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その四
女の声は聞こえなくなったが気配はまだ消えない。
俺は戸に寄りかかったまま、背中をこするようにしてゆっくりと座った。
月明かりは依然として強い。
身を投げる前、俺は普通のサラリーマンだった。
朝の8時から夜の11時くらいまでひたすら働くサラリーマン。
恋人とは別れて半年が経っていた。
努めて5年以上経っていたけれど、日が経つに連れてやりきれない思いばかりが募っていった。
今思えば疲れきっていたのかもしれない。
死のうとせずに会社を辞めればいいだけだったのに、なぜかそれが世界の終わりのように感じていた。
結婚しているわけでもないし、子どもがいるわけでもないのに。
あの女は死のうとはしないだろうか。
この時代の人間の寿命は分からないけれど、平成の時代ほど長くはないだろう。
けれども何十年もの間、耐え切れるのだろうか。
それとも決断してしまうのだろうか。
俺には関係のない話。
むしろ力になりたいと思っても、なんの力にもなれない。
そのまま倒れこみ、肘を枕にして、もう一度眠る。
妙な緊張感を感じたせいか、よく眠れそうな気がした。