう思うなら外出中とかいって上手く断っておいてください」



「いやー三崎君のおねーさんから、もしよろしければ女性社員の皆様でお使いくださいって、割引宿泊券も頂いたし、嘘はちょっと」



 悪びれもせず宣ってくれた大磯さんの指先には、姉貴の嫁ぎ先の温泉ホテルが半額で使える家族割引宿泊券がぴらぴらと揺れる。


 ちっ! 既に買収済みか腹黒若女将め!


 そうなると本家、云々もあやしい。姉貴の奴、俺とアリスが地球ではまだ婚約段階なのを気にしていやがる。とっとと籍を入れろや、男の甲斐性みせろと五月蠅いことこの上ない。


 とっくにその段階は過ぎて、喜べおばさんになってるぞ姉貴め。


 しかし外堀を埋めるために、人脈を餌に親戚共を巻き込みやがった可能性も高い。このまま手をこまねいていたら、式は地元で派手にやるとか勝手に話を進められかねない。


 最近宇宙側に重点を置いていたから、こっちにあまり気を張っていなかったが、どこまで籠絡されているか探っておいた方が良いかもしれない。


 となりゃ姪っ子を来年のお年玉二倍で買収して、スパイにでも仕立て上げてやろうか。



「おーい三崎君。大丈夫。悪い顔してるよ?」



「……そこはせめて顔色悪いくらいにしてください。人聞きが悪いんで」



 気づかんうちに姉貴に対する対抗策を考え出していた俺だったが、大磯さんの呼びかけで正気に返る。


 ふむ。どうも最近は色々と罠に嵌める事ばかり考えているせいか、そっち側に思考がいきやすい。気をつけないと。


 つーかなんで家族内で謀略戦をやってんだ俺ら姉弟は。


 アリスに面倒な親戚連中の注意をしたときは、『三崎一族の野望』だなんだと、最新50作目で、ついに石器時代から第三次大戦まで人類史を跨いだタイムスリップ戦略ゲーという突き抜けたジャンルにたどり着いたゲームタイトルみたいな、感想をもらしやがったし。


   

「っと。三崎君。お客様が駅を降りたみたい。予測時間であと7分でご来社だよ」



 大磯さんの声に受付カウンター何のモニター画面をみれば、駅の改札から出て来た本日のお客様の姿。


 サクラさんの叔父。柳原宗二さん。


 純粋な日本人、日本国籍保持者だけど、唯一の家族である姉が大佐と国際結婚すると共に小学生時代に米国に移住して、それ以来あちらで大学卒業、通信社に就職したグリーンカード持ちの若手産業ジャーナリスト。


 そしてルナプラントに勤務していた地質学者シルヴィア・レンブランド。今じゃこちらのお仲間のシルヴィーさんの婚約者と。


 なかなかの属性持ち。上手いこと料理すれば美味しくいただけそうだ。



「なーんか三崎君。嬉しそうだね」 



「そりゃ美月さんらにはさすがに自重したやれなかった効率的なえぐい真似も、大人相手となりゃ、こっからは18禁でいけますからね」



「三崎君。ほんと悪い顔だね……一度ぼこぼこに殴られた方がいいと思うよ」



 制限解除で仕掛けられるとなりゃやりやすいと人の悪い笑みを浮かべる俺に、大磯さんも若干引き気味だ。



「そんときゃそれはそれで美味しいですよ。んじゃ水まきしつつ先制パンチと行きますか」



 まさか宗二さんもボスだと思っている雑用状態な俺と、いきなりエンカウントするとは思うまい。初手から混乱させてペースをこっちに……



『三崎。ちょっとこっちに降りてこれるか。問題が発生した。このままだと美月さんらとサクラさんらが接触しそうだ』



 不意に仮想ウィンドウが開き、GMルームでゲーム全体の管理をしている中村さんからの緊急呼び出しが掛かる。


 しかも予想外の展開で。



「えっ? いやいや美月さんらは今学校に行っている最中でゲーム内に」



『それが学校から特別権限でログインしてきたようだ。だが問題はそれだけじゃ無くて、どうもシークレットレアスキルの第一取得者に美月さんと麻紀さんがなりそうなんだがな』



「げっ!? ま、まじっすか! す、すぐいきます」



 学校からログインも予想外だが、それよりちょっとやそっとじゃ取得者が出ないだろうと、つーか事前情報無しで取れる奴がいるのかと、発案者の佐伯さんとアリス以外の開発陣一同、思っていたシークレットレアの取得ってどういう事だ?


 色々とまずい予想が出て、慌てて階段に向かおうとした俺だったが、はたと思い出す。


 あっちは非常事態だが、こっちの宗二さんの対応も重要。


 美月さんらの方の対応をする時間稼ぎをするためには……仕方ない。ここは背に腹は代えられない。 



「大磯さん。一人北風と太陽頼みます! 社外から中に入るときの記憶復帰なら、自然でいけますよね」



 水まきセット一号じょうろを大磯さんに託し、対男性特化最終兵器の発動を頼み込む。


 まぁ簡単に言えば、何時もの大磯さんの会社に入ったときの記憶復帰時のドジで、ご来客者な宗二さんの頭上にじょうろを水諸共ぶちまけて貰い、その服の乾かしやらシャワールームへの案内で時間稼ぎをするという方法なんだが。


 ちなみに何故一人北風と太陽かというと、入社直後に初めての来客時のお茶出しで緊張して大ごけ、幸い冷たいお茶ではあったが、自分とお客様の頭上にぶちまけという失態があったらしい。


 しかしその後の、大磯さんが濡れた自分は後回しで泣きそうな顔で必死に謝りつつ甲斐甲斐しく世話してくれるのが好評だったそうで、それ以来お茶出しに大磯さんを指名する初心者さんとリピーターが続出したことに由来する我が社の最終兵器だ。



「うぇっ!? ち、ちょっと三崎君! 勘弁して! いくら夏でも! しかもわざとだよ!? それに制服はクリーニング代が出るけど、下着は自腹で痛いんだけど!」



「大丈夫です! 忘れていますからわざとじゃ無いです! 経費で出なかったら新しいの奢りますから。じゃあ頼みます!」



 女性に下着を贈るなんて普通は色めいたやり取りが入るんだろうが、俺と大磯さんの場合は互いに男女としての感情が全く無い先輩後輩兼飲み友達という確固たる間柄なので、この場合はセクハラに値しないと勢いで思い込む。


 そして姉貴直伝、答えを聞く前に打ち切りを発動。とっとと階段に向かって駈け出す。



「あー! 三崎君! 卑怯! そういうことするならLA PERLAのスリップだからね!」



 逃亡もとい転進を計った俺の背後から怨みの篭もる大磯さんの呪怨が響く。


 どこのメーカーか知らないが、どうせ下着だ。1万もあればお釣りが来るはず。


 1万の自腹で地球が救えるなら安い物だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ