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A面 心を折るつもりなら巻き戻り緊急メンテナンスでも連れてこい

 寝る前に仕掛けていた脳内ナノシステム経由のアラームで、西ヶ丘麻紀はぱちりと目を覚ます。


 常設している仮想ウィンドウの時計を見れば時刻は、まだ日が昇らない午前3:45分。

 

 即座にPCOを簡易モードで起ち上げ、ステータス画面を呼び出し、メインキャラである【ニシキ】のレベリング効果を確認する。


 麻紀が睡眠時に行っていたレベリングは、自動作業MODを使い、使っていない低位ティア装備を分解>組み立て>分解という基本的な物。


 低位ティア装備なので、自動作業での分解時や組み立て時の故障率が極めて低く、アイテムロストの可能性も少ない。そのお手軽さに比例して入る経験値も少ないが、なにもしないよりマシ。


 一定ポイントに到達したらアラームが鳴るようにプログラムを組んでみたが、こちらも上手く機能してくれたのでよかったが、ちょっとばかり誤作動を期待していたのも事実。


 実は計算よりポイントが多かったら嬉しいなと期待していた、麻紀の目に移るのは経験値効率測定サイトで試算したのとぴったりの数値だった。



「ふぁぁっ……ん~やっぱり2つは無理かぁ」



 パジャマ姿のまま、眠たい目を擦りながら麻紀は仮想コンソールを叩き、スキル画面を呼び出し、次に取得予定スキルの必要ポイントを確認する。


 今のポイントでは1つを取るのがやっと。まずはどちらのスキルをあげるべきか?

 

 スキル解説を提示した2つの仮想ウィンドウを前に、麻紀はあげた右手の指でどちらをタップするか悩む。


 1つは船体改造スキル群の続伸。


 PCOにおいて麻紀が選択した種族ランドピアースは、リアルボディは宇宙船という精神体種族。その種族特性故か機械系スキルの経験値取得効率に常に一定のブーストがかかっている。


 スキル関連クエスト周りにあるミニゲームも、工学系のクイズだったり、VR上での回路製作だったりと、元々機械いじりが趣味である麻紀との相性も良い。


 それに今の攻略ルートも王道ルートを外れ、裏街道へと足を踏み入れているので、新作正規品は簡単には手には入らないが、逆に型落ち装備への非合法な改造によるステータスアップという手がある。


 本来の計画であれば、麻紀が重点的に取るのはこの船体改造スキル群一択だ。


 トラウマが元でゲーム内でさえ、人死にが禁忌となっている麻紀では、戦闘が主となるクエストは、元より無理。


 となると、直接暗黒星雲に乗り込むクエストは、他のプレイヤーや他勢力NPCと戦闘ありの可能性が高いので、大きく不利とならざる得ない。


 だからオープニング記念イベントである暗黒星雲調査計画における貢献ポイント稼ぎは、ハイリスクハイリターンな直接暗黒星雲へと侵入し稼ぐのでは無く、改造した装備アイテムを販売したり、新技術を解析改良したりして、イベント関連クエストに挑むプレイヤーや、関連NPC、組織に提供して得られるアシストポイント狙いだ。


 ローリスクローリターンだが、そこは薄利多売を行い広くちまちまと集めていく違法改造屋プレイとなっている。


 組んでいる美月も同じくアシストポイント狙いで、主要国家や組織からの情報流出や違法貿易の手助けをする裏地図屋プレイ。


 お互いに戦闘から離れたプレイなので、通常ならば取得スキルは船体改造系一択。


 しかしそうはいかない事情が麻紀にあった。



「う~ん。やっぱり防御手段が先かな……なんであんな小さい子がゲームに参加できてるのよ規約違反じゃ無いの」



 画面を前に悩む麻紀は、ゲーム開始以来、口癖になっている敵対プレイヤーへの愚痴をこぼす。


 それは誰でも無い、初日に仕掛けてきた高スキル持ちのプレイヤーにして、幼い少女サクラ・チェルシー・オーランドこと【オウカ】だ。


 オウカは賞金の掛かったプレイヤーを狩る賞金稼ぎバウンティハンタープレイヤーとして、既にゲーム内ではかなり名の知られたプレイヤーになっている。


 元々アメリカの方で別ゲームの州チャンピオンとして知名度もあり、その魅せるプレイスタイルと、どこか日本を勘違いしたど派手で片言な名乗りが一部プレイヤーに受けてサポーターまで付いているとの事。


 さらにありがたくないことに、初日にその猛攻を凌いでみせた麻紀を当面のライバル認定したらしく、麻紀の居場所が発覚した途端、いま追っている賞金首を放り出して、戦闘を仕掛けに来る始末だ。


 違法改造船を駆使して逃げる麻紀と、メガビーストで猛攻を仕掛けるオウカ。


 そのハイレベルな鬼ごっこは、既に娯楽の一部と認識されたのか、麻紀がどこの宙域へと逃げ潜もうとも、一度どこかのセンサーに引っかかれば麻紀の足跡を追ったプレイヤー達が、ゲーム内の賞金首サイトに情報提供。


 それを見てオウカが出陣という、実に嫌な観戦サイクルが出来上がっていた。


 相手は犬のような性格。逃げれば逃げるほど面白がって追いかけてくる。ならばいっそ好きにさせてやられてみるという選択肢もあるのかも知れないが、一方的に負けるのは麻紀的には気にくわない。


 なにより入賞に向けてポイントがかつかつの現状では、下手なデスペナや装備ロストは致命的な敗北要因になりかねない。


 かといって攻撃装備を充実させてオウカを撃沈も出来ない。たかがゲーム。ゲームだ。


 だが重複する記憶の中で、三崎を死なせてしまったという根深く刻み込まれたトラウマが麻紀を躊躇させる。


 PCOが、ゲームとなっているあの世界は本物でないか。


 そんな馬鹿げた、しかしどうしても振り切れない思いが、麻紀を縛り付けている。


 倒すことは出来ない。だから自分の身を守る防御兵装が必要。


 しかし相手は祖霊転身によるメガビースト使い。足止め目的の遠距離捕縛攻撃は、その機動性で躱し、ハッキングや、ジャミング機能も、特殊スキルで無効化してくる。


 かといって殺傷力過剰な広域攻撃も麻紀自身のトラウマでダメ。


 となれば近距離での直接無効化攻撃しか手がない。


 オウカ対策として限定せざる得ない方針の中、何かしら無いかと考えていたときに、麻紀が見つけたのはその特殊すぎる船体装備だった。 



「だけどこれって……手だよね」



 麻紀が取得に悩むもう一つのスキル、宙間格闘戦仕様装備製作、整備スキルと銘打ったそこに映るイメージ映像は、文字通り手だった。


 やたらとメカニカルで、ゴツゴツとして、無骨な、巨大なマニピュレーターだ。


 宇宙船が巨大ロボットに変形するのだから、宇宙船から大きなハンドアームが伸びていても不思議では無いのだろうが、リアル思考な麻紀としては、航行中の重量配分とかどうなんだろこれと思わざる得ない。


 腕を振り回そうとしてむしろ船体の方が、振り回されるのでは無いか。


 後その格闘船用の装備が、やたらとでかい斧だったり、時代錯誤な直剣だったり、果てには隕石だったり、手投げ仕様核弾頭ICBMという頭痛のする名称だったりと、あまりに酷すぎてネタスキルとしか思えないのだ。


 何が悲しくて、恒星間移動も可能な宇宙船で近接戦闘をしなければならないのだろうと、思わざる得ない。


 しかし手だ。手がある。これは麻紀にとっては大きなアドバンテージだ。これなら、母親によって護身術を身につけさせられている麻紀のリアルスキルを使うことも出来る。


 下手に格闘側にスキルポイントを振らなくても、それなりに防いで、殺さない程度に無力化も可能ではないかと考える。


 ただ問題は、ゲーム開始間もないということ、有用そうなスキルが他にもたくさんある上に、あまりにネタ過ぎるためか先駆者がほとんどいないこと。


 試しに取ってみたという人のプレイ日誌を見てみても、手を使って宇宙チェスをやってみたやら、宇宙で石投げ合戦など出落ちネタに走っているものばかりで、真面目な考察はまだまだ少ない有様。


 無論現状で利点が見いだせないわけではない。麻紀がメインで取得しているのは船体補修、改造スキル。


 手とは、人の基本にして、もっとも使い慣れたツール。上手いこと使えばスキルレベル以上の作業効率を出すことも可能なはずだ。


 だから将来的に取るのはありなのかも知れないが、何せ実例が少ない。


 スキル考察用の別キャラを作ってみるという手も勧められたのだが、今の麻紀達には別キャラを作っている時間的余裕も無い。   


 安全策でいくか、新しい領域に飛び込むか。


 麻紀にしては判断に時間が掛かったが、ここは何時もの自分通りにいこうと決断する。


 新しい物や判らないなら飛び込んでみる。その上で使いこなせばいい。先行者がいないということは裏を返せば、対応策もまだ少なく、そしてもし使えるスキルなら自分が有利になるということ。


 決断した麻紀は仮想ウィンドウに手を伸ばし、スキルを選択しようとし、



【緊急メンテナンスを開始いたします。作業終了時刻は1時間を予定しております。メンテナンス終了告知があるまでは、ゲームサーバーへの接続を行わないでください】



 突如その一文へと画面が切り変わる。


 時刻は土曜日朝4:00。麻紀の長い1日は出鼻をくじかれる形でスタートすることになった。









「絶対盗撮されている気がする! それかハッキングでこっちの行動を監視しているって! あの外道お兄さん!」



 横の美月の肩に頭を預けてうつらうつら寝ていたかと思ったら、突如立ち上がった麻紀が寝不足気味でクマの浮かんだ目で吠えた。



「バ、バカ。西ヶ丘、人聞き悪いから声抑えろって」



 ただでさえ見た目は美少女、マント、モノクル装備で微妙少女な麻紀が目立つのに、そのいきなりの奇行に、吊革に掴まっていた峰岸伸吾が慌てる。


 その制止の声が聞こえたのか、聞こえてないのか、麻紀はまたぺたんと座ると、美月の肩に頭を預けすぐに寝息を立て始めた。


 車内の乗客も一瞬だけ麻紀をみたが、ほとんどの者はすぐに興味が無くなったのか、各々の携帯端末へと目をやったり、雑談を再開し始めている。


 

「大丈夫だよ峰岸くん。私と麻紀ちゃんがよく使う電車だからこの時間。乗っている人の大半が慣れてると思う」



 難しい顔で今朝方更新されたPCO公式ページや、攻略サイトを見ている美月は、何事も無かったかのように淡々と告げる。


 眠っていたかと思えばいきなり立ち上がって叫んでまた寝る。この程度の奇行は麻紀を知る者からすれば、大人しい方ということだろう。



「さすが西ヶ丘ちゃんマスター……そんな事より美月さん。今朝のアップデートかなり大規模だけどどうすんだそっちは」



「僕らの方は今回の開催イベントは諦めて、次のイベントに力を注ぐって意味で、亜空間ホームの空間固定クエストを中心にって方針転換の予定だよ」



 つり革に両手で掴まっている谷戸誠司が感心声をあげる横で、仮想コンソールを開いて装備やスキルを新クエスト向けに調整していた中野亮一は、共有化したウィンドウに今回の緊急メンテ明けに発表された新機能と、専用クエストの説明画面を呼び出す。


 今回のアップデートに伴い噂されていたプロライセンスの発行や、他のスポンサー付き懸賞大会の発表もされている。


 その中でもっとも大きな、そしてゲームに直接関係する変更点は、亜空間ホームと呼ばれるプレイヤーホームの実装と、それに伴う亜空間ホームへと設置できる拠点衛星、惑星取得クエストだ。


 アップデート前は、プレイヤー達がクエストの失敗や、死亡した場合は、ホーム登録した拠点惑星に戻されることになるが、乗員NPC死亡やレベルダウン無しで取得経験値が一定値だけロストするだけだったり、装備ロスト率が最低となる【帰還】


 死亡地点から最も近い星系に戻れるが、乗員死亡やレベルダウンありで、装備ロスト率も高い【一時避難】の2種類が選択可能となっていた。


 両極端なこの2つにプラスして今度新しく発表された亜空間ホームは、その中間地点に位置する機能となる。


 極頻度の低いレベルダウンや死亡ありで、装備ロスト率もそこそこ。しかし一度だけだが死亡宙域への跳躍ポイントを設置可能という物だ。


 亜空間ホーム整備スキルや、特定クエストをこなすことで、それらのペナルティ率を下げたり、無効化できる事も可能。


 亜空間ホームは絶対安全領域指定がされており、敵対プレイヤーやNPCが侵入不可能となっており、所有者が許可したプレイヤーやNPC艦だけを招き入れることが出来るという物だ。


 さらに手間が掛かり、色々とレアアイテムやレアクエストクリアが必要になるが、亜空間拡張クエストを行い内部ストレージ量を増やすことで、資源衛星や惑星を設置して自艦隊専用のドック衛星から、はては移民を募ってオリジナル惑星や星系も製作可能となるとのこと。


 タイトル文字通りの惑星改造会社ゲームとしての真髄を、十分に楽しめる機能が備わっているようだ。


 ただ問題が1つ。今回の亜空間ホーム実装は特例とのこと。


 本来ならもう少しゲームが進んでから実装予定な上に特定クエストをクリアしたプレイヤーだけが取得可能だったが、あまりにオープンイベントでの攻略率が悪いので、攻略推進アイテムとして、最低限だが資源衛星込みの亜空間ホームを全プレイヤーにプレゼントとなっている。


 ただしこれは一時的な物。オープニングイベント終了と共に亜空間ホームは閉鎖、亜空間へと消失してしまう……ホーム固定クエストをクリアしない限りは。


 そして目下の所プレイヤーを悩ませているのは、この亜空間ホーム固定クエストと、オープンイベントクエストが全くの別物ということだ。


 亜空間クエストを優先すれば、オープンイベントでのポイントが少なくなる。


 かといってオープンイベント優先をすれば、その後のプレイで亜空間ホームを確保した他のプレイヤーに後れを取る。


 今を取るか、先を取るか。その2つの選択肢が今プレイヤー達には突きつけられていた。



「うん。どうしようかなって悩んでる……このままじゃダメだろうから」



 そしてそれは他のプレイヤー達をサポートして、アシストポイントで稼ごうとしていた美月達が、攻略プレイヤーの減少によって戦略を大きく変更する必要に迫られる選択肢でもあった。

   

 自分が、自分達は大きな掌で転がされている。


 寝ぼけた麻紀ではないが、自分の行動をあの男が、三崎伸太が逐一観察している確信を美月は抱いていた。


 この企てが美月達を少しながら援護するために、三崎が仕込んだ物とは思いつきもしない。


 だがそれは仕方ないのだろう。三崎の援護とは、試練を乗り越えればありつける果実が美味いという類いの物。


 ゲームは攻略する物という前提で考える廃神プレイヤーの思考へと、たどり着くにはまだまだ、それとも幸いというべきか、美月は足を踏み入れてはいなかった。

 お待たせしました。まずはゲーム重視A面からいきます。

 格闘戦艦が出てくる小説作品が完結したのだから、格闘艦の出るマンガもいつか再開、完結すると願っているのは私だけでは無いと思いたいですw

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