その二
こじんまりとした山を登り、寺に着く頃にはあたり一面が茜色に包まれていた。
いつも通り、人の気配は全くない。
階段なんてものはなく、ただの土の坂道を登ると目の前に寺がある。
両脇には松の木やら柳の木やらがあり、奥は竹林になっている。
俺は寺の中には入らず、賽銭箱に腰をかけて夕日を眺めた。木々の中から見える太陽は大きかった。
まるで昔話の一節みたいにカラスがあーあー鳴いている。街や村の子ども達はそろそろ家路に着くのだろうか。
今の状況をいくら考えた所で答えはでない。
考えるべきことは明日はどうやって過ごそうかということ。
どうやって生きようか。
・・・・・・。
・・・・・・生きる、か。
今の状況になってから感じたことがある。
朝は日の出とともに目が覚め、夜は日の入りとともに眠ることだ。
明かりといえば月明かりと蝋燭くらいしかないから当たり前といえば当たり前だが。
夕日が沈めば寺の周りは真っ暗になる。
最初は不気味に感じたが、今ではなにも気にならない。
快適とはとてもじゃないが言えないけれど。
蝋燭を盗んできて寺の中で灯そうかとも考えたが、灯したところですることもない。
風が通り抜けた。
思いのほか冷たく、ひとつ身震いをしてから寺の中へ入り戸を閉めた。
朽ちた仏像になんとなくただいまと語りかけ、床に寝転がり天井を見上げる。
こうしていると、とめどもなく様々な考えが頭の中をよぎる。
強く目をつぶってから力を抜いた。
俺は寝ることにだけに意識を集中した。