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AI使用規制下における星間運搬船運用及び対策と、会議中にばれないいちゃつき方

 ディケライアが請け負っている暗黒星雲開発計画は、いってみればトンネル工事。


 地球の人知を越えた銀河文明を持ってしても、光年距離を超える跳躍は極めて難しい現状、数百光年の範囲に広がるライトーン暗黒星雲は、そびえ立つ巨大山脈のような存在。


 重力異常宙域や濃密な星間物質が広がる暗黒星雲内への跳躍行為は自殺行為。


 かといって暗黒星雲の縁をなぞるような長大な迂回路を、無補給、簡易整備のみで飛べる船は、銀河帝国の恒星系級侵略艦カテゴリーの天級を代表にして銀河に僅かしか存在しない。


 昔アリスに聞いた台詞を借りるなら、この宇宙の船は点を飛ぶ。


 ディメジョンベルクラドと呼ばれる他次元空間を感じ取れるナビゲーターの力と、他次元に干渉までできる超絶科学力を持ってして、無理矢理に次元の壁に穴を空けて、人間尺度から見れば途方もない、そして宇宙的尺度から見れば僅かな距離を跳躍する。


 ただ物理法則の異なる他次元へと乗り入れるってのは、やはりかなりの無茶だそうで、空間が大きく乱れるので点から点へと飛ぶ連続跳躍は難しく、船自体も数回、ひどい時はたった一回の跳躍で、オーバーホールとまではいかずとも、それなりのメンテナンスと補給が必要になる。


 しかし迂回路たる暗黒星雲の縁にはそれに適した恒星系はほとんど存在せず、他から持ってくるにしても、数が膨大になりすぎる。 


 そこで暗黒星雲内に跳躍可能となる凪の部分を人工的にいくつも作り、そこに恒星と惑星を配置して補給、休養ポイントを作り出す。


 暗黒星雲を突っ切る直線コースだから補給ポイントの数は少なくて済み、暗黒星雲内に元々存在する原始星や惑星を活用するので、物資の移動運搬にかかるコストや時間が少なくすむ。


 これが暗黒星雲開発計画の概略。


 山間に通された高速道路とガソリンスタンド付きSAと考えれば想像しやすいが、恒星と星を据えるってのがまんま天地創造クラス(しかも複数)なので、規模は桁違いも良いところだ。


 宇宙側から見ても大プロジェクトにおいてディケライアが請け負ったのは、暗黒星雲開発計画初期開発拠点となる星系整備。


 開発に関わる人員とその家族が住まう居住惑星。

 

 開発工事用の各種宇宙船を製造、整備可能な工場惑星。


 そしてそれらの惑星や宇宙船へのエネルギー供給施設となる恒星と反物質精製惑星セット。


 この3つがディケライアに求められた最低限のクエスト達成条件であり、本来なら現宙域に元々あった星系の改造で十分以上にまかなえたはずの案件。


 だけどそこにあるはずの恒星、惑星を含めたほとんどの星系内物資が、何者かによって持ち去られていた事で、元々ピンチだったディケライアの経営状態は最悪に、それこそ崖から半歩足を踏み出した絶体絶命状態へと突入。


 だけど災い転じて福となすではないが、地球人的には不幸な事故、個人的には相棒のファインプレイな、地球、火星、金星、水星の4惑星が、この宙域に転移してきたのは正直僥倖。


 これで主星の太陽が一緒に転移できていたら万々歳だったが、そこまで望むのは虫がよすぎるって話だろうか……






「水星、金星間の物資輸送船メインAIへの指示はPCOとの連動形式をとる形となっている。時間流誤差調整に関しては、待機宙域を設けてこちら側の着陸管制処理で対応……」



 リアルでは大巨人。VR内では大きさの調整をしているとはいえ、やっぱり人並み外れた体型のマッシブな兄ちゃんである資源管理部部長イコクさんが、中央メインモニターを使い事業計画の進捗具合を説明している。


 金星は造船工場惑星。新設したオービタルリング工場兼宇宙ポートと地上からの物資搬出用大型軌道エレベータの組み合わせ。


 一方で水星は、資源抽出及び合成と反物質生成の資源作成惑星。


 生成した物資を運び出す手間やらコストを考えるなら、物資生成と造船は一緒の星でやるのが良さそうなんだが、何かと頭の固い星系連合の惑星開発に関する各種法がそれを妨げる要因。


 下手に事故が起きたら惑星崩壊レベルの大惨事となる反物質精製施設と、大型造船施設は同一惑星内には建造できない定められている。


 いざ総員退星となったときに、使える船の確実な確保や、緊急造船可能とする為の安全策と言われれば、仕方なしと思うしかない。


 だからこっちは諦めるが、面倒なのはAI規制のほう。


 AIはあくまでも人類種のサポートであり、自己判断やファージな解釈をしない、出来無い。


 それが銀河文明世界においてのAIの立ち位置。全ての判断は人が下し指示して、初めてAIはその超絶な処理能力を存分に発揮できる。


 資源惑星で抽出した物資を積んで、工場惑星に運んで、帰ってこい。


 言葉にすれば簡単な、そんなお使い1つにも、わざわざ一回事にルートを決め、時間配分まで決めて、詳細な指示をしなきゃならない。しかも一回事にだ。


 コンピューター開発黎明期じゃあるまいし、こんな手間は無駄も良いところだと正直俺は思う。


 しかも規制はそれだけじゃない。


 AI管理資格がなければ、無資格の場合は指示可能なAIは5つまで。


 AIがAIに指示を出すのは禁止。


 無人戦闘艦の新造及び改修禁止。


 1つの企業や、事業所ごとの所有AI総数規制やらなんやら。


 禁止、規制の雨あられ。どんだけAIの反乱とやらがトラウマになってるよ銀河文明。


 宝の持ち腐れも良いところだ。


 人手不足のディケライアとしちゃ足りない分を、AIで補えたらどれだけに楽になる事やら。


 アリスが何に感化されたか判らないし、聞くと鑑賞会に付き合わされるので知りたくもないが、人手が足りない度に戦いは数だよと力説していたのには激しく同意。


 だからこそいろいろと画策して、地球人のAI指示適正実験やらと怪しげな名目を起ち上げ、こちらのAIへの指示と、PCOのクエストを連動させて、地球人プレイヤーを無資格のAI管理者として使うという荒技を敢行しているわけだ。


 そんな趣味はともかく、いろんな意味で心を1つにしている相棒はといえば、



「ねぇシンタ。ユーザーアンケートのほうってどうなの? 定期航路AI指示なんてつまらないって言う人が多くない?」



 自分所の部署の進捗具合よりも、ゲーム内アンケートのほうが気になっているご様子。


 AIに出す指示は、あれこれ細かい上に、定型文ばかり。つまりは飽きやすいクエストじゃないかと心配しているようだ。


 たしかに仕事に関係しているっちゃしているが、気にするのは、イコクさんの話よりそこで良いのか社長と思わなくもない。


 だが今回の合同会議は情報共が主目的で、俺やアリスが既に目を通した情報ばかりで、目新しい報告はないってのがやはりでかい。


 そして悲しいかな、それは俺も同じ。


 こっちに来たばかりの頃なら、オービタルリングと軌道エレベーターの組み合わせと来れば、ガキの頃のように目を輝かせて見入ってたんだが、さすがに半世紀近くこっちに触れていると、気分的に盛り上がれってのが無茶だ。


 毎日使う通勤電車を見る度に興奮できるようなマニアックなやつは一握り。見慣れすぎて、ありがたみが失せていた。



「安心しろ。その辺は一定の需要がある。決められた航路を、決められた時間に、毎回指示を出す規則性に安心感を覚える、主にゲーム初期からの三角貿易を延々とやれる作業ゲー愛好家連中」



 会議の内容に注目していないとサラスさんの目が怖いが、アリスをないがしろにして無視して、シャモンさんに愚痴られるのもそれはそれで恐ろしい。


 だから目線は中央のモニターに向けながらも、意識はアリスに向けて問いに答える。



「作業をおもしろがれる辺りは日本人らしいっていうか……ほんとマニアの多様性が多すぎない地球人?」



 俺の回答にアリスは理解出来ないという顔を浮かべる。単純作業は相変わらず嫌いか。


 定点狩りより、移動狩りが好きな、ウサギのくせに狩猟生物プレイスタイルを思い出す。



「そこらの多様性の発現や維持能力も、銀河帝国の調整じゃないかって話だ。別次元宇宙転移後の爆発的増殖を狙ったんじゃないかって。もっともその多様性の維持で違いが発生しやすくて、やたらと友好的だったり好戦的になってるって分析も出てたな」


 

 文明、文化レベルが一定以上に到達した銀河文明は、生態や生存環境での違いはあっても、どこか画一的な感じが多い。


 永遠ともいえる寿命を得た弊害と良いんだろうか?


 それに比べて我等地球人の思想、思考の違いの多いこと多いこと。


 似通った趣味ならすぐに仲良くなるかと思ったら、趣味外の俺からすれば違いがわからない所で揉めたりと推挙に暇なし。


 NPCの髪型。


 それもツインテールのラビットスタイルとレギュラースタイルとやらの違いで揉めて、最終的には数百隻の戦艦が入り乱れる大規模宇宙抗争が起きたと聞いたときは、さすがに目を丸くしたもんだ。


 ……どっちも似たようなもんで同じだろ。と思うが、それを発言すると双方の勢力から攻められそうなので沈黙の一手だ。



「またうちのご先祖の仕業? ……なんかいろいろごめん」



 知れば知るほど、過去の所行やら、俺ら地球人を実験生物扱いが気になって、嫌いになるらしく、アリスが少しだけ凹む。


 感受性が豊かなアリスには、銀河帝国の暗部情報を隠しておくって手もあるかもしれない。


 だけど嫌な情報であろうとも自分だけ知らないのをアリスは嫌がるし、ましてやそれがご先祖の所行となればなおさらだ。


 なんだかんだいっても打たれ弱いくせに、嫌な話も聞きたがる辺りは精神的マゾッ子かと。


 まぁ、何でも生真面目に受け止めすぎるのを、アリスの悪癖と思うか、美点と思うかは人それぞれ。



「気にすんなって。トータルでプラスにすりゃ良いだろ」



 しゅんと垂れたウサミミに俺は無意識に手を伸ばしてなでてやる。


 VR空間でも、そのふわりとしながらもサラサラとしたウサミミの極上の手触りは、何とも癖になるやばさだ。


 なにせ久しぶりにアリスと会ったらとりあえず撫でとくかとなるくらいだ。


 うむ……ウサミミ接触中毒症状ありとは、俺も人の事が言えないマニアックすぎる趣味な気がする。



「うーまた断り無く勝手に触る……結構なマナー違反っていってるでしょ」



 他次元を感じるディメジョンベルクラドにとって、次元感覚器官である外耳は、命ともいえる重要器官。


 家族や恋人でも、本人に断り無く触るのはあまり褒められた行為じゃないってのが、アリスの弁であり、銀河文明での常識。


 しかし嫌がっている言葉のわりには、当のウサ耳はもっと触ってくれとばかりに俺の手に絡んできてますがね奥さん?



「じゃあ放すか”相棒”?」



 俺がわざと嫌みったらしくキーワードを口にして聞いてやると、アリスがぷいと横を向いた。



「……”パートナー”のシンタだから良いけどさぁ。でも勝手に触った代わりに勝つなら大勝ちだからね。それくらいじゃないと負債は払えないから。だからクリア条件は厳しいよ」



「ハードモードは望むところだっての。苦労した方がクリアまで楽しめるだろ。俺らは」



 最終的な帳尻さえ合えば問題無しとして、クリアまでの過程を楽しむ。ゲーム感覚で。


 俺とアリスは、出会った頃のままのゲーマー魂で今の難局に挑んでいる。


 地球や、宇宙の命運が掛かっているのに不謹慎やら不道徳だと誰かにいわれるかも知れんが、俺ら廃神ゲーマーを舐めないでもらいたい。


 俺らにとっちゃゲームクリアこそ全身全霊を書けた真剣勝負。クリアの為なら、どんだけ無茶だろうが、難題だろうが通してみせる。


 だから俺はあえて嫌な情報でもアリスには隠さないし、ちゃんと伝える事にしている。


 例え嫌な思いや感情を抱いても、アリスならそれをバネにしてはね除けると信じている。


 そして俺が隣にいる以上、俺とアリスならどんだけの逆境であろうとも乗り越えられると、ゲームをクリアできると確信している。


 もっともそんな思いをアリスに素直に言う気は無し。


 んな自分に酔った気取った台詞なんぞ恥ずかしくて口にできるか。


 アリスが俺を正式パートナーに選んだときに、そんな台詞を吐く精神ポイントは当に使い切ってる。


 だから何時もの定番行為。ただゲームに誘うだけだ。


 

「んじゃ。イコクさんが終わったら俺の出番だから、そろそろいってくら」



 そろそろこちらを監視しているサラスさんの目やら、会議中にいちゃついてんじゃねぇぞこの馬鹿夫婦という周囲の目線が厳しくなってきたので、アリスのウサミミから手を放す。


 会議中でもないとゆっくりアリスと話す時間も取れないほどに、俺が多忙なのは皆さんご存じなので多少は見逃してくれていたが、さすがにここら辺が潮時のようだ。


 VRじゃ緩むわけないが気分を切り変えるためにネクタイを締め直し、気持ちを切り変えつつ、報告内容を頭の中でさっと思い返していく。


 人手不足解消の手の一環でもある地球のVRMMOであるPCO。


 そしてそれと対をなす宇宙側の星系セミオーダーシステムの基であるPCO。


 絶賛稼働中の地球と違い、宇宙側はまだまだ途上だが、地球のPCOが動いたことで、こっちもある程度の形が出来上がりつつある。


 後は生け贄……もといコアプレイヤーの美月さんらの活躍を、上手いこと利用させてもらって、一気に動かしていくだけだ。


 より面白く、より激しく、停滞した銀河文明を引っかき回して、俺が望む形を描き出すために。


 くくっ。考えれば考えるほど、かなり無茶だがそれこそやり甲斐がある。


 下等実験生物と俺らを見下してくださっている高尚な知的文明の指導者様方、すぐにこちら側まで引きずり下ろしてやるから待ってろよ。



「まーた悪い顔してる……今日は身内だけなんだから、変に悪巧みしないように。ただでさえシンタは外向けの評判が悪いんだから、内向けくらいは誠実にやってよね」


 

 あきれ顔で今更な俺の評価に対する注意をしながらもアリスが右手を上げる。


     

「あいよ。真面目にやってくるから心配すんな」



 軽く答えながら俺も右手を上げ、アリスとそのままハイタッチをし、その後に拳をつくって打ち合わせる。


 いつもの出がけの挨拶を交わした俺は、無重力球状大会議場中央空間に向かって移動を開始した。

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