その六
「これでよければ作り方を教えますよ」
女は背中の籠を下ろして、捕まえた魚を放り込んだ。
「その代わり3つ作ったら2つは私にくださいな」
俺は女の白い手の中にある籐細工の罠を見る。
「あんなに激しい盆踊りでは、捕まえても捕まえても腹の虫は収まらないと思いますよ」
いたずらっぽく笑う。
川の煌きのようにきらきらきらしていた。
「俺はそんなに器用じゃない」
「だいじょうぶ。ちゃんと教えますし、村の子供だってすぐに作れるようになるほど簡単ですから」
そうか。
俺はひとつ頷いた。
では材料を探してきますから待っていてください、と言いながら籠を背負った。
とりあえずこれを見ていてください、私の自信作で一番上手に作れたんです。
罠を俺に手渡してから、女は踵を返した。
それはほんのり湿っていて、なぜだか妙に艶っぽく見えた。
女は一度も振り向かずに歩いて行き、小さくなった。
俺は先程まで寝そべっていた大石に腰をかける。
そこから河原を眺める。
これがあれば当分は上手く生活できるかもしれない。
深く、深く、息を吐いていた。
手の中にある籐の罠に目を落とす。
まるで、熱にうなされているとき解熱剤を飲んだ後のような、穏やかな気持ちが湧いてきていた。
しばらくの間、座っていたが女はまだこない。
太陽はさらに高く登り、汗がにじみ出てくる。
石から立ち上がると、尻の形に黒く濡れていた。
川の水を飲み、顔を洗う。
向こう岸は山になっていて木々が生えている。陽の光は強い。
女から渡された罠を持ち、木陰に移動しようとすると気配を感じた。
振り向くと女がこちらに手を振っていた。